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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語

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解答.アリス①

「アリスさま。貴女が魔王さまに抱いている想い、それは本当に『愛』なのでしょうか?」


 神子の問いを受けたアリスは、しかし、動じることはありませんでした。アリスにとっては、およそこの世の全てにおいて、その気持ちほど確かなものはないのですから。

 たとえ天が落ち、地が砕けようとも、その気持ちだけは決して揺らがない。そう、はっきりと断言できます。


 ただし、そんな「言うまでもないこと」を疑われる事についての疑問はあり、更に率直に述べればいささか不愉快でもありました。神子の意図が不明なので「まだ」排除する気はありませんが、傍目からも一目で分かるほどの怒気を静かに放っています。


 ですが、そんなアリスの様子に気付いていないはずもないのに、神子は臆せずに言葉を続けました。



「貴女が魔王さまと出会った経緯は存じております」


「それが何か?」



 先代の魔王であったアリスが、まだ魔王ではなかった彼に救われたお話です。

 それを契機に魔界も魔族もその在り方を大きく変え、そして現在に至ります。

 魔界の民であれば誰でも知っていますし、特に隠すことでもないので街中で魔族の誰かに声を掛ければ簡単に教えてもらえるでしょう。だから神子がそれを知っていること自体に不思議はありません。

 アリスは苛立ちゆえに、普段よりも少しばかり硬質の声音で、その言葉の奥にある真意を問いました。



「アリスさま。貴女は、貴女のお気持ちは男女の其れではなく……絶対的な救い主に対する『依存』なのではありませんか?」



 それが証拠に、と神子は更なる言の葉を呟きます。



「貴女は婚約されたというのに、もう間もなく夫となる方のことを対等に見ることが出来ないのでしょう?」



 主人と臣下としてならば、上下関係があって当然です。

 しかし、それが家族、夫と妻としての関係になるならば対等であるべき。これまでの習慣ですぐにそう振舞うのが難しくとも、少なくとも対等な関係性を目指す努力はすべきでしょう。夫婦間に明確な格差があっては、それが亀裂を生み、やがて不和の原因になりかねません。

 外側からは亭主関白、もしくは逆のカカア天下などとも呼ばれる家庭であっても、それが上手くいくのは、当人同士の間に相手の人格への尊重があるからです。それがなければどこかで下位者の不満が爆発したり、上位者の横暴さがエスカレートして関係が破綻してしまいます。



「ですが貴女は、今の不平等な関係を心地良く感じている。いえ、それを維持することを望んでいる。違いますか?」



 アリスと魔王の現在の関係性は、どのようなものか。

 婚約者? 恋人? あるいは一足飛びに家族?

 どれも間違ってはいないのでしょう……が、アリス本人にその実感はあるのでしょうか。



「もしもアリスさまが『依存』を恋愛感情と誤解、混同しているのならば、たとえ結婚したとしても、その先には不幸しかありません」



 神子の物言いは、本人が事前に前置きしたように、とても礼を失するものなのでしょう。

 心の奥の柔らかい部分に刃を突き立てるが如き言葉。

 メスで患部を開き病巣を抉り出すような……しかも患者本人の意志を慮らず、麻酔も無しに……それは、とてつもない暴挙です。激昂した相手に殺されても文句は言えないほどの。



 アリスとて、自分たちの関係性が、世の恋人たちのような甘いものではないという自覚はありました。そのことに対して不満だけでなく、これまで通りの距離感が続く安心が共にあったことも確かです。


 救う側と救われる側という立場。

 そこに甘んずる心地良さも否定はできません。


 かつて、アリスの何もかもを解決してみせた魔王に対する感情は?

 自分には出来なかったことをしてのけた彼に対する気持ちは、憧れ? それとも劣等感? それとも他の何か?










「……私が魔王さまに依存している、ですか」


 神子の、痛烈で率直な指摘を受けたアリスの心は、


「そんな事、言われるまでもありません。元より百も承知です」


 しかし、微塵も揺るぐことはありませんでした。




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