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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
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ガルドの菓子修行①


 魔王の店でも一、二を争う常連である冒険者のガルド。

 そんな彼がある日こんなことを言い出しました。



「なあなあ、魔王さんよ。一つ頼みがあるんだが、一丁俺に菓子作りを教えちゃくれねぇか?」



 その頼み事を聞いた魔王は一瞬驚いたものの、すぐに納得して頷きました。

 極度の甘党であるガルドは毎日のように大量の甘味を食べています(そのような食生活では健康面が心配になりそうなものですが、どうも彼の場合は甘い物を食べれば食べるほど体調が良くなるようです)。


 世の美食家グルメの中には食べるだけでは飽き足らず、自ら食材の調達や調理に手を出す者もそれなりにいますし、彼が菓子類の自作に興味を抱いてもそれほどの不思議はないでしょう。



「ええ、いいですよ」


「おう、ありがとな!」



 魔王としても特に断る理由はありません。

 いえ、これが普通の飲食店ならばそんな風にホイホイ作り方を教えることはないのかもしれませんが、あくまで趣味で店をやっていて商売っ気がない魔王には、レシピを秘匿しようという意識がまるでないのです。特に渋られることもなく指導の了承を得ることができました。




「それでな、ちょいと注文を付けさせてもらいたいんだけどよ。あんまり珍しくない、どこでも手に入る材料だけで出来るような物から教えて欲しいんだ」


「それは別に構いませんけど……でも、なんでまた?」


「いやな、迷宮都市近辺ここらにいる分には店で食うなり買うなりすればいいんだけどよ、ロクに店もないような田舎に行くとそうもいかねぇからな」



 魔界との交易が始まって早三年。

 一時期は品薄で高騰していたチョコレートやバニラ等の製菓材料も少しずつ値下がりを見せ、迷宮都市から離れた国々であっても庶民の手に届くようになってきました。


 とはいえ、それはあくまで都市圏の話。


 この大陸には半自給自足のような生活形態の田舎もまだ少なくありませんし、交易商人も利幅の少ない地域にはあまり立ち寄りません。それはすなわち、そういう地方ではまともな菓子類が手に入らないことを意味します。


 たかが菓子、されど菓子。

 仕事柄、依頼の内容次第ではそのような場所に遠出することもあるガルドにとってはまさに死活問題でした。


 材料に関しては金を積むなり自分で運ぶなりすれば、まだどうにかなる可能性もありますが、それを加工できる菓子職人がいなくてはどうにもなりません。

 砂糖を用いた菓子類というのは元来高級品ですし、それを作る職人も数が限られています。材料の手に入りにくい僻地にそうそういるとは思えず、そこに“腕の良い”という条件が加わったらなおさらでしょう。


 ですが、ここでガルドは考えました。

 そう、いないのならば自分がなってしまえばいいという逆転の発想です。



「それに、ガキ共に美味いモン食わせてやりてぇしな」


「え、ガルドさん、お子さんいたんですか?」


「ん? ああ、いや、そういうんじゃなくてな」



 一見単なる甘い物好きのデカいオッサンにしか見えないガルドですが、これでもかなりの有名人。仕事の途中で村や街に立ち寄ると、子供たちにせがまれて冒険譚を語ったり、基礎的な武術や身体の鍛え方を教えたりしているのです。

 元々面倒見の良い性格なので、それ自体はむしろ楽しんでいるくらいなのですが、



「まあ仕方ねえ部分もあるんだけどよ、中にはちゃんとした菓子なんて生まれてから一度も食ったことがないような連中もいるわけだ」



 昨今は景気が良い上に大陸中で豊作続きなので、餓死者が出たり口減らしで老人や子供を捨てるようなことは滅多にありません。

 ですが、充分に食べていけるからといって誰しもが嗜好品に手を出すとは限りません。

 むしろ余裕がある時にこそ節制を心がけて、いつ来るか分からない不作に備えようと考えてもおかしくはないでしょう。



「てなワケで、俺が覚えて行く先々で作ってやればいいか、ってな」


「なるほど、分かりました。 そういうことならビシバシ行きましょう!」


「おう、遠慮せず厳しくしてくれや!」



 こうして、ガルドの菓子修行の日々が幕を開けたのです。



今回は話の導入だけでしたが、そんなワケでここから何話かお菓子作り回をやっていきます。

彼のビジュアル的には蕎麦打ちとかのほうが似合いそうな気もしますが。

続編の『迷宮アカデミア』一章終了しました。

二章は六月中の再開を予定しています。

作者的にはめっちゃ面白いと思ってノリノリで書いてますので、まだ未読の方も是非どうぞ。

ページ下部のリンクから移動できます。

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