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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
186/382

アリス先生のお料理教室 応用編④


 劇場艇で島の外周に降り立ち、そこから休憩込みで丸一日と少し。

 アランたち一行は、ようやく森を抜けて島の中央にある小山まで到達しました。


 今回設定している目標は、この小山の頂上に辿り着くことですが、あえて「小」と付けて表現している事からも分かる通り精々が標高四百メートル弱ほどの、大きめの丘と言ってもいいような、なだらかな傾斜でしかありません。

 落石を警戒すべき崖などもなく、足場の悪い岩場よりもしっかりした土の地面が多く、所々に雑多な野花が咲いています。登山を趣味とする者が見ればかえって物足りなく感じるほどでしょう。体力に自信のある者がその気になれば、山裾から天辺まで一息に駆け上がることも不可能ではないかもしれません。


 ですが、今回の目的はあくまでも冒険そのものを楽しむこと。一行はのんびりと歩を進め、時折周囲を見渡して景色を楽しみながら山を登っていきました。

 標高が然程高くないためでしょう。

 山の頂上付近は一面の花に覆われ、それらを餌とする兎や栗鼠などの小動物、花の蜜を求める蝶などの楽園となっていました。日差しもポカポカと温かく、こんな所で昼寝でもしたらきっと物凄く気持ちいいことでしょう。

 森の中で時折見かけたような肉食獣の類はここまで上がってこないようです。花の中には好みが分かれそうな独特の香りを放つものもありますので、それが獣避けの効果を発揮しているのかもしれません。



「ふう、到着!」



 随分とゆっくりしたペースだったのですが、正午過ぎに山を登り始めたというのに、普段なら午後のお茶の時間になるかならないかという頃にはもう山頂に着いてしまいました。


 振り返って後ろを見てみると、ここまで通ってきた島の景色を一望できます。歩いている時には気付きませんでしたが、麓の森の中には川や泉なども何箇所かあり、木々の隙間から森の動物たちが水を飲みに来ている姿も小さく見えました。



「景色のいいところですね~」


「老後はこんな感じのところに家を建てて、のんびり日向ぼっこでもしたいなあ」


「……いいですね~」



 アランの妙にジジむさい希望を聞いたメイが、何故か薄らと頬を赤らめていました。どうやら、自分とアランの将来像でも妄想しているようです。

 イメージとしては……見晴らしの良い高台に建つログハウス風の家のベランダで、すっかりお年寄りになったメイと長年連れ添った夫であるアランが、のんびりとウッドチェアに腰掛けているような光景。

 日がな一日編み物や読書を楽しむ悠々自適の快適な老後。

 すぐ目の前の花畑では大勢の孫たちが元気に走り回り、自分たちはそれをニコニコと見守っている……と、大体こんな感じの想像をしていました。


 まあ、実際にはまだ告白すらできておらず、道は遠いと言わざるを得ませんが。

 メイの料理の師匠であるアリスが魔王と婚約したと聞き、それに続ければと思ってはいるのですが、なかなか上手くはいっていないようです。



「頑張りましょ~」


「頑張る? ああ、安定した老後のためにも今のうちから貯金を頑張らないとね」


「……そういうことじゃないんですけどね~」


「?」







 ◆◆◆







 さて、五人組のうちの四人までは山頂に着いてから思い思いに、休んだり妄想したりとゆっくりしていたのですが、ただ一人、魔法使いのエリザだけが何故かやけに緊張した様子で冷や汗をダラダラと流しながら固まっていました。

 他の面々もそんな彼女の様子に気付いて声をかけました。もし、急な体調不良でも起こったならば、それなりの対応をしないといけません。


 しかし幸いと言うべきか、エリザの緊張の原因は体調不良に起因するものではなかったようです。この後の展開を考えると、ある意味そちらのほうがマシだったかもしれませんが。

 彼女は、足下に無数に生える、一見なんの変哲もなさそうな花を指差しました。雑多な種類の花々が生えるこの場では特別美しいとも言えない、黒くて目立たない花です。



「……この花、エルハ草っていうんだけどね」



 花弁の色が黒い、ちょっと不気味なタンポポのような花を、エリザは随分前に魔法のお師匠から一度だけ見せてもらったことがありました。このエルハ草は、錬金術の秘奥の一つとされる、とある霊薬の原料として非常に高値で取引されているのだそうです。



