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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
248/382

夏の話①

あけましておめでとうございます。

今年もどうかご贔屓に。


 時は流れ季節は変わる。

 これは、青い空と青い海とが印象的だった、ある夏の日の話。







 ◆◆◆







「うみ」


「うん、海だね」


「海だな」


「海ですね~」


「なんというか、実に海だね」


「すごく……海です」



 燦々(さんさん)と照りつける太陽の熱。

 海風が運ぶ潮の香り。

 足指をくすぐる砂の感触。

 目に痛いほどに透き通った空と海の青さ。

 遠くに見える巨大な入道雲。


 いつもの面々(魔王とアリスとリサとコスモスとシモンとクロードとライムとタイムとメイとアランとエリザとダンとガルド)は、南の島にバカンスにやって来ました。


 場所は、いつぞやの冒険でアランたちが発見した未開の無人島。

 いえ、正確には未開の無人島だった島です。

 今や、島の様相は以前から大きく変化していました。



 濃密な密林は切り開かれ、凸凹だった地面は石畳で舗装済み。

 危険な野生動物や魔物は一通り駆逐され、非武装の女性や子供が一人歩きできるほど安全に。

 波の穏やかな入り江には上下水道完備の水上コテージ。

 内陸部には千人以上も宿泊可能な大型カジノホテル。

 百軒超もの商業施設が軒を連ねる大型ショッピングモール。

 小型船から大型船まで対応可能な港湾設備。

 同様に飛空艇に対応した航空設備。


 他にも色々とありますが、かつての無人島はすっかり観光地化されていました。まだ商業施設の類は稼動しておらず人っ子一人としていませんが、これはまぎれもなくビーチリゾートです。

 その理由はというと、特に意外でもなんでもなくコスモスの仕業でした。



「お話を聞いてから私のポケットマネーで開拓しまして。いやはや、しばらく前に来て資材と作業用ゴーレムを放置しただけなのですが中々サマになっていますね」



 土木作業用が百五十体に戦闘用が四十体、改造・修復機能持ちが十体。

 合計二百体ものゴーレムが、不眠不休で働き続けた結果が眼前のリゾート地なのでしょう。

 現在では雇用を確保するために稼動を中止していますが、迷宮都市の建設初期にも見事な働きを見せたものです。わずか数ヶ月で大都市を築き上げる能力からすれば、この程度の成果はむしろ控え目なのかもしれません。

 


 ちなみにコスモスが参考にした資料は地球の旅行雑誌。

 砂浜に鎮座しているスフィンクスやマーライオンのパチ物なんかは、参考資料からそのままパクった結果でしょう。ちなみに島の反対側にはペンキで色を塗った金閣寺や自由の女神なども建設中です。






「人間界の島を勝手に開発して大丈夫なんですか?」


「恐らく問題はないでしょう。人間界こちらでは未開地は発見・開拓した国が領有権を得るのが通例のようですし」


 アリスの質問にコスモスは問題なしと答えました。

 領有権に関しては恐らくコスモスの、というか魔界のものになるのでしょう。


 コスモスは既にいくつかの国に(魔王たちに無断で)根回しを始めています。

 この世界で一般に見られる帆船よりも遥かに速く、長期の航行が可能な大型魔導船舶の設計図をエサに領有権を認めるよう交渉をしているのです。いくつかの有力国が認めれば、あとはなし崩し的に権利を主張できるでしょう。

 権利の取得ができ、上手く運べば大量の観光客も呼べて一石二鳥。


 文化ハザードとかそういう面に関しては……もう今更ですし、諦めて受け入れたほうが精神衛生上よろしいかと。

  






 ◆◆◆







 ともあれ、一同は水着に着替えて海辺で遊び始めました。

 実は、その水着に関しても事前に一悶着あったのですが。


 娯楽としての水泳が決して一般的ではないこの世界(人間界だけでなく魔界も)には、はっきり言ってロクなデザインの水着がなかったのです。

 男性用はフンドシのような布で股間を隠すだけ、女性用はそれに加えてゴワゴワした木綿の胸帯を巻くだけ。主に女性陣にとってはそんなダサい格好は耐え難いものがありました。



 そこでリサが用意した商品カタログから選ぶ形で全員分の水着を購入する事になったのですが、今度は別の問題が発生しました。日本では違和感がなくとも、異世界的な感覚からするとどれもこれもデザインが過激すぎたのです。


 日本では一般的なビキニタイプも、見慣れていない者からすると下着と変わらず、人前に出るのは抵抗が強い。露出を減らしたワンピースやパレオ付きでもまだ厳しい。どうも身体のラインがピッチリ出るのが恥ずかしいのだとか。


 特にこだわりのない男性陣は皆トランクスタイプの水着を適当に選んだだけで簡単に終わりましたが、女子たちは随分と頭を悩ませていました。


 このあたりの感性については生まれ育った文化に由来するので、一朝一夕で変わるものではありません。

 各々が自分のセンスで選んだ結果、ネタ半分で見せた縞々の囚人服のような水着が女性陣の最大派閥になったのは、紹介したリサにとっても予想外でしたが。









「アリスも、もっと可愛いのを選べば良かったのに」


「リサはよく恥ずかしくないですね。そんなのほとんど下着と一緒じゃないですか?」


 ちなみにアリスは先述の囚人服水着。

 リサは一般的な白のビキニを身に着けています。

 アリスは過激だと思っているようですが、リサの感覚からするとそれほどでもありません。布面積が下着と大差ないというのはその通りですが、リサの考えでは水着というのはそもそも「そういうもの」なのですから。



「だって、水着ってそういうものだしね。あ、魔王さん、わたしの水着ヘンじゃないですよね?」


「え、うん、似合ってると思うけど……ちょっと目のやり場に困るというか」


「わたしはこっちですよ? ちゃんと見てくださいって」



 魔王は珍しく照れているようです。

 彼の感性もどちらかというとアリス側、すなわちリサの今の格好にはかなり過激な印象を持っている側。紳士的に顔を背けてなるべく見ないようにしていますが、リサが隣にいる状況ではどうしても視界の端に色々と見えてしまいます。



 そんな風に恥ずかしがる魔王の様子を見ているうちに、リサの脳裏にちょっとした悪戯心が湧いてきたようです。健気にも視線を背けようとする魔王の頭を両手でガシっと掴み、



「えいっ」


「っ!?」



 と、両腕で魔王の頭を抱えこむような体勢になりました。

 必然的に魔王の頭部はリサの首から下あたりにホールドされ、とても柔らかい「何か」が彼の顔面に押し当てられている状況です。


 魔王ならばその気になれば強引に振り払う事もできるのですが、無理に力を込めるとリサに怪我をさせてしまう上に、密着した状況から強引に動くとビキニの胸部分が破損する可能性が高いので無闇に動くことも出来ません。



「ちょっリサ、なんて羨ましい! じゃなくて、破廉恥な!?」


「まあまあ、羨ましいなら次はアリスもやればいいでしょう?」



 途中でアリスからの物言いが入りましたが、リサに動じる気配はありません。

 ついでに魔王がさっきから肩を叩いてタップして降参の意を示していますが、それも無視スルーしています。


 そのままリサは三分ほど魔王の体温やら頭の感触やらをたっぷり堪能してからやっと解放し、最後に悪戯っぽく笑いながらフラフラになった彼の耳元で囁きました。



「ふふっ……魔王さんのえっち」


「えぇっ!?」 



 普段のリサからはかけ離れた言動ですが、きっと夏の日差しが彼女を開放的にさせたのでしょう。あるいは暑さで頭がパーになったかのどちらかだと思われます。






続きます。

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