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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
243/382

恋愛相談


 年が明けた日の早朝。

 アリスは昨日早くに抜け出したままのコスモスを心配して、彼女の部屋までお見舞いにやってきました。もっとも、用件はそれだけではないのですが。



「おはようございます、コスモス。身体は大丈夫ですか?」


「か、身体……そんなにも私の身体が気になるのですか!?」


「それは勿論気になりますよ」


「ひっ、や、やはり昨日のは白昼夢ではなかったのですね! どうしましょう、このままでは同性ならではの物凄くマニアックな方法で犯されてしまいます!」


「……はい?」


「力での抵抗は無意味、逃走も不可能……くっ、こうなったら仕方がありません。できれば優しくしていただけるとありがたいのですが」


「待って。コスモス、ちょっと待ちなさい。いったい、なんの話をしているのですか?」


「はい?」



 ここまで話が進んで、ようやく両者は違和感に気が付きました。

 奇跡的なバランスで成立していた認識のズレに、やっと思い至ったのです。



「なんだ、紛らわしいですね。私はてっきりアリスさまとリサさまが、野外でのマニアックな変態行為を満喫していたとばかり」


「そんなハズがないでしょう。どこをどう曲解すれば、そんな理解になるのですか!」


「どこをどうしたって、そうとしか聞こえませんでしたが?」



 人と人とが分かり合うのは斯くも難しい。

 まあ、今回ほどに相互の認識がすれ違うのは稀も稀でしょうが。


 ともあれ、茶番はここまでです。

 コスモスの誤解を正し、体調不良についても問題ない事を確認したアリスは、ようやく本題に入りました。



「少し、貴女に相談したいことがありまして」


「アリスさまが私に相談とは珍しいですね。それで、なんについてでしょう?」


「ええ、一つ……恋愛相談をば」








 ◆◆◆







 アリスはまず最初に、昨日の一連の事件について説明をしました。


 一つ、リサの気持ちに気付いたこと。

 二つ、紆余曲折あったものの、アリスとリサは前以上に良好な関係を維持できたこと。

 三つ、アリスの口を介して、リサが魔王に告白をしたこと。


 他にも細々としたことはありますが、重要なのはこの三点でしょう。



「なるほど、私の知らないところで、そんな面白そうなことがあったのですか」


「あったのですよ。面白そうかどうかはさておき」



 コスモスは話の途中で淹れたお茶を飲んで一服。

 少し考えてから、アリスに質問をしました。



「それで、なんでまたそんな風に落ち込んでいるのですか?」



 アリスの様子は一見すると普段と大きな違いはありません。

 ですが、漠然とした身に纏う雰囲気や声のトーンなどに、ほんの些細な違いがありました。コスモスの観察眼は、それを正確に捉えていたのです。


 そう問われ、アリスは観念したように溜め息を吐きました。

 元々、ここには相談に来たのです。今更隠しても仕方がありません。



「ええと、なんと言いますか……私とリサは晴れて魔王さまを巡る好敵手ライバルになったわけですが……冷静になって考えてみると、私に全く勝ち目がない気がしてきまして……」


「はて、そんなに差がありますかね?」



 アリスは改めて悩みを自覚して落ち込んでいますが、コスモスは不思議そうな顔をしています。身内の贔屓目はあるとしても、両者にそれほど大きな差があるとは思えなかったのです。コスモスの目にはアリスだって充分以上に魅力的に映ります。

 そこで改めて検証してみることにしました。



 能力的にはほぼ互角。

 戦闘能力に関しては昨日実際に確かめたばかりですし、それ以外の料理や家事能力に関しても総合的にはほぼ対等でしょう。たとえば料理に関しては才能と情熱でリサが勝っていますが、裁縫に関しては趣味ということもあってアリスが有利。