「私も錬金術は専門じゃないから詳しいことは知らないけど、この花から“カミの霊薬”って呼ばれる薬が作れるのよ」


「……神の霊薬?」



 効果が分からずとも、錬金術の秘奥であるらしい、明らかに凄そうな名前の付いた薬品。

 さぞや凄い品なのだろうと、一同はゴクリとツバを飲んで続く言葉を待ちました。



「一説によればこの薬を求めて国が滅びたとも、全財産を使い果たして破産した富豪がいるとも言われているわ」


「まさか……不老不死の薬とか?」



 錬金術という学問の研究目的は多岐に渡りますが、その中でも特に代表的なのが「金の精製」「真理の探究」、そして「不老不死」の三つだと言われています。

 大仰な名前が付いた、錬金術の奥義とされる霊薬と聞いた彼らがそれを連想したのも無理はないでしょう。

 しかし実際は少し、いえ、かなり違いました。



「毛生え薬よ」


「「「……え?」」」


「だから毛生え薬。その“カミの霊薬”を飲むと、髪が生えるのよ」



 神ではなく、髪の霊薬でした。

 いえ、毛生え薬とバカにしたものではありません。

 太古の昔から現代に至るまで、頭髪の量に悩む人々は絶えることはありませんし、禿頭に効く特効薬があると聞けば大金を出そうという者も少なからずいるでしょう。


 この薬を巡って国が滅びたとか破産した者がいるというのもウソではありません。薬の製法を探る研究に国王が国費をつぎ込んで国力が低下し、最終的に隣国に併呑された古代の国家が実在するのです。


 そして、その国家が滅亡した後も、カミの霊薬の製法は歴史の中で密かに伝承されていきました。主原料となるエルハ草があまりに稀少で高価なので市場に出回ることは滅多にありませんが、現代でも十数年に一度くらいオークションに出品されると、各国の王族や貴族が凄まじい高値を付けて競り合っているのです。

 まあ、一般庶民には縁のない世界ですし、情報が拡散して価格が高騰するのを防ぐために、一部の大金持ちや魔法使いの間にしか存在が知られていないのですが。



「加工は本職の錬金術師に任せることになるから私たちの取り分はちょっと減るけど、ここに生えている分を全部合わせたら……小国が丸ごと買えるくらいの金額になるんじゃないかしら? 少なめに見積もって、ね」



 少なめに見積もっても小国を丸ごと買える金額。場合によってはそこから「小」の字が消えるかもしれません。


 通常、エルハ草は人気(ひとけ)の無い山奥に一本だけポツンと生えているような植物で、加工に最低限必要な量を集めるとなると相当な手間と時間とお金がかかります。


 よく「世の中は金だ、金で買えない物などない」などと言う人がいますが、それは誤りです。その買えない物として人の心が例として挙げられることが多いですが、物品の類であってもその例に当てはまる物というのは案外あるものなのです。

 特に滅多に出回らず、人気があり、次に機会が巡ってくる保障がないという物の場合はお金だけがいくらあっても不十分。運や権力やコネや武力やその他諸々……要するにお金“だけ”では買えない物というのが世の中には少数ながらも存在するのです。そして、このエルハ草もそちら側の品物でした。


 しかし土壌か気候の問題なのか、この場所にはそんな珍しい植物が数え切れないほどに自生しているのです。五人がかりでも取りきれないどころか、この場所で生育環境を研究をすれば、これまでサンプル数が少ないためにできなかった人工栽培ができるようになる可能性すらあります。



「お、お、おおオレ、さっきから結構踏んづけちまったよ……!?」



 ダンが、知らずにやらかしてしまっていた事に、今更ながら動揺しています。アランとメイも声すら出せずに同じように震え上がっていました。

 先程からエリザが機能停止している間、他の四人は深く考えることもなく歩き回っており、整備された道などあるはずもないので、自然とこの辺りに生えているエルハ草を踏み散らしてしまっていました。価値があると知らなければただの地味な花でしかなかったのですが、その価値を知ってしまった今となっては、もう迂闊に歩くこともできません。



 さて、自分たちが金の生る木ならぬ金の咲く花の真っ只中にいると知り、アランたちは頭を抱えました。その悩みは、例えるならば宝くじの高額当選者の苦悩と同じようなものでしょう。

 もし、くじに当選して懐に大金が転がりこんできたらどうするか?

