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迷宮レストラン  作者: 悠戯
双界の祝祭編

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ひょんなことから

 ドンッッッ!


 大地が震えるような轟音と共に、魔王の操る巨体が大きく殴り飛ばされました。

 先程の攻撃で脚の関節に異常が生じたのか、倒れたまま立ち上がることができず、無様に地べたを這い回っています。脚部の自動修復は始まっていますが、それよりも決着のほうが早いであろうことは誰の目にも明らかでした。


「魔王さまっ!?」


 戦いを見守っていたアリスの声援も今ばかりは空しく響きます。

 は勝負の最初からダメージらしいダメージを負っておらず、ここからの逆転はもはや絶望的でした。


 魔王は未だ立ち上がらせることが出来ないまま、それでもせめて一矢を報いようと腕の力だけで低空のタックルを狙おうとして……しかし、それすらも相手の術中のうちに過ぎませんでした。


「どうやら、ここまでみたいだね」


 一発逆転の奇襲も完璧にかわされ、魔王としてはもはや苦笑を浮かべることくらいしかできません。


「では、とどめを刺させてもらいますね」


 最後、リサ・・の操る鉄拳が容赦なく振るわれ、そして完全に勝負が決しました。







 ◆◆◆







「いやぁ、楽しかったね!」


「魔王さま、お疲れさまでした」


 アトラクションでの勝負でリサに完敗した魔王がなんとも愉快そうに笑っています。

 魔王とアリスは、夕方から合流したリサと共にお祭りのアトラクション巡りを楽しんでいたのですが、その中の一つ『ゴーレム格闘』というもので対戦をしていたのです。ちなみにゴーレムとはいっても今回はロールケーキのアイツは関係ありません。


 通常、ゴーレムというのはある程度の自律行動を行う性質があるのですが、それを操作盤コントローラーで遠隔操作できるようにして、離れた位置にある競技場内で対戦させるというゲームです。

 画面上のグラフィックではなく人形を操る対戦格闘ゲームみたいなものでしょうか。


 操り人形とはいっても、全長五メートルは優に超えている金属製のゴーレムなので迫力は満点です。

 一度に遊べるのは二人までな上、勝者はそのまま連戦するという勝ち抜きルールを採用しているので順番待ちの列は長さを増す一方です。



 そして現在、魔王に圧勝したリサが巧みな操作盤捌きで連勝街道を爆走していました。


 通常のテレビゲームやアーケードゲームの操作とは感覚の違いがあるにしても、リサは現在この場でほぼ唯一の対戦格闘ゲームの経験者なのです(「ほぼ」なのは魔王たちが日本に来た時にゲームセンターで遊んだ経験があったからです。つい先程ボロ負けしましたが)。


 リサは日本の学生のたしなみ・・・・として遊んだ経験がある程度でそれほど格闘ゲームをやり込んでいるワケではありませんが、完全な素人とは歴然の差があります。間合いを見切って敵の攻撃を無駄打ちさせ、その隙に着実にダメージを与えていく戦法で圧倒的な勝利の山を築き上げていきました。



「おや、今のは早かったですね」


 また一勝。

 今度は開始僅か二十秒で勝負が決まりました。

 日本の格闘ゲームでよくある二本先取制ではなく一ラウンド制なので、客の回転が早くどんどんと人が入れ替わっていきます。


 アリスは何気なく、今リサに敗れた人物に目を向けました。



「……はて? 誰でしたか、どこかで会ったことがあるような」


「言われてみれば……誰だっけ?」



 リサに破れた中年男性に魔王もアリスも見覚えがある気はしたのですが、それが誰だかは思い出せないようです。その男性は勝利したリサに一言二言挨拶をして、それから家族らしき貴婦人と少年少女の下へ歩いていきました。







 ◆◆◆







「あの方はA国の王様ですよ」


「ああ、そういえばあんな顔でしたね」


 結局、リサはその後も圧倒的な勝利を積み重ねていきましたが、一身上の都合によりあまり目立ちたくはないのと、一人がずっと居座っていると客の回転が悪くなるのを気にして二十連勝したところで席を立ちました。

 いつの間にか初代チャンピオンとして君臨していた彼女には惜しみない拍手が送られ、リサは変装用に被っていた帽子で顔を隠してバツが悪そうにしています。すぐに観客の興味は次の試合に移りましたが、あのままだとサインの一つも求められていたかもしれません。




 それはさておき、リサに挨拶していた男性の正体は観光を満喫中のA国の王様でした。


「なんというか、一国の王にしては目立たない方ですね」


 アリスの率直な感想にリサは苦笑しています。

 王冠なりマントなりを身に付けていれば一目でそうと分かりますが、顔立ちは美男でも不細工でもなく、なんというか普通の顔で、大きな特徴がない人物なのです。会ったことのある魔王とアリスが一向に顔を思い出せなかったのもその辺りに原因がありました。

 と、リサに言われて思い出したところで、



「おお、そこにいるのは魔王殿ではないか」


「あ、どうもご無沙汰しています」



 その当人が魔王に気付いて挨拶をしてきました。

 思い出すタイミングがちょっと遅ければ、魔王が第一声で「どちら様ですか?」と言って気まずい雰囲気になっていたでしょうから、ある意味で危ないところでした。

 まあ、その後は特に危ない場面もなく、和やかな雰囲気の中で家族の紹介を受けたりしていたのですが、






「む、そこにいるのはアリスとリサと魔王と……む?」


「魔王さん、ごきげんよう……あら?」


 そこに姉弟でお祭り巡りをしていたシモンとイリーナが通りかかりました。ゴーレム競技は随分と評判になっているようで、街中で噂を聞きつけた彼らも見物にきたのです。ですが、二人の視線はアトラクションでも魔王たちでもなく、A国王一家のほうへと固定されています。



「そこにおられるのは、もしやA国の国王陛下……?」


「……よね?」


「おや確か……G国の姫君と王子殿だったか」



 どうやらロイヤルな人々は互いに顔見知りだったようです。

 魔王たちは知らぬことでしたが、A国とG国は古くから良好な関係を築いており、公式の行事などの際に王族が互いの国に来賓として招かれることも少なくないのです。

 彼らはお互い観光で緩んでいた意識を公的モードに切り替えて、ロイヤルな世間話を始めました。



「なるほど、伝え聞くところによると勇者リサさまを召喚したのが陛下だったとか。経緯いきさつを考えると魔王……殿と面識があるのは当然でしたね」


「おや、シモン王子。ということは、君もそちらにおられる魔王殿やリサ殿と面識があるのかな」


「ええ、魔王とは……リサ、殿? そこのリサと陛下はお知り合いなのですか?」


「それは無論だが……おや?」


「え……え?」



 彼らは同時に互いの認識のズレに気付いたようです。

 会話が始まって僅か数秒。

 近くで話を聞いていたリサが口止めをする間もありませんでした。


 これまでシモンは憧れの英雄である勇者リサと、行きつけの店の給仕のリサはたまたま同名なだけの別人だと思っていました。しかし、ひょんなことから彼は真実を知ることになってしまったのです。





とうとうバレてしまったようです

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