#015 四月二十八日 木曜日(投票日)
投票日の朝。
学校に行く前に、どうしても一言だけ母さんに言っておきたかった。いろいろあったので、なかなか文句を言う暇がなかったからなんだけど、やっと気持ちの整理が出来たというか、何というか……。
「あのさ、その……、なんって言うか……」
「なによ? はっきり言いなさいよ」
「う……。だから……、その……、許嫁とか、勝手に決めないでくれよ……」
「はぁ?」
しばしの沈黙の末、家中に大きな笑い声が響き渡った。
「ぷっ、あっははははははははははははははは!」
「わ、笑うなよ!」
「なにそれ? さつきちゃんが言ったの? そんな昔のことよく覚えてたわね」
「な、なんだよ! 母さん達が勝手に決めたんだろ?」
「そりゃそんな話しもしただろうけどさ〜」
ふふ〜んと、母さんは値踏みするようにじろじろと俺を眺めた後。
「なるほどね。ちょっと見ない間に随分と成長した訳だ」
「なにがだよ」
「ふふっ。あんたのことよ。でもよかったじゃない。そんな約束をいつまでも大切に守ってくれてたなんて」
「いいわけないだろ!」
「それがただのきっかけだったとしても、あんたたち二人をずっと繋いでいた絆だったんでしょ。十分役に立ったじゃない。むしろ感謝しなさい」
「そ、そんな言い方!」
「照れるな照れるな」
「く……!」
くそ……、やっぱりこの人には敵わない……。
「もういい! 行ってくる!」
「あいよ!」
「あ、そうだ……、母さん」
「ん?」
「あのさ、上手く言えないけど。俺はその……、母さんみたいにはなれないけど……。俺なりに頑張るよ。自分なりに精一杯頑張るよ」
「修一……。うん。それでいい。最初からそれでよかったの!」
バシッと背中を叩かれて、俺は前につんのめった。
「うわあっ!」
「しっかりやってきな!」
「うん。じゃあ、いってくる!」
「……いってらっしゃい」
◆◆◆
放課後。前生徒会にとっての最後の全校集会が開かれた。高石会長のお別れの挨拶に続き、生駒副会長からの最後の報告があった。
そして……、投票直前の最終演説が始まる。
「私が伝えたいことは、もう十分にみなさんに伝えることができたと思います。だから、ここで何も言うことはありません。皆さんと一緒により良い学校に変えていきましょう!」
そこから始まった小森の演説は一点の曇りもなく、清々しいものだった。さすがと言うべきか、もう認める他はない。まったくこいつは凄い奴だよ。
拍手の沸き起こる中、次に呼ばれるのはもちろん決まっていた。
「最後の仕上げだ。行ってこいよ」
「うん」
一歩一歩踏みしめるように、さつきは朝礼台に上った。
「始めよう、みんなで一緒に!」
さつきの最後の演説が始まった。
「みんなは今の高校生活に満足してる? わたしはしてない! だってもっと! も〜っと‼
楽しくできるはずだから‼
わたしは中学校の時まで、何度も転校を繰り返していたから。友達も作る時間もなかったんだ。だから、取り戻したい。今までの失ってしまった時間を取り戻したい。なにもしなかったらずっとそのままじゃない。
やってみないとずっと出来ないままなんだから‼
生徒会長なんて、普通の人からみれば、面倒なだけの厄介な役柄かもしれない。でも、本当はそうじゃない。わたしは不器用だから、上手く立ち回れないかもしれない。だけど、いつだって全力でぶつかっていく!
みんなで一緒に変えていこう!
みんなの力がわたしの力になるんだから!
だから、みんなの力を私に貸して‼」
……ずいぶん大きな風呂敷広げやがって。だけど、いままでで一番いい演説じゃないのか。
よし、次は俺の番だ!
名前を呼ばれると、拍手の中、俺は朝礼台に向かった。
ここに立つのは生まれて初めてだな……。
この半月の間に俺は自分でも随分と変わったと思う。入学当初のことを思い返すと、なんだか恥ずかしくなる。
全校生徒の前に立って辺りを見回した時、その光景に圧倒された。全校生徒が注目している。
これが……、生徒会長の視点……、なのか。
思わず息を呑んだ。
……あれ?
