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第Ⅳ話

遅筆は分かってたけど…こんなに書けないとは思わなかった…

夕飯の片つけを終えて、チコが居間にやって来る

お盆に珈琲を乗せているようだ

珈琲豆の良い香りが居間に広がる


「京太郎様!珈琲をどーぞ」


お礼を言って受け取ると、チコは近くに座った

TVは特に意味の無いバラエティ番組を垂れ流している

なんか気まずい…つか、黙ってTVを観てるチコが怪しい


「ちょっといいか?」


チコに問い掛けると「なんでしょーか?」と、こっちを見る

大人しいチコに違和感を感じるが、年がら年中はっちゃけてる訳ないか…


「妖怪社会の事を聞きたい」


ちょっと困った顔をしたチコ…

あれ?チコはジジィのトコで花嫁修業してたんだよな…


「えーと…概要程度でいいですか?」


「理由は?」


「京太郎様はまだお館様の跡継ぎになると決めた訳じゃないんですよね?」


そーだ…まだ決めてないっつーか、ジジィから打診もない


「妖怪社会には明確なルールはありません

人間社会になれた京太郎様には、無法地帯に感じるでしょう

力の強い者に従うのが妖怪です」


それは一応知っている

ジジィは誰よりも強い…だから日本妖怪の総大将なんだろ


「はい…だからシンプルな混沌…複雑で単純なのが妖怪社会です

基本的に東日本の妖怪は穏健派、西日本の妖怪は過激派と言われてます

過激派と言っても、人間社会を支配しよーとかじゃないですよ

妖怪の本分に忠実なだけですね」


よーするに悪戯好きの行動派か…


「その認識でいいです

妖怪達は一族で行動します

例えば赤マントや口裂け女、人面犬が全国的に有名になったのは、その一族の長が命令したからです

ちなみに彼らは西の妖怪ですよ」


住処は西でも行動は全国規模かよ…


「お館様の仕事は妖怪同士が争った時に、喧嘩両成敗にする調停がほとんどです

よーするに俺に逆らうのか?ですね」


ジジィに逆らうのは…無理だな…

それだけの力があるんだから、みんな黙るしかないだろう



「一族に掟がある種族もいるし、単一個体しかいない妖怪もいます

京太郎様にはあまり固定概念を持ってもらっても困りますので、概要程度でいいですか?と聞いたのです」


つまりだ…人間社会のよーに規律や法律、モラルなど…統一された枠がなく、唯一の共通概念が【強い者が従える】なんだな

一族で掟がある種族もいるが、あくまでローカルルールであり、他の種族にまで適用されない


「猫又一族には何か掟があるのか?」


「聞いた事ないですよ

基本猫は気まぐれですからね

ただし好きになった人には一途に尽くします

猫にはそーゆー特性もあります」


これは事実だったりする

猫は気まぐれだ

だが、一度心を開けば一途に尽くす

もし飼い猫が飼い主になついてないのなら、飼い主の行動がその猫の感性に合ってないんだ


チコの場合、子猫時代にカラスに襲われて死ぬかと思った時に、俺に助けられて惚れてたらしい

恩を感じるなら分かるが、惚れるとは…


まぁ…俺のとった行動が幼いチコの感性にクリティカルヒットしたんだ…って事なんだろーな…


「なんで急に妖怪社会の事なんて気になったんですか?」


「俺がどーしたらいいのか分かっただけだよ」


チコは首をかしげている

しかし分かった

分かっていたが、確信したと言うべきか…

ジジィの思惑もなんも全部吹っ飛ばすには、俺がジジィより強くなればいいんだ


そう…俺がジジィより強くなり、ジジィをぶっ飛ばした後に、それからの道を決めればいい

そーすれば、それはジジィの思惑じゃなく、俺の意思だ

この決断すらジジィの思惑かも知れない

しかしノるのはそこまでだ

その後は自分の意思で決める

青臭い事を言ってると思うが、そーしなきゃ俺は何も決められない…と、思う


「お館様は今の京太郎様が敵う相手じゃないですよ?」


「今のだろ?」


「言い方を変えます…今のあたしにも勝てません

こー見えてもあたし強いんですよ」


チコが…今まで猫又とは何度か知り合ったが、強いと思うよーな奴はいなかったぞ?


