#009 四月二十一日(木曜日)
他にも嫌がらせは続いた……。
「私の体操服がなくなってる……」
三限目の授業が終わると、さつきが慌てた様子で俺のところへやってきた。
「何だって⁉」
探すにしても、今からじゃ次の授業に間に合わない。
「本当になかったんだな」
「うん……」
くそ……、次から次へと……。
「購買部か……、それか誰かに借りに行こう‼」
そう言って、教室から飛び出したとき、
「きゃっ!」
廊下を歩いていた小森と和泉さんにぶつかりそうになった。
「うわぁ! ごめん‼」
「どうしたの?」
「いやそれが……、さつきの体操服がなくなって……」
「え?」
「説明している時間はないんだ。ごめん」
だけど、小森はすぐに状況を理解したらしい。すぐさま俺の手を掴んで引き止めた。
「待って! それなら私のを使って」
「!」
「えと……小森さんのだと……、その……たぶん大きすぎて……」
それを聞いた、さつきが教室から恥ずかしそうに顔を出す。
(何‼ それは胸か? 主に胸のあたりのことか?)
危ない! 思わず口を滑らしそうになったところをなんとか踏みとどまった。そんなことを口にしてしまえば、後で何をされるかわかったものじゃない。
「それなら、私のを使ってください」
「……和泉さん」
「私なら、両備院さんと背も近いし」
「そうだな。それなら大丈夫そうだ」
「ごめんね。ありがとう」
「ううん……、この前のお礼もまだしていないのに……」
よかった。和泉さんのおかげで事無きを得ることができそうだ。
「ちょっと、なんでそんなににやけてるのよ?」
「な、何を⁉ いや、そ、そんなことないぞ!」
「絶対おかしい! また変なこと考えてたんでしょう‼」
「ち、ちが……」
「え! またって……。やっぱり大坂くんって変態なんだ」
また酷い誤解を生んでしまったようだ……。
「やっぱり、もう放っておけないよ!」
「だとしても、犯人捜しなんてやってる余裕なんてないんだぞ」
「わかってるけど!」
さつきの言うとおり、もはや見過ごすことはできない状況になってきている。それらの出来事は確実に俺達にダメージを与えていたから……。
さつきは苛立ちを隠せない様子だった。こちらが受け身である上、現状ではあまり打つ手がない。せいぜい、出来ることと言えば、放課後や空いている時間を使って見回りする程度だろう。
でも一番重要なことは、さつきの身を守ることじゃないだろうか。先日俺は身をもってそれを知ったばかりじゃないか。
本来ならそんなことより、前回の公開討論の失敗を取り戻すことのほうが重要なはずなのに……。来週にある、二回目の公開討論と投票直前の演説。あと二回しかチャンスはないというのに。これじゃあ犯人の思惑通りにじゃないか……。
◆◆◆
放課後。二人で校舎内を何度も見回ってみたけど、何か手がかりになるようなことなんてあるはずもなく……、ただ、時間を無駄に費やしただけだった……。
「……今日はもう帰ろう。このままここにいても仕方ないよ」
「わかってるけど……。このままじゃ納まらない!」
さつきはもう限界に近かった。傍で見ていると、それが痛いほどよくわかる。俺達は食堂の横を通り過ぎ、足早で下駄箱の方向に向かっていた。
「なぁ、待てよ、さつき」
俺がさつきの手を掴んだその瞬間のことだった。
カツンと、乾いた音が響き渡った。
「⁉」
「え?」
なん……、だ? これ……。さつきの鞄の中央に一本の矢が突き刺さっていた。
どこだ?
どこからだ?
どこから狙い撃たれた?
俺は矢が飛んできたと思われる方向に目を向ける。
校舎の角?
校庭の茂み?
どこだ?
どこにいる?
