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迷宮レストラン  作者: 悠戯
双界の祝祭編
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願い事と思い付き


「優勝おめでとうございます?」


「なんで疑問系なんだよ……いや、まあ、そりゃそうか」


 不本意ながらも、決勝戦の相手がぎっくり腰になってしまい、不戦勝で優勝が決まってしまったガルドが魔王のレストランにやってきました。事の顛末を聞かされた魔王も、どう言ったものか迷っている様子です。



「それで、今日はどんなご用で?」



 現在は通常営業を休んでいます。飲み物やお菓子を置いて休憩所として開放してはいますが、ガルドは魔王に用事があって訪ねてきたようなのです。それはそれとして、クッキーやら菓子パンやらはしっかり食べていますが。



「いやな、願いを叶えてくれるったって、実際にどのくらいのことが出来るのか分からないから確認しておこうとな」


「ああ、なるほど」



 優勝が決まってからずっと考え続けていたのですが、ガルドにはこれといった願い事が思い付いていませんでした。かといって、権利を放棄するというのは勿体無く感じます。

 そこで、魔王本人に実際どのようなことならばできるのか確認して、思考の指針にしようと思ったのです。



「あ、質問に答えるので『願いは叶えた』っていうのはナシな?」


「そんなことは言いませんって。あ、でも『願いを増やす』のはナシでお願いします」



 この手のトンチはおとぎ話などでも定番ですが、念を入れておくに越したことはありません。



「あとは死人を蘇らせるとか、不老不死とかも止めておいたほうが無難ですかね?」


「いやいや、そういう問題じゃないというか……できるのか?」


「やってできなくはないですかね、たぶん」


「そうか……できるのか……」



 前者はホムンクルスを生成する応用で魂の入っていない肉体を作り、そこに死者の魂を呼んで入れる。後者は倫理的にアウト感著しい肉体改造で、弱点と寿命の存在しない吸血鬼のような体質に作り変えてしまえば一応は魔王の持つ技術で実現可能です。実際に試したことはないので、やってみた後で予期せぬ問題が起きる可能性はありますが。



「あ、そうだ。僕は別に未練とかないんで代わりに魔王やってみません? 王様ですよ」



 魔王の野郎が気軽に魔王を辞めようとしていやがりました。



「権力とか面倒臭いし、いらん」


「そうですか。それは残念」



 さいわい、ガルドは権力に興味がなかったので提案を蹴りましたが、何気ない雑談の中に歴史の転換点を織り交ぜてくる魔王は、危なっかしいことこの上ありません。



「本当に欲がないんですねえ」


「いや、ないってことはないんだけどよ、大抵のことは自分でなんとかなっちまうからな」



 自分の願うことは大抵自分でなんとかできる、という何気に凄いことを言っています。まあ今はそのせいで困っているという奇妙なことになっているのですが。



「うーむ……」


「困りましたね」



 魔王と二人して頭を捻りますが、唸り声が出るばかりで一向に話が進みません。

 ガルドの欲といえば甘い物関連ですが、お金を出せば普通に買えることに権利を使うのは抵抗があるようです。

 たとえば、この店での勘定が生涯無料になったとしても金額的にはたかが知れています。食べ物以外に範囲を拡大して、迷宮都市内や魔界での全ての買物代を今後魔王が全部持つとしても、そもそも物をあまり持たない生活が身に馴染んでいるので、それほどお得感がないのです。






「自分のことじゃなくて『誰かに何かしてあげたい』みたいなのはないんですか?」


 と、ここで店の奥からアリスが出てきました。

 手に持ったカゴには焼きたてのクッキーが一杯に入っています。店内に作り置きしていた分が減ってきたので、新たに追加を焼いてきたようです。



「他の誰かに何かしてやる、か……そうだな」



 アリスの言葉をヒントに、星型のクッキーをかじりながらガルドは考えました。

 自分自身にこれといった願いがないのならば、他人の為にその権利を行使する。その発想に何かピンと来るものがあったようです。


 クッキーを次から次へと口に詰め込んで糖分を補充しながら悩み、そしてカゴがカラッポになった頃、ようやく考えがまとまったようです。



「そうだ、こんなのはどうだ?」







 ◆◆◆







 ガルド基金。

 孤児、傷病人、貧乏人、傷痍軍人、未亡人、犯罪被害者、災害被害者等々。

 とにかく「困っている奴」を種類の如何によらず片っ端から助けるという、極めて特異な世界的支援団体の始まりは、その創始者の適当な思い付きでした。


 もちろん、それ以前にも社会的弱者の救済を目的として活動している個人や団体はあったのですが、その手の活動というのは資金難が付き物で、十全に活動できているとは言い難いものが大半でした。


 しかし、ガルド基金は魔界からの無制限の資金提供によってそれらの既存団体を支援。

 更には直営の施設を各国に多数設立・運営し、創立者の没後もはるか後世まで、それはそれは沢山の、数え切れないほどの「困っている奴」を助けることになったのです。




面倒見のいいオッサンという彼の個性を鑑みて、こういう願いにしてみました。


ちなみに某奇妙な冒険マンガで部をまたいで裏方として活躍しているスピードワ●ン財団がモデルです。第一部の主人公と財団の設立者の友情が時を超えて続いているようで好きなんですよ。あの二人の生前の付き合いってほんの三ヶ月くらいなんですけど、それが百年以上も影響を及ぼし続けるっていうのが感動的だと思います。

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