第2話
「出掛けるぞ~早くしろよ」
「待ってくださいよ~
色々準備があるんですぅ
勝負下着とか…」
だからそれはいらんだろ…
部屋から出てきたワンコは黄色に青のチェックのミニスカートに赤いパーカーと言う…ちょっとバランスの悪い感じだ
「京太郎様~勝負下着ですよ~」
だからスカートをまくるな!
「そーゆーのは勝負かける時まで見せない!」
「えぇ…可愛いのに…」
女子の言う「可愛い」には色んな意味がある
だから素直に「可愛い」と受け取るのは間違いだ
理屈ではなく直感的な言葉ではないか…と、俺は思う
まぁ…そんなの男が言う「カッコいい」も同じだろーけどな
女子が言う可愛い物に、男はさほで感銘を受けない
例えばサ◯リ◯のキ◯ィ…俺にはシンプルな猫の絵にしか見えないから、なんであんなに人気があるか分からない
分からないが人気があるのも確かだ
あのリボンを付けたリンゴ3個分しか体重のない猫の女の子は、女子の感覚にストライクなんだろう
それさえ分かれば問題ない
要は理屈じゃないんだって事だな
「ほら…早く行こうぜ」
「分かりましたよ…せっかちなんだから…
大丈夫ですよ~京太郎様がちょっとくらい早くても、若いからしょーがないって、あたしは責めませんからね」
なんの話だ…全く…
「脳内シミュレーションはバッチリです」
サムズアップするな!
「分かったから出掛けるぞ…ダメ猫」
「はぅ!ワンコから更にランクダウンしましたよ!」
当然だろ…
最低ランクは駄猫だからな
ちなみに外では様付けで呼ぶなと言ってある
なんと呼べばいいと言う質問に、好きしろと答えたら「ダーリン」と呼びやがった
語尾にだっちゃでも付けて、虎縞ビキニで彷徨く気かよ…
文句を言ったら「親戚の女の子と言う設定ですから『京君』でいいでしょうか?」と聞いて来たので、シブジブOKした
うちの天然入った母親が俺をそー呼ぶんだよなぁ
「どこに行くんでしたっけ?」
ダメ猫が歩きながら聞いてくる
覚えてないのかよ…
「本屋と昼飯だよ」
ダメ猫が腕を組んで首を傾げている
足りないオツムで何を言い出すやら…
「あの…もし成人指定の本を買うなら、あたしにも見せて下さい
どーゆーポーズが劣情を煽るのか参考にしますから」
誰かこいつを教育しなおしてくれ…
多分俺には無理だ…
「買う本の候補に猫の躾方が加わったよ」
「酷くないですか!?」
いや…ガチだと思うぞ…
つーか必要だろう
「あっ…調教って事ですか?
ちょっと初心者にはハードルが高いよーな…でも京君が望むなら…いたっ!」
取り合えずデコピンで黙らせました…
「痛いですよ~そんな事するならあたしにも考えがあります…」
へぇ…どうする気だよ?
「京君が部屋に隠してある本を最新号からバックナンバー順にきちんと並べて、机の上に置いといてあげます」
土下座してもいいですか…
つーかどんな羞恥プレイですか…
「はぁ…今日買うのはな
最近遊んでるゲームの攻略本だ…
詰まって先に進みやしねぇ」
「あぁ…あの小さいゲーム機ってやつで遊んでるあれですか…」
ワンコはゲームってやつをイマイチ理解していない
「欲しい本があれば買ってやるから、成人指定のない本にしてくれ…」
なんて不毛な会話をしてたら、本屋に着いてしまった
「本がいっぱいありますぅ」
と、瞳を輝かせるワンコ
田舎暮らしだったから、大きい本屋は珍しいのだろう
キョロキョロしながら棚の間をウロチョロしてる
取り合えず攻略本を手に持ち、雑誌コーナーで立ち読みする事にした
しばらく立ち読みしてると「これが欲しいです」と、ワンコが本を渡して来た
「却下でお願いします…」
ワンコが持って来た本には『意中の彼を落とす黒魔術』と書いてある
いや…これはないだろ?
書いてあるのはデタラメだろーか、万が一本物があればマズイ
つーか呪いレベルじゃねーか…
「大丈夫です!大おば様から、術の素養はあると言われてますから、マスターしてみせますぅ」
なおさらダメじゃん!
大おば様っつーのはジジィの家に住む、猫又の最長老の事だ
猫又の最初の一人と言われてる猫又だ
そんなのにお墨付きを貰ってるなんて絶対却下だ…
「呪術系から離れて下さい」
次にワンコが持って来たのは、アイドルバンドのキーボード担当と、2世料理研究家がダベりながら料理を作る番組のレシピ本だった
「和食は得意なんですけど、洋食や中華はあまり知らないので、レシピ本があればと思って…」
この番組は俺も好きでたまに見て料理したりしてる
両親があまり家に戻ならないから、家事は得意になってしまったのが悲しい
ワンコから本を受け取り、会計を済ませると両手で本を抱きしめ、嬉しそうにしているワンコを見た
「なんか嬉しそうだな?」
「だって京君に初めて買って貰ったモノですから…」
なんだ…そんなに喜ぶなら、もっと気の効いた…って、俺は何を考えている!?
ワンコを受け入れた訳じゃない
いや…友達なら躊躇いなく受け入れるし、恋人なら考える
しかしワンコは花嫁候補としてやって来たんだ
しかもジジィが選んで…きっとワンコも知らないジジィの思惑があるに違いないんだ
あの妖怪ジジィを舐めちゃいけない
ガキの俺の考えなんて簡単に読むだろうし、駆け引きで対抗しようなんて間違いだ
しかしワンコは良くも悪くも一生懸命で、邪険に扱えない
暴走気味で頭痛の種だが、嫌いじゃないんだ…
一週間暮らしてみて分かった確信がある
ワンコは俺が振り向くまでずっと待つ気でいる事だ
誘惑しようと暴走しても、強引な事はしないだろう
ワンコを喜ばせるのも、苦しめるのも俺次第って訳か…ジジィ恨むからな…
「どーしたんです?」
「世の中の不条理を嘆いてた…」
「泣くならあたしの胸で泣いて下さい!さあ!!」
早速暴走しやがった…
「胸?どこ?」
「はぅ!どーせ貧乳ですよーだ!」
胸を押さえて涙目になった
感情の起伏が豊かな奴だなぁ
「安心しろ…俺はグラマーより、スレンダーの方が好みだからな」
ぱぁっと表情が明るくなるワンコ
「分かりました!頑張ってスレンダーでカッコイイお姉さんになります!」
無理だろ…カッコイイからワンコはかけ離れてないか…言うと落ち込むだろうから、黙ってるけど…




