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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語

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解答.魔王①


「魔王さま。貴方は、愛という感情を本当に理解できているのでしょうか?」


 神子の問いに対し、魔王は然程迷った素振りもなく、気負わずに答えました。



「ええと、『愛』って、それはつまり『好き』ってことでしょう?」



 『愛』とは、すなわち『好き』ということである。

 それは、必ずしも間違った考えとは言えません。

 恋愛。家族愛。友愛。親愛。異性愛。同性愛。親子愛。兄弟愛。姉妹愛。隣人愛。人類愛。種族愛。異種愛。郷土愛。異常愛。性愛。自己愛。偏愛。情愛。

 どんな『愛』であれ、それは『好き』と不可分です。

 場合によっては、思い入れのある道具等の非生物、酒や食べ物や嗜好品の類、深くのめり込んだ趣味などに対しても、『好き』の強調形としての『愛』という言葉を用いることもあるでしょう。



 ですが、神子はあえて彼に伝えました。

 魔王の表情や口調や、あるいは理屈を超えた直感で、彼の中のとある誤解を確信してしまったからです。



「……魔王さま。『好き』と『愛』は違うのです」





 この日、神子がアリスやリサの下を訪れて、非礼を承知で問答じみた真似をしてきたのは、いくつかの不安要素が杞憂なのか否かを確認する為でした。

 外側からの観察では分からない内面の在り方を確認し、危うさの度合いを測る。

 友人たちがみすみす不幸に陥らないかどうかを確認するためであり、自分が納得するためであり、世界そのものの為でもありました。


 単なる色恋沙汰ではありますが、今回は当事者となる三人が共に世界を滅ぼせる力を持っているので、万に一つの可能性とはいえ泥沼の刃傷沙汰にでもなったら大変です。喧嘩の余波だけで何人死ぬか分かったものではありません。

 普段は理性的で常識を備えた人物が、こと恋愛の当事者となると理性のタガが外れたような振る舞いをしてしまうというのは大して珍しい話でもありません。大袈裟かもしれませんが、最悪の場合を想定して今回の神子のように慎重に確認して対応をしようというのも、それほど突飛な発想ではないでしょう。



 その結果、前の二人、アリスとリサに関しては杞憂で済みました。

 二人とも自身の危うさを理解した上で受け入れており、これからどうなるにせよ、そう酷いことにはならないだろうと思わせる度量が感じ取れました。

 ですが、三人目の魔王。

 彼に関しては残念ながら杞憂ではなかったようです。


 とはいえ、それは神子も最初から予感してはいました。

 最も危ういのは魔王だと、ここしばらく思案する中で、あるいはもっとずっと前に彼と知り合った時から漠然と、その異常に気付いていたのかもしれません。



 これは、アリスやリサでは魔王との心理的な距離が近すぎて客観視できず、発想しえない疑問かもしれません。

 すなわち、傍から見ても一目で分かりそうな好意を常時向けられて、それにずっと気付かないでいたという事実が、単なる鈍感の一言で済ませられるのだろうか、と。

 魔王が『愛』という感情を根本の部分で誤解しているからこそ、あれほど他人の『愛』に無頓着でいられるのでは、という仮定。


 状況が特殊だったとはいえ、好意を伝えられて特に忌避感を示すこともなくすんなり婚約した以上、魔王がアリスを『好き』なのは、きっと確かなのでしょう。

 けれど、その『好き』はアリス以外の人々、リサや、コスモスや、神子や、常連の皆や、魔界の民、人間界の善き人々に向ける『好き』の延長線上にある同種のものであって、アリスだけが特別ではないとしたら、それはなんと残酷な事なのでしょう。


 その異常にアリスも、魔王自身さえも気付いていない。

 きっと、彼はまだ恋をしていない。






最近なんだか料理ファンタジーではなく哲学ファンタジーという謎ジャンルになっている気が……?

一応、次々回あたりから料理モノに戻れると思います。

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