ss リサとあの肉
百話記念企画⑥
今回のお題はアサムザk様に頂いた『リサ&マンガ肉』です。
アサムザk様、ありがとうございました。
※本日二話目の投稿です
「こ、これは……!?」
散歩がてら迷宮都市の市場を歩いていたリサは一軒の肉屋の店先で足を止めました。
その店頭にあったのは、円筒形の大きめの肉の中心を一本の骨が貫いた形状の、俗に『マンガ肉』と呼ばれるアレでした。カタマリ肉に後から骨を刺したり、骨の周りに挽き肉や薄切り肉を巻きつけたような模造品ではない本物です。
リサも「まさか」とは思いましたが、ここは地球ではないリアルファンタジー世界。リサが知らなかっただけで、本物のマンガ肉も存在するのかもしれません。
「あの、これってなんのお肉なんですか?」
気になったリサはお肉屋の店主に聞いてみました。
店主は印象の薄い中性的な身体つきで、更にツバの広い帽子を目深に被っているせいで若者なのか老人なのか、男なのか女なのかもよく分かりません。その店主はリサの質問に愛想良く答えました。
「ああ、これは◆□●△※▼○の肉ですよ」
「はい?」
不思議と肉の名称の部分だけ聞き取れませんでした。
「もう一度聞いてもいいですか?」
「これは◆□●△※▼○の肉ですよ」
何故だか肝心の部分だけうまく聞き取れません。滑舌が悪いわけでも、早口なわけでもないのに不思議とその部分だけ頭に入ってこないのです。
「あの、このお肉ってお値段はいくらですか?」
「ああ、この肉をこの量だと……こんなところですね」
「そんなにするんですか!?」
「ええ、そりゃあそうですよ。なんせ貴重な◆□●△※▼○の肉ですからね」
店主の提示した値段にリサは驚きの声を上げました。相変わらず肉の正体は不明ですが、このリアルマンガ肉は随分といいお値段がするようです。
「それで買うんですか? 次に入荷するのはいつになるか分かりませんよ」
「うぅ……手持ちが足りません」
残念ながらお金が足りないのでは仕方がありません。
リアルマンガ肉には強く惹かれますが、仮にアルバイトの給料を前借りしてくるにせよ、当分はタダ働きになってしまいます。一時的な好奇心を満たす為に、しかも素性の分からない肉を購入する為にそこまでするのはリスクが大きすぎます。
リサは後ろ髪を引かれながらも今回は泣く泣く諦めることにしました。
◆◆◆
後日、リサが再び市場を訪れると、マンガ肉を扱っていた肉屋自体がなくなっていました。移転したのか、それとも潰れてしまったのかは不明ですが、手がかりすらないのでは探しようもありません。
「もしかしたら、あれは夢だったんでしょうか?」
知り合いや市場の他の店に尋ねても、その不思議な肉屋のことを知っている者は誰一人おらず、次第にリサ自身もあれが現実だったのか、それとも単なる白昼夢だったのか、だんだん自信が持てなくなってきました。
「一口だけでも食べてみたかったんですけどね」
幻のマンガ肉の行方は文字通り夢幻の彼方へと消え去り、その味を知る機会は煙の如く消え去ってしまったのでした。
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ジャンジャカ書きます





