旅行に行こう(観光編)
「おお、ガ●ダムだな。リサに『でぃーぶいでぃー』を見せてもらったから知っておるぞ」
「ほほう、なにやら大きくて格好いいですね」
お台場海浜公園駅で『ゆりかもめ』を降りた一行は、まず最初に等身大ガ●ダム像を見物していました。元ネタを知っているのはリサと、彼女にDVDを見せてもらったシモンだけですが、皆それなりに楽しんでいるようです。
コスモスも再びデジカメを取り出してパシャパシャと写真を撮り始めました。
「リサよ、これは動かないのか?」
「みてみたい」
「これは銅像みたいなものですからねぇ」
シモンやライムは動く光景を期待したようですが、残念ながら、そして当然ながらお台場のガ●ダムは動きません。
「コレに魔力を注いでゴーレム化すれば動くかもね」
「魔王さま? 本当にやっちゃダメですよ」
魔王の言うことは時々どこまで本気か分かりにくいのですが、今回は何かする前にアリスが釘を刺していました。
本当にガ●ダムが動き出したら、一部のマニアは大喜びでも世間的には隠蔽不可能なレベルの大事件。アリスの判断は実に賢明だったと言えましょう。
もっとも、その場を離れる間際に、
「む、良いことを思い付いたぞ……コスモスよ、少し耳を貸せ」
「ふむふむ……普通のゴーレムの外装をコレに? ええ、それなら出来るかと」
「うむ、楽しみにしておるぞ」
などと悪巧みをしているお子様が二名ほどいたのですが、何かあっても著作権の効力が及ばない異世界での話ですから多分問題ないでしょう。
◆◆◆
(※初代のお台場ガ●ダムは二〇一七年三月に公開期間が終了し、解体・撤去されました。同年秋頃までに二代目としてユニコーンガ●ダムを建設予定だそうです)
◆◆◆
等身大ガ●ダムの後に一行が向かったのは、リサの希望で選ばれた東京ジョイポリス。
「VRって言って、まるで本物みたいらしいんですよ」
いわゆる体感型のアトラクションや最新のVRゲーム、各種イベントなどが楽しめる、複合型アミューズメント施設です。
もっとも、リサ以外の面々は、“本物のような迫力”が売りのゲームに対してそれほどの興味がなさそうです。
最初に某有名ホラーゲームを題材にしたアトラクションの列に並んだのですが、
「おばけ?」
「ゾンビとかゴーストですよね? 見たいなら墓場にでも行けば、たまにうろついてますよ」
「おれは怪談の類には慣れているからな。まあ、どんなものか見てやろう」
「どんなのか楽しみだね」
「ははは、まあ所詮は作り物の子供騙しでしょう」
ちなみに前から、ライム、アリス、シモン、魔王、コスモスの順。
反応が薄すぎて分からないライムはともかく、他に楽しみにしているのは魔王だけのようです。
彼らの反応を見て、実は密かに楽しみにしていたリサも少しばかり心配になってきました。
アリスの言うように、本物の怪物がいる世界の住人にとっては、いくらリアルでも作り物では退屈なだけなのではないかと思ったのです……まあ、それに関しては全くの杞憂だったのですが。
「ぎゃーっ!」
「きゃっ!?」
「ひいぃっ!?」
「あはははは!」
「ビ、ビビッてないですよ!? この私をビビらせたら大したものですよ!?」
いざアトラクションが始まってみたら、魔王以外は思いっきりビビっていました。
ただウロウロしているだけだったり単純に襲い掛かってくるだけの本物と違い、演出によって巧みに恐怖感や生理的嫌悪感を刺激してくるアトラクションは、ある意味では本物以上の出来だったのです。
なお彼ら彼女らの名誉の為に、誰がどんな悲鳴を上げたのかについては割愛します。
そして、アトラクションの途中でちょっとしたアクシデントが起こりそうになりました。
「あれ、アリス? さっきから何をぶつぶつ……ちょ!?」
「もごっ!? ……は、放してくださいリサ!?」
「あはははは、こういうのも楽しいね」
「魔王さんも笑ってないでアリスの詠唱止めてっ!」
途中、怯えたアリスが魔法による反撃を試みようとしたのです。
リサは結局アトラクションではなく、そちらのほうに肝を冷やしていました。必死にアリスの口を塞いだおかげでどうにか建物を吹き飛ばす事態はどうにか避けられましたが、
「うぅ、面目ありません……」
後で正気に返ったアリスは、己の不明をひどく恥ずかしがっていたそうな。
◆◆◆
最初のアトラクションこそ選択を誤った感がありましたが、その後は別のフロアにあるクレーンゲームで遊んだり、プリントシール機で写真を撮ったりと、魔王一行は楽しく遊んでいました。
「かわいい」
「沢山菓子を取れたぞ。これは、じいへの土産にするか」
ライムやシモンも、自分で獲った景品のぬいぐるみやお菓子を手にご満悦。
最初は慣れないゲームに苦戦していたのですが、元々の勘は悪くないですし操作も単純なので、無事に獲得できたようです。
「ふふふ、自分の才能が恐ろしい……!」
そして何故か初めて遊ぶはずのコスモスが、クレーンゲームに異常な才能を見せていました。その腕前たるや、百発百中どころか一回のプレイで二個三個と景品を獲得するほどです。
繊細な操作でフックを景品のタグに引っ掛けたり、重心をコントロールして景品の山を崩す技も即興で使いこなす芸達者ぶりで、しかも外見だけなら神秘的な雰囲気を纏った銀髪美少女。
なるべく目立たないほうが望ましいにも関わらず思いっ切り周囲の注目を集め、最終的には二十人近いギャラリーから歓声を浴びていました。
「おっと、そろそろ時間ですね。じゃあ、これからお昼ご飯に行きますよ」
「あら、もうそんな時間ですか?」
楽しく遊んでいたら時間が経つのはあっという間です。
名残惜しくはあったものの、リサの号令で魔王一行は東京ジョイポリスを離れ、近くにある水上バスの乗り場へ移動。そのまま海路を使って次の目的地である浅草へと向かいました。
※
ちなみに作者はガ●ダムに関してはGガン派です(というか、実はマトモに全部観たのはアレだけのニワカ勢です)。流派東方不敗は王者の風よ!
なお、一番好きなロボットアニメはグ●ンラガンの模様。
※
前回の後書きでも告知しましたが、本作の続編にあたる新作『迷宮アカデミア』を始めました。
まだ文量は少ないですが、幸い読んだ方々にはご好評をいただいているようです。作者的には超面白いと自画自賛してるので、試しにご一読いただけると嬉しいです。





