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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
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雪合戦

「おお、コスモスが本当に縮んでいる!」


「はっはっは、三日会わざれば刮目して見よとは、まさしく私の為にある言葉ですな」


 年相応に小柄なシモンが、現在は彼より更にミニサイズのコスモス(小)の頭を確認するかのように撫でていました。話には聞いていたものの、こうして子供の姿になったのを目にするのは初めてなので、新鮮な印象があるようです。

 あまりにも体格が違いすぎるので、普通であれば別人の騙りを疑ってもおかしくはありませんが、二言三言喋っただけでその珍妙極まる言動からコスモス本人だと確信できたようです。



「ふたりとも、おそい」



 先を歩いていたライムは、立ち止まっている二人を振り返って急かしました。これからちょっとした用事があるのですが、予定の時間に遅れたら参加できなくなってしまいます。



 そして、彼らに加えて更に二人。


「……栗毛の男の子が一人と女の子が二人、一人はエルフ。ええと、あなたたちがアリスさまの言ってた子ね?」


「みんな、よろしくね。ボクはエリック。こっちはアンジェリカ」



 そう言って三人に声をかけたのは、こちらもお子様の二人連れ。吸血鬼のアンジェリカとエリックでした。


 こうして面識があるようで意外となかった五人が集まりました。全員が温かそうなコートや手袋やマフラーで装備を固めています。

 どうして魔王のレストランに出入りするお子様たちが勢揃いしているのかと申しますと、それには大して深くもない理由がありました。



「めざすは、ゆうしょう」



 そう呟くライムの手には一枚の手書きのチラシが握られています。

 その紙には『第一回迷宮都市雪合戦大会・子供の部』という大きな文字と、その下に細々としたルールなどが書かれていました。細かい部分は割愛しますが、「一チーム五人制」「参加できるのは十三歳以下の児童に限る」という文言が入っています。



「ふふ、必ずや優勝に導いてみせましょう。そう、どんな卑怯な手を使ってでも……!」


「コスモスよ、お前は何と戦うつもりなのだ?」



 この手のトーナメント戦の不正操作には一家言あるコスモスが(なんと邪悪な分野の専門家もいたものです)、余人にはよく分からない情熱を燃やしてシモンのツッコミを喰らっていますが、今回はただのお遊びですし、きっと冗談のつもりでしょう。多分そのはずです。一応覚悟はしておきましょう。



 ちなみに今回のイベントの主催は公的機関ではなく、都市内の商店主らの連名によるものです。

 雪の多い地方の出身者が中心となって、子供たちに雪遊びを楽しませようという牧歌的なものでした。あくまでも子供の部は、ですが。


 大会の賞品が協賛店舗で使えるタダ券という、この手のイベントにしては意外と良い物である事が知れ渡ったせいでしょう(酒屋や酒場でも使えるのです。限度額はありますが)。雪が降り始めてからの短期間で企画、宣伝を開始したというのに、随分と規模が大きくなってしまいました。

 子供の部が終わった後の夕刻以降に開催予定の大人の部には、雪国出身者だけで構成されたガチなチームや、体力に自信のある冒険者やプロ軍人チームなどが出場を表明し、虎視眈々と優勝を狙っています。どいつもこいつも所詮はタダ酒目当てのダメな大人なので、イマイチ空気が締まりませんが。



 

 まあ、そんな欲に塗れた大人の事情を知らない子供たちは、



「じゃあ、皆がんばりましょう!」



 年齢と性格上の適性によって自然とアンジェリカがチームリーダーとなり、会場となる公園に向かいました。







 ◆◆◆







 雪合戦というのは単なる雪遊びと思われがちな面もありますが、あれで中々奥が深いもの。

 玄人同士の対決ともなれば、それこそ精密機械のような一糸乱れぬチームワークや、手に汗握る心理戦の応酬などの、高度な知力体力を要するハードな競技なのだとか。


 とはいえ、それはあくまでも玄人の場合。

 雪合戦初心者の、ましてや子供同士の対決であれば、ロクな作戦もなしに突撃を繰り返すのが普通でしょう。そして戦術や技術に大差ない場合は、大抵の運動競技でもそうであるように、年齢や体格に勝る者が順当に勝ち上がるものです。普通ならば。




「ブラヴォー1、応答せよ。チャーリー3が陽動に成功、敵陣右翼に穴が空きました。二十秒で制圧してください」


「それ誰のことよ……まあ、行くけどね」


「ボクも援護するよ」



 相手チームの子供たちには残念なことに、彼らは普通ではありませんでした。

 チームメイトにも把握できていない謎のコードネームはともかく、コスモスの指示は的確極まり、彼女の言う通りに、その時手が空いている誰かが動くだけで不気味なほど一方的に圧倒できるのです。まるで答えの分かっている詰め将棋でもやっているかのようでした。

 アンジェリカとエリックは、今はまだ昼間なので普通の人間と同じ程度の身体能力しかありませんが、参加上限年齢の体格はそれだけで大半の参加者に有利に働きますし、



「このかべ、じゃま」


「雪壁が壊された!? みんな逃げろ!」



 ライムはフィールドにあらかじめ設置された、身を隠す為の分厚い雪壁を拳の一振りで次々と破壊していきます。そのせいで壁に隠れて時間切れを狙うことも許されません。彼女はいったいどこを目指しているのでしょうか。



「わかる、わかるぞ、お前たち……あれは怖い、とても怖い。まあ、勝負ゆえに容赦はせぬが」


「あっ、やられた!?」



 そして隠れ場所から慌てて逃げ出したところを、シモンによる同情の念が込もった雪玉が正確に捉えます。体勢を崩した上に反撃の用意もない状況では対応は不可能でした。


 そんな具合に見事なコンビネーションを見せる彼らに、普通の子供が対抗できるはずもありません。年齢や体格の差などものともせずに、あっという間に決勝戦までコマを進めました。



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