「!」
一瞬、特別棟の校舎の奥の茂みに動く何かが見えた。
「あそこか⁉」
俺は猛ダッシュで校舎の脇を駆け抜けると、そのまま中庭を突き抜け、一階の渡り廊下を越えて、一気に校舎の裏側にまで飛び出た。
だが……。
そこには人の気配はなかった……。
(そんな…。からここまで百メートルもないはず……。さっきのは気のせいだったのか?)
「ちょ、ちょっと待ってよ。私を置いて行かないでよ」
そこへ、さつきが息を切らせながら追いかけてきた。
「脚早いんだね。そういえば中学の時、陸上部だって言ってたもんね」
「ご、ごめん。……誰も……、いないみたいだ」
「うん……。とりあえず怪我もないから、今はもういいよ」
さつきは精一杯強がっている様子だった。
「もういいなんて言ってる場合じゃ……」
言い返そうとおもったけれど、青ざめたさつきの顔を見て言葉が詰まった。それに、犯人がいるとすれば、まだこの近くにいる可能性がある。今はさつきの安全を最優先するべきだ。
「……わかった。すぐにここを離れよう」
「……うん」
あの場所をもう一度探すのは後にしても、どうも何かが腑に落ちなかった。見間違いだったのだろうか? いや、違う。なにか見落としているような……。
なんだろう? このもやもやした感じは……。
◆◆◆
「……ここで、……いいよ」
いろいろ考え込んでいるうちにもうここまで歩いてきてたのか。気がつくと、いつのまにかいつもの交差点まで来ていた。
「いや、家の前まで送っていくよ」
そう言うと、さつきは俯いて黙り込んでしまった。
さつきの元気を無くしている姿を見るのは正直つらかった。……ここ連日、こんなことばかりだ。無理もないか……。
「……ふ……」
「ふ?」
「ふ……」
「?」
「ふえぇぇぇぇぇえええええ!」
な! なんだ⁉ 突然、さつきが大粒の涙を流しながら泣き出した。
「ふえぇぇぇぇぇえええええええええええええん‼」
うああああああ!
しまった!
ずっと我慢していたのか⁉
あああああ!
どうすれば? どうすればいい?
い、いや、俺が慌てていてどうする!
「さつき、落ち着け!」
慌てて声をかけてみたけど、まったく耳に届いていない。そんなことをしているうちにさつきの声はどんどん大きくなってくる。
「「ふえぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええんん‼‼」」
そ、そうだ! あれだ‼
俺は交差点の向こうにあるたい焼き屋に気がついた。
「さつき、一瞬だけここで待っててくれ!」
そう告げると、俺は信号も無視して猛ダッシュで店に向かって駆け出した。そして、懐に紙袋を抱えてすぐさまこの場に戻ってきた。
「ふえぇぇぇぇぇえええええ、がぼっ……」
最早この方法しか思いつかなかった! 俺は取り出した焼きたてホカホカの白たい焼きを、大声で泣き続けるさつきの大きな口にねじ込んだのだ。
「もぐもぐむぐ……はむはむ…はむ」
ど……、どうだ?
……しばしの沈黙が続く。
「……美味しい。もふ、もっとちょーだい」
丸々一匹食べ終えた後、さつきはおもむろにおかわりを要求してきた。
(やった!)
ふ〜……。どうやら一難去ったようだ……。まさか泣き出すとは思わなかった。そういえば、思い返すとこれまでもけっこう無理してたのかもしれない。いつも強がっているけど、そうじゃ……なかったのか……。
再会したあの日もそうだった、交差点の向こうでうずくまっていたさつきも、今のさつきも……。
同じだ。
……何で、……気づいてやれなかったんだろう。
遠い記憶……。
忘れてしまっていた過去の記憶……。
今、初めて二人のさつきの姿が重なった……。
泣き虫だったあの頃のさつき。
強がりで意地っ張りのさつき。
なにも変わってない。
本当はなにも変わってなかったんだ。
「やだよ……。こんなところで……。まだ……、終わりたくない……よ」
「……当たり前だ!」
俺は唇を強く噛み締めた。体の奥から熱いものがこみ上げてきた……。
俺は何をしているんだ? ただ突っ立っているだけか?
