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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語
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旅行に行こう(出発編)


 日本時間で三月某日の午前九時頃。

 魔王とアリスとリサとシモンとライムとコスモス。総員六名の異世界からの旅行者一行(リサ除く)は、太陽系第三惑星地球の日本国東京都港区にある新橋駅前、SL広場のあたりに到着しました。

 


「おお、ここがニホンか!」


「すごい」



 写真やら何やらで予習していたとはいえ、初めて日本の光景を目にするシモンやライムは特に驚きが大きかったようです。

 ビルの一つや二つならば塔の一種として受け入れられたかもしれませんが、それが森の木々の如くに並んでいるとなると、このように圧倒されてしまうようです。


 


「や、やけに人が多いな、今日は祭りでもあるのか?」


「うん、すごい」



 シモンがお約束のセリフを口にしましたが、当然お祭りなどではありません。

 この日は平日の午前中で、それも午前九時頃ともなれば、今がまさに通勤ラッシュの真っ只中。

 新橋駅の乗降者数はJRだけでも一日平均五十万人以上。他の路線も合わせれば八十万人を大きく超えます。

 スマホでカンニングをしながらリサがそのように説明をすると、



「なっ、一日で八十万人だと!?」


「すごい」



 シモンもライムも大いに驚きました。

 ライムは先程から驚きすぎて「すごい」しか言っていません。



「新宿とか渋谷はもっと多いんですけどね」


「ううむ、とても想像ができぬ」



 ちなみに、この年の時点での迷宮都市の総人口はおよそ二十万。

 都市として成立してからの年数の浅さを考慮すれば驚異的な発展ではありますが、人口一千万を超える東京都と比べるには、まだまだ年季が足りません。





「さあ、そろそろ移動しないと予定に遅れてしまいますよ」


 と、アリスが拍手を打ってシモンたちの意識を引き戻しました。

 まだまだ話し足りない風ではありましたが、彼らもすぐに本来の目的を思い出したようです。

 いざとなれば、転移で移動時間を短縮できますが、今回はその移動自体も目的の一つ。なるべく省略したくはありません。



「うむ、デンシャだな。おれは、あれに乗るのが楽しみだったのだ!」



 今回はまず新橋から『ゆりかもめ』でお台場方面に向かう予定です。

 まずは乗り場まで上がる必要があるのですが、



「か、階段が動いておる!?」


「すごい」



 手前のエスカレーターの段階で早くも驚愕していました。

 自動車や電車に関しては予備知識があったので驚きはしませんでしたが、まだまだ知らない事のほうが遥かに多いのです。


 

「怖かったら一緒に階段で上がりましょうか?」



 リサの申し出にシモンは一瞬悩んだ素振りを見せましたが、



「い、いや、怖くなどないぞ……とうっ! どうだ!」



 思い切って一歩を踏み出し、見事に難業を成し遂げて誇らしげな顔をしていました。人類にとっては小さな一歩ではありますが、彼個人にとってはそこそこ大きな一歩だったようです。




 そして一行はエスカレーターで駅構内を上り、自動券売機の前までやってきました。

 『ゆりかもめ』に乗るには、まず切符を買う必要があります。日本語を解する魔王とアリスとコスモスは特に説明を受けずとも手早く購入し、



「これはアレだな。『じどうはんばいき』というヤツの仲間であろう?」


「よかったら自分で切符を買ってみますか?」


「やってみたい」


「うむ、何事も経験だ」



 まずはライムがリサからお金を受け取り、自分で切符を買ってみる事になりました。

 投入口に数枚の百円玉を入れ、リサの指示通りに子供料金のボタンを押すと、釣り銭と一緒に切符が一枚吐き出されました。



「べんり」



 初対面の頃よりはかなり改善されたとはいえ、まだまだ人見知り気質でコミュニケーション能力に難のあるライムは、人とやり取りをせずに買い物が出来る事に謎の感銘を受けていました。



