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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
207/382

ss 闇鍋・くさや・ホンオフェ

二百回記念SS、その④。

今回のお題は天城様から頂いた『ホムンクルス達』&『くさや』、弟は姉のサンドバッグ様から頂いた『アサガオ・ユウガオ』&『ホンオフェ』、ひぃ様から頂いた『ホムンクルス達』&『闇鍋』の三種類の組み合わせを一気にやらせていただきました。

天城様、、弟は姉のサンドバッグ様、ひぃ様、どうもありがとうございました。


「たまには兄弟姉妹、水入らずでゆっくり食事でもしようではありませんか」


 ある日、コスモスが唐突にそんな事を言い出しました。

 ホムンクルスたちは何しろ人数が多いので、全員が一緒に食事をする機会などほとんどありません。

 そこで家族仲を深めるために全員を集めて食事会をやろうという、コスモスの粋な計らい……なハズがありません。



「ああ、闇鍋というのを一度やってみたいので今回はそれで。食材は各自が持参でお願いします」



 こうして、なんの脈絡もなく闇鍋パーティーの開催が決定されました。

 ただ「面白そうだから」というだけの理由で。







 ◆◆◆







「ふふふ、いつぞやのリベンジの機会が訪れましたね、ユウガオ」


「ええ、アサガオ。かつての私たちとは違うところをお目にかけましょう」


 さて、突然決まった今回の機会に、一際意気込みを見せていたのがアサガオとユウガオの二人です。

 数ヶ月ほど前に某世界一臭い缶詰に完全敗北を喫した二人は、その際の失点を取り戻すべく、かなりの気合を入れていました。ダメな方向に。

 彼女たちがいったい何処を目指しているのか、それはもはや当人たちにすら分かっていないでしょう。



 さて、数十人単位での宴会ともなれば、そこらの店を借り切っても手狭ですし、そもそも色々な意味でアウト感漂う怪しげなイベントに場所を貸す店などそうそうありません。下手をすれば邪教の集会と勘違いされて通報されかねません。

 そこで、今回の宴会場として選ばれたのは、普段は主に会議室として使用することの多い、公舎の一室です。通常業務は全て終了しているので邪魔が入る心配も無用です。


 テーブルとイスを集めてきて、魔道式のコンロや鍋を各十セットばかり用意し、照明を落としてカーテンを全て閉め切った怪しい雰囲気の中、コスモスが皆の前に立って開会の挨拶をしました。



「本日のルールは、一ターンごとに新たな食材を投入しては食べてを繰り返す形式でいきます。意識の喪失、もしくはダウン後にテンカウント以内に立ち上がれなかった場合はそこで敗退。なお、一度確保したモノは絶対に食べなければならないものとします」



 開会の挨拶のはずが、何故かルール説明調でした。

 ちなみに本日のコスモスは子供状態になっています。不便なことも少なくありませんが、諸々の事情で彼女はこの体型が気に入っていて、休日には大抵この姿になっているのです。


 この子供モードはコスモスの弟妹たちにも案外好評で、それはアサガオやユウガオも例外ではないようで、

 


「ユウガオ、あの姿のお姉さまは、いつ見ても小さくて可愛いですね」


「はい、持ち帰って飼いたくなりますね。大型犬用の首輪とか似合いそうですし、鎖に繋いで……」


「え、飼い……え? え、あの、ユウガオ?」


「おや、どうかしましたか、アサガオ?」


「い、いえ、なんでもありません」



 アサガオは、普段から行動を共にすることが多いユウガオの知らなかった一面というか、うっかり垣間見てしまった心の闇的な部分を見なかったことにしました。

 まあ、思っているだけならセーフです。きっと、かなりギリギリですが、一応。

 万が一、長姉が行方不明にでもなったら、その時は即座に当局に容疑者の存在を通報タレコミしようと、アサガオは深く心に留めておきました。



「では、始めましょうか。私は……ユウガオ、この席に入れてもらいますね」


「ええ、お姉さま。どうぞどうぞ」



 挨拶を終えたコスモスは、ちょうど空いていた席に座りました。

 隣のユウガオはとても良い笑顔をしており、更にその隣のアサガオはなんとも言えない悩ましげな表情を浮かべていましたが、すでに照明が落とされていたので、誰も彼女たちの顔に注目することはありませんでした。

 


