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迷宮レストラン  作者: 悠戯
双界の祝祭編

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ss 冒険者と大人のお子様ランチ

百話記念企画⑨

今回のお題は佐倉桜様に頂いた『冒険者&トルコライス』です。

佐倉桜様、ありがとうございました。


 ある日のお昼頃。

 お腹を空かせた若い冒険者たちが、いつものように魔王のレストランへとやってきました。やってきたのは常連のアランとメイの二人、いつも四人一緒にいる彼らにしては珍しく、エリザとダンの姿は見当たりません。


 二人きりとはいえ、別にデートなどの色気のある話ではありません。今日は訓練を休んで、朝から二組に別れて次の仕事に必要な物の買出しをしているのです。荷物持ち役のアランは両手に丈夫な麻製の買物袋を提げています。まだ買物の途中ではありますが、キリのいいところで腹ごしらえに来たというわけです。


 いつものように席に座り、お冷を一気に飲んで一息つきました。今日は朝から日差しが強く、二人とも額に汗を浮かべています。



「アレ、美味しそうだよね」


「そうですね~」



 アランとメイが見ているのは、彼らのすぐ近くの席のお客が食べている料理、お子様ランチです。最近この店でよく姿を見る身なりの良い少年が、盛りだくさんの料理に舌鼓をうっていました。



「でも、アレって……」


「はい~、たしか小さい子しか注文できないんですよね~?」



 このレストランの初期からの常連であり、メニュー表にある料理の大半を制覇してきたアランたちにも、まだ食べたことのないメニューが少ないながらも存在します。そのうちの一つが目の前のお子様ランチでした。


 ハンバーグやエビフライやチキンライス、加えてデザートまで付いています。料理の内容は日によって多少変わりますが、大抵はこんな組み合わせです。これらの料理を別々に頼んで食べたことはあるのですが、どうも趣が違うような気がするのです。


 お人好しの魔王に強く頼んだら作ってくれるかもしれませんが、



「そこまでするのは恥ずかしいよね」


「ですね~」



 そこまでするのは流石に気が引けました。

 まだ十代後半の若者とはいえ、この世界では立派に成人年齢。これがガルドあたりだったら逆に外聞を気にせずに頼んでしまうのかもしれませんが、なまじまだまだ若いせいか子供っぽく見られることに抵抗があるのでしょう。


 しかし、そんな彼らに救いの手が差し伸べられました。

 諦めて他の料理を選ぼうとしたところで、



「それなら、こういう料理があるんですけれど、いかがです?」



 と、アリスが声をかけてきたのです。

 どうやらアランとメイの会話が聞こえていたようです。



「どんな料理です~?」


「ええと、どことなくお子様ランチっぽい雰囲気の料理でして。たしかトルコライスっていう名前で……」



 アリスの説明した『トルコライス』という料理は、ドライカレーにトンカツとドミグラスソースを乗せ、スパゲティナポリタンやサラダと一緒に一つのお皿に盛り付けた料理。

 外見といい雰囲気といい、確かにお子様ランチに通じるものがあります。アリスは以前魔王と一緒に日本に行った時に食べたトルコライスの事を思い出して、勧めてみたというわけです。



「『ライス』はお米ですよね、『トルコ』ってなんですか?」


「たしか……国の名前だったと思いますよ」


「聞いたことのない国ですね~。じゃあ、これは『トルコ』っていう国の料理なんですか~?」


「多分そうなんじゃないですか?」



 地球関連の知識が浅いアリスは名前のせいで勘違いをしていますが、トルコライスはトルコ料理ではなく日本発祥の洋食です。この場にリサがいたら勘違いを訂正していたことでしょう。


 ドライカレーではなくチャーハンやピラフを使用するタイプもあり、その発祥には諸説あります。『ピラウ』というピラフの原型となったトルコの米料理が由来だとか、『カツ・米・ナポリタン』の三種類を三色のトリコロールカラーに重ね、トリコロールが転じてトルコになっただとかの説もありますが、はっきりした由来は分かっていません。