頭の中が真っ白になっていた。
言葉が出てこない……。
そんなはずはない。そんなはずは……。
「大坂、何か言えよ!」
「おい、まだ何も言ってないぞ〜」
一年二組の列から声が聞こえた。それを聞いて、自分を取り戻した。
「そ、そうだ!
俺は、まだ何もしていない……。やっと走り出したばっかりで、やっとスタートできたんだ。
だから、このまま走り続けたい。
だから……、俺に生徒会をやらせてください。
俺に出来たんだ。みんなも新しい自分をみつけることが出来るはずだ。高石生徒会長は先頭になってみんなを率いていくタイプだったけれど、両備院さつきは違う。みんなの手を引いて一緒に歩いて行くんだ。だから、俺も一緒に歩いていきたい。
だから、だから……。
よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた。
もう途中から自分でも何を言っているのかわからなかった。恥ずかしさがこみ上げてきて顔が真っ赤になっている。
パチ……、
パチパチパチ……。
拍手が聞こえてきた。
見上げるとみんなが俺を見ていた。
最後まで聞いてくれた。そう思うと、何かがこみ上げてきて目の前が滲んで見えた……。
◆◆◆
投票が終わり、開票が始まった。
生駒先輩を含む選挙管理員がてきぱきと開票していく。俺とさつき、小森と和泉さん、そして千里丘先輩は生徒会室の前で結果が出るのを待っていた。
さつきの横顔に汗がにじんでいるのがわかる。俺も人のことは言えない。先程から緊張して息ができないぐらいだ。でも、もうここまでくればジタバタしても始まらない。ただ待つだけだ。
「そろそろ終わりそうだよ」
「……そうだな」
そしてまもなく……。開票が終わった。
扉が勢いよく開くと、生駒先輩が姿を現した。
「結果を伝えます。無効票を除いて四百六票対四百六票……」
少し困った表情で告げられたその結果は……。
同票⁉
「こんなことは我が校始まって以来のことね」
まさかそんなことが……。確かにさつきと小森の評価は互角だった。それでも手応えはあった。たとえ僅差でも勝てると信じていた……。なのにまだ足りなかったのか……。
なんて……、強敵だ。改めて小森芽依の存在を思い知った。
「待ってください」
その時、それまで沈黙を保っていた千里丘先輩が初めて口を開いた。
「生駒選挙管理員長。ここにいる私達の票がまだ含まれていないはずです。
そこで、我が校における生徒会選挙法・第十八条。投票の結果が同数の場合における候補者同士による決選投票を提案します」
再び緊迫した空気が漂った。全員の視線が生駒先輩に集まる。
「いいでしょう。千里丘さんの意見にあったとおり、生徒会選挙法・第十八条による決選投票を施行します」
そんな規定があったのか……。確かに、立候補者は最初から投票には加わっていない。
すなわちここにいるのは……。
大坂修一
両備院さつき
小森芽依
和泉真希
千里丘千紗
この五人だ。
俺とさつきは当然のことながらさつきに投票する。小森はともかく、和泉さんも小森に投票するだろう。
それはつまり……、千里丘先輩が全ての決定権を持っているということに他ならない!
ここに来て最悪の事態が訪れた。
先輩がさつきに投票するとは思えない……。
「さぁみんな、投票用紙を配るわ。それぞれ候補者の名前を書いてここに投票して頂戴」
生駒先輩は、すでに用意していたと思われる投票用紙を取り出し、全員に手渡した。
勝ち誇った笑みを浮かべながら、千里丘先輩が俺達を見た。
「あはははは、まさかこんな結果になるとはね。命乞いでもしてみる?」
「くっ……」
俺は投票用紙を握りつぶしたくなる衝動を抑えるのに精一杯だった。
「それでも俺は……。まだ諦めない。まだ……、信じている」
「信じる? この期に及んで何を信じるって? 神様にお祈りでもするっていうの?」
「違う! 千里丘先輩にだ‼」
「な……⁉」
「急ぎすぎたんだ。あまりにも急ぎすぎただけなんだ。だから……。俺はただ……、先輩の本当の気持ちを知りたかった……」
「……私の気持ちなんて、最初から決まっている」
……届かないのか?
