第二夜★誰かのスイッチは突然押される
今回は國桜高校について、少し書かせていただきました。
長いのは嫌という方やそんなのいらないという方は、どうぞナレーションはすっとばしてください。
それでは、どうぞ~。
1
昨日は早く来すぎたため流石に反省し、今日は五分早めに登校した。でも、結果的には変わらず、学校の敷地に入っても人の気配をあまり感じられない。
廊下を歩いてもやはりひっそりとしていて、廃校のような印象がある。入学二日目で思うことじゃありませんね。
教室に着いて扉を開ける。すると意外なことに男子生徒が一人、すでに登校していた。
男子生徒は僕の姿を視界に入れると嬉しそうにこちらへ歩みよってきた。
「いやー、良かった。早く来すぎて一人でいる間ずっと暇でさ。話し相手が欲しかったんだ。お前確か森羅悠夜だよな?」
「はい。あなたは神薙亮ですよね?」
「おう」
「何でこんな朝早くに? まあ、人の事言えませんが」
「いやー、朝練があるかと思って早起きしたら、まだ野球部に入部してないのすっかり忘れてたわ」
そう言えば、神薙くんは昨日の自己紹介の時趣味は野球で、國桜高校の野球部に入部すると告げていた。でも、國桜高校は体育系、文化系どちらも今日の放課後からの入部となっている。
「ところで悠夜、お前は何か部活入るのか?」
「いえ、これと言って決めてませ」
「なら、野球部だ!」
僕の言葉を半ばさえぎると、神薙くんは目をキラキラさせながら断言した。
「決まっていないなら、断然野球部だっ。野球はいいぞ。仲間と共に輝かしい汗を流し、夕日に向かって夢を叫びながら走る。これぞ青春!」
熱くなった神薙くんが熱い内容を暑苦しく語る。って、本当に熱いっ。
「あの、神薙くん。のってるところ悪いのですが落ち着いてください。陽炎だって出てますっ」
「ん? おお、悪い悪い。俺って魔力高い方だけど、コントロール微妙だからさ。で、野球部入るか? 見たところお前って筋肉ついてそうだし、充分エースは狙えるぞ」
反省しつつも、しっかと入部の意見を聞いてくる。けど、神薙くんの観察眼に驚いた。服の上から見ただけじゃわからないけど、毎日の筋トレと師匠の特訓のおかげでマッチョとは言えないが筋肉はそれなりについているし、引き締まっていると思う。
野球について(必要以上に)熱く語ってくれた神薙くんには申し訳ないけど、入る気は毛頭ないのでしっかり自分の意思を告げなければならない。
「あの神薙くん」
「よし、放課後は一緒に野球部の顧問へ入部届けを出そう」
「聞いてくださいっ」
おかしい。なぜこのやり取りで、入部届けの話しになるのか。話しがおかしいのか、神薙くんの頭がおかしいのか。
「そうじゃなくて、ちゃんと聞いてください。――僕は野球部に入りません」
僕の言葉を耳にした瞬間、神薙くんがものすごい勢いで落ち込み床に手をついた。頬には涙も伝い、なんだか非常に申し訳なくなってきた。
「なぜだ、なぜなんだ! どうしてお前は野球を否定するんだ!?」
「いや、否定はしてないのですが……」
聞いてませんね。
はあ、あまり言いたくはなかったんですが……
「神薙くん。僕が野球部に入らないのは、それなりの理由があるんですよ」
「理由?」
僕は神薙くんの頭を見る。
「野球部って基本短髪じゃないですか」
そう、野球部員は機動性や熱中症対策として、髪を根元近くまで切っている。事実、神薙くんはスポーツ刈りではないが、ずいぶんと短めだ。とてもじゃないが、今の僕はまだこのヘアースタイルを崩す気はない。
神薙くんはしばらく僕の長髪を見ていると、
「なんだそんなことか。心配するな、悠夜。ここにちゃんと……」
いつの間にか神薙くんの手には
「カミソリ持ってるから」
違いますから!!
