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迷宮レストラン  作者: 悠戯
勇者と魔王と元魔王編

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勇者、魔界に行く


 本日の天気は晴れ。

 空には雲一つ無い青空が広がり、ぽかぽか陽気が気持ち良いです。

 柔らかな風が花の香りを運んできて心を和ませてくれます。


 今、勇者(わたし)がいるのは見渡す限り広がるお花畑のど真ん中。

 この光景を例えるなら、ずいぶん前にテレビの旅番組で見た北海道のラベンダー畑やオランダのチューリップ畑のような景色です。

 しかし、花の種類は一種類ではなくバラやスミレやパンジーや、他にも名前を知らない花が何十種類、もしかしたら何百種類も咲き乱れています。規則性の無い雑多な植生ですが、このごちゃごちゃ感は正直嫌いではありません。



 いま我々は、正確には勇者(わたし)と魔王さんとアリスちゃんは、そんな花畑が広がる見晴らしの良い丘にいました。

 時刻はちょうどお昼時。

 今日はこれからここでレジャーシートを広げてお昼ご飯にする予定です。いつものレストランで食べるご飯も美味しいですが、こういう景色のいい場所でピクニックというのも、また趣があってオツなものですね。

 用意してきたランチボックスの中には、サンドイッチやおにぎりといった主食系。唐揚げやフライドポテトなどのサイドメニュー。デザート用にカットした果物なんかが入っています。


 今日はわたしがおにぎりを、魔王さんがサンドイッチとその他のサイドメニューをそれぞれ手分けして作ってきました。

 おにぎりは基本のウメ、シャケ、おかか、ツナマヨ、昆布などの定番もありますが、今回はちょっぴり冒険も。包丁で叩いた納豆、タレで和えた唐揚げが入った変り種。天むすや角煮入りの豪華バージョンまで色々と作ってみました。

 中身の具以外にも、海苔のかわりに白菜や高菜の漬物でお米を巻いたり、表面にゴマをまぶしてみたり。内側にも外側にもこだわった自信作です。


 レストランの厨房を借りて作ったのですが、店の規模に比して異常に豊富な食材があり、それを自由に使っていいと言われてちょっとテンションが上がりすぎてしまった気がします。冷静になって考えると、とても三人で食べきれる量ではありません。


 まあ、それについてはさておいて。


 魔王さんのサンドイッチを見ると、やはり定番のハムとチーズ、タマゴ、トマトやキュウリの野菜サンドあたりを手堅く抑えているようです。

 それらに加えて、カツサンドや照り焼きチキンなどのガッツリ系。

 ジャムサンドやカスタードクリームを使ったフルーツサンドなど、デザート系まで多種多様。変り種として焼きそばパンや、小さめのバンズに小さいハンバーグとチーズをはさんだミニハンバーガーなんかもあるようです。


 加えて、サイドメニューに唐揚げやフライドポテト。

 バナナやリンゴやオレンジなどの各種フルーツまで盛り沢山。

 ますますもって三人で食べきれる量ではありません……が、そういう余計な事を考えるとゴハンが美味しくなくなるので、後で実際に余ってから考えればいいでしょう。


 アリスちゃんが水筒から温かいお茶を注いで各自の前に置いてから、皆揃っていただきます、と。皆で勢いよく食べ始めました。


 料理に対しての感想を言い合ったり、他愛のないお喋りをしたり。

 とても和やかな雰囲気で食事は進みました。







 さて、ここまでの流れで分かったかもしれませんが、わたしは現在……魔界にいます。昨日の雑談の中で魔界に遊びに行く流れになり、早速、早起きしてお弁当の準備をして来たというわけです。


 ちなみに人間界から魔界に行くのには、てっきり大仰な儀式とか魔法みたいなモノが必要なのかと想像していましたが、迷宮のレストランの裏にある勝手口を空けたら魔界の魔王城の一室につながっていました。未来から来た某ネコ型ロボットが出すピンク色のドアを彷彿とさせるお手軽さです。


 ……便利だし、別にいいか。


 最近、自分の中の常識というものが揺らぎすぎているせいか、我ながら随分と物事に対して寛容な性格になったものです。スルースキルのレベルアップが止まりません。単なる思考停止のような気がしなくなくもないですが、実害がなければオールオーケー。


 そして、魔界に来た経緯の続きをば。

 魔王城から一歩出ると、そこに広がっていたのは一面の花畑。

 魔界という字面からもっと荒涼とした岩ばかりの荒野とか、怪しげな怪生物が跋扈している光景を想像していたのですが、その想像は大いに裏切られました。


 怪生物というか、ツノとか羽根とか触手とかが生えている魔族の人達は時折見かけますが、風貌に似合わず穏やかな性格の方が多いようです。すれちがった人たちと幾度か挨拶も交わしました。

 わたしが勇者だと言うと皆さんの顔が引きつっているように見えましたが、きっと目の錯覚か気のせいだと思います。ええ。





 さて、斯様な理由で魔界にやってきて、こうしてお弁当を食べているワケですが、この後の予定はどうしましょう?


 魔界の観光をするにしても魔王さん達にはお店もありますし、わたしのヒマ潰しの為だけにあまり長時間拘束するわけにもいきません。そう疑問に思って聞いてみると、ちゃんとガイド役の方を呼んであるそうです。


 現在お弁当を食べているこの場所で待ち合わせているので、もうすぐ来るだろうとのこと。どんな人なのかを聞こうとして……その答えが返ってくる前に「上」から声が聞こえてきました。



「よっ、魔王さま、遅くなったな。そっちのお嬢ちゃんが例の勇者かい?」



 とても大きな、身長三メートルくらいはありそうな筋骨隆々の巨漢が、我々に声をかけながら近付いてきたのです。

 タテ幅、ヨコ幅、身体の厚み、どこを取っても規格外。どんなに大きなお相撲さんやプロレスラーだって、彼と並んだら子供みたいに見えてしまうはずです。


 この大きな人がガイド役なのでしょうか?



「やぁ、ガルさん。うん、この子が勇者だよ」



 魔王さんは、この見上げるような巨漢――「ガルさん」という人と気さくな調子で挨拶をしていました。どうやら、この人がガイド役で間違いないようです。


 続いて、魔王さんが彼のことをわたしに紹介してくれました。



「この大きい人はガルガリオンさん。魔王軍(ウチ)の四天王なんだ」



 と、さらりと言いました。


 なんですと?


 勇者(わたし)にとっては本来中ボス的なポジションの人を、こんな気軽なノリで紹介する魔王(ラスボス)さんの大物っぷりに感嘆すればいいやら、呆れればいいのやら。


 少しは慣れてきたような気がしていましたが、魔王さんの天然ぶりには相変わらず驚かされてしまいます。もちろん進んでケンカをしたいわけではありませんが、なにしろこちらは勇者の身。残念ですが、魔族の中には先入観から隔意を持つ人がいても不思議はないでしょう。紹介するにしても、もう少し唐突感を減らす工夫というか、それなりの段取りを考えたほうが良いのではないかと愚考する次第でして――――。



 十分後。


 一緒にお弁当を食べて、自信作のおにぎりを褒められて、わたしとガルさんはすっかり仲良しになりました。いやぁ、作った料理を誰かに褒めてもらうというのは、何度経験しても良いものですね。

 魔王さんがあんなにお弁当を作って来た理由にも納得しました。大柄なだけあってガルさんの食べっぷりは実にお見事。あれだけ食べてくれるなら作り甲斐もあるというものです。



 そんなこんなで楽しいランチタイムは終わり。

 腹ごしらえが済んだところで、いざ魔界観光の始まりです!



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