何をしている? 何をやっている? 俺はまだ……、何もしていないじゃないか!
「さつき……、ごめんな……」
「なんで? 修一があやまることなんて……ないよ」
「いいや。悪かった……」
涙が溢れそうだった。今やっとわかった。ずっと根性なしとか言われていた理由が……、やっとわかった。
俺はただ恐かったんだ。自分から逃げていたんだ。目を背けていたんだ。
それは、周りの期待に応えれなかったから。母さんと比較されるのが辛かったから。真っ正面から自分と向き合う勇気がなかったから。自分にはなにもないって気付いていたから……。
でも、そうじゃない。そんなことはどうでもよかったんだ!
俺がここにいて、今、俺にしかできないことがあるということ。他の誰でもない、大阪修一だけにしかできないこと。やっと……それを理解できた。
「さつき、約束する。俺がお前を絶対に守ってやる」
自分の心と体が初めて一つになった。足りなかったのは断固たる意志と……、覚悟。
「修ちゃん……」
初めてさつきが昔の呼び名で呼んだ。その瞳にはまだうっすらと涙が滲んでみえた……。
「おかわり!」
「んあ?」
思わず開いた口が塞がらなくなった……。
「しょうがないな……、最後の一つだからな」
◆◆◆
もう迷いはなくなった。目の前に障害があるなら、それを全力で排除するのみ。まず、なんとしても犯人を絶対に探し出す!
さつきを送り届けた後、俺は再び学校に戻った。先程の矢は証拠として俺が預かっている。
青く塗装された金属製の矢。文字などは一切プリントされていない上、傷一つなく、今までに使われたような形跡もない。先端には銀色の弾丸型のパーツが取り付けられており、プラスチック製のハネが付けられている。長さは七十センチぐらいで、驚くほど軽い。
特別棟の裏に辿り着くと、射掛けたと思われる茂みの中を隈無く探してみることにした。あらかじめ考えていた、矢を発射するような仕掛けは見あたらなかった。だとすれば、弓に当たるものを持参していたと考えるべきか。残念ながら、これ以上手がかりになるようなものは見つからない。足跡なんて、たくさんありすぎて捜すだけ無駄だった。
(くそう!)
焦っても仕方がないのはわかっている。だけど、ジリジリと焦燥感だけが募ってくる。その時突然、校舎の方から大声が聞こえた。
「コルァ! そこでなにしておる!」
慌てて茂みから出ると、そこには五十歳半ばくらいの頭の薄い、おっとこれは突っ込んではいけないところか。年配の先生が立っていた。
「また裏からこそこそ出入りしおって!」
えっと……、たしか教頭先生だったような。
そうだ、思い出した。
忠岡源一郎。朝礼ぐらいでしか見たことないけど、天保山高校の教頭先生だ。
そういえば、母さんの思い出話にも同じ名前の先生が何度も出てきたような……。
「そこのおまえ、一年か? 名前は?」
「あ、はい。一年二組の大坂修一です」
「ふむ。ここでなにをしていた? そこから出入りしちゃいかんと前々から言っているだろうに」
「え? 通れるんですか? ここ」
「む? なんだ知らんのか。なら、……まぁいい」
「それだ!」
「ん?」
あの時からずっと気にかかっていたのはこのことだったのか。もし犯人がこの場にいたというのなら、俺が来るまでの短い間に、この場から飛び出せば一目瞭然だ。それ以外の方法で完全に姿を眩ますなんていくら足が速くてもできっこない。
隠れていて完全な死角になっていた。見ると確かに……、茂みの更に奥のフェンスには人が十分出入り出来る大きな穴が開いていた。何度も塞いだような跡があったが、今では無残に壊れていてその名残だけが残っている。
「そういえば、母さんが裏からよく出入りしてたって言ってたけど……、もしかしてこれのことだったのか」
独り言のようにつぶやいたその言葉に、教頭先生が驚くような反応した。
