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迷宮レストラン  作者: 悠戯
開店編
10/382

昔話・金の魔王と黒の魔王①

今回はレストラン要素ありません


 むかしむかし、とある迷宮の奥におかしな料理屋があらわれるずっと前のお話です。今より五百年ほども前の時代に“赤の魔王”という、とても強い魔族が世界の境界を越えて人間界に攻め込んだ事がありました。


 ほとんどの人間は魔族に比べると身体も弱く魔力も少ない。

 当然、人間達は瞬く間にその数を減らしていきました。


 しかし、そのまま人類が滅びることはありませんでした。

 人間達の事を憐れんだ女神さまが、遥か遠い異世界から勇者さまを呼び寄せたのです。勇者さまは女神が与えた聖剣を振るい、人間を苦しめる魔族を次々と打ち倒していきました。


 最終的に勇者さまは”赤の魔王”との一騎打ちに勝利し、人間界にはようやく待ち望んだ平和が訪れたのです。わずかに生き残った魔族たちは魔界へと逃げ帰り、以来、人間界に出てくることはありませんでした。めでたし、めでたし。


 人間の世界の歴史書にはココまでの事が記されています。

 まるで物語のような英雄譚ですが、すべては真実。

 エルフやドワーフのような長命種族には、まだまだ当時の生き証人も大勢いるのです。ここに疑う余地はありません。



 しかし、人間世界の歴史書に事のすべてが記されているわけではありません。

 とりわけ、魔族側の内情については分からないことだらけです。そもそも魔族たちは、なんでわざわざ世界の境界を越えてまで攻めてきたのでしょう?


 その理由は魔界の環境にありました。


 太古の昔から魔界の大半は草も生えない荒野がほとんど。

 わずかに存在する豊かな土地や食料を巡って、魔族同士で長く争い続けていました。


 強い者が弱い者から全てを奪う無法の世界。


 流された血で大地が赤く染まり、憎悪や恐怖や憤怒や絶望で満ち満ちている世界。


 そんな世界を力によってまとめ上げたのが、かの“赤の魔王”でした。


 彼は他の魔族に向けてこう言いました。


 此処には何も無い。

 ならば持っている奴らから奪えばいいじゃないか、と。

 結果的に彼は命を失い、魔族もその数を大きく減らす事になったわけですが。


 その時に大きく人口が減ったせいで食料の消費量も必然的に減り、また人間界から奪った大量の物資もあり、魔界に逃げ帰った生き残りの魔族たちは皮肉にもしばらく食べるに困ることはありませんでした。


 しかし、時が経つにつれ数を減らした魔族たちも少しずつ増えていきます。

 根本的な環境の問題が解決していない以上は当然の道理。

 こうして、だんだんと昔と同じような問題が再燃し始めたのです。


 そして今から百年ほど前。

 魔界はいよいよ滅亡の危機に瀕していました。

 魔族同士の争いは激化し、僅かな水や食料を巡っての殺し合いは日常茶飯事。


 しかしある時、この悲惨な状況を見かねた一人の魔族、当時の魔界で最強の力を誇っていた一人が新たに魔王を名乗り、混迷の極みにあった魔界を瞬く間にまとめ上げていったのです。


 新たな魔王は、バラバラに暴れるだけだった魔族たちを魔王軍として組織化。

 再び人間界への侵略をすべく、軍備を整えていきました。

 その様子は、かつての“赤の魔王”の生き方をなぞるようであったとか。


 いつしかその新たな魔王は“金の魔王”と呼ばれるようになり、魔族たちは人間界への侵攻準備を着々と整えていったのです。しかし魔界中が新たなカリスマの登場に熱狂する中、当の“金の魔王”本人は熱狂とは正反対の冷めた気持ちで日々を過ごしていました。


 なぜなら聡明な魔王は、魔族が人間界に侵攻したならば、遠からず己が勇者に討たれるだろうことを悟っていました。“赤の魔王”を討ったかつての勇者はとうにいなくなりましたが、女神は魔王が再び現れた時に備えて人間たちに勇者召喚の秘術を授けていたのです。


 此度の侵略の本質は、魔界の滅亡を僅かに先延ばしするためだけに、己と己に従う大勢の魔族たちの命を生贄として捧げることに他ならない。その事をただ一人理解していたがゆえに“金の魔王”の心は冷めていく一方でした。


 己が勇者に討たれるまでの間に少しでも時間を稼ぎ、人間界から食料や物資を奪う。部下の多くを半ば意図的に無駄死にさせて同胞の数を削り、僅かな生き残りが少しでも生き永らえ易いようにする。そんな策とも言えぬ策しか取れぬ己の無力を日々呪い、絶望に打ちひしがれる。


 通称“金の魔王”と呼ばれる、美しい少女の姿をした金髪の魔族。


 アリスという名の魔王が、後に“黒の魔王”と呼ばれる青年と出会い救われるのは、それからもう少しだけ先のこと――――。



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