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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語

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ss 秋の幸のちらしずし

二百回記念SS、その⑥。

今回のお題はmotimoti様から頂いた『リサ』&『秋の幸のちらしずし』の組み合わせです。

motimoti様、どうもありがとうございました。


 天高く馬肥ゆる秋、という言葉があります。

 秋は空気が澄んでいて、空が高く感じられ、馬が肥えるような収穫の季節でもある。そんな秋という季節の素晴らしさを謳った句で、時候の挨拶などに用いられる言葉です。


 しかし、この言葉は元々は現代と違う意味だったのをご存知でしょうか?

 古代の中国においては、収穫を迎える秋になると北方の騎馬民族が略奪に来るので注意せよ、という警戒を促すための文言であったのです。その騎馬民族が滅び、時代の変遷と共にいつしか現代のような季節の素晴らしさを意味する言葉へと変化していきました。



 天高く馬肥ゆる秋。

 秋は美味しい食物が多く、馬ならずとも肥えてしまいそうです。

 ならば、騎馬民族の襲来に備える古代の人々のように、この危険な季節に対して多少なりとも警戒心を持って臨んだほうがいいのかもしれません。








 ◆◆◆







 レストランの厨房というのは、常に食の誘惑と戦わねばならない危険な場所です。ええ、とても危険なのです。

 わたしリサもふと気が緩んだ瞬間にお腹の虫が鳴きそうになって困ったことは一度や二度じゃありません。実家の厨房でもそうですし、魔王さんのお店にいる時もそれは変わりません。




 現在、わたしはアルバイト中ではありますが、作っているのはお客さん用のご飯ではありません。店員用のご飯、いわゆるまかないというヤツです。

 まかないというのは、大抵のお店では食材の在庫状況や消費期限などを考慮しながら作らねばならないという縛りがあるものですが、魔王さんのところでは使いたい食材をなんでも好きに使っていいと言われています。


 わたしは修行の意味合いもあって普段からちょくちょく作らせてもらっているのですが、何を使ってもいいとなると選択肢が多すぎて逆に困ってしまいます。


 それに、今わたしの目の前にある、日本で買ったら一本五千円は軽く超えてしまいそうなマツタケ“さま”ですとか、いいと言われていても恐れ多さを感じてしまいますよ。この良くも悪くも「なんでもあり」な感覚に慣れてしまったら将来困ったことになる予感がします。


 結構迷いましたが、今回作ろうと思っている料理にはあまり合わなさそうなのでマツタケさまにはご退場願いまして、その代わりに今回の主役となる秋の味覚の皆様方を保管庫から出しました。


 酢で締めておいた生の秋刀魚。

 ワサビ醤油でヅケにしておいた秋鮭。

 甘酢漬けのレンコンに甘辛い味の舞茸の佃煮。

 他にも細々とした物はありますが、メインとなるのはこれらです。


 おっと、失敬。

 一番大事なものが抜けていました。

 今回作るのはちらしずしですから、なんといってもお米が大事です。


 魔界産の新米で酢飯シャリを作り、今回は炒ったゴマと、焼いてほぐした鮭を混ぜ込んでみました。脂っ気が強いので、対抗するために酢の加減を少しばかり強めにしてバランスを取っています。

 ヅケにした鮭もあるのでネタ被りですが、更に最後にイクラの醤油漬けも彩りに加えるつもりです。まかないにしてはちょっと贅沢すぎるかもしれませんね。


 レンコンと舞茸は酢飯に混ぜてしまい、お皿に盛り付けたら千切った焼き海苔、錦糸卵、紫蘇の葉の細切り等を色のバランスを考えながら盛り付けていきます。

 その上に秋鮭のヅケと酢締めの秋刀魚を食べやすい形に切って乗せ、最後にイクラで飾れば、秋の幸のちらしずしの完成です。

 本職のお寿司屋さんみたいとまではいきませんが、このちらしずしは中々の出来ではないでしょうか。食べる前から美味しいと確信できてしまいます。




「では、味見を」


 お客さんに出す物ではないとしても、人に食べさせる物ですから味見は必要です。調理の必須行程の一部にして最重要行程と言っても過言ではありません。だから、これは仕方のないことなのです。



「もうちょっと味見を」


 もしかしたら、一杯だけでは分からない欠点などがあるかもしれません。万全を期するためにも、もう少し確認作業をしておきましょう。

 こってり系の秋鮭の脂と、酢締めの秋刀魚のさっぱり感。

 うん、旬のお魚はやっぱり良いものです。



「もう少し」


 キノコはあえて椎茸ではなく舞茸を使ってみましたが、甘じょっぱい佃煮の味がいいですね。

 シャキシャキしたレンコンの食感も面白いです。



「あとちょっと」


 そしてなんといっても新米の味ですよ。

 この甘みとモチモチ感。

 普通に炊いただけでも美味しいのですから、具沢山のちらしずしにしても最高です。

 何杯だって食べられちゃいますね。











「うん、これなら大丈夫でしょう」


 入念なチェックを終え、ようやく人に出せる出来であることを確信できました。

 さて、それじゃあ味見は済みましたし、魔王さんとアリスちゃんとわたし用の三人分を追加で盛り付けないと。







 ◆◆◆







「な、何故……!?」


 その晩、入浴後に体重計に乗ってみたら、表示される数値が昨日から何故か◆キロも増えていました。

 あはは、おかしいですね。

 これは、きっと機械の故障に違いありません。

 誰か、そうだと言ってください!



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