……こんなにも遠いのか?
「ごめん……。最後まで迷惑かけちゃって……」
さつきが俺の袖を掴んでぼそりと呟いた。その瞳にはもう涙が浮かんでいた。
「修一は、普通の生活がしたかったって言ってたもんね。だから……、よかったじゃないこれで。……本当に……、ごめん……」
「馬鹿なこと言うな。お前が謝る必要なんてまったくない。むしろ、俺は感謝しているんだ。
いいんだよ。俺も本当は毎日が楽しくて仕方なかったんだ。何もないのがいいなんて嘘だ。誰にも邪魔されず、自分のペースで生きていくのがいいんだなんて、ただ逃げていただけだ。それを、俺に教えてくれたのは、さつき、おまえだろ。
俺達は精一杯やったんだ。胸を張って投票しよう」
「……うん。そうだね」
俺とさつきの投票用紙は滑るように投票箱に吸い込まれていった。
それぞれの想いをのせて……。
◆◆◆
「それでは開票を行います」
室内で全員の注目する中、開票が始まった。
この半月の間にあったことが、まるで走馬燈のように脳裏をよぎる。
登校初日のこと。
屋上でさつきと話し合ったこと。
小森芽依と出会ったこと。
選挙活動で校舎を駆けずり回ったこと。
千里丘先輩と図書室で対決したこと。
いろいろなことがあった。
今までの人生の中で、最も充実した毎日だっただろう。
後は全ての結果を受け入れればいい。
俺の気持ちはもう決まっていた……。
「結果を伝えます。
投票結果、四対一。
次期生徒会長は両備院さつきさんに決定しました」
え?
四対……一?
今、両備院さつきって……。
「さつき……」
「……うん」
さつきも状況がわからないまま戸惑っていた。
「生駒先輩……。どういうことですか?」
「聞いての通りよ。生徒会長は両備院さん。あなたに決まったわ。しっかりがんばってね」
生駒先輩がにっこりと微笑んだ。
「そんな……、私、ちゃんと……、芽依に入れたよ」
それは、他ならぬ和泉さんの声だった。
まさか……そんなこと……。
それじゃあ、さつきに投票したのは……⁉
困惑したまま生徒会室を見渡す。だけど、その姿は見あたらない。確か、ついさっきまでそこにいたはずなのに……。開票が始まる前にはもういなくなっていたということか……。
そこで、俺は我に返った。
さつきに投票したもう一人、小森芽依が目の前に立っていたから。
「小森……」
小森は、俺と視線を交わすのを確かめると、そっと口を開いた。
「私……ね。……途中から気づいてたんだ。私の自分勝手な理由でみんなに迷惑をかけているんじゃないかって……」
「何言ってるんだ。理由なんて関係ない。おまえほど生徒会長に相応しい奴はいない……」
そう言いかけた俺に、小森は小さく首を振った。
「ううん。そんなことない。結果が同票だと知った時、どうしようか本当に悩んだ。でもね、私にはないものが両備院さんにはあるの。
夢……かな。
両備院さんには夢があるから。だから……。みんなにも同じ夢を見て欲しい。羨ましかった。両備院さんは、いつもキラキラと光り輝いて、とっても眩しかったから……。わたしもそれを見てみたい」
迷いがなくなったというか、ふっきれたというか、小森はさっぱりとした笑顔でそう言った。
「小森さん……」
「頑張って。私も応援するわ」
一礼して、そのまま立ち去ろうとする小森の手を、さつきが掴んだ!
「待って! まだ行かないで‼」
生徒会室にさつきの大きな声が響き渡る。
「小森芽依。生徒会長権限により、あなたを今ここに、生徒会副会長に任命するわ‼」
その言葉に自分の耳を疑った。
「えっ⁉ おい、ちょっ、ちょっと待てよ。いきなりそんなことを急に……」
「いいのよ! 選挙はもう終わったの。生徒会長である私にはその権限があるわ!
