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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
234/382

困った二人


 アリスとリサはレストランを離れて少し歩き、街中にある公園にまでやってきました。

 連日降っていた雪も今日は鳴りを潜め、暖かな日差しが雲間から差し込んでいます。路面には雪が残っていますが風はなく、街歩きには適した日でした。



「今日はいいお天気ですね」



 リサはどうしてアリスに連れて来られたのかを、まだ聞いていませんでした。

 ただ、それでも漠然とした予感はあったのでしょう。



「リサさん、貴女の隠していたことに気付いてしまいました」


「そうですか……気付かれちゃいましたか」



 だからアリスの気付きに対しても、動じることはありませんでした。以前に魔王を諦めようとした時のような苦しさはありません。むしろ、重荷を下ろすことができて心が楽になったような、そんな軽やかな気分でした。


 しかし、苦しくはないけれど困ってはいました。

 リサとしては自分から秘密を明かすつもりだったので、こんな状況は予想外だったのです。それだけならばまだしも、アリスは怒るでも悲しむでもなく、同じように困った顔をするだけ。


 これでどちらかが、あるいは双方共が激昂したり悲しんだりすれば、ケンカをするなり相手を慰めるなりといった次の行動が取れるのですが、二人とも変に冷静なものですから感情に任せていては何も進展がなさそうです。


 それにアリスが好意の有無を問い、リサがそれを肯定した時点で、確認すべきことの九割は片付いたも同然です。他にも細々とした疑問質問はあるにしても、それらは所詮枝葉末節の類でしょう。

 だからといって何も話さないわけにもいかず、アリスはようやく一つの質問を搾り出しました。



「あの時のことなんですが……情けをかけられた、とは違うんですよね?」


「あの時、ですか……」



 「あの時」が何時のことなのかについては確認するまでもありません。空の上の劇場艇で、リサがアリスの秘めた想いを勝手に伝えてしまったあの件です。

 もしもあの時リサが動かなければ、案外ちゃんとアリス自身の力で告白を成功させていたかもしれません。ただし見方によっては告白を躊躇っていたアリスを助けたとも取れます。

 故にアリスとしては、その事を怒ることも素直に喜ぶこともできずに、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えるハメになってしまいました。


 その時のリサの主たる行動動機は自分が魔王を諦める為であり、アリスを助けたことはハッキリ言って結果的にそう見えたというだけに過ぎません。

 どうしてそうしようと思い、どう行動し、どのようにそこに至ったのかをリサは丁寧に語り、その事情を聞いたアリスは呆れたように呟きました。



「な……なんとも、回りくどい手を選んだものですね……!?」


「面目次第もありませんっ!」



 想い人を諦める為だけにそんな回りくどい屈折した手段を取り、関係者一同の心に消化不良感を残し、しかも結局は諦めることができなかった。

 あの一件はリサにとって人生最大の黒歴史となっています。それに関してはもう平謝りするしかありません。

 アリスにも自分が面倒臭い性格をしている自覚はありますが、あの時のリサの面倒臭さはそのアリスをして呆れるどころかドン引きする域に達していました。よくもあそこまで明後日の方向に思いつめることができたものです。恋する乙女のエネルギーを間違った使い方をしてしまうと、あんな風になってしまうのかもしれません。




「でも、そこまでしても、魔王さまを好きな気持ちを捨てられなかったんですね」


「……はい、好きなままでした。今も、大好きです」



 あの一件がリサにとって何か意味があったとするならば、こうして自分の中の「好き」を誤魔化さなくなった事でしょうか。散々に迷って泣いて落ち込んで回り道をしたけれど、「好き」から目を逸らす事だけはなくなりました。

 だからこそ、今こうして困っているのですが。

 アリスは苦笑しながら言いました。



「困りました、貴女を嫌いになれません」


 

 リサも笑みと共に伝えました。 



「困りましたね、わたしもアリスちゃんが好きなんですよ」



 アリスもリサも、互いを恋敵と認識しました。

 ですが、困ったことに一向に敵意が湧いてこないのです。



「でも、一応前提として言っておきますが、私には魔王さまを譲る気はありませんので、悪しからず」


「わたしも魔王さんを自分のモノにしたいからお互い様ですね」



 かといって、どちらにも魔王を譲る気はなし。恋愛の駆け引きにおいてはどちらも半人前以下だというのに、一丁前に独占欲はあるようです。この件に関しては二人仲良く半分ことはいきません。

  




「どうしましょう?」


「そうですね……私に一つ考えがあります」



 現状を打開する手段が浮かばずリサが頭を捻っていると、アリスがこれから何をすべきかの案を一つ出しました。

 いえ、これを「案」と言っていいのかは大いに疑問ですが。



「これで何が解決するというワケでもないんですが……私たちの立場上、形式として一応やっておくべきかと思いまして」


「何をです?」



 アリスは答えました。



「ケンカをしましょう」




話し合いで埒があかないなら、とりあえず拳で語る

それが世紀末覇王系女子の恋愛スタイル☆

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