 もし、名も知らないような遠い親戚の遺産を相続することになったらどうしよう?

 世の人々がそんな想像を呑気に楽しめるのは、それが現実になる可能性が極めて低いからこそ。実際に大金を得たら、楽しいことばかりではないとイヤでも分かるはずです。


 宝くじの例で言えば、今回のアランたちは偶然大当たりのくじ券を拾ったようなものです。当たりを夢見てくじを買ってすらおらず、本当にただ偶然拾っただけ。ゆえに心構えをする暇もありませんでした。

 しかも(日本的な価値観に換算すれば)一億や十億程度のケチな金額じゃありません。大雑把に計算しても、あと二つや三つは桁が上がってしまうでしょう。全員で平等に分けても、余裕で一生遊んで暮らせます。むしろ使い切る方法を考えるのに苦労するレベルです。



「……どうしよう?」



 もっと金額が少なければ、欲しかった服を買ったりだとか、今より良い装備に新調するだとか考える余裕もあったのでしょうが、ここまで儲けが大きいと具体的に何を買うか想像する余裕などなくなってしまいます。


 それに、財力にしろ権力にしろ、持つ者はそれに伴う責任も負うべき宿命にあります。

 仮に、この場のエルハ草から作った霊薬をオークションに大量出品したならば、当然「誰が出品した?」「出所はどこだ?」という疑問を覚える者がいるでしょう。

 その手の競りでは基本的には出品者の情報というのは秘されるものでありますが、数多の権力者があの手この手で圧力をかけたら競りを主催するオークショニアも口を閉ざし続ける保障はありません。

 そして、特に権力や武力の後ろ盾がないただの若者が出品者だと知られれば、「ころしてでもうばいとる」などという短慮に出ない者がいないとも限らないのです。


 正直、見なかったフリ、気付かなかったフリをしてこの場から逃げ帰りたい気分になっていましたが、彼らとて人並みの金銭欲はあります。せっかくの幸運をみすみす見逃すこともできず、途方に暮れるしかありません。


 先程までの楽しい冒険気分など霧散し、四人は顔を突き合わせて黙り込んでしまいました。

 そう、四人だけです。

 この場でただ一人、フレイヤだけは何の緊張感を抱かずにいました。


 何故ならば、エルハ草が薬の材料になるという話まではフレイヤもどうにか意識を保っていたのですが、話の内容が金銭的価値がどうの、それに伴う責任がどうの、などという難しい話になると眠気を催してさっさと昼寝を始めてしまったからです。







 ◆◆◆






 突然ですが、あれから三時間ほどが経過したら、いきなりアランたちの悩みは解決してしまいました。



「へえ、この花って薬の材料になったんですね」


「うん、アリスさま! みんなが言うには、そうらしいよ」



 やっと目を醒ましたフレイヤは、お腹が空いていたので魔法道具の鈴を鳴らしてアリスを呼びました。

 そして、夕食の材料やら道具やらを持ってきたアリスが悩む彼らとエルハ草を見て言ったのです。



「ところで、フレイヤ。この花が魔界ではどこにでも生えている雑草扱いだということは皆さんに伝えましたか?」


「あ」



 そうなのです。

 これは地球の歴史でも度々起こったことなのですが、ある地域での高級品が別の場所では安価、場合によっては無価値なゴミとして見向きもされない事があるのです。


 魔界の場合、大昔からあちこちにエルハ草が自生していたのですが、食用に適さないという事が判明した時点で見向きもされなくなりました。観賞用としてももっと綺麗な花がいくらでもありますし、どちらかというと邪魔者扱いされているくらいです。


 まあ、魔界でありふれているというのは当然といえば当然で、実を言うと人間界に現存しているエルハ草は、五百年くらい前に先々代の魔王がゲートを開いて人間界に侵攻した際、誰も気付かぬ間にその綿毛が風に乗って世界間を移動し、そのまま根付いた物が祖になっているのです(タンポポっぽい外見の通り、種子を綿毛に付けて飛ばす性質があるのです)。

