本日のお天気は晴れ時々くもり。ところにより飴が降るでしょう
本日のお天気は晴れ時々くもり。
ところにより飴が降るでしょう。
◆◆◆
「む?」
シモンは突然頭の上に落ちてきた飴を反射的に空いている方の手でキャッチしました。
「きゃっ!?」
シモンと手を繋いで歩いていたイリーナは、上手くキャッチすることができずに飴がコツンとおでこに当たりました。痛みはないようですが、びっくりして目を白黒させています。
つい先程まで他の家族と開会式の会場にいたのですが、あれだけショッキングな体験をした後だというのに既に他の皆は思い思いの場所へと遊びに行ってしまいました。基本的に神経が太い一族なのです。
シモンも比較的早くに正気を取り戻し、夢心地のままのイリーナをエスコートしながら歩いていたのですが、そこにこの天気の急変です。
慌てて空を見上げてみれば、家屋の屋根より少し上くらいの高さに浮かぶ不自然に小さい雲からお菓子がパラパラと降ってきています。
「まあ、お菓子が降ってくるなんて素敵ね!」
飴玉が直撃した衝撃でイリーナも完全に正気に返ったようです。
シモンと繋いでいた手を放して今度は両手を使ってキャッチしてみようと身構えています。
「ひゃあっ!?」
「おっと」
またもやシモンが見事にキャッチした横で、イリーナはまたもやおでこにコツンと直撃を喰らっていました。このあたりは普段から運動の習慣がある人間との差でしょう。
おまけに眼帯で片目を隠しているせいで、ただでさえ運動神経が鈍いのに遠近感も掴みづらくなっています。
「姉上、おれ……私が取った物が二つありますので、お一つどうぞ」
「ううぅ……ありがとう、シモン」
イリーナはシモンから飴を一つ受け取り、二人揃って包装を剥いて口に入れました。味はどちらも甘酸っぱいレモン味でした。
「今度はちゃんと取ってみせるわ! 網はどこに売っているのかしら?」
「姉上、せっかくの祭りなのですから、もっとマシな物を買いましょう……」
ムキになって釣具店を探し始めたイリーナを止めようと、シモンは急いで後を追います。どちらが保護者なのか分からない状況ですが、この姉弟のお祭りは何故だか釣具店で魚捕り用の網を物色するところから始まりました。
◆◆◆
「おお、こいつは景気がいいな!」
正午から開始予定の闘技大会本戦を前に、ガルドは落ちてくる飴玉を片っ端からキャッチしていました。ちょうどいい準備運動だと言わんばかりです。あまりに手を動かす動きが早いので、周囲には一つたりとも取りこぼしは落ちていません。
「でも、これだと効率が悪いな……よし!」
手と口を動かしながら道を歩いていたガルドは突然大きく跳躍し、すぐ近くの民家の屋根に着地しました。そして地面に飴を降らせていた雲をガシッと掴みます。
「へへっ、こいつを捕まえておけばいつでも食べ放題ってワケだな」
一つ一つは小さめの絨毯くらいなので不可能ではないにしても、雨雲ならぬ飴雲を個人で確保しようとは実に大胆な発想です。
雲の四分の一くらいの大きさを自分用に千切って後は再び空に放流しました。千切った部分の小さい雲からは今もなお飴が湧き出てきています。
「雲っていっても、ちゃんと触れるんだな。なら捕まえておくにはカゴか網か……」
ガルドは試合開始前までに雲を捕まえておく網を買うために、釣具店へと走り出しました。
◆◆◆
「ふぃっしゅ」
「おお、でかしたよライム」
タイムとライムの姉妹に至っては、なんと釣竿で雲を捕獲しようとしていました。
数日前にあの雲の正体が綿菓子であることは知っていたので、釣り針で引っ掛けて捕まえることもできるだろうと当たりを付けていたのです。
「私のお金だけじゃ村に甘味を供給するのは厳しいからね」
基本的にお金を持っていないエルフたちのお菓子事情は今やタイムの手にかかっています。しかし、家族の分だけならまだしも、村人全員分の甘味を常に安定供給できるほどに財布の余裕があるワケではありません。
そこで魔力の続く限りは無限にお菓子を生み出し続ける雲に目を付けたというわけです。しかもガルドのように一部を千切るのではなく丸ごと村に持ち帰る気マンマンでした。
お菓子を生み出す魔法そのものは使えなくとも、原料になる魔力を供給すれば雲を飼うことも理論上は可能だというワケです。
「よし、一度村に飴雲を送ったら、次はチョコ雲とグミ雲も行こう。急がないと釣竿のレンタル料がかさむからね」
「がってんしょうち」
なんというか、やはり今日は不思議と釣具店が繁盛する運命にあるようです。





