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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
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夏の茄子


「あら」


「ん? アリス、何か見つけた?」


 ある日の早朝、散歩がてらに市場を覗いてみたアリスと魔王は、野菜を扱う露店の前で足を止めました。季節はそろそろ夏の気配が感じられるようになった頃。旬の盛りにはまだ少し早めですが、トマトやキュウリ、ピーマンにオクラなどの野菜が所狭しと並んでいます。特に茄子などはずっしりと実が詰まっていて、見ただけでも果肉の瑞々しさが伝わってくるようです。

 店で使う食材は、わざわざ市場で仕入れずとも魔界側の業者から毎朝届けてもらえるのですが、やはり直にこうして良い食材を見ると、購買意欲と食欲とが刺激されてしまいます。店で提供するかは後で考えるとして、財布の紐を緩めた二人は目に付いた野菜を片っ端から買っていきました。







 ◆◆◆ 






 文字通りに売るほどの野菜を衝動買いしてきた彼らは、自分達だけではとても食べきれないので料理にして売ってしまうことにしました。著しく計画性に欠けますが、それに関しては今更です。使い切れなかった食材が出たら、友人知人や魔王城の食堂にでもお裾分けすれば問題なく使い切ることができるでしょう。



「焼き茄子、天ぷら、麻婆茄子……お漬物は糠漬けにカラシ漬け……生姜を効かせた焼き浸しに揚げ浸し……あ、トマト煮なんかもいいですね。最近は暑くなってきましたし、ニンニク入りの冷たいラタトゥイユなんかどうです?」


「いいね。じゃあ、今日の日替わりは茄子尽くしにでもしようか」



 買ってきた野菜は色々ありますが、特に茄子が大量にありました。

 種類も一種類だけでなく、細長い物、丸っこい物、大きいのに小さいのと様々です。

 茄子は食材の優等生。

 煮ても焼いても、揚げても漬けても、それ以外の大抵の料理法でも、よっぽど下手な使い方をしない限りは美味しく頂けます。食べると身体を冷やすとも言いますが、この日は初夏らしい汗ばむ陽気。涼を取る為にも茄子料理はもってこいでしょう。


 正直、買った時点でそこまで考えていたわけではありませんでしたが、魔王もアリスもすっかり乗り気になっていました。

 本日の日替わり定食は、牛と豚の合い挽き肉に刻んだタマネギや香辛料を混ぜたタネを薄切りの茄子に挟み、パン粉の衣を付けて揚げた挟み揚げ。タネはメンチカツに使う物を流用しただけなので、手間はそれほどかかりません。

 メインの挟み揚げとは別に、トマトベースの冷たいラタトゥイユ。ニンニクとオリーブオイルの風味が効かせてあって、ズッキーニやピーマン、パプリカ、そして茄子がどっさり入った具沢山の一品です。本当は仕込んでから一晩ほど寝かせるともっと味が馴染んで美味しいのですが、出来立てもそれはそれで悪くありません。お好みでタバスコを少々振っても良さそうです。



「あと一品くらい何か欲しいかな? アリス、何か食べたいのある?」


「そうですねえ……あ、私、焼き茄子が食べたいです」


「いいね。じゃ、それで」



 なんとも適当極まる、公私混同も甚だしい決め方ですが、美味しければ何も問題ありません。少なくとも焼き茄子に罪はありません。


 こんがりと焼いて皮を剥いた茄子。

 そこにおろし生姜を添えて、醤油をちょろり。

 好みで削り節を散らしてもいいでしょう。

 これはもう、食べる前から絶対に美味しいと確信できます……が、



「試食は大事ですよね」


「うん、大事だよね」


「おっと、これはいけません。朝からビールが欲しくなってしまいます」



 話し合っている間に食欲が刺激されてしまったせいか、二人は開店準備の途中だというのに試食という名目で焼き茄子に舌鼓を打ち始めました。確かにお客に提供する前に味を確認するのは必要なものですが、一人あたり二個も三個も食べる必要はないでしょう。

 普段はこんな風に食欲に負けることは(あまり)ないのですが、これは旬の食材の魔力……いえ、魅力ゆえのことでしょう。流石に朝からお酒を飲み始めることこそありませんでしたが。



「魔王さま、今日はお店が終わった後で一杯やりましょうね」


「うん、楽しみだね。さ、それじゃあ、そろそろ準備を始めようか」


「はい」



 やはり、今さっきの試食は開店準備の一環ではなかったようです。

 まあ、それはさておき、後に楽しみが待っているとなれば仕事にも一層熱が入るというもの。アリスも魔王も、とても機嫌良く各々の作業に取り掛かりました。



茄子って子供の頃は苦手だったんですが、今では野菜の中でも上位に入る好物です。焼き茄子とか天ぷらとか最高ですね。

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