 その大半は人間界の土が合わずに多く増えることはありませんでしたが、たまたま人間の居住域から遠く離れたこの島にまで飛んできた綿毛だけが、土や水などの条件が良く、ここまで増えたのでしょう。



「と、いうことは~……」


「言いにくいんですが……多分、これからこっちの世界での価値が暴落しちゃうかと」



 奇しくも、この少し前から一般の人間も魔界に立ち入ることができるようになっています。その中には、エルハ草の価値を知っている者もいるでしょう……というか、彼らに知る由もありませんがちょうど同じ頃、エルハ草が魔界では雑草扱いされている事に驚愕し狂喜乱舞している人間の商人たちが、ほんの数人ですがいたのです。

 魔族たちも雑草を持って行かれて困るどころか、むしろ率先して面倒な草取りをしてくれる彼らに感謝しているような有様でした。

 こうしてアリスが価値を知った以上は、これからそれなりの金額で販売するなり持ち出しに規制をかけるなりといった対策が取られることでしょうが、一度あげた物に関しては「やっぱり返して」とは言えません。

 こうして、最大の問題点であった稀少性がなくなった、あるいはこれからなくなってしまう以上は、



「少なくとも、これが原因で命を狙われるとか、国が買える金額になったりという事はないんじゃないでしょうか」



 アリスの言葉を聞いて、フレイヤを除く冒険者四人は全身の力が抜けたようにその場に倒れ込みました。現在の彼らの心境を表すと、安心九割に残念一割といったところでしょうか。


 とはいえ、価値の暴落が実際に起こるのは、物資の輸送や情報の伝達に時間がかかるこの世界ではまだ数ヶ月は先のことでしょう。

 これは余談なのですが、アランたちは値下がりが始まってそれほどしない時期に、エリザの師匠の伝手を辿って採取したエルハ草を安全に手放すことに成功し、手数料やら口止め料やらを引かれましたが、最終的には彼らの手に負える程度の現実的な儲けを得ることができたそうです。



 そして余談の余談ですが、名無しの無人島であったこの島は、自生していた薬草の名前から取ってエルハ島と名付けられる事になりました。

 後年、船舶技術の急速な発達と共に、南国のビーチリゾートとして世界中から観光客が訪れるようになるエルハ島。その歴史の最初の一ページ目に、名誉ある島の発見者としてアランたちの名が刻まれました。

 ただ、本人たちとしては無用の皮算用でイヤな汗と恥をかいた黒歴史となったようで、余人に求められても決してその時の冒険譚を語ることはなかったそうです。







 ◆◆◆







 今宵の夕食は、小山の頂上で星空を眺めながらの鉄板焼き。

 食材や道具や炭などは先程アリスとリサが運んできて、あと例の如く聖剣を調理用の鉄板(便宜上こう呼んでいますが鉄に非ず)に変形させたりもして、あとは焼いて食べるだけです。


 先程まで(無駄な)心労を背負っていたのがどうにか解決したこともあり、全員がヤケクソ気味な勢いで飲み食いしていました。


 牛、豚、鶏、羊、魚、海老、蟹、貝類等々の動物性タンパク質をアルコールと一緒に大量摂取し、そのついでに少量の野菜も口に運びます。

 健康のためには色々とバランスよく食べたほうがいいのは自明ですが、ヤケ食いモードに入っている彼らは明日の健康よりも目先の食欲のほうを優先させていました。ちなみに、一人だけストレスを感じていなかったフレイヤにとってはそれが通常モードなので、彼らの暴食を止めようとする者は誰もいません。


 まあ、単なるストレス解消というだけでなく、景色の良い場所で食事をするのが楽しいからこそ、ここまで食が進むのです。食べ始めた頃は肉の焼け具合も気にせずにひたすら肉を口に詰め込んでいた彼らも、次第に落ち着きを取り戻してきました。



「これがチャーハン用のお米で~、こっちがヤキソバ用の麺ですね~。どっちにしますか~?」


「「「両方っ!」」」



 網焼きではできない鉄板焼きならではのお楽しみが、こういったチャーハンやヤキソバなどの炒め料理。今回の調理は、最近料理の腕前がメキメキ上達してきたメイが担当します。

