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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
286/382

ss『月見団子』


 とある秋の日の朝。

 アリスとリサがレストランの厨房でお菓子作りをしていました。



「お団子を月に見立てるとは風流ですねえ」


「せっかくお月見するんだし、ススキも用意しようか?」



 彼女たちが作っているのは月見団子。

 例によって雑談の流れでリサが日本の風習について解説し、「じゃあ実際にやってみよう」という流れになったのです。

 本来の行事の意味合いである豊作祈願やら月信仰についてはリサも詳しくないので説明内容が偏ってしまい、アリスは「月を見ながらオヤツを食べるイベント」という風に解釈したようですが、それに関しては現代の日本人も似たようなものですし多分問題はないでしょう。


 日本では旧暦八月十五日(十五夜)の中秋の名月に行うのが一般的ですが、こちらの世界では暦も全く別物なので、日取りについては適当ですが。




 白玉粉を砂糖と少量の水で練って団子生地を作り、今回はその中に二種類の餡を入れていきます。片方はオーソドックスな小豆のこし餡。もう片方は、沢山あった貰い物の栗をペースト状に潰して甘く煮た栗餡。餡子についてはあらかじめ作り置きしている物を使うだけなので、大した手間はかかりません。


 餡子を丸めて小さな玉を作ったら団子生地の皮で包み、あとは沸騰したお湯で茹でるだけ。

 一度沈んだ団子が浮き上がってきたら氷水で冷やします。最後にキッチンペーパーや清潔な布巾で表面の水気を取れば完成です。


 売り物にするわけではないので量は少なめですし、特に難しい工程もありません。

 思いついて作り始めてから三十分もしないうちに十数個のお団子が完成していました。



「どれ、では味見を」


「あ、じゃあ、わたしお茶淹れるね」



 作った後はお待ちかねの味見タイム。

 ふわふわのケーキも美味ですが、時にはお団子のモチモチ感も良いものです。

 上品な甘さと滑らかな舌触りの小豆餡も、季節感を感じさせる香りの良い栗餡も、どちらも負けず劣らず良い仕事をしてくれています。


 甘い物続きで舌が重くなったら熱いお茶で味覚をリセット。

 緑茶と和菓子の相性については、あえて語るまでもないでしょう。



「ふむ、これは良い出来です」


「うん、美味しいね」



 しかし、このままではいくら美味しくとも月見団子に非ず。

 これでは、ただの団子でしかありません。

 月見団子は月を見ながら食べてこそ真の完成を見るのです。

 


「じゃあ、早速月を見ながら食べるとしましょう」


「早速? まだ朝だよ?」



 時刻はまだ午前中ですが、アリスたちは早速月見に出かけることにしました。







 ◆◆◆








 完成したお団子をタッパーに入れ、お茶の残りを水筒に詰めた二人は、転移魔法で少々遠出し、特等席でのお月見を敢行していました。


 彼女たちの眼前に広がるのは、見渡す限りのクレーターと岩石だけの荒涼たる光景。

 そう、二人はわざわざ月面に移動して、足下を眺めながらお団子を食べているのです。ちなみに空気や温度の問題については、無駄に高性能なアリスの結界魔法で無理矢理解決しています。



「……ねえ、アリス」


「なんですか、リサ?」


「ここまで来て今更だけど、お月見ってこういうのじゃないと思うの」


「そうなんですか?」



 たしかにこれも月見には変わりませんが、あまり風流という感じはしません。

 久々に壮大な天然っぷりを発揮したアリスに対し、リサはもう一度あらためてお月見についての説明を始めました。



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