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迷宮レストラン  作者: 悠戯
勇者編
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かくして勇者は異世界の地に降り立った


 わたしの名前は一ツ橋リサ。

 どこにでもいそうな十五歳の高校一年生です。


 実家は洋食屋を営んでいて、わたしのお祖父ちゃんが五十年くらい前に始めたうちのお店は、高級店というわけではないけれど地元では結構人気があります。


 今でも元気なお祖父ちゃんと口数は少ないけど優しいお父さんが、毎日たくさんのお客さんに料理を作って喜んでもらう姿を見て育ったわたしは、いつしか料理人という仕事に憧れるようになりました。


 小学生の頃にお皿洗いやテーブル拭きからお店の手伝いを始め、おイモやタマネギの皮むきといった下拵えを経て、今では簡単な料理なら任せてもらえるようになっています。


 まだまだお祖父ちゃん達の腕前には全然及ばないけれど、いつか一人前の料理人になってうちの店を継ぐのがわたしの夢です。





 ◆◆◆





 そんな、ごく普通の女子高生兼料理人見習いだったわたしの目の前に、何故か「王様」がいました。立派な口髭をたくわえ、真っ赤なローブを着て、大きな王冠をかぶったわざとらしいくらい王様らしい王様が、何故かわたしに向かって平伏して何やら喋っているのです。


 はて、わたしは学校が終わって帰宅するところだった筈ですが?

 コスプレ? 

 それとも何かの劇とかでしょうか?

 しかし、わたしは演劇部ではありませんし、そもそも高校の演劇部が外国人の大人の役者さんを起用したりしないでしょう。


 よく見るとわたしの足元にはキラキラ光る謎の塗料で描かれた変な模様が、ファンタジー系のゲームとかで見るような魔法陣らしきものが描かれています。

 ついでに今気付きましたが、わたしの着ている服も学校の制服ではなく、やけにピカピカ輝く謎の金属でできた鎧に変わっています。


 ははあ、これはもしかしてアレでしょうか?


 わたしも現代の高校生らしく、ライトノベルやアニメなどの娯楽作品もいくらか嗜んでいます。それらの作中でよく「何の変哲も無い学生が異世界に召喚されて活躍する」ような話の筋書きがあるのですが、この状況が夢でないとすればまさにその手の展開そのままのように思えます。


 試しに自分の頬をつねってみましたが痛覚は正常のようです。

 夢でないとするならば、つまりそういう事なのでしょう。


 ここまで考え事をしていたせいで完全に聞き流していましたが、さっきから目の前で熱心に何かを話し続けていた王様(仮)の話もどうやら終わったようです。


 王様(仮)は一呼吸おいて、わたしに問いかけてきました。



「勇者よ。どうか魔王を倒し、この世界をお救いください」


「あ、はい」



 そんな感じで、わたし一ツ橋リサは勇者リサとして魔王を倒しに行くことが、詳細を知らないうちに決まっていたのです。とりあえず、王様(仮)に元の世界に帰る方法を知ってるかどうか聞いてみようかと思います。








 王様(仮ではなく本当に王様でした)に聞いたところ、幸いにも元の世界に帰る方法はちゃんとあるようです。しかし、それには魔王とやらを倒す必要があるそうで。


 どういうことかと言いますと、勇者の召喚という儀式自体は代々のこの国の王家に受け継がれてきたものの、いつでも自由に呼び出せるようなものではないのだとか。具体的には、魔王がこの世界に出現していないと召喚はできないそうです。

 魔界から流れ込む瘴気がどうとか霊脈の異常がナントカやらの、細かい判別基準については説明を聞いてもチンプンカンプンでしたけど。


 なんでそんな面倒な仕様になっているのかと言いますと、大昔のこの国の王様にその儀式の方法を教えた女神さまが、人々が無闇に勇者を召喚して私利私欲や人間同士の戦争の為に使わないようにそういう発動条件を設けたのだそうです。

 同じ理由から勇者が魔王に勝利した時点で、自動的に勇者は元の世界の元の時間軸に戻されるのだとか。


 それから何で今回召喚の儀式をしたのかというと、各国にある神殿の神官達に魔王が地上に出現したとの神託が下り、それを受けて王様が試しに儀式をやってみたら勇者(わたし)を召喚できてしまった。つまり逆説的に魔王が地上に現れたことが確定してしまったという理屈です。


 この世界には五百年くらい前にも魔王が出現したことがあり、その時の被害はそれはもう恐ろしいものだったそうで。なんでも当時の人類の人口が半分以下にまで減ったほど。そういう事情を思えば、王様の必死っぷりも分かろうというものです。






 この世界でいくら時間が経っても、帰る時には元の世界で時間が経っていないというのは良い情報でした。とはいえ魔王を倒さなければ帰れない上に、魔王が人類を滅ぼそうとするならば、それをのんびり見ているわけにもいきません。



 こうして、わたしは勇者としてこの世界を救う事を決めたのです。



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