 経験値の差でアリスやリサが調理をしたほうが美味しくはなるのでしょうが、こういったアウトドア料理というのは自分たちで作る過程も楽しさ美味しさの内。それが分かっているので、あえて手を貸さずに材料をそのまま渡すだけにしたようです。



 メインの具は鉄板の上に残っていた肉片や野菜片をヘラで細かく刻んだ物。

 肉の脂肪に絡ませるように米や麺を投入し、卵を上から割り落として混ぜ、肉を食べるのに使っていたタレで豪快に味付けをしていきます。

 調理手順は極めて単純。

 かなり雑で見た目もよろしいとは言えませんが、タレの焦げる香りが強烈に食欲を刺激し、全員があれほど肉やら魚介やらを食べたというのに、メイが出来上がりを宣言した次の瞬間、奪い合うかのように食べ始めました。



 まずチャーハンですが、こちらは色々な種類の獣脂を米粒がよく吸っていて、かなりワイルドな重めの味わいだと言えます。鉄板の熱が入って少し焦がした所なんかは、タレの甘辛い味と香ばしさとが相まって斬新な味付けのお煎餅みたいです。


 そしてヤキソバですが、こちらは魚介系の肉片が多く混ざって海鮮ヤキソバみたいになっています。味付けのベースはチャーハンと一緒の甘辛ダレなのですが、具材の違いのおかげか、はたまた米と麺の違いのせいか、随分と性格が変わっていました。


 そしてそして、同じ鉄板で一人が両方の調理を担当し、しかも少なからずお酒に酔って手元と足下と視界とが狂っていたせいか、期せずして両者の中間にそばめし状態のブツが出来上がっていました。


 全体を上から俯瞰してみると、端からチャーハン・そばめし・ヤキソバの三種類がグラデーション状態で混在している感じです。調理の腕が未熟な上に酔っ払っていたからこそなのでしょうが、ここまでくると逆に器用な気もします。



 グラデーション炭水化物の濃い味付けのせいでますますお酒も進み、全員なんだかワケが分からなくなって来ました。


 料理はすぐに綺麗さっぱりなくなってしまいましたが、強めのお酒を何本も飲み干し、次第に足下がフラついて呂律も回らなくなり、最終的には一人また一人……という具合に気絶するかのように地面に転がったまま眠りこけてしまったのです。







 ◆◆◆







 一体、何時間くらいそのまま眠っていたのでしょうか。



「……うぅ~?」



 子供っぽい外見に反して強靭な肝臓を持っているメイが目を醒ますと、周囲には仲間たちがそれはそれは酒臭い匂いを撒き散らしながら地面の上で眠っていました。

 それを見たメイは、頭の中に残っていた酔いが一気に引くような心地でした。いくら周囲に目に見える危険がないからとはいえ、昨夜のように聖剣の守りもない状態で全員が酔い潰れるなど危なっかしい事この上ありません。

 万が一、麓の森の肉食獣が気紛れでここまで来ていたら、気付かぬ間に全員あの世行きだった可能性もあったのです。今回は幸いにもなんの異常もなかったようですが。



「リサさんはどうしたんでしょう~?」



 予定では今日も昨夜と同じように安全な寝床を作ってくれるはずだったのですが、周囲にそれらしき物は見当たりません。もしかしたら、全員が寝てしまってから、それほど時間は経過していないのでしょうか?

 まあ、現状の分析をするのは仲間を起こして安全を確保した後にすべきでしょう。



「起きてください~」



 メイ一人が起きていれば充分かもしれませんが、いくらなんでも泥酔して地面に転がっているというのはあんまりだろうと、彼女は一番近くで酒瓶を抱えたまま寝ていたアランを揺り起こしました。



「……ぅう」


「あ、起きました……ね!?」



 そして、アランが呻きながら覚醒し始めた段階でメイは気付いてしまいました。

 

 南国の楽園。

 足下には色とりどりの花々。

 頭上には満天の星空。

 そして、起きているのは自分と彼の二人きり。


 そう、気付いてみれば、もうなんだかわざとらしいくらいに絶好の告白のチャンスが、今この場に転がりこんで来ていたのです。




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