この役職は小森さんじゃないと絶対に務められない。だから、やって欲しいの。お願い!」
「そんな……、でも……」
小森も突然の出来事に戸惑っていた。当然のことだ。まだ気持ちの整理もついていないだろう……。
その時、誰かがポンっと小森の背中を叩いた。
「受けなさい」
「生駒……先輩」
「何を迷う必要があるの?でなければ、私に挑む資格を永遠に失うことになるわよ」
「それは……、先輩……」
それは他の誰にも絶対真似のできない、そして小森の瞳に再び決意の灯りを灯すには十分過ぎる言葉だった。
「……わかりました。
やります! 是非やらせてください‼」
さつきと生駒先輩に向けられたその笑顔が、全てを物語っていた。
「私、いつか必ず先輩に勝ってみせます! それまで、先輩が私の目標です‼」
「いいわよ。いつでもかかってらっしゃい。ただし、私はとっても手強いわよ」
二人からとびきりの笑顔が零れた。
それは小森と生駒先輩、二人のわだかまりが解けた瞬間だった。
◆◆◆
俺はここにいないもう一人の姿を求めて、廊下に出ようとしたところ、生駒先輩が俺を引き留めた。
「大坂くん、ちょっと待ちなさい。
コホン……。
みんなも忘れてるかもしれないけど、続いて他の当選者の発表を行うわ」
「え?」
「あ……」
そのことをすっかり忘れていた……。
ひとつ咳払いをした後、生駒先輩は他の当選者の結果を発表した。
「会計は信任投票の結果、千里丘千紗さんに。
そして、書記は投票の結果……。大坂修一くん、あなたに決まりました」
「え……、お、俺が……」
「おめでとう。あなたはもう少し自分を評価してもいいかもしれないわね」
「はあ……」
まったく実感が沸かなかった。えーと……、こういう時はどう表現すればいいんだろう? わかんないな、そういう経験ないし……。
「よぉし、じゃあ次の人事を決めるわよ!」
「え? 俺のことはこれで終わり⁉」
「和泉麻美さん、あなたを庶務に任命するわ!」
「ええっ‼」
さつきは、驚く和泉さんの両手をしっかりと握るとそう言った。
「ここにいる全員が新しい生徒会になるの。みんなで一緒に頑張ろう。和泉さん、お願い!」
「りょ、両備院さん……。私なんかで……いいんですか?」
「もちろん!」
大粒の涙を浮かべながら、和泉さんは何度も何度も頷いた。
……まったく。二度目はもう驚かないぞ。なんだよ、最初からそのつもりだったのか……。
「今日が私達の生徒会執行部の船出よ!
いいこと。
わたしは、わたしのために、華やかで・愉快な・高校生活を送るために生徒会長になったの。
だからもう誰にも文句なんて言わせないわ‼」
おいおい、また始まった……。勝手なことばかり言うなよ。
強がりで。
自分勝手で。
意地っ張りで……。
だけど、もう再会したあの時とは違う、本当の意味で成長した両備院さつきがそこにいた。
◆◆◆
そんな中、生徒会室からこっそり抜け出した俺は一人、特別棟の廊下を歩いていた。
行き先は……もちろん。特別棟二階、図書室だ。
窓際の一番奥の机の指定席で、あの人は何事もなかったように、静かに本を読んでいた。
この本の壁は、きっと先輩の心の壁なんだと思う。
分厚くて、高くて。
俺が傍に立っても気にかける様子もない。
でも、そんなことは問題じゃない。
今の自分の気持ちをありったけぶつけるんだ。
「千里丘先輩」
「……何か用?」
「これをお返しします」
俺はあの時のナイフをそっと机の上に置いた。ゴトリ、と鈍い音が響き渡る。
「ほほう、自分から切り刻まれに来るとは殊勝な心がけだな」
「もう、それは勘弁してください……」
どんなに壁が厚くても、どんなに高くても、絶対に乗り越える。どんなに時間がかかってもかまわない。言い訳なんか聞いてやるもんか。先輩の心を開くまで……、俺は絶対に諦めない。
「先輩……」
だから、今日から始めるんだ!