神薙くんはどうやら、僕が散髪をめんどくさがっているだけだと勘違いし、カミソリを手にしながら必要に頭部を攻撃してきた。
僕はどうにかそんなに広くは無い教室の中を逃げつつ、必死の説得でとりあえずは諦めてくれた。不承不承。
「頼むよー、入部してくれよー」
カミソリはしまったものの、まだ勧誘する気はあるようだ。
「いいだろう。お前が入ってくれればマネージャーが二人も入るんだから」
「入りません。というか、マネージャーが入るとはどういうことですか?」
「だって付き合ってんだろ? 月弦と霧坏と悠夜」
「………………はい!? なんでそんなことになってるんですっ。いや、まずどちらとも特別な友人関係を築いていませんよっ」
「え、そうなのか? でも、お前が二人の手を引いたまま下校、その勢いでファミレスに連れこんだって1年D組の間で持ちきりの噂だぞ? 誰か本命か、それか二人ともか。どうなん?」
「どうなんって、一緒に帰って食事をしたのは事実ですが、恋仲等ではありませんっ。というか、クラス中に知れ渡っているんですか?」
「なめんなよ、俺らの情報収集能力及び情報伝達能力」
「誇らしげに言わないでください。人のプライベートをなんだと思っているんですか」
「そう言わずに頼むよ。月弦と霧坏の彼氏であるお前が入れば、あの二人もマネージャーになってくれるから」
「彼氏ではありません。というか、なんであの二人がマネージャーに?」
「野球部の彼女ってみんなマネージャーだろ?」
「……その考えは安易すぎる気が」
「とにかくっ。部員になるか、マネージャーになるかどっちか選べ」
「僕の人権はどこに?」
その後、他の生徒が来るまで僕と神薙くんの噛み合わない論争が続いた。
何か部活入りましょうかね、野球部意外で。
2
いつの間にかクラスメイト全員が登校し、チャイムを合図に着席した。
けれど、担任は現れない。
もしかして、また欠席?
僕がそんなことを考えていると、扉が開く。入ってきたのは我がクラスの担任ではなく、五十嵐先生だった。
正確に言うのなら、五十嵐先生が押してきた台車に人を乗せて入ってきた。
服装は秘書を思わせる女性もののスーツ。けれど、ところどころに皺が目立っている。髪も綺麗なのに無造作に束ねているだけだ。
(誰?)
そんな疑問が頭をよぎると、五十嵐先生が衝撃的なことを言った。
「瀬野先生、瀬野先生。起きてください。教室に着きましたよ」
呼ばれた名前を聞いてギョッとした。
瀬野樹伊。
それがこのクラスの担任の名前なのだ。
「う~ん」
名前を呼ばれて意識が覚醒したのか、ゆっくりと瀬野先生が起き上がった。顔を見ると結構整っている。そんな彼女の第一声、
「マスター、ハイボール一つ」
駄目だ。ここをバーか何かと勘違いしてますよこの人。まだ飲む気なのでしょうか?
そんな瀬野先生を見て呆れながら、五十嵐先生は
「では、私は戻りますのでちゃんと職務をまっとうしてくださいね」
念を押すように五十嵐先生が退出。瀬野先生は、頭を押さえながら
「あー、痛てて。それじゃあ、委員決めだな。まずはクラス委員長。誰かやりたい奴いるか?」
今日は一時間目に委員決め。それからの昼休みまでは普通授業。午後は部活動紹介がある。
クラス委員長と聞いたとたん、クラス中が息を殺し、しんと静まり帰った。まあ、みんながみんな面倒な役職に就きたくないのはわかる。僕? これ以上厄介事はごめんです。
「誰かやらないのか? 早く決めてくれ、頭がくらくらするんだ」
それはあなたが飲み過ぎたからでしょうっ、と脳内で一人呟いていると誰かが挙手をして立ち上がった。驚いたことにその誰かとは神薙くんだった。
「俺は悠夜がやった方がいいと思いますっ」
「よし、他にいるか? ……他に候補がいないようなので我がクラス委員長は森羅となった」
…………はい?