「うむ、この穴に金を入れて……ここを押すのだな?」



 次いでシモンも同様に子供料金の切符を買いました。

 日本語はほとんど読めずとも、先にライムが買ったのを見ていたので迷いはありません。



「む、リサは買わないのか?」


「わたしは定期のチャージが残ってるから大丈夫ですよ」


「ちゃ、ちゃー……なんだ?」



 リサが定期入れを取り出してカードを見せるも、シモンは不思議そうに首を傾げていました。切符はともかく、交通系ICカードの概念まではまだまだ理解が及ばないようです。



「それで、買った切符を改札機に入れて……」


「な、吸い込まれたぞ!?」


「ふしぎ」


「はいはい、二人とも立ち止まらずに進んでくださいね」



 改札を抜けるところでも一悶着ありましたが、どうにかこうにか予定していた時間には『ゆりかもめ』のホームに到着しました。


 そのまま先頭のホームに移動し、しばし待機。

 ほどなくして『ゆりかもめ』がやってきました。



「おお、中は意外と広いのだな!」


「すごい」



 子供たちはイスが空いているにも関わらず、車内のあちこちを歩き回ったり、壁や窓をペタペタ触ったりしています。



「あまり騒いでは他の人の迷惑になりますよ」


「うむ」


「うん」



 アリスが苦笑しながら注意をするも上の空といった様子。

 特に車体が動き出してからは、窓に顔を張り付けるようにして夢中で外の景色を見ています。


 諸々の都合により目立って注目を集めるのは好ましくないのですが、学校によってはすでに春休みに突入している時期。周囲には同じような観光客風の子供連れも少なくありません。

 もっと派手に騒いでいる子供も少なくなく、相対的に見れば違和感なく環境に溶け込んでいる……と、言えなくもないかもしれません。



「ははは、この程度ではしゃぐとはお子様は単純ですねぇ」


貴女コスモスも思いっ切りはしゃいでるじゃないですか」



 今日は子供姿のコスモスは、アリスから借りたデジカメで先程からパシャパシャと写真を撮りまくっていました。どう見ても「この程度」と思っていないのは明らかです。


 子供の姿でいると精神性も子供寄りになるので、普段よりも幾分素直になっているのでしょう。

 以前にも日本に来た経験がある為にビルやエスカレーターに逐一驚いたりはしていませんでしたが、新橋駅を発車した時にはシモンやライムと並んで窓に張り付いていましたし、思いっ切り観光を満喫していました。



「いい景色だね、アリス」


「そうですね、魔王さま」



 ちなみに先程からイマイチ影の薄い魔王も、それなりに旅路を楽しんでいるようです。

 二人席にアリスと並んで座り、のんびりと景色を眺めています(ちなみに、この時先に魔王の隣を取られてしまったリサは、窓際に立って子供たちの観光ガイド役を務めていました)。





 『ゆりかもめ』はそのまま幾度かの停車をし、やがて海上のレインボーブリッジが見えてきました。ここまで来れば、降車駅まではあと僅かです(余談ですが『レインボーブリッジ』というのは一般公募によって決められた通称で、正式名称は『東京港連絡橋』という名前です)。



「さあ、次の駅で降りますよ」


「なに、もう降りるのか?」



 子供たちは随分と『ゆりかもめ』が気に入ったようで名残惜しそうにしていますが、いつまでも乗っているわけにもいきません。



「ほら、コスモスさんも写真はそのくらいで」


「リサさま、もうちょっと、あと一枚だけ別アングルで……」



 ちなみに一番往生際が悪かったのはコスモスでしたが、



「よいしょっと」


「な、後頭部に巨大なクッションが!? アリスさまでは有り得ない新感覚!」


「なんで! わざわざ! 私を比較対象にするんですか!?」



 リサに身体を抱きかかえられる形で強制的に車外へ持ち運ばれ、ついでにアリスが流れ弾で精神に傷を負っていました。まあ、よくあることです。


 ともあれ、新橋駅から『ゆりかもめ』に乗って約十五分。

 魔王一行はお台場海浜公園駅に到着しました。



今回の話は東京近郊にお住まいの方は身近に感じていただけるかと。

次回はお台場近郊の話になります。


この話と同時に新作『迷宮アカデミア』を投稿しました。

『迷宮レストラン』の続編というか未来のお話です。

少し先になりますが、こちらのキャラの何人かが向こうに登場する予定ですので、ご期待ください。

ページ下のリンクから移動できます。

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