 そんな二人の差が開くとすれば、それは能力面においてではなく、より根本的な個性の部分でしょう。



 たとえば、容姿。

 方向性は違えど、どちらも魅力的です。

 しいて言えば、胸部装甲の厚みに絶対的な差がありますが、それに関しては好みというものがありますし、絶対的な不利とまでは言えません。



 たとえば、性格。

 どちらも真面目で善良な気質です。

 アリスの場合、可憐な外見に反して結構な武闘派で、対話が面倒になるととりあえず物理攻撃を行う傾向があります。ですが、相手を選んだり手加減をする理性はありますし、それだけなら大きな欠点とまでは言えません。



 たとえば、素行。

 どちらも極めて品行方正。

 しいてアリス側の問題点を指摘するならば、頻繁に魔王へのストーカー行為を繰り返し、廃棄した私物を着服したりしていますが……まあ、対象が気付いていないので多分セーフです。一風変わったリサイクルのようなものでしょう。



「他には、たとえば――――、」


「……ストップ。コスモスちょっとその辺りで止めてください……もう少し手心とかそういうのは無いんですか?」



 コスモスが指折り数えながら両者の長所短所を比較していると、いつの間にやらアリスがグロッキーになってテーブルに突っ伏していました。一つ一つは決定的ではなくとも、他人の口から数々の欠点を指摘されるのは存外に堪えたようです。



「あ、一つアリスさまが絶対に勝っている点を思い付きました」 


「な、なんですか? せめて、せめて何か一つだけでも……!」


「そんなに期待されると言い難いのですが、ええとですね……年齢、です」


「年齢」


「はい、少なくともそこだけは勝っています。良かったですね」



 アリスは再びダウンしました。

 年齢以外の全部で負けたとあれば無理もないでしょう。

 その年齢にしても、普通は加齢に伴って増していくはずの妖艶さだとか、恋愛における手練手管などとは完全に無縁です。年齢がプラスに働く要素は一切ありません。



「リサさまに隙がないと称えるべきか、アリスさまの隙がありすぎると言うべきか……両方ですかね」


「ぐっ……!?」



 コスモスによる容赦のない追い討ちでアリスのライフはもうゼロです。事実なだけに言い返すこともできません。


 

「こうして考えると、リサさまってかなりの難敵ですね」


「……だから困っているんですよ」



 全体的に能力が高く、内面においてもこれといった欠点がない。その善良な性格ゆえにアリス側を貶めるような卑怯な手を使わないであろう事がまだしもの救いでしょうか。


 対等な立場で競争をすれば、ほとんど勝ち目の見えない相手です。

 あくまでも対等な立場であれば、ですが。



「安心してください、、アリスさまには絶対的な有利があるではないですか」


「有利?」



 コスモスは、アリスの絶対的な優位を示しました。



「すなわち、すでに婚約しているという有利があるではないですか」


「た、たしかに」


「リサさまも失敗でしたね。今更心変わりしても時すでに遅し、ですとも」


「ええ……そうですね、その通り……」



 リサの敗因は、愚かにも一度諦めようとしたこと。

 コスモスの指摘は、アリスを納得させるに足るものでありました。






 

 ◆◆◆







 コスモスとの相談を終えたアリスは、魔王の待つレストランへと戻りました。

 昨夜に忘年会をやったばかりですが、今夜にはもう新年会が控えています。店内では魔王がフロアの片付けや新たな飾り付けを行っていました。



「魔王さま、ただいま戻りました」


「おかえり、アリス。コスモスの具合はどうだった?」


「ええ、問題なさそうです。今夜は出席できるかと」



 昨晩の一件では少しばかりギクシャクしてしまいましたが、一晩明けたら普通に話ができる程度にはなっていました。もしかしたら平気なフリをしているだけかもしれませんが、それでもフリが出来る余裕があるならば大丈夫でしょう。



 と、そこでアリスが魔王に言いました。



「魔王さま、お願いしたい事があるのですが」


「どうかしたの、アリス?」


「私たちの婚約についてなんですが……あれ、無しにしませんか?」





諦める為、ではありません。

むしろ逆ですね。

理由については次回をお待ちください。

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