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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
218/382

解答.リサ①


「リサさま。一度答えを間違えた貴女が、次こそは間違えないと言えますか?」


 突然の神子の問いに対し、リサは苦笑と共に言いました。



「少し、歩きましょうか」



 昨夜から降り始めた雪は街を白く染め上げていました。

 とはいえ、寒々しいというよりも、デコレーションケーキの彩りに降らせた粉砂糖のような、どこか華やかさが感じられる光景でした。

 まだ歩くのに難儀するほどではありませんし、散歩をして普段との景観の違いを楽しむのも良いでしょう。

 


 無言のまま、しばしリサと神子とで並んで歩き、二人は大通り沿いの広場に辿り着きました。



「へえ、こっちにも雪だるまってあるんですね」


「懐かしいですわ。ワタクシも小さな頃にはよく友達と作ったものです」



 広場では子供たちが雪だるまをこさえていました。まだ雪の量が足りないせいか少しばかり泥が混じっていますが、なかなかの力作です。

 そんな光景を眺めて微笑ましい気分に浸り、リサも頃合だと判断したのでしょう。



「ところで、あの時いなかったのになんで知ってるんです?」



 と、先ほどの問いに関する疑問を発しました。

 「間違えた」云々というのが、件の告白のことだとはリサも九割方察しがついていますが、もしも違った場合に備えて、あえて遠回しな確認から入ることにしたようです。


 

「申し訳ありません。実は……」



 まあ、勘違いでもなんでもなく、神子は例の劇場艇の上でのアレのことについて言っているのですが。覗き見に関しては。こうして素直に認めた以上責める気はない……というか、リサも別件でやらかしているので他人の行為を糾弾はできません。


 ともあれ、あの時の話だと言外に確認ができたリサは、苦笑しながら呟きました。



「あれは……うん、ダメでしたね」



 後悔も反省もイヤというほどしましたが、あの痛みは未だにリサの心の奥底でジクジクと疼いているのです。どうにか前を向けるようにはなりましたが、それであの時の間違いが無かったことになりはしません。



「次もまた間違えるかもしれません」


「……そうかもしれませんね」



 神子の指摘は、リサにとっては非常に耳の痛いものでありました。

 「一度間違えたのだから次は絶対に間違えない」と、リサにはそんな風に断言はできませんでした。その姿勢を冷静だと言うべきか、それとも臆病だと言うべきかは微妙なところです。


 リサはこれまでに魔王のことを二回諦めようとしました。

 一度目は、最初に日本に帰還した時。

 二度目は、先日の劇場艇で。


 一度目の決断は、今思えばある意味では気楽だったのでしょう。

 あの時はまだ、現在のように二つの世界を自由に行き来できるようになるとはリサは思ってもいませんでした。天秤の片方に望郷の念という大きなモノが乗っていたので、純粋な恋心だけの重さで決断をせずに済みました。「それならば仕方がない」という理由の後押しがあったのです。


 しかし二度目は、そのような制限が取り払われて、より純粋な魔王への想いが問われることになりました。

 この時に天秤の皿に乗っていたのはなんでしょう?

 相手が異世界の住人であるというハードルの高さ。アリスとの友情、あるいは後ろめたさ。どれも重要な要素ではありますが、幸か不幸か、それらは決定的なものではなかったのです。

 それら全てを合わせて天秤の片方に乗せ、魔王を諦めるに足る重さになる、自身を納得させ得る理由になると見誤ったのが、前回のリサの失敗でした。



「次は、どうなさるおつもりなのでしょう?」



 神子はリサの目を見据えて問いました。

 魔王とアリスとの婚約が既に決まっている、すなわちタイムリミットが存在する以上、結果がどうなるにせよ、恐らくは次の行動がリサにとっては最後の機会となるでしょう。

 それを逃せば、もはや間違えることすら出来なくなってしまいます。 




「……次は、わたしは」


 リサはしばし瞑目して考え、そして神子の問いへの答えを口にしました。 



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