「む? い、今なんといった⁉ 母さん……だと?」
「ええ、そうです。えっと……、母もこの学校の卒業生なんです。母の旧姓は茨木。茨木美由紀です」
「イ、イバラキ⁉」
その名を聞くや否や、教頭先生は雷に打たれたかのように、大きく口を開けたまま固まってしまった。なにかまずいことを言ったのだろうか……。
「あの……、教頭先生?」
「い……、茨木……、美由紀……、だと!」
それまで比較的穏やかだった教頭先生が凄まじい形相でこちらを睨んだ。
「ワシの三十年の教師生活の中で……、その名前だけは決して忘れはせん……」
「‼」
か、母さん……、いったいなにしでかしたんだ……。あまりの殺気に思わず後ずさりした。
「ふむ、なるほど。そういえばやや面影があるな。両備院さつきと大坂修一か……。やはり、偶然ではなかったか」
俺の姿をしげしげと眺めると納得したように頷いた。だが、最早先程とは別人だった。目の錯覚だろうか? 先程まで五十歳半ばに見えていたのが嘘のようだ。顔は生気に満ちあふれ、手足はスーツ越しにわかるほど筋肉質に盛り上がり、体がひとまわり大きくなったようにすら思える……。
「むふぅ。貴様ら二人には特別にワシが直接指導してやらんといかんなぁ……、くくっ」
き、危険だ。身の危険を感じる! 目だけが笑って俺を見ている……。
「今日のところは見逃してやる。だが、覚えておくがいい。次に何かしでかした場合は容赦せんということをな!」
いったい過去に何が……。母さん達はどんなことをしたんだ? まずいな……。厄介な相手に完全に目を付けられた。
◆◆◆
教頭先生が立ち去った後、俺はその場所から逃げるようにして、アーチェリー部の練習場がある屋外射撃場に向かっていた。
天保山高校にはには弓道部はないけど、アーチェリー部がある。簡単な推測ではあるけれど、これを持っていけば何らかの情報が得られるはず。
だけど、恐ろしかった。出来れば今後も関わりたくない。まったく、母さんたちのとばっちりでいい迷惑だ。まぁ、その話は家に帰った後たっぷり聞くとして、今はそんなことより、アーチェリー部だ。
なんかすっかりやる気を削がれた気がするけど、こんなことに時間を取られている場合じゃない。なにも手がかりはないかもしれないけど、そんなことは承知の上だ。藁をも掴む気持ちとはきっとこういうことなんだって思った。今はじっとしていられない!
俺にはアーチェリーの知識なんて全くない。あの茂みから、ロッカーまでだいだい七十メートルぐらいだろうか。正確な距離はよくわからないけど、まぁ大体そんなものだろう。
さつきの鞄に命中させるだけの腕の持ち主なんだ。部に所属してなくても、なにかしら情報が得られるかもしれない。犯人がまったくの部外者だったらお手上げだけど……。
ただ、それにはひとつだけ確信があった。それは、犯人が特別棟の裏の出入り口を知っていたこと。すなわち、少なくとも犯人はこの学校に詳しい人物ということじゃないだろうか。万一、部外者だったとしても、私服のまま校内をうろつくのはかなり目立つのでなかなか難しいはず。ずっと茂みの中に隠れていたならともかく、それだと、弓を構えたままあの位置で待機していたことになる。
さすがにそれはどう考えても不可能だ。
つまり、犯人は俺達がロッカーに向かっているのを知っていた。おそらく、校舎内を移動しながら俺達の位置を正確に確認していたはずだ。でないと、あんなタイミングで射掛けるのは無理なはず。
それらの推測から鑑みるに……、やはり犯人はこの学校の生徒の可能性が高い。とりあえず、今は行動あるのみ。
屋外射撃場は本校舎のさらに奥。南側の一番端にあった。中を除くと十人ほどの部員達がそれぞれ射撃を行っているのが見えた。外には見学と思われる一年生が数人いたので、それに紛れて俺も一緒に見ることにした。余り興味がなかったので詳しくないけど、アウトドアターゲットアーチェリーという部類のはず。的が五色で色分けされていて中心が黄色、外側に向けて赤、青、黒、白の順になっている。
