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そこは広い草原だった。
保護色のように背景に溶け込んだ緑色のスライムがちらほらと見受けられる。
正直、めっちゃ弱そうだ。
「これ、パーティ組む必要って無いんじゃねえか?」
「油断するな。時折赤いスライムが出現することがある。そいつは強いから注意が必要だ」
「それに、みんなで一緒に狩りしたほうが楽しいよ」
「むぅ……それじゃ、適当に倒すとするかね」
腰に帯びていたダガーを取り出し、緑スライムに剣撃を浴びせる。
すると緑スライムはポリゴン片となり散っていった。
……え、一撃? いくらなんでも弱すぎるだろう。
「すごーいミオちゃん、一撃でスライム倒せるんだね!」
「ダガーはそんなに強いのだろうか。刀では2、3回攻撃を当てないと倒せないぞ」
まあいいか。次は死魔法とやらを試してみよう。
ターゲットをよく見ながら、両手に力を込め、その力を放つイメージと同時に【デス】と唱える。
グシャッ、グシャッ。
なんと、狙っていた緑スライムだけでなく、周囲の緑スライムも巻き添えを食らって散っていった。
この魔法、範囲攻撃が可能なのか。
「やっぱり緑スライムは雑魚すぎじゃねえか? 奥に行けば赤が出るかもしれないし、行ってみるか」
「ああ、そうだな。特にミオにとっては、ここはぬる過ぎるかもしれない。場所を変えよう」
「さんせー」
ゆっくりと奥に進む。
時折緑スライムを2匹引き連れたでかい緑スライムに出くわすも、シズキの刀、カナメの光魔法、俺のダガーと死魔法(MPを消費するので連発できないが)で難なく一掃した。
「少し休憩しない? 私、MPカツカツだよ」
「俺もだ」
「わかった、少し休もう」
非戦闘状態であればHPとMPは少しずつ回復する。座っていればさらに回復速度が増す。
カナメは【戦闘時MP回復】を持っているから戦闘時もじわじわとMPが増えるが、それでも足りなかったらしい。
「しかし、解せんな。なぜミオだけやたらと強いんだ?」
「やっぱりダガーが強いのかなー? 私もあとでダガー使ってみよっかな」
ふむ、確かに変だな。ゲームを始めたばかりなのは3人とも一緒なのに、敵を一撃で倒せるのは俺だけだ。
なぜだろう。色々検証してみる必要があるな。
「って、ミオちゃんシズキちゃん! あれ見てよ!」
カナメが指した先には、林檎のように真っ赤なスライム。
……赤スライムキター!
「まずは俺が一撃当てるから、敵が俺に夢中になってる隙に二人は攻撃を――」
グシャッ。
あ。
また一撃でやっちまった。
「ミオちゃん……強すぎだよ……」
「赤スライムすら一撃とは、よもやバグか何かではなかろうか?」
二人が驚きと疑念の目で俺を見てくる。
「うーん、何だかなぁ……」
強すぎてはゲームが楽しくないではないか。
おそらくダガーの性能設定がおかしいんだろうな。いや、死魔法も大概だが。
「俺、ちょっと運営コールしてみる」
初っ端からこれじゃ萎えるわ。文句言ってやる。
メニュー画面を開いて、と。
「あのうすみません、運営の方ですか?」
『やあ、魔王の力は気に入ってもらえたかな』
は?
何を言ってるんだこのおっさんは。
「魔王の力? 何のことだ」
俺はふと思い出した。
俺は持っていたのだ。【魔王化】スキルを。
「……もしかして、スキルのことか?」
『ご明察。君の力が他者に比べて強くなっているのは、【魔王化】スキルのおかげさ』
「なん……だと……?」
そうか、そうだったのか。
ならこんなスキル、早々に捨ててやる。
『言っておくが、【魔王化】スキルは他のスキルのように削除することができないよ。
そして君は、いや君たちは、このゲームの世界から出ることができなくなった。嘘だと思うならログアウトボタンを押してごらん。何の反応も示さないだろう?』
メニューを開いて、ログアウト……。
本当だ。ログアウトすることができない。
『このゲーム世界からプレイヤーが解放される方法はただひとつ。ラスボスである魔王を倒すことだよ。
そしてその魔王とは……ミオ君、君のことだ』
俺?
俺が、ラスボス?
『ああ、今の解放条件は君以外のプレイヤーの場合だ。もちろん、君が解放されるための条件も用意してある。それは――』
何だよ、含みを持たせてないで早く言え!
『他のプレイヤーを全員倒すことだ。4999人、一人として残さず、ね。
もちろん、ゲーム内で死ぬと現実での死に繋がることになる。デスゲームというやつだね』