「じゃあ、それを二人前お願いします」


「はい、かしこまりました」



 ともあれ、アランとメイはアリスが勧める料理を食べてみることにしたようです。メニューには載っていない品ですが、既存の料理の組み合わせで出来るので材料の問題はありません。アリスは早速魔王に注文を伝えにいきました。




 ◆◆◆




「お待たせしました、トルコライスです」


 アリスが運んできた二つの皿をアランとメイは食い入るように見つめます。



「美味しそうだね」


「美味しそうですね~」



 香り高いドライカレーの上に、カラッと狐色に揚がったトンカツが鎮座し、その上にドミグラスソースがかかっています。ドライカレーの横にはケチャップ多めに仕上げたナポリタンと、彩りとしてプチトマトとブロッコリーが添えられています。


 思い出しながら即興で作ったにしては、ちゃんとソレっぽい感じになっており、魔王も仕上がりに満足していました。



「じゃあ、早速」


「いただきます~」



 アランとメイはフォークを片手にトルコライスの攻略に取り掛かりました。カツの衣のサクサク感がなくならない程度にドミグラスソースを吸わせ、まずは一口。


 続いてドライカレーを口に運ぶと、辛さよりも甘みや旨味を強く感じます。カツと合わせてカツカレー風にしたり、ドミグラスソースと一緒に食べてみると味の変化が感じられ、濃い味なのに飽きることがありません。


 合間に挟むナポリタンはケチャップ由来の甘みが濃厚ですが、少量入っているシャキシャキしたタマネギやピーマンの細切りが味を締め、くどさを感じさせません。



 お子様ランチを見ながら想像していた通りに、トンカツ、ドライカレー、ナポリタンをそれぞれ別に食べるのとはどこか違った美味しさが感じられるのですが、



「すごく美味しいんだけど、何かが違う気がする」


「はい~、なんだか足りないような気がします~?」



 アランもメイも、自分自身でもはっきり分かっていないようですが、不思議と物足りなさを感じているようです。



「足りない物ですか? そういえばそんな気も……」



 アリスも不思議そうに首を傾げています。はっきりとは分かりませんが、言われてみると何かが足りないような気がしてきたようです。お子様ランチにはあって、トルコライスには足りない物、それは一体なんなのでしょうか?


 百点満点まで、あと一手「何か」が足りない。

 ですが、その「何か」が思い出せません。

 答えが分からずとも実害はないのですが、まるで奥歯の隙間に物が挟まったかのように落ち着かない気分です。



「アリスよ、難しい顔をしてどうしたのだ?」


「あ、シモンくん。実はですね……」



 三人でトルコライスを前に、ああでもないこうでもないと頭をひねっていると、お子様ランチを食べ終えたシモンがアリスに声をかけました。



「なんだそんなことか」


「シモンくん、何が足りないか分かるんですか?」


「うむ。むしろ、アリスが分からないのが不思議だぞ」



 なんと、シモンはその足りない物が何かすぐに分かったようです。



「足りない物とはコレに決まっておろう!」



 そう言って、ズボンのポケットから自信満々に旗を取り出しました。もちろん、お子様ランチのチキンライスに刺さっていた物です。それを見たアランとメイは……、



「いや、それじゃないよ」


「流石に旗を欲しがる歳じゃないですよ~」



 と、ダメ出しをしました。

 どうやら足りない物は旗ではなかったようです。



「まさか、違ったのか……?」


「そうみたいですね。ええと……あまり気を落とさないでください」



 自信満々に出しただけに、不正解で恥ずかしくなってきたようです。アリスが気を遣って励ましていますが、それがかえって精神へのダメージを増大させているようで、シモンは俯いて顔を赤くしています。



「くっ、おれもまだまだ甘い……」







「「「あ!」」」


 シモンの「甘い」という呟きを耳にしたアリスとアランとメイは同時に気付いたようです。



「デザートが足りません~」



 そう、お子様ランチにあってトルコランチにない物はデザートの存在です。アランとメイは食後のデザートを注文し、満足して帰っていきました。



「おれはどうにも釈然とせんのだが……」



 その一方で不満の残った少年がいたのですが、気を利かせたアリスがケーキをご馳走したらすぐに機嫌を直し、最終的には万事丸く収まりましたとさ。



ssは次で終わりです。

お題の募集は終了してます。

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