「あんたも見学?」
近くにいた二年の先輩が声をかけてきた。
「すごく真剣に見てるからさ。興味あるの?」
「ええ……。まあ」
我ながら歯切れの悪い……。理由が理由だけに、親切に聞いてくれて申し訳なかった。
「あれ? 確か君は生徒会の……」
「は、はい。そうです。書記に立候補している大坂修一です」
思わぬところで選挙活動の成果が出ていた。まったく気にもしていなかったけど、どうやら俺自身の知名度も引き上げていたようだ。
「ひとつ……、質問していいですか?」
「ん、なに?」
俺は先ほどの矢を鞄から取り出して見せた。
「この矢はアーチェリー部のものですか?」
「珍しい……、矢ね」
「そうなんですか?」
「うん。材質も変わってる。カーボンでもアルミでもなさそうだし……。こんな軽いのは初めてみる」
「⁉ これはアーチェリーの矢じゃないんですか?」
「わからないけど、アーチェリーでも使えるようにしてあるとしか……」
どういうことだ? やはりそう簡単に足がつかないように、、手製の矢を使ったってことなんだろうか……。
「アーチェリーは矢を選ばないから、和弓の矢でも射てるんだけどね」
なるほど……、そういうことか。やっぱりこれだけじゃ、何もわからないか……。
「えっと、最近備品がなくなったりとか、勝手に使用されていたりとか、そういうことはありませんか?」
「え? う〜ん。……特に騒ぎになるようなことはなにもないけど……」
「……そうですか」
いや、まだだ。まだ聞けることがあるはずだ。
「じゃ、じゃあ。弓は個人で所有しているのですか?」
「備品のものもあるけれど、ほとんどみんな持っているわよ」
それだ! それならば、普段から校舎内を持ち歩いていても周りに違和感はないはず。しかし、そうだとすれば、簡単に特定できる。
「もう一ついいですか? さっきからずっと見てたんですが、え〜っと……、一番上手い人は誰ですか?」
「なんか。さっきから質問ばっかりね。まぁ、いいけど……。何かウチの部に問題あったの?」
「いえ……、そういう訳では」
「まぁ、いいか。そうね。一番上手い人か……。う〜ん……、やっぱ部長かな?」
「上手さだけなら、熊取じゃない」
近くにいた別の先輩が答えた。
「そうか、熊取がいたか」
「熊取さんって、誰ですか?」
「ああ、ウチの部員だったんだけど、ずっと休部しているの」
「……休部?」
「まぁ、その辺りはよく知らないんだけど。戻ってきてくれたら、私達ももっと上を目指せるのにね〜……」
「練習でも百点台を叩き出せるのはあの子だけだもんね」
「百点台って?」
「全国レベルの実力ってことよ」
俺は再び射撃場に目を移した。
「あははは、ごめんね。あんまり上手くなくって」
ちょっと恥ずかしそうにする先輩。確かに。その命中率を見ているとお世辞にも上手いとは言えない。
「まぁ、万年予選敗退だもんね」
「……難しいんですね」
「そりゃそうよ。アーチェリーをなめてもらっては困るわ」
「なに偉そうに。あんたが下手すぎるからでしょ」
熊取と呼ばれていた先輩のことは、これ以上詳しく聞けなかったけれど、俺は礼を言ってその場を離れることにした。どんな人かは知らないけど、一度直接会ってみる必要がある。
本校舎の横を通って校門に向かおうとした時、ふと三階に誰かが立っているのに気がついた。
……廊下の中央に誰かがいる。
何だ、この胸騒ぎは……⁉
誰……だ……?
誰かが……、俺を見ている。
この距離だとわからない。
俺は急いで階段を駆け上る。二階、踊り場を抜けて、三階へ……。だけど、先程見えた人影は、もうなかった……。




