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迷宮レストラン  作者: 悠戯
小さな恋の物語
172/382

どうして?

お待たせしました。今回より新章開始です。

本日(9/25)は三話連続更新しますので、順番飛ばしにご注意ください。


 どうして?


 涙に濡れた目元を夜風が撫でるひやりとした感触さえ忘れるほどに、アリスの胸の内にはその一言が強く渦巻いていました。


 どうして、リサさんはあんな事を言ったのでしょう。

 私は、怒るべきなのでしょうか。

 それとも、感謝するべきなのでしょうか。

 思考の渦は秒ごとに圧を増し、私の頭が破裂してしまわないのが不思議なほどです。


 しかし、それらの疑問も吹き飛ぶ言葉が、魔王さまから発せられました。



「アリス、その……」


「は、はい……」



 魔王さまは、言い難そうに言葉を慎重に選んでいる様子でした。時間にすればほんの数十秒かそこいらだったのでしょうが、私には続く言葉が発せられるまで、まるで時間が止まって世界が凍り付いてしまったのではないかと思える程に長く感じられました。



「アリス、聞きにくいんだけど、その……僕のことが好きって、本当?」


「…………はい」



 きっと、今の私の顔は熟れたリンゴよりも赤くなっているに違いありません。

 でも、言いました。

 やっと、伝えることができました。



「魔王さま、私は貴方を愛しています」



 一度言葉にすると、胸のつかえが取れたかのように続く言葉が後から湧き出てきました。こんな風に言えるだなんて、これまで思い煩っていたのがウソのようです。



「そうか……そうだったのか……」


「はい、そうだったんです」



 やはり、魔王さまはこれまで私の好意にまったく気付いていなかったようです。私が言うべきことではありませんが、この鈍さはちょっとどうかと思います。



「そうか……じゃあ、アリス」


「はい、魔王さま」


「結婚しようか」


「……!? はいっ!」



 私の想いは報われました。

 文句など付けようのないハッピーエンド。

 少しだけ予想外の形ではありましたが、今となっては些細なことです。



「おめでとうございます」 


 その場にいた、コスモスとフレイヤと、そしてリサさんも笑顔で祝福の言葉を送ってくれました。今更ながらに、人前で告白をした恥ずかしさに顔が熱くなってしまいます。ですが……、



「…………?」



 その時、ほんの微かな違和感を覚えました。

 まるで、純白のシーツに一滴だけインクを零したような、鍋に入れる塩の量をほんの一つまみだけ間違えたような、そんな違和感。


 その場では、その正体に気付くことはできませんでしたが、閉会式に赴く魔王さまを見送り、後片付けと着替えを終えて帰り、自室で一人になってようやく気付きました。



 私の感じた違和感。

 先程、私に笑顔を向けていたリサさんの表情が、春の花が咲くような明るい笑みが、何故だか今にも泣きそうな、痛みを堪えているかのように見えたのです。


 どうして、そんな風に見えてしまったのでしょう?




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