「ちょっと待ってくださいっ。僕はやるなんて一言も言ってませんよ!?」
「そりゃあ、そうだ。言い出したのは神薙なんだからな」
「どうして推薦がありなんですか? そんなの聞いてませんよっ」
「まあ、落ち着け。お前には見えないのか? クラス40人プラス一人の教師からなる、お前に期待しているぞという輝いた眼が」
「クラス40人プラス一人の教師からなる、こいつに押し付けようという淀んで濁った眼なら見えますけど?」
「そう言うな、一番大変なのは副クラス委員長なんだぞ。ただでさえ面倒だし、無能な上司の尻拭いまでしなきゃいけないんだから」
「押し付けられてる挙げ句に無能呼ばわりまでされた!」
……酷い。僕がいったい何をしたと言うのでしょうか。
「ちょっとみんな、いくらなんでも可哀想だよっ」
「そうですわ、もっと悠夜さんの意見を尊重するべきです」
そう助け船を出してくれたのは、玲さんと恋華さんだった。ああ、人間不信に陥りかけたところへこの言葉。涙が流れそうです。流れませんけど。
「ちなみに副クラス委員長(二人)はクラス委員長を手取り足取りサポートできるぞ」
「「悠夜くん(さん)がいいと思います!」」
「お二方!? どうしたんですっ」
瀬野先生の話しを聞いたとたん、二人は手の平をあっさりとひっくり返した。本当に人間不信になりそうです。
「で、森羅。異論はあるか?」
「もうどうでもいいです。疲れました」
「そうか、では今日から森羅がクラス委員長だ。みんな、拍手」
そうして沸き上がる盛大な拍手。なんだかここまでされると、むしろ癪ですね。まあ、怒ったところでしょうがないですが。
「じゃあ、よろしく頼むぞ。私は頭痛がするため保健室で睡眠――休養を取ってくる」
「先生、明らかに保健室のベッドで寝る気ですよね? というか、もう何しに来てるんです」
「私には構わなくていいから、後の委員決め頼んだぞ」
「是非そうさせていただきます。僕も頭が痛くなる前に」
僕はため息をつきながら、瀬野先生と入れ換わるように黒板の前へ立つ。
「それでは、次は副クラス委員長を」
『はい!』
手を上げたのは玲さんと恋華さんでした。元気いいですね、羨ましい限りです。
3
四時間目終了のチャイムが鳴り、今は昼休み。
疲労感のせいで体重が標準の二倍ほどに感じる。
原因はクラス委員長になったからだ。最初は面倒事の少なそうな役職につこうと考えていたのに……。
「悠夜さん、昼食ご一緒にしません?」
「一緒に食べようよ」
机に額を付けて無気力に時間を潰していると声をかけられた。声の主はもちろん、恋華さんと玲さんだ。二人はお互いに同じタイミングで口を開いたことに気付くと、キッと睨み合った。すごいシンクロ率ですね。実は双子とかでしょうか。
「悠夜くん」
「何か失礼なこと考えてませんでした?」
「滅相もございません」
失礼かどうかはわからないけど、本人にとって色好い回答でなかった場合の報復が怖いので無難に回避する。
「ふーん。まあ、いいや。それより早く食べようよ」
「でしたら、お一人でどうぞ。悠夜さんは私と食べますから」
「そんなことないよね、悠夜くん。友達と一緒に食事をするのは普通だよね?」
いつの間にか僕に決定権が握らされていた。これってあれですか? 一方を味方すれば、一方と敵対してしまう。そんな針のむしろ。今僕が陥っている状況はそれなのでは。
二人を改めて見る。どちらの手にはかわいらしい弁当の包みを持っていて、綺麗な瞳に眼光が眩しいほど輝いている。怖いほどに。
「――三人で食べましょう」
どちらかを敵に回す勇気など僕にはなく、こんな提案しかできなかった。
「まあ、悠夜くんがそう言うなら」
「そうですわね。このままでは昼休みも終わってしまいますし」
良かった。なんとか丸く収まってくれて。二人は近くの机を僕のに繋げてテーブルを作ると、弁当を広げた。さて、僕も弁当弁当。
「え?」
「悠夜さん、それ全部食べるんですか?」
「そうではけど。どうかしました?」
「いや、だって重箱だよね、それ」
玲さんは僕の重箱(弁当箱)を指差しながら、まるでUMAでも発見したかのように僕を見る。
「これぐらい30分弱あれば食べ終わりますよ」
「すごい胃袋だね。朝ごはん食べてその量?」
「もちろんです。三食毎日食べるのは健康の基本ですよ? さあ、食べましょう。いただきます」
僕が食べ始めると恋華さんも手を合わせ続ける。けれど、玲さんは何故か弁当を開けずにじっと睨んでいるだけだった。
「どうかしました? 具合でも優れないんですか」
「駄目ですわ、そんなに詮索なさっては。女が食事を取り立がらない理由なんて――」
「紛らわしいこと言わないでよっ。一応作ったんだけど……」
嫌々という感じで弁当のふたが開けられた。中身を見た瞬間、玲さんが渋っていた理由が良くわかった。
白米は弁当の半分を占め、焦げた肉らしきものや一口サイズの野菜が残り半分に詰められていた。
お世辞にも上手とは言えないできばえでした。
「「…………」」
「せめてなんか言ってよ!」「僕には玲さんを傷つけることなんてできません」
「ボキャブラリーの乏しい私を許してください」
「……どう転んでも私が傷つかないという選択肢がないのはよーくわかったわ」
玲さんは明らかに落ち込んでしまいました。どうしましょう?