「ありがとうございました‼」
今の気持ちを全部詰め込んで深々と頭を下げた。先輩の頬がみるみる赤く染まっていく。
「な……⁉ ば、馬鹿! なにを考えているんだおまえは! き、気が変わっただけだ。勘違いするな! 私はただ、おまえ達が苦しむ様を間近で見たかっただけだ!」
それでいい。俺にとってそれは満点の答えだった。
「……馬鹿だ、お前は」
「……そうですよ。先輩だってそう言ってたじゃないですか」
「くそっ……」
照れ隠しなのか、悔しそうにする先輩の姿を見て、やっぱり自分の行動は間違ってなかったと自信が持てた。
そんな時、先輩がポツリと呟いた。
「……お前は私の私情を知っているのだろう? なのに……、どうして?」
「俺は……、本当は何も知らないです。それにたぶん……、そのことは余り問題じゃなかったんだって、そう思うんです」
「……どういうことだ?」
「だって、さつきは最初から諦めてなかったから。必ずなんとか出来るって、そう信じていたから。だったら俺は、それを精一杯後押しするだけじゃないですか」
「……」
「さつきらしい答えでしょう?」
千里丘先輩は深く溜息をつくと、まるで他人事のように淡々と語り始めた。
「……私の母の名は千里丘美咲。おまえ達の母親の一つ後輩に当たる。この学校の生徒だった」
「先……輩……?」
「どういう経緯でこの街を離れたのか、詳しくは知らない。ただ、私を生んだ時、母はまだ十八歳だった。この学校も中退している……。
母はもともと病弱という訳ではなかったけれど、無理がたたったのだろうね。過労による急性心不全だった。あっけないものだった。
病院に行ったらどうかと、何度か話したこともあったけれど、働くのに忙しくて、それどころではなかったみたい……。
亡くなった後、家を整理しているとね、いろいろなものが出てきたのよ。その時まで、私は父親がいることを知らなかった……。
……おかげで両備院家は大騒ぎになったわ。DNA鑑定までさせられた」
「千里丘先輩……」
「それから……、私はこの町に連れてこられた。
私には、あの屋敷の門を潜ることは決して許されなかった。だから、あの中には、いったいどんな人が住んでいて、どんな生活をしているのだろう。
……いつもそう思っていた。
まだ同じ学校に通うだけなら見過ごせたかもしれない。だけど、私がいる生徒会にまで入り込もうとして。
ましてや生徒会長などと……。
……それがどうしても許せなかった」
「……」
「……それが全て。私をどうするつもり?」
「先輩、俺がここに来た理由はたった一つです。ただ……、お礼が言いたかったんです。今の自分の気持ちを全部伝えたかったんです。それだけです。
それに……俺、話が長すぎて、とても全部覚えきれませんでした」
「……お前?」
「もう、いいんです。それよりも、俺との約束、覚えていてくれていますか?」
「大坂……」
「一緒に……、生徒会をやって貰えませんか?」
先輩の手を取るように、手を差し伸べた。
その瞳の奥は、まだ戸惑いの色が残っていた。
その時、勢いよく図書室の扉が開いた!
「やっぱりここにいた。ほら早く、生徒会室に集合よ!」
さつきが中に飛び込んでくる。そしてその後ろに、生駒先輩もいた。
「千里丘先輩、その……。ありがとうございました!」
さすがに、千里丘先輩を前にして、少し緊張気味だったようだけど、さつきも深々と頭を下げた。
「ふん! そこの馬鹿が、私の下僕になるから、どうしても投票してくれって泣いて頼むから、そうしたまでよ!」
「な⁉ ちょっと、修一、今の話本当?」
「そ、そんなことあるわけないだろ!」
「いや、たしかにこいつは、私の為だったらなんだってすると、そう言ったぞ!」
「大坂くん、今の話は本当? それなら選挙管理委員として、今の台詞は見過ごせないわ」
「いや、ちょっと、生駒先輩まで真に受けないでください……」
図書館中に笑い声が広がった。
千里丘先輩だけは、ちょっと膨れっ面だったけど。
「生駒先輩。この件はこれで全て決着がつきました。
よって、生徒会長より通達です。今回の件については一切不問とします!」
それを聞いた先輩は、そっぽを向いたまま本の山の奥に隠れてしまった。




