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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語

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ss 油そば

二百回記念SS、その⑨。

今回のお題は読書大好きな流浪人様から頂いた『魔王&アリス&コスモス(子供Ver)&リサ』&『油そば』の組み合わせです。

読書大好きな流浪人様、どうもありがとうございました。


 もう随分昔のようにも感じますが、魔王とアリスが日本に観光に来た折、彼らは日本全国を回って気になる物、美味しそうな物を食べ歩き、その際にラーメンの亜種である「油そば」という名称の料理を食べたことがありました。


 油そばとは、汁無しラーメンや混ぜそばなどの名で呼ばれることもありますが、簡単に言うと、通常のラーメンからスープを抜いて、チャーシューやメンマなどの具材と濃い味のタレを麺と絡めて食べるような料理です。


 これだけを扱う専門店も多数存在し、人気店であれば行列が出来ることも珍しくない人気の麺料理……なのですが、正直なところ魔王たちは、この時には大して油そばには惹かれませんでした。



「まあ、悪くはないですね」


「うん、これはこれでアリかもね」



 不味くはないけれども、驚くほど美味しくはない。

 油そばとの初回遭遇ファーストインパクトは、そのような穏やかなものでした。







 ◆◆◆







「今日のまかないは、ちょっと珍しい物を作ってみましたよ」


「おや、これは確か……」


 魔王とアリスの二人が再び油そばと出会ったのは、旅行から帰った数ヵ月後のことでした。リサがまかないに出してきたのです。


 コシの強い太麺に、混ぜやすいようにサイコロ状にカットしたチャーシュー、半熟卵、メンマ、カイワレ菜が飾られ、煮干をフードプロセッサーで粉にした魚粉がかけられていました。上からかけるタレは、醤油、砂糖、お酢、オイスターソース、ラー油、鶏がらスープを混ぜており、なかなか手がかかっています。



「昨日テレビで見て、久しぶりに食べたくなっちゃって」



 リサはそんな風にのほほんと笑っていますが、そこで取る行動が「お店に食べに行く」ではなく「自作する」が自然と優先されるあたり、彼女は彼女で女子高生としてはかなり珍しい部類でしょう。リサにその自覚はありませんが。


 グチャグチャにかき混ぜてからズルズルと食すのが、油そばの正しい食べ方です。あまり見た目が良いとは言い難いですが、魔王とアリスとリサは揃ってドンブリから豪快にズルズルと食していきました。

 味が濃いので途中で飽きてきそうなものですが、そんな時はコショウや酢やラー油で味を調整すれば、再び美味しくいただけるようになります。



「なんだか、前に食べた時より美味しい気がする」


「魔王さまもそう思いますか? なんというか前にお店で頂いた時よりも後を引く味とでも言いますか。なんだかクセになりそうな感じが」


「二人ともお上手ですねえ。流石に本職のラーメン屋さんには及びませんよ」



 リサが謙遜するように、本職が作る名店の味と冷静に比較すれば、一歩か二歩は及ばないレベルのはずなのですが、不思議なことに魔王もアリスも何故か今回の油そばのほうが美味しく感じました。

 同じ種類の料理でも、食材や料理人の差で味の評価にバラつきが出るのは普通のことです。しかし、この場合前回よりも下がって然るべき評価が逆に上がっていました。




 その謎を解明するため……というワケではなく、本人にも理由がよく分からないまま気に入ってしまったので、魔王は実際に自分でも油そばを作ってみることにしました。基本的な部分はラーメンと変わらないので作ろうと思えば簡単です。


 すると、またしても不思議なことが起こりました。

 二回目よりも三回目。三回目よりも四回目という風に、食べた回数が増えるほどにより美味しく感じるのです。

 毎回同じレシピではなく、背脂やらマヨネーズやらフライドガーリックなどのアレンジを加えているので味の変化があること自体は当然なのですが、それを考慮しても評価の値が安定しない、あるいは事前の予想値と差が出てしまうとでも言いましょうか。


 美味しく感じる分には特に問題もなく、他の料理の調味に影響が出てはいないので彼らの味覚そのものに異常があるのでは無さそうですが、これは一体全体どうしたことなのでしょう?







 ◆◆◆







「ああ、なんとなく分かりました」


 数日に渡って魔王たちを悩ませていた、という程ではなくちょっぴり気になっていた問題の原因を、コスモス(小)はある日の夕食の席で一発で見抜きました。

 子供の姿だと通常のドンブリでは多すぎるので、小さめの器に入った油そばをズルズルと啜っています。



「たしかに美味しいですが、それほど驚くほどではありませんね」



 今回が油そば初体験のコスモスは、魔王やアリスが初めて日本のお店で食べた時と同じような感想を抱いたようです。



「でも、二回目以降はやけに美味しいというか、後からハマる味なんですよ」



 アリスはトッピング用に用意した刻みタマネギを大量にふりかけ、ラー油をドバドバかけたモノを食べながら言いました。

 魔王は魔王で、カレー粉とマヨネーズをドバドバかけたのを美味しそうに食べています。



「私から見れば一目瞭然なんですが……それは単に、そうやって自分の好みに寄せられるようになっただけなのでは?」



 コスモスはそのように指摘しました。

 そして、その指摘はズバリ正解を言い当てていました。


 油そばとは、ラーメンや他の麺類と比べると異様なほどにカスタマイズ性が高い料理です。その為に、食べる回数を重ねるごとに、調味料やトッピングで自分の好みに“寄せる”技術が上達してきたというだけの話だったのです。

 「料理人の」ではなく「食べる側」としての上達です。それは料理を普段提供する側である魔王たちにとっては盲点とも言える考え方でした。



 更に補足を加えると、料理の名前に「油」と入っているくらいですから、スープがなくとも油分はそれなりに入っています。そしてタレや具材等には少なからず塩分が含まれています。

 ポテトチップスやフライドポテト等のいわゆるジャンクフードを想像すると分かりやすいのですが、油と塩の味が合わさると一種の中毒性が生まれ、食べれば食べるほどにハマってしまうのです(中毒といっても肥満以外の危険はありませんが)。

 そのジャンク感ともいえる要素が食欲増進の効果を発揮し、実際以上に美味しく思わせていた効果もあったのでしょう。



「なるほど、そうだったのか」


「なるほど、そういうことだったのですね」



 魔王とアリスは、コスモスの説明に納得し、再びズルズルと麺を啜りだしました。





作者も初めて油そばを食べた時は「流行ってる割には大したことないな」的な感想を持ってしまいましたが、時間をおいて何度か食べるうちに好きになりました。フライドガーリックかオニオンを大量に入れるのが好き。


SSのお題と人気メニュー投票の募集は締め切りました。

ありがとうございました。

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