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迷宮レストラン  作者: 悠戯
いつか何処かの物語

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旅行に行こう(準備編)


「ニホンに行ってみたい」


 ある日、いつものように魔王のレストランで午後のお茶を楽しんでいたシモンが、そんな事を言い出しました。

 以前からリサの話や、アリスたちが日本旅行に行った際の話などを聞いていましたし、彼が興味を持つのも無理はありません。


 日本語に関してはまだ単語をいくつか知っている程度なので読み書きや会話は無理ですが、その点については保護者がしっかりと通訳を務めれば問題ないでしょう。



「いいですね! わたしも久々に遊びたいですし、案内は任せてください」



 そして現在高校三年の三月度、つい先日、無事に受験戦争を勝ち抜いたリサも諸手を挙げて賛成しました。ここ半年くらいは遊びもアルバイトも自重して勉学に励んでいただけに、娯楽に飢えているのでしょう(ちなみにその間のシモンの修行はアリスが面倒を見ていました)。

 長かった高校生活はもはや卒業式を残すだけの自由登校状態ですし、彼女もスケジュールには余裕があります。




「あら、いいですね。私もご一緒したいです」


「わたしも」


「私もいいですか? まあ断られても勝手に付いて行きますが」


「じゃあ、僕たちも一緒に行こうか」



 そして、あれよあれよという間に、アリスやライムやコスモスや魔王も加わって、日本への日帰り旅行が決まりました。





 旅行というものは計画を立てる時が一番楽しい、などと言う人も世の中にはいるようです。

 彼らの場合もその例に漏れず、大いに盛り上がりながら雑誌やスマホで情報を収集し、各々が行ってみたい場所をリストアップしていきました。



「おれは、一度デンシャというのに乗ってみたい」


「たかいところ」



 子供たちの希望を優先的に汲んで、移動手段や目的地を考えていき、



「ははは、アキハバラやイケブクロで薄い本を買い漁るのが楽しみですね」


「コスモス。よく分かりませんが、そこは今回の目的地から外しておきますね」


「なんと!?」



 コスモスの希望は、なんとなくイヤな予感がしたアリスによって無慈悲に却下されました。



「どうせなら、美味しい物が食べたいよね」


「じゃあ、お店が決まったら、わたしが予約しておきますね」



 食事や買い物やその他諸々の予定を考えながら観光ルートを考え、日が落ちる頃にはひとまずの計画が出来ていました。



「たのしみ」


 いつもは表情から感情が読みにくいライムもどことなく楽しそうにしており、尖がった耳がピコピコと上下に動いています。

 リサは、微笑ましそうにそんなライムの姿を見て……そして、今更になって気付きました。



「ええと……ライムちゃんは、そのままだと無理かも」


「……え?」



 期待が大きければ大きいほどに、それが無くなった場合の落胆も大きいものです。



「地球にはエルフっていないから……まあ、魔族とかホムンクルスとかもそうなんだけど、他の皆は見た目じゃ分からないし。それで、その耳をどうにかしないと、すごく目立っちゃうと思うの」



 流石に即捕まって解剖されたりはしないでしょうが、日本の往来をエルフ耳の子供が歩いていたら、かなり目立ってしまうでしょう。いざとなれば逃げるのは容易ですが、のんびりと観光を楽しむのは難しいかもしれません。

 それに、昨今はどこにカメラや撮影機器があるか分かりません。知らない間に映像記録を取られていた、なんて事も充分に考えられます。



「……きりおとす?」


「そ、そこまでしなくていいから!?」



 ライムが卓上のナイフに手を伸ばしたので、慌てて全員で止めました。

 この肝が据わり過ぎているお子様、下手をしたら本当に自分の耳を切り落としかねません。



「ライムよ、お前、いくらなんでも楽しみにしすぎだろう」


「だって……」



 シモンに言い返すでもなく、珍しく不平を口にしています。

 よっぽど旅行が楽しみだったのでしょう。




「大丈夫ですよ、ライム」



 ですが、ここでアリスが助け舟を出しました。



「要は耳を隠せればいいのです。私に任せてください」







 ◆◆◆







 そして一旦解散してからの、翌日。

 ライムは朝からアリスの部屋に連れ込まれ、女性陣のオモチャになっていました。



「わ、可愛いですよ!」


「元が良いから何を着せても似合いますねぇ」


「次はこっちのブラウスとスカートを合わせてみましょうか」



 リサとコスモスとアリスが、次から次へとライムに服を着せては脱がせてを繰り返していました。まるで等身大の着せ替え人形です。

 元々の目的を考えると、帽子や髪型を工夫して耳だけを隠せれば、それで済むはずなのですが、



「どうせなら全身のバランスを考えたほうが面白い……じゃなくて、違和感がなくなりますからね」



 ……とは、アリスの談。

 かなり早い段階で本来の目的を忘れて趣味に走っていましたが、言っている事そのものは間違ってもいないので、ライムも抵抗しにくいようです。もっとも、仮に抵抗しても力では絶対に叶わないという諦めのほうが大きいかもしれませんが。




「……つかれた」


 着替えというのは意外に体力や精神力を消耗するものです。

 それ自体が趣味で楽しめるならまだしも、まだまだファッション方面への興味がそれほどないライムは、すっかり飽きてバテていました。



「次はこのドレスを……」



 そしてアリスはというと、消耗したライムの気持ちを知ってか知らずか、タンスの中から次から次へと新しい服を引っ張り出しています。


 勢いで作ったはいいものの自分で着るのは恥ずかしい少女趣味全開のドレスやら何やらを、次々に弟子に着せて楽しんでいました。いくらアリスが小柄とはいえ流石にライムには大きめのサイズなのですが、それに関しては後で丈を詰めるなり、似たデザインの服を新しく仕立てるなりすれば済む話です。



「これ、わたしが小学生の頃のなんだけど、どうかな?」


「グッドです、リサ」



 果ては、リサも自宅の押入れにしまってあった小学生の頃の服を持ってきて、更にコーディネートの幅が広がりました。



「ぱわはら?」


「師弟愛です」



 これは師弟関係を利用して着替えを強要するパワハラ(セクハラ?)の一種なのではないかとライムも思い始めましたが、アリス曰く弟子の身を案ずるが故の師弟愛だそうです。


 そして、数時間にも及ぶ試行錯誤の末に、ようやく結果が出ました。



「どう?」


「似合ってますよ。可愛らしいです」


 ブラウスとワンピースを重ね、足には紺のタイツ。

 ファー付きの薄いベージュのコートと、同色の耳当て付きキャスケット帽。

 髪型もいつもの三つ編みではなく、両サイドにフワッとボリュームを持たせています。


 あれだけ試行錯誤を繰り返した割には、意外にもおとなしめのコーディネートに収まっていました。

 テンションが上がって正常な判断が出来なくなったアリスたちにも、かろうじてウエディングドレスじみた派手な格好を採用しない程度の理性は残っていたようです。



「耳の具合はどうです? 音の聞こえ方は?」


「ん……だいじょうぶ」



 帽子の耳当て部分にはワイヤーが仕込んであり、髪で隠した耳を後頭部側に押さえつける格好になっています。少し窮屈そうですが、元々エルフは聴力に優れていますし、会話に不自由するほどではなさそうです。


 ともあれ、これで無事に旅行の準備が完了しました。

 あとは当日を待つばかりです。



挿絵(By みてみん)

(※作画&衣装デザイン:悠戯  キャラデザ:てつぶた様)


活動報告に新作の予告編的なのを載せていますのでご覧ください。

多分、次のこっちの更新と同時に始められるかと思います。

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