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迷宮レストラン  作者: 悠戯
双界の祝祭編
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閑話・異世界のアイス屋さん

しばらく前に出たアイス屋志望の(元)女騎士さん回

需要があるかどうかは不明


 二年ほど前に勇者の召喚を行ったことで知られるA国。

 その王都の大通りに一軒の真新しいお店が建っていました。ピカピカに磨かれた白い壁と赤い屋根が特徴の可愛らしいお店です。二階建てになっていて一階部分はお店に、二階部分はこの家の住人が居住スペースとして使用しています。



「それじゃあ、行ってくるよ、アイリ」


「はい、行ってらっしゃい、あなた。お仕事頑張ってね」


「うん、君も無理しないようにね」



 早朝、まだ日が昇って間もない時間に、この建物に住んでいる若い夫婦がお店の前に出てきました。仕事に出かける夫を妻が見送っているのでしょう。


 国の騎士団に勤める夫は愛用の長剣を腰に差して、王城に向けて歩いていきました。独身時代は宿舎暮らしをしていたのでもう少しだけ寝坊ができたのですが、結婚して家持ちになった今はそういうワケにもいきません。遅刻しないようにやや早歩きで出勤していきました。



「さて、と」



 夫を見送った若奥さん、アイリはお店に戻り開店の準備に取り掛かります。契約している商会からその日に使う材料を毎日届けてもらう手はずになっているので、裏口の前に届けられた木箱の中身を確認するところから始めます。万が一、材料に不備があったら大急ぎで市場まで走らないといけません。



「ミルク、卵、お砂糖、果物はイチゴにアンズに……あ、今日はバニラが入ってる!」



 木箱の中にバニラエッセンスの小瓶を見つけて、アイリは思わず歓声を上げました。


 バニラやチョコレートなどは、魔界との交易によって、最近はこのA国の市場にまで流れてくるようになりました。ただし毎日確実に入荷するわけではなく、その上、迷宮都市に比べると結構お値段が上がってしまいます。


 ですが、バニラもチョコもお店の目玉商品です。少々割高でもお店に出た時にはすぐに売り切れるほどの人気があるので、仕入れない手はありません。



「おはよう、アイリ義姉(ねえ)さん」


「おはよう、ハンナ」



 食材の検品を終えた頃に従業員のハンナがやってきました。

 お店を始めて最初の一週間くらいはアイリ一人で調理も販売もやっていたのですが、すぐに手が追いつかなくなったので、夫の実家で家事手伝いをしていた義妹のハンナに頼んで来てもらっているのです。



「それじゃあ、いつも通りお願いね」



 ハンナに店内の清掃を頼み、アイリはカウンターの奥の厨房に移動します。ここからがある意味でアイス作りで一番大変な作業です。



「~~~~……っ!」



 アイリが魔術の詠唱を終えると、目の前に置いてあった清潔な木桶の中に大量の氷が発生しました。本来は無数の氷の(つぶて)が目標に向かって飛んでいく術なのですが、厨房でそうなったら困るので魔力を加減してわざと失敗し、飛んでいかないようにするのがコツです。

 元々は騎士団にいた頃に苦労して覚えた技ですが、現在ではアイス作り専用魔術と化していました。



「……ふうっ」



 大きな木桶から溢れるほどの氷が出来る頃には全身に軽い疲労感が溜まっていますが、ここからが本番です。


 アイリは鍛冶屋に頼んで作ってもらった銅製の筒を、戸棚からいくつも取り出しました。直径三十センチくらいの大きな筒の中に少し小さな筒をセットし、上から見ると二重円になった状態で二つの円のスキマに細かな氷と塩をぎっしりと詰め込んでいきます。氷と塩が組み合わさると急速に温度が下がり、アイス作りに適した温度になるのです。


 程よく冷えたところで内側の筒の中に材料を入れ、時折かき混ぜながら冷やせばアイスクリームの出来上がり。


 とはいえ、このかき混ぜるのが意外に重労働なのです。

 ここで手を抜くと口解けが柔らかくならないので、木ベラを使って小まめに混ぜ続けないといけません。途中から掃除を終えたハンナも一緒になって、二人で一所懸命に混ぜました。営業中にも何度か作り足しますが、この朝の仕込みが一番量が多くて大変です。



「撹拌用の魔道具とか欲しいわねぇ」


「でも特注になっちゃうでしょ。きっと高くつくわよ」



 今のところお店は繁盛していますが、まだまだ先行きは不透明。新居の購入とお店の開店資金に貯金のほとんどが消えてしまったので、節約できるところは切り詰めないといけません。


 最近では迷宮都市から流れてきたレシピを参考にしたライバル店も出始め、まだまだ油断できない状況なのです。王城にお菓子を卸している老舗の菓子店が、昨今流行の新しいお菓子に危機感を覚えて新製品を研究しているという噂もあります。



「味見、味見と♪」



 苦労の後にはお楽しみの味見タイムが待っています。

 一応はこれも仕事のうちという名目ですが、嬉しそうに色々な味のアイスを楽しんでいる様子からすると、とてもそうは見えません。



「義姉さん、そのくらいで止めとかないと売り物にする分がなくなっちゃうわよ」


「もうちょっとだけ、ね?」



 アイス好きが高じてお店まで開いてしまった程ですから、売り物に手を付けたくなる衝動と戦うのもいつものこと。幸か不幸か、開店以来商品が売れ残ったことはほとんどないので、売れ残りにありつくのも望み薄です。



「さ、それじゃあお店を開けましょう」



 保冷用に取っておいた氷の中に出来上がったアイスの筒を差し込み、器やスプーンなどの準備も万端です。



「いらっしゃいませ!」


「冷たくて美味しいですよ!」



 季節は夏に差し掛かったばかり、空は雲一つない晴天で絶好のアイス日和です。路上の石畳は火にかけた鍋みたいにジリジリと熱を持ち、道行く人々は大汗をかきながら気だるそうに歩いています。


 勇者直伝の異世界のお菓子、アイスクリームはきっと今日もよく売れることでしょう。



いつの間にか百話突破していたので、記念に読者参加型企画をやります。


登場を希望する『キャラ名&料理名』を募集しますので感想欄に書き込んで下さい(例:『アリス&大福』みたいな感じで)。そのネタを使ったssをいくつか書きます。

採用基準は作者の独断と偏見によりますので、ご了承下さい。

募集期間は2016/4/17までとします。

誰も応募してこなかったら恥ずかしいので、反応がなかった場合この後書きはひっそりと消去されます。


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