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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
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秋期戦線異常アリ①


 秋も深まる今日この頃。

 冷え込むことも多くなり、早くも冬の足音が聞こえ始めてきました。

 そして、そんな時期に温かい物が恋しくなるのは、日本でも異世界でも変わりないようです。



「肉まんとあんまんとピザまんとカレーまんと特製海鮮まん……あ、おでんも美味しそう。フライドチキンもいいかも」


「ちょっとリサ、どれだけ食べる気よ?」



 四六時中異世界に入り浸っているかに見えるリサにも、ちゃんと日本での付き合いというものがあるのです。この日は学校帰りに仲の良いクラスメイト二人と一緒に、通学路沿いにあるコンビニに立ち寄っていました。すぐ近くにそこそこ広い公園があるので、ここで食べ物や飲み物を買って公園のベンチで一服するというのが近隣の学生の定番なのです。

 厳密には校則違反なのですが、生活指導担当の教師が割と「話せる」人物で、買い食い程度ならば見つかっても社会学習の一環として目を瞑ってもらえるからこその「文化」でした。



 この日、リサが選んだのは肉まんとあんまんの二種類とホットの緑茶。

 ホットスナックの入っている商品ケースの中身を、根こそぎ買い占めかねないような迫力で選んでいましたが、友人Aの「太るよ?」という一言でかろうじて自制心を取り戻したようです。

 まだ夕食前だというのにそんなにオヤツを食べていたら、とんでもない事になっていたことでしょう。おもにカロリー的な意味で。



「ふふ、美味しいね」



 まあ言っても所詮はコンビニのホットスナックなので、驚くほどの美味というわけではないのですが、それでも寒さや学校帰りの買い食いという楽しげなシチュエーション自体が味を引き立てるスパイスになって、数倍増しで美味しく感じられます。

 温かいオヤツを食べながら他愛もないお喋りに興じる。そんな楽しい時間を過ごしていたリサなのですが、突如友人Bが何かに驚いたかのように目を見開きました。



「あの外人さん、すごい美人……」



 その言葉を聞いて、リサと友人Aもその人物のほうへと目を向けました。



「え、何あの凄まじい美人。モデルとか女優さんかな?」



 友人Aもその人物の美貌に驚いてそんな疑問を口にしていますが、リサはこの時別の意味で驚いて言葉を失っていました。なにせ、その人物というのが、



「おや、リサさま。こんな所で奇遇ですな。こちらのお二人はご学友ですか? はじめまして、コスモスと申します。以後お見知りおきを」



 と、リサを見つけるや否や、流暢な日本語でペラペラとまくし立てるコスモスだったのです。


 いったいどこで購入したのか、日本の往来を歩いていても違和感のない海外の高級ブランドで全身を固め(パリコレ会場ではなく、ごく普通の日本の公園にいるという点では違和感アリアリでしたが)、手には大小いくつかの買物袋らしき物を提げていました。


 これがコスモスの言葉通りに奇遇なはずもなく、明らかになんらかの意図を持ってこの場にいるのは明らかです。リサはどうにか状況を把握しようと、友人の前で言ってはいけないことを避けて、言葉を慎重に選びながら質問しました。

 


「い、いつの間に日本語を覚えたんです? いや、そうじゃなくて……ええと、なんでここに?」


「ワターシ、ニポンゴ、ワカリマセーン」


「……おこりますよ?」


「ははは、軽いジョークです」



 問い質そうにも、リサは容易くあしらわれてしまいました。

 しかし、どうやらこの謎の外国人がリサの関係者らしいと見た友人ABは、好奇心を抑えられなかったのか、おっかなびっくりコスモスに質問しました。



「あの……コスモス、さん? リサのお知り合いなんですか?」



 その問いにコスモスが返します。



「リサさまとは……そうですね、一言では言い表せない、とても人前では言えない仲とでも申しましょうか」


「ええぇぇぇっ!? どんな関係なの!?」


「っていうか、リサ『さま』!? なんで『さま』付けで呼ばれてるの!?」



 間違ってはいませんが、ものすごく誤解を招きそうな表現です。というか、実際に現在進行形で誤解が進行していました。

 コスモスは基本的にどんな時でも無表情を崩さないのですが、「人前では言えない」のくだりを言った時だけ恥らうような表情を作っていたあたり芸が細かく、そして実に悪質でありました。



「ちょっ、コスモスさん!?」


「ははは、冗談です。本当はただのオトモダチですとも」



 慌てたリサの制止を受けて、コスモスも穏当な自己紹介に修正しました。どうやら、本気でリサの社会的立場を崩壊させるつもりはなさそうです。リサの日頃から積み重ねた信頼もあって、不純“同”性交遊の疑惑はかろうじて晴らすことができました。


 ですが安心したのも束の間、コスモスはリサに向けて言いました。



「ご友人方との歓談中に申し訳ありませんが、この後お時間をいただいてよろしいですか? ええと、確かさっき時間潰しに読んでいた書籍によると、こういう時は日本だと『ちょっと、ツラ貸しな』とか言うんでしたか?」



 どうやら、リサに拒否権はなさそうでした。




そろそろ中華まんが美味しい季節になってきましたね。

個人的にはミニストップの中華まんの皮のふわふわ感が好きです。

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