表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
273/382

ガルドの菓子修行⑤


 クッキー作りの最中、ちょっとしたアクシデントで途中退場してしまったガルドでしたが、幸い大事には至らず、二日後には完全に復調していました。



「分かります、分かります! 作ってる途中の生地って、なんだかやたら美味しそうに見えるんですよね」


「ああ、そうなんだよな。ってことはは、リサ嬢ちゃんも?」


「ええ、小さい頃に何回か」



 リサも子供の頃に何度か『クッキー・ドゥ』に手を出して痛い目を見たことがありました。流石に分別が付く年齢になってからは自重しているようですが。



「ところで、一つ聞くけどよ。アンタが厨房にいて俺と話してるってことは?」


「はい、今日はわたしが先生をやりますね!」


「おう! じゃあ、よろしく頼むぜ先生!」



 一応、厨房内には魔王もいますが彼は別の料理の準備をしていました。

 必要とあらば手は貸してくれるでしょうが、今回はリサがメインで教えることになります。



「アリスやコスモスさんもやったみたいですし、わたしだけ仲間外れはイヤですからね」



 どうやら、そういう理由で自分から指導役を買って出たようです。大学と家の仕事に加えてシモンの稽古まで見ており、決して暇ではないのですが、そこはそれ。他の皆が何やら楽しそうなことをしていれば、多少無理をしてでも仲間に入りたいのでしょう。



「で、先生よ。今日は何を作るんだい?」


「そうですねぇ……じゃあ、プリンなんてどうですか? わたしも食べたいですし」


「お、いいな。大好物だ」


「それに、まだ蒸し物はやってないんですよね?」



 これまでに作ったホットケーキ、ドーナツ、クッキーで、“焼き”と“揚げ”は学びましたが、まだ“蒸し”の経験はありません。色々な調理法を学ぶという意味では、蒸し物に挑戦するのは悪くない選択でしょう。


 材料に関しても、最低限卵と牛乳と砂糖だけあればなんとかなります。

 固める際のつなぎとして少量の小麦粉を入れることもありますが、今までのお菓子同様に特別な物は必要ありません。

 調理器具に関しても必ずしも蒸し器は要らず、そこそこ底の深いフライパンや鍋に少な目の水を入れ、あとは材料の容器の中に水が入らないよう気を付けながら加熱していくだけです。



「しいて言えば、風味付けにバニラエッセンスがあるといいんですけど、一度に使う量は少ないですし、瓶をいくつか荷物に入れておくといいんじゃないですか?」


「そうさな。これくらいなら大丈夫だ」



 お菓子作りに使うなら、一人前あたりのバニラエッセンスの使用量は一回につき精々数滴程度。

 瓶は割れ物なので緩衝材に包むなどの対策は必要かもしれませんが、持ち運ぶのもそれほど苦ではないでしょう。






「まあ、そのあたりはおいおい考えてもらうとして、そろそろ作っていきますか」


「おう、まずは計量だな」


「はい、お砂糖と牛乳をお願いします。それと卵を卵黄と卵白に分けてくれますか」



 このあたりの手順は、量こそ違えど他のお菓子と似たような具合ですし、スムーズに進みます。

 レシピによって多少の差はありますが、大まかに牛乳100ccに対して砂糖は10g、卵黄一つと覚えておけば、あとはその都度作る量に合わせて増やしていけばいいでしょう。


 量り終えたらボウルに卵黄と砂糖、出来上がりの総量と好みに合わせたバニラエッセンスを合わせて混ぜ、次いで牛乳も入れていきます。

 牛乳に関しては一度にドバッと入れるのではなく、複数回に分けてちょっとずつ。更に、あらかじめ室温に戻すか、黄身が茹らない程度の温度に軽く温めておくと他の材料と馴染みやすくなります。


