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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
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旅行に行こう(リタイア編)


 浅草で昼食と食べ歩きを満喫した魔王一行は、当初の予定通りに東京スカイツリーへと向かったのですが、



「気持ち悪い……」


「ちょっと……食べ過ぎましたね……」


「いや、あれだけ食べれば普通そうなるだろう」


「皆、大丈夫?」



 魔王とシモンを除く女性陣が、甘味の食べ過ぎによって軒並みダウンしていました。

 いくら甘い物は別腹とはいえ、それにも限度があったようです。食べている時はテンションが上がっていたので、限界点を突破していたのに気付かなかったのでしょう。



「ほら、いい景色だよ?」



 展望階からの眺め自体は素晴らしいものだったのですが、



「無理……今顔を上げたら出ちゃいます……」


「くっ……流石にこれは……」


「……くるしい」



 とても景色を楽しむ余裕などありません。

 四人とも吐き気を堪えるだけで精一杯。 

 スカイツリーの展望階は多くの観光客でごッた返している状況で、こんなところでリバースでもしようものなら大惨事間違いなしです。



「むう、魔王よ。残念ではあるが、ここはさっきの『えれべえたあ』とやらで降りて、皆を休ませるべきではないか?」


「そうだね、仕方ないか。皆、下まで降りるよ」



 結局ロクに景色を楽しまないままではありましたが、一同は下まで降りて休める場所を探すことにしました。







 ◆◆◆







 そして約三時間後。



「ふう、やっと落ち着いてきました……」


「ご迷惑をおかけしました……」



 あれからスカイツリー近くの隅田公園で休憩していたのですが、アリスやリサはどうにか回復してきたようです。



「私はまだちょっと……」


「……なんとか」



 しかし、子供の体格でありながらも他の面々と同じ量を食べたコスモスとライムは、胃腸へのダメージもより根深いようです。小さなお腹がぽっこりと膨らんでいます。見ている分には可愛らしい姿ですが、本人たちはまだ苦しそうです。



「あんまり無理をしてもなんだし、今日はそろそろ引き上げようか?」



 子供達の様子を見て、魔王がそんな提案をしました。

 本来であればスカイツリーに続いて電車で渋谷や銀座に移動し、買い物をする予定だったのですが、休憩時間を挟んだせいでもう夕方近くになっていました。

 今回は旅行といっても日帰りの予定でしたし、あまり遅くなってシモンやライムの保護者に心配をかけてもいけません。



「うぅ、面目ありません……」


「ごめんなさい……」



 普段はマイペースで落ち込んだりする事の少ないコスモスやライムが、迷惑をかけたとでも思っているのか珍しく落ち込んで謝っていました。二人とも普段はあまり表情の変化がないのに、揃って悲しそうな顔をしています。

 アリスとリサも同様に暗い雰囲気を漂わせていており、どうも自分達のせいで旅行が台無しになったとでも思っているようですが、



「ま、仕方あるまい」



 そんな、彼女達にシモンが軽い調子で告げました。



「なに、これが最後の機会というわけでもあるまいよ。また来ればいいだけの話ではないか。おお、そうだアリスよ。少し『かめら』を貸してくれ」


「「……?」」



 シモンはアリスからデジカメを借りると、コスモスとライムに向けてパチリとシャッターを切りました。



「ふむ、これで撮れているのか? たしか、『しゃしん』を見るのはここを押して……ははは! お前達のそんな顔など滅多に見れぬからな、良い土産ができたぞ!」


「む……これは恥ずかしいですね」


「……シモンは、“でりかしー”がたりない」



 しょぼくれている顔を撮られて恥ずかしかったのか、女児コンビの悲しそうな雰囲気が多少和らいできました。さらに引き続きシモンが、



「ええと、『どうが』を撮るのはどこを押せばいいのだ? ああ、そうだリサ。あとで『しゃしん』を額に飾りたいので『ぷりんと』を頼む。一番大きいサイズでな。それから、『どうが』は『でぃーぶいでぃー』に入れておいてくれ。『ばっくあっぷ』も忘れずにな」



 この異世界の王子様。

 リサの影響で妙に地球の電化製品に習熟しているようです。



「流石にそれは見過ごせませんよ!?」


「シモンは! “でりかしー”がたりない!」 


「おっと、渡してなるものか! はは、その腹ではおれに追いつけまい」



 旅の恥は掻き捨てなどとも言いますが、一時の恥ならばともかく、明確な記録に残して額に飾られたり電子メディアに残されるのはコスモスやライム的にも許せないようです。

 シモンの持っているデジカメを奪うべく、重いお腹を抱えながら公園内で追いかけっこを始めました。





「あはは、元気が出てきたみたいで良かったね」


「ええ、あの調子なら大丈夫みたいですね」


「魔王さま、リサ、また一緒に来ましょうね。……今度はハメを外しすぎないように気を付けましょう」



 途中リタイアという結果ではありましたが、なんだかんだと楽しめたようです。

 子供達が走り回るのを微笑ましく眺めながら、魔王たちは次の旅行の約束をするのでした。




というワケで、今回の日本旅行編はここまでで終わりです。

イケメンならぬイケショタなシモン。

書いてる最中に旅行中断の理由を変更したので、それに合わせて本編最終話の一部を変更してあります。

キャラクターに実在の観光地を巡らせるという試みは新鮮で楽しくもあり、また色々な課題や難しさもありました。まだ予定は未定ですが、そのうちまた似たようなことをやるかもしれません。


『迷宮レストラン』の続きについてですが、単発の料理回を何回か挟んでから、ガルドさん主役で何かやろうかと考えてます。時折、色々な形で作品の感想を頂くのですが、あのオッサン、何故か妙に人気あるんですよね。


続編の『迷宮アカデミア』も、おかげさまでご好評頂いているようです。

あちらはほぼ毎日更新していますので、まだ未読の方も是非どうぞ。

ページ下のリンクから飛べるようにしてあります。

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