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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
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秋期戦線異常アリ④


「あれだけ叫んだらノドが渇いたでしょう。さ、お茶のおかわりはいかがですか?」


「あ、どうもありが……いえ、そうじゃなくて、その……」


 「実は魔王はリサが好きだった」というのはコスモスの真っ赤なウソでしたが、それに対するリサの反応は実に正直でした。あれだけ狼狽する様を見せてしまえば、今更とぼけて否定しても気持ちを隠し切るのは不可能です。

 もっともコスモスにとってそれは、すでに正解を確信していた問題の答え合わせでしかなかったのですが。



「……いつから」


「と、申しますと?」


「いつから、気付いてたんですか?」



 これまで、リサは魔王に抱いている想いをそれなりに上手く隠せていると思っていました。コスモスはいったいどの時点でそれに気付いていたのでしょうか。



「疑惑という意味では、リサさまが最初に日本にお帰りになる前に。まあ、確信に至ったのは最近ですが」



 そこでコスモスは一旦言葉を切り、笑みを浮かべました。



「ご自覚があるかは知りませんが、普段から事あるごとに魔王さまの姿をチラチラと目で追っていましたからね。その様子がアリスさまとそっくりで」



 その微笑ましい姿を思い出したのか、コスモスはころころと笑いました。

 リサに自覚はありませんでしたが、そんな風に魔王のことを普段から目で追っていたようです。そんな様子を度々見せられれば、コスモスが気付くのも無理はありません。



「それにしても、アリスさまの告白を代弁するのはやりすぎですよ。大方、傷が浅く済むうちにおとなしく身を引こうとでも思ったのでしょうが」


「うっ、それは、その……」



 それはリサにとっては苦い記憶でした。

 そうやって諦めようとしたけれど諦めきれず、現在は未練がましくも別の解決策を探しているのですから。



「あの時の私の思惑はもうご存知なのでしょう? ある意味では手伝っていただいたわけですし、お礼を言っておきましょう。ありがとうございました」


「……いえ」



 今のリサには「どういたしまして」とはとても言えませんでした。

 結局は終始自分のために動いていただけなのですから。



「まあ、文句がないこともありませんが。あの時、自分で踏み出さなかったせいで、アリスさまが……」


「アリスちゃんがどうかしたんですか?」


「いえ、失言でした、忘れてください。それに、これに関しては自業自得の要素のほうが大きいですし」


「?」



 リサが告白の代弁をしたことでアリスに何か問題が発生しているようです。ただし、コスモスにはこの場で深く話す気がないようで、早々に次の話に進みました。



「ここらで一度、はっきりと確認しておきましょう」


「確認、ですか?」


「ええ、リサさま。貴方が魔王さまのことをどう思っているのか、はっきりと言葉にして言ってみてください」



 すでに心の内のかなり深い部分まで読み取られている以上、今更その確認に意味があるのかは疑問でしたが、リサは答えました。

 すでにバレてはいてもこうしてはっきり口に出すのは恥ずかしいのか、頬を赤く染めながら、



「わたしは……魔王さんが好き、です」



 その答えに対し、コスモスは質問を重ねます。



「具体的には? どのくらい好きなんです?」


「どのくらいって……」


「色々あるでしょう。付き合いたいとか、結婚したいとか、エロいことしたいとか」



 それらは全部「好き」の延長線上で、同じようなものなんじゃないかとも思いましたが、リサは改めて考えました。


 具体的に魔王と何をしたいのか?

 それは意外な難問でした。

 これまでは「好き」という気持ちが先に立って、一緒にいられればそれだけで幸せだったのです。ですがその反面、漠然とした幸せのイメージはあっても、その幸せの具体像に関してはあまり考えていなかったことに気付かされました。



「でも……結婚とか、よく分かんないですし……」



 「いつかは自分もするのだろう」という漠然とした憧れはあっても、直近の身近な問題として考えると一介の高校一年生には荷が重すぎるテーマです。

 仮に他の全ての障害が片付いたと仮定しても、もし今すぐに魔王と結婚しろとなったら嬉しさよりも困惑や拒否感が勝ってしまうでしょう。



「まあ、今すぐに答えろとは言いません。この質問は次回への宿題にしておきましょう」


「次回があるんですか……」



 どうやら、コスモスとのこの謎の面談は次回以降も存在するようです。

 リサは、正直ちょっとうんざりした気分になりました。



「ああ、それと一つ」



 コスモスは席から立ち上がりながら、ついでのように伝えました。



「貴方が魔王さまを愛する気持ち、それは尊いものです。私も、誰かが誰かを好きになる気持ち自体を咎めようとは思いません」



 そこで一度言葉を切って振り返り、リサに背を向けながら、



「ですが、もしアリスさまを魔王さまの隣から排除してその場所に割り込もうというのなら……貴方は私の敵です」



 リサの答え次第では敵に回るという、宣戦布告の予告をしてきました。

 あるいは、この宣言こそが本日の主目的だったのやもしれません。
















 ◆◆◆













《オマケ》


 リサに背を向け、格好いい雰囲気で宣言をした数秒後。

 真面目な雰囲気が続いた反動なのか、コスモスはこんなことを言い出しました。



「まあ、私としてはアリスさまが魔王さまの一番であればそれでいいので、別に第二夫人や愛人の立場で妥協して頂けるなら問題はありません。むしろウェルカムです」


「いやいやいやいや」



 リサとしては問題大アリでした。

 アリスの嫉妬心だって思いっきり刺激されてしまうでしょう。



「ほら、結婚してもアリスさまのあの貧相な身体では魔王さまが満足できないかもしれませんし、リサさまの無駄にエロいボディでその不満を補って頂けば全て丸く収まりますね」


「いや、問題しかありませんて」



 なんとまあ酷い娘もいたものです。これが真剣に魔王とアリスの為を思ってのことなのか、それとも単なる冗談なのかは判断に迷うところでした。

 その上、おもむろに日本で買った物が入っていると思しき買物袋をごそごそと漁り始めたかと思えば、



「そうそう、アリスさま用のお土産として先程日本の書店で色々と春画本を買ってきたのですが、リサさまもお一つ如何ですか?」


「結構ですっ!」



 コスモスが日本で何を買ったのかはリサも興味を持っていましたが、(悪い意味で)驚くべきことにその半分近くがエロ本でした。

 お裾分け感覚でエロ本を押し付けようとするコスモスにリサもたじたじです。更にはページをリサに見えるように開いてセクハラをし、その反応を楽しんでいます。コスモスにとっては猛毒に等しいシリアスな空気に触れた反動で、いつも以上にボケの質が尖っているようです。


 あえて詳細な様子は語りませんが、コスモスはこうして散々リサをからかった後でアリスにも同じセクハラをして大いに楽しみ、とても充実した一日を過ごしました。




この話はここまでで終わりです。

コスモスとしては現在のリサはどう動くか不明な不確定要素に見えていたので、それをある程度確定させるために一対一で話しておきたかったのです。

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