「玲さん。そんなに気落ちしないでくださいよ。僕の手作りミニハンバーグ、良かったら食べませんか?」
「え?」
僕の提案に玲さんはきょとんとした表情で僕と重箱の中のハンバーグを交互に見た。
「……悠夜くんの手作り……」
「あの、いりませんか?」
「いやっ、食べるよ。うんっ。是非とも頂戴」
「わかりました」
内心で良かったと思っていた。玲さんが立ち直ったのもそうだけど、誰かに自分の作ったものを食べてもらえるのはとても嬉しい。
「では、どうぞ」
「いや、人の弁当箱に箸をつけるのは良くないと思うからさ、……悠夜くんが食べさせてよ」
律儀なんですね。僕はそんなの気にしませんのに。
「わかりました。どうぞ」
「うん。あ~ん☆」
ハンバーグを一つつまみ、雛鳥に餌をあげる親鳥のように玲さんの口へ運ぶ。
「お味はいかがでしょうか?」
「う、うん。とても美味しいよ」
「それは何よりです」
玲さんの笑顔から好評なのは本当のようだ。けれど、頬に赤色が浮かんでいる。昨日作っておいたハンバーグには、発汗作用はないはずですが。
「……」
楽しそうに咀嚼している玲さんの隣では、対称的に恋華さんはムスッとしていたけれど何かを閃いたのか、箸で自分の弁当箱にあるミートボールを一個つまんで、
「あ~ん♪」
昨日のように食べさせてくれるのでしょうか? 美味しいそうですし、いただかせてもらいましょう。
「いただきます」
「どうぞ」
「もぐ。?」
ミートボールを口に入れると恋華さんは、箸ごと口内へ押し込んだ。別に、苦しくはなかったんですけど……。
「あの、どうしたんです?」
「い、いえ。なんでもありませんわ。私にも一口いただけません?」
「構いませんよ。どうぞ」
「あ~ん♪」
今度は僕が食べさせると、恋華さんは顔を赤くしながら口を動かしている。……やはり、僕のハンバーグには発汗作用があるのでしょうか。
ハンバーグを飲み込むと恋華さんは自分の弁当へ箸をのばす。そこへ、
「その箸どうするの?」
玲さんの声で箸がピタリと止まる。
「ど、どうするも何も私は自分の箸を使うだけですわ」
「ふ~ん」
「な、なんですの?」
「別に。ただ、霧坏さんって結構やらしいんだなって」
「何を言ってるんですのっ? そんなことは料理の腕が少しは上達してから言ってください」
「関係ないでしょ!」
あれよあれよと言う間に口喧嘩にまで発展してしまいました。この二人、仲とか相性が悪いわけではないのに、どうしてこうやって歪み合うことがしばしばあるんでしょうか? 二人とも止めてください。クラスの皆さんが雰囲気に怯えていますから。だから視線をぶつけて火花を散らさないでください。
「お、あんだけ否定してた割には仲いいじゃん。一緒に弁当なんか食べちゃって。憎いね、このー」
場の空気を読まずに僕の脇腹を小突いたのは、今朝知り合い理不尽な目に合わされた神薙くんだった。購買に行ってきたのだろう、手にはパン等を入れた紙袋を持っている。そして彼の友人だろうか。二人の男子生徒が神薙くんの横で興味深そうにこちらを見ている。
「おー、修羅場かニャ? いやー、たった一日でフラグを立てるなんて大したもんだニャー」
金髪に眼鏡をかけた男子生徒――天宮響くん。自己紹介で、自分はハーフだと言っていたのを覚えている。まあ、外見よりもその口調の方が特徴的ですが。
「で、結局どっちと付き合ってるんだニャ?」
「あなたもそんなことを言うんですか」
