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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語

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想定外のデート(後)



 アリスとリサのデートは映画館からスタートしました。

 どちらの世界で過ごすかによってデートコースは大幅に変わってくるのですが、日本側でのデートでは映画鑑賞は彼女達(&ここにいない魔王)にとっての定番です。

 アリスにとって映画のような地球産の娯楽は馴染みがないものでしたが、今ではすっかり慣れたもの。時々、リサ経由で借りたレンタルDVDをポータブル式のプレーヤーで楽しんだりもしています。



「さっきの映画はなかなかユニークな内容でしたね。実に興味深い」


「うん、サメの頭がどんどん増えてくのは見応えがあったね」



 今回彼女達が観たのは、みんな大好きサメ映画。

 サメの頭がやたらめったら増えていきながら人やゾンビや殺人鬼や宇宙人を襲いまくるという、暴力的な表現が多用されるB級ど真ん中の、どこかで聞いたようなストーリーをごちゃ混ぜにして再構成したような作品でした。

 サメの頭が増える意味は深く考えてはいけません。多分、監督や撮影スタッフもちゃんと考えていません。古来よりサメの頭の数と少年漫画の戦闘力はインフレするものと相場が決まっているのです。よく分からなければ一種の様式美と考えておけばいいでしょう。

 まあ、賛否両論ありまくりそうな映画の内容はさておき、二時間近くも映画館にいたらすっかりお昼時になっていました。上映中は古式ゆかしい伝統的な観賞作法に則って、コーラを飲みながらポップコーンを摘んでいたのですが、アリス達も少しばかりお腹が空いています。どこで昼食を食べるかは特に決めていなかったので、しばらく適当に歩きながら考えることにしたのです……が、



「ねぇねぇ、キミ達どこから来たの?」


「二人だけ? 可愛いね」


「いい店知ってるんだけど、一緒にご飯でもどう?」



 いくらも歩かないうちに次から次へと、見知らぬ若者たちに声をかけられてしまいました。

 元々の素材が良い二人が、今日はデートのために一段と気合を入れてオシャレをしてきたのです。声をかけないまでも視線を向けてくる者は性別を問わず少なくありませんし、ナンパ目的で声をかけてくる者がいても不思議ではないでしょう。

 俗に、恋をすると女性は美しくなると言いますが、その言葉はあながち間違ってもいません。精神活動に起因するホルモンバランスの変化云々、それに伴う肌質や体型等への影響による容姿の変化。そして好きな相手に良く見られたいという心理から、日常の立ち居振る舞いであったり、その人物が身に纏う雰囲気のような内面部分も変化します。それらの要素が総合的・複合的に作用して女性を美しく魅力的に見せるのです。もちろん、アリスとリサもその例外ではありません。


 無論、二人としては彼らの誘いに応じる気は毛頭ないのですが、そうした相手をあしらうのも手間がかかります。最初の何人かは丁重に断っていたのですが、それが何人も続いたらうんざりしてくるのもやむなし。とはいえ、暴力的な振る舞いを見せたわけでもない一般市民を相手に実力行使に出るわけにもいきませんので、



「消えた!?」


「ゆ、幽霊……?」



 途中からは、声をかけられそうになった瞬間、常人の動体視力で捉え切れない速度でさっさと逃げてしまうことにしました。最新のスーパースローカメラでもあれば別ですが、街中に設置されているような防犯カメラ程度の性能なら、移動中の姿を鮮明に捉えられる心配も無用です。


 逃げられた側の人々からすれば、目の前にいたはずの二人組が突如消え失せたように見えるわけで、しかも、そんなことが何件も続いたせいで季節外れの幽霊の噂が新手の都市伝説として一時期ネット上などで広がったりもしたのですが……この手の都市伝説の常で後から真偽の定かでない尾ひれがどんどんと付け加えられた結果、真相からは遠ざかる一方で、ついぞ正体が暴かれることはありませんでした。







 ◆◆◆








 もぐもぐもぐ。

 ぱくぱくぱく。

 映画館を出てからおよそ二時間後。アリスとリサは予定が狂ったストレスを発散させるかのように、食欲を燃え上がらせていました。爆発炎上させていました。



「これが全部食べ放題とはすごいですね。どうやって採算を取ってるんでしょう?」


「まあまあ。今日はそういうことは忘れておこうよ」



 二人が訪れたのはホテルのランチバイキング。

 肉料理、魚料理、パスタ、サラダ、そして甘味などの全てが食べ放題で、度々テレビや雑誌などでも取り上げられるような人気店です。予約なしの飛び込みで入れるかは賭けでしたが、長く歩いている間にランチタイムのピークを過ぎていたおかげか、ほとんど待つことなく二人席を確保できました。

 他のお客は彼女達と同じような女性だけのグループや家族連れがほとんどなので、外を歩いていた時のようにナンパを警戒する必要もなく安心して寛げます。



「このお肉美味しいですね」


「うん。これは後でもう一回食べよう」



 昼食にしては時間が遅めな上に、長めに歩いていたせいか二人とも随分とお腹を減らしていました。サラダや前菜系のメニューには目もくれず、いきなり焼きたてのサーロインステーキと格闘を繰り広げています。

 更に、ステーキの次はハンバーグ、その次はローストビーフ、ローストチキン、唐揚げ、もう一回ステーキという野性味溢れるメニュー選択。

 今朝は珍しく怒ったせいで、ストレスが溜まっているのかもしれません。

 肉を食べ、肉を喰らい、肉を食する。

 彼女達とて若く健康な女性。時には肉欲(※「肉料理をかっ喰らいたいという欲求」の略)に溺れたくなることもあるのでしょう。

 言ってしまえば単なるやけ食いなのですが、その効果は馬鹿にできません。落ち込んだりイライラした時でも、とりあえず好物で腹を満たしてしまえば、それだけで意外と気分が上向いてくるものです。



「ここ、いいですね」


「うん、また来ようね」


「ええ、今度は魔王さまも連れて」



 大量の肉料理を腹に詰め込んだ女子二名の心も、満腹に至る頃にはすっかり晴れていました。魔王に対する憤りも既に欠片も残さず消え去っています。

 まさに心の特効薬。美味しいお肉の威力はかくも偉大なのです。この二人がとりわけ単純なだけかもしれませんが。

 そして、お腹がいっぱいになって心が晴れたなら、することは一つしかありません。



「さて。では、デザートに移りましょうか」


「アリス、お腹の余裕は大丈夫?」


「ええ。ほら、甘い物は別腹といいますし」



 いくらお腹が膨れていても、食後のデザートから背を向けることなど出来るはずもありません。敵前逃亡は士道不覚悟。ケーキ各種にゼリーに焼き菓子、その他諸々。相手にとって不足なし。

 なんだか色々間違っている気もしますが、兎にも角にもアリスとリサは未だ衰えぬ、むしろ煌々と燃え盛る食欲を抱いて突撃を敢行しました。

 デートは、デザートはここからが本番です。



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