 ここから先は、各テーブルごとに持ち寄った食材を鍋に入れて食べるだけです。

 コスモスたちのグループは全部で五人。

 コスモス、アサガオ、ユウガオと男性型のヒノキとクスノキです。


 その全員が順番に食材を入れてからしばし加熱し、いざ食べる段になったのですが……、



「これは……おや、何も入っていないようですが?」



 一番手のコスモスが箸を鍋の中に突っ込んでも何も手応えがありません。

 他の面々も同様に鍋の中を探りましたが、具材らしきモノは一向に見つかりませんでした。



「皆、今何を入れましたか?」



 闇鍋というのは、本来であれば実際に食べてみて具材を確認するのがしきたりですが、これでは埒があかないと判断したコスモスが皆に問いかけました。



「味噌」「飴玉」「コンソメスープ」「オリーブオイル」「蕎麦つゆ」



 まさかの、五人中三人が液体。

 味噌と飴玉も熱で溶けてしまったのでしょう。 



「汁、ですね」


「まさかの純液体とは。ですが、これはある意味美味しいですね」



 箸では取りようがないのでレンゲで一掬いずつして飲み、極度に不味くも美味しくもなかったので、脱落者の出ないまま二巡目に突入しました。



「では二ターン目に参りましょうか」


「それでは僭越ながら先攻は私から。ドロー! 伏せ食材を攻撃表示でターンエンドです」



 二ターン目はアサガオから始まりました。

 攻撃表示とか伏せ食材とか、まるでカードゲームのようですが、ノリで言っているだけなので特に深い意味はありません。そもそも部屋が暗いのである意味全ての食材が伏せられているようなものです。

 しかし、セリフそのものはネタ寄りであっても、投入した具材はある意味でガチでした。というか、入れる前からプンプンとアンモニア臭を放っており、異様な存在感があったのです。



「アサガオ、ここで勝負に出るつもりなのですね……では次は私が」



 更に、続いてユウガオも強烈な臭気を発散する物体を鍋の中に入れます。一ターン目に入れられた味噌や蕎麦つゆの気配が一瞬にして消失してしまいました。

 その後で、コスモス、ヒノキ、クスノキがそれぞれ別の食材を入れるも、まるで対抗できていません。



「これは中々……」



 他のテーブルでも、それぞれ盛り上がっている様子はありましたが、圧倒的な臭気によりアサガオたちの鍋は一際注目を集めています。そして、注目が最高潮に高まったのを感じたところで、アサガオとユウガオは以前の屈辱を晴らすべく動きました。


 箸を一閃。

 匂いを頼りに自分たちが投入したモノを的確に掴み、一切の躊躇いなくそのまま口に運んだのです。限界まで熟成が進んだ上に、加熱によって匂いが極限まで増幅された「くさや」と「ホンオフェ」を。



「う、う……く……お」


「ん……お、お」



 ちなみに、くさやはアジやトビウオ等の魚を、魚醤に似た発酵液に漬けて乳酸発酵させてから天日干しにした食品。ホンオフェは生のエイをワラや松葉と一緒に壷に入れて発酵させた食品です。

 両者とも、そのとてつもない臭いで有名であり、ましてやそんなモノを加熱して食べようものならば、ショックで気絶してもおかしくありません。



 しかし、アサガオもユウガオも、シュールストレミングに屈したあの頃とは違います。

 あの屈辱を晴らすべく、日頃から臭い食べ物を探しては挑戦を繰り返して舌と鼻を慣らし、虎視眈々とリベンジの機会を待っていたのです。

 そんな彼女らの、根性やら芸人魂やらが、勝利を引き寄せました。



「お、おい、しいですね!」


「おいしい、ですよ!」



 彼女たちは、かつての敗北を乗り越え、見事に雪辱を晴らしたのです。コスモス以外はまるで事情が分かっていませんが、分からないまま全員がノリで拍手を送りました。








 まあ、その直後、味覚が子供になっているコスモスが鍋に溶け込んだ臭気で気絶してしまったので、闇鍋開始からわずか十分で終了。三ターン目以降に突入することはなかったのですが、



「これはいけません。アサガオ、私はお姉さまを介抱しなくてはならないので、これで抜けさせてもらいます」


「心配ですから私も付き添いましょう、ユウガオ」


「いえ、それには及びません。ああ、それとこれは特にお姉さまとは関係がないのですが、この時間に開いているペット用品店に心当たりはないですか?」


「ちょっと」



 まあ、結論から言うと、今回はアサガオの目もあったので特に危険なことは起こりませんでした。精々、目を覚ましたコスモスと一緒に三人でお風呂に入り、一晩添い寝した程度。姉妹であれば特におかしいことではないはずです。ええ、そのはずです。


 生まれたばかりの頃は個性に欠けていたホムンクルスの彼ら彼女らにも、時間と共にだんだんと性格や好みの差異というものが出来てきたようです。それは、多分良いことなんじゃないでしょうか……犯罪性が伴わない限りは。

 

SSのお題と人気メニュー投票、引き続き受付中です(11/6まで)。

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