 あとは出来た卵液を容器に小分けにして、蒸し上げればプリンになるのですが。



「……これも、このままで結構美味そうだな。いや、でも流石に……」


「これって実質ミルクセーキですからね。冷やして飲んだら美味しいんじゃないですか? 今回は小麦粉も入れてませんし、卵も魔王さんの所のやつなら大丈夫でしょうし」


「じゃあ、飲むか」


「飲みますか」



 実はこの卵液、成分的にはミルクセーキそのものなので、このままでも美味しく飲めちゃったりします。冷たいほうが美味しいので、卵液の一部を別にして、しばらく保冷庫で冷やしておくことにしました。卵液はたくさん作ってありますし、どうせ後でまた作り足すので問題はないでしょう。


 

「じゃあ、残りの卵液を器に小分けにしていきます。手頃な小皿がなければマグカップとかでもいいですよ」


「おう、こんな感じか?」


「あ、蒸してる時に揺れてこぼれちゃいますから、もうちょっと少なめのほうがいいかもです」



 今回は手頃な大きさがある小さめのカップを使用しました。

 お玉で卵液をすくってこぼさないように、そして多すぎず少なすぎないように慎重に注いでいきます。

 この時、卵液の表面に出る気泡をそのままにして蒸すと火が通った時にになって見た目と食感が悪くなるので、清潔な布巾やキッチンペーパー等でそっと表面の泡を潰してやると仕上がりが良くなります。



「今回はフライパンで蒸す方法でやってみましょうか」



 少量の水(プリン容器の底が1~2cm浸る程度)をフライパンに入れて沸かしたら、一旦火を止めて卵液入りのカップを並べていきます。

 蒸している最中に水がプリンに混ざらないように濡れ布巾やラップなどで容器の口を覆い(ラップの場合は蒸気を逃がすための小さな穴を開けておきます)、あとはフライパンの蓋を閉めて弱火で五分。その後更に火を止めた状態で余熱で十分ほど加熱。


 あとは、念の為に軽く容器を揺らしてプリンらしい弾力が出ているかを確認し、最後に保冷庫で冷やせば完成です。保冷庫がなくとも、冷暗所で器ごと冷たい水で冷やせば充分美味しく冷えてくれるでしょう。







 ◆◆◆







「うん、いいじゃないですか」


「ああ、このカラメルもいい具合だな」


 プリンが冷えるまでの間に砂糖と水でカラメルソースまで作り、今はお待ちかねの試食タイムです。先に冷やしておいたミルクセーキと一緒に優しい甘さを堪能していました。

 スプーンで大きめに掬い取って口に運ぶと、卵と牛乳の優しい風味がふわっと香り、ゼリーとは似て非なるぷるんとした感触も蠱惑的です。



「へえ、美味しそうだね」


「お、魔王の兄ちゃんも一個どうだい?」


「そうですね、じゃあ遠慮なく」



 ちょうど注文が一段落したところだった魔王もそこに加わり、



「あら、今日はプリンを作ったんですね」


「おいしそうですね~」


「おやおや、これはいい時に来たようです」



 更に、客足が引いて厨房の様子を見に来たアリスと、メイとコスモスまで加わりました。幸いにも人数分のプリンが残っていたので、彼女たちにも味見用として提供すると、



「うん、いいですね」


「ですね~」


「ええ、素晴らしい成長です。花丸をあげましょう」



 決してお世辞というわけではないのでしょう。比較的簡単な基本のレシピばかりとはいえ、この短期間での上達ぶりは見事という他ありません。



「……へへっ、何しろ先生たちが良かったからな! ありがとよ!」



 ガルドは照れ隠しの為か残っていたプリンを一息で飲み干すと、豪快に笑いました。



とろけるプリンも美味しいですが、個人的にはどっしりとした固めのやつが好みです。コンビニやスーパーにはあまり置いてないのが難点ですが。

ちなみに蒸す工程は電子レンジでの加熱に置き換えても大丈夫です(私も自分でやる時はもっぱらレンジです)。作中では冷やしてから食べていましたが、熱々の状態でもあれはあれで美味しかったりします。

このまま終わりそうな感じでしたが、次回もう一回やって締めとなりますので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