「言うよりも見せた方が早いですよね

ついて来てくれます?」


チコと二人で近所の公園まで来た

何やら印を切り妖力を解放する


「人払いの簡易結界です

結界の効果で公園の中に、外の人は一切興味を示しませんし、入っても来ません

ホントーは、術系が得意なんですが、今回は術も使いません」


チコが構える

まるで空手の構えのよーな姿だが、纏う妖気が猫又とは思えない…

なんだ…これは…


「覚醒の行…特殊な秘術で肉体のみ仮死状態にします

完全に死ぬ前に意識のみで術を解く修行

これは9割以上の確率で、受けた妖怪は死にますが、成功すれば強大な力が手に入ります

他の花嫁候補は修行を拒否しましたが、能力的に見劣りするあたしだけは受けました

そして花嫁候補に選ばれました…」


何故だ!花嫁になるのに、そんな強さが必要なのか!?


「妖怪社会は強い者に従う世界ですよ

嫁の存在が弱点になったら、それは弱いのと同じです

総大将候補の嫁と言えば、それなりの実力が必要なんです

覚醒の行はお館様の…つまり鬼神の一族の秘術中の秘術ですから、やり遂げた猫又はあたしだけですよ」


と、笑うチコ…どんな想いで、過酷な修行を乗り越えて来たんだ…


「お館様には遠く及びませんが、日本妖怪でなら10番目くらいの実力はあります

思いっ切り来て下さい」


それからチコには、怪我をしない程度の手抜きレベルの投げを散々食らった

格闘戦じゃ全く敵わない…体捌きすら見れない


「食らえ…鬼哭…」


不発だった…放とうとした全周囲放出系の妖術は、音もなく近付いたチコの足払いで中断され、しかも地面に叩き付けられないよーに腕を捕まれ、そっと地面に降ろされる


「ダメですよ

そんな術使っちゃ…あたしは無事でも、服がボロボロになっちゃいます」


これでも無事なのかよ…


「京太郎様だけなら構わないけど、帰り道に他の人に見られるのは我慢できません

家でなら、脱げと言われたら脱ぎますし…それ以上もウェルカムなんで、家まで我慢して下さいね」


脱げなんて言わねーよ…


「つか、妖怪ならあたしに従えって言えばいいじゃねーか…

俺より強いんだし…」


「そんな事言いたくありません」


チコはあらかさまに不機嫌なよーな傷ついたよーな顔をしている

初めて見る表情だった…


「あたしは京太郎様が好きなんです

それだけで辛い修行も乗り越えて来ました

それは京太郎様のお役立つ為で、従える為じゃありません」


「悪い…失言だった…」


自分が情けない…


「それにこんな事をしたのには意味があります

京太郎様のポテンシャルは、あたしより遥かに上です

あたしに敵わないのは、それの使い方を知らないだけ、あたしで良ければ教えて差し上げますよ」


教師役をしてくれるっつー事か…

それで自分の実力を俺に教える為に、こんな組手のマネをしたのか…


「それであたしが捨てられる結果になっても構いません…京太郎様のお役に立てるなら…」


チコが呟く…あぁ…自分を花嫁候補から外す為に、俺が強くなると言ってると思ってるのか…


「俺が強くなりたいのは、ジジィの思惑通りになるのが嫌だからだ

チコを捨てるなんて、欠片も考えちゃいない」


「えっ…それって…」


フルボッコにされてるのに、これ以上言えるか!

後はジジィをブッ飛ばしてからだ


「あの京太郎様?」


「帰るぞ…明日から戦い方を教えてくれ…

いや…教えて下さい…お願いします」


頭を下げる


「頭を上げて下さい

あたしでいいなら喜んで教えます

それでさっきの言葉の意味は…」


「じゃあ帰るぞ…」


「ここでスルーされると、あたし判断に迷うんですけど!

例えば、今晩京太郎様が入ってるお風呂に、突撃していいのかどーかとか!」


「それは迷わずすんな…」


「京太郎様は意地悪ですぅ…」

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