「ちなみにクラス中に情報と噂を流したのこいつだぞ」
「歯を食いしばってください」
「ちょっ、ばらすなよ亮っ。あと、お前さんはその握り拳で何する気ニャ!?」
「多少の記憶は飛ぶかもしれませんが、我慢してくださいね?」
「無表情なのが一層怖いニャっ」
「情報と噂ってなんですの?」
逃げようとする天宮くんの襟首を掴んでいると、いつの間にか喧嘩(?)を終えていた恋華さんが会話に加わってきた。
「あー、お前と月弦。どっちが悠夜の本妻かって話し」
「なっ」
神薙くんのいらない説明で、恋華さんの顔が真っ赤になってしまった。何故かは知りませんが。見れば玲さんもよほど驚いたのか、箸を落とし口をパクパクさせている。
『…………』
僕の周りの空間で沈黙が生まれる。玲さんと恋華さんはそわそわしながら、たまに僕を見てはプイッと視線を反らす。神薙くんと天宮くんはそんな僕らをニヤニヤしながら傍観者気取りで見ている。なんだかムカムカしますね。
「……それぐらいにして食事を再開したらどうッスか?」
そう提案したのは神薙くんと一緒にいた二人目の男子生徒だ。今まで黙々と食べていたが、助け船を出してくれた。彼の名を刈柴大地。今の僕には非常にありがたい援護です。
「そ、そうですわね。時間は有限なことですし」
「うん。残るのはいけないもんね」
おかしな雰囲気になっていた二人は食事を再開。神薙くんと天宮くんもつまらなそうに購買で購入したパンを口に運ぶ。
僕は箸を動かさず、刈柴くんに頭を下げて礼をのべる。
「素晴らしい鶴の一声、ありがとうございます。おかげでこの通り事態を鎮静できました」
「いやー、さすがに見ていて可哀想だったスから」
そう言って楽しそうにサンドイッチを口にする。見ていて安心感を感じ、なんだかすごい新鮮です。これが日常なのでしょうか。
「いえ、本当に助かりました。僕の周りの人はどういうわけか、無駄に個性的で対応に困るひとばかりですので」
「そういう評価をくれるのは嬉しいッスけど、後ろ見た方がいいッスよ?」
「はい?」
そう言われて振り向くと、怒りに身を震わす二人の女夜叉+αがいた。
「――無駄に個性的?」
「対応に困るとはどういう意味でしょうか?」
「俺は熱いだけだっ。野球に対する情熱は永久機関だ!」
「まー、自分がアブノーマルなのは認めるけどニャ~」
やぶ蛇でした!
「あの、聞いてください」
「「悠夜くん(さん)?」」
「はい、なんでしょう」
とても、あなた方のことではありませんとは言えませんでした。
4
午後には予定通り、部活紹介が行われた。
内容は各部活動の練習場所や部室へ一年生が足を運んで、上級生の説明を受けるというもの。ちなみに、A~D組は文科系、E~H組は体育系からの案内になっている。
(不本意ながら)クラス委員長になった僕はクラスメイトを誘導しながら、文科系の部活の設備が整っている文科教室棟へと向かう。國桜高校はこの他にも、生徒の教室がある普通教室棟、家庭科室や実験室からなる特殊教室棟、体育系の部室や設備がある体育教室棟からなっている。ちなみに、食堂は普通教室棟の、体育館は体育教室棟の隣に建っている。
文化教室棟は一見ただの校舎だが、中身は違っていた。新入生勧誘を意識してか、ところどころ装飾がされ部活を紹介した貼り紙等が壁に貼ってあった。
最初に行った料理部ではクッキー等のお菓子が振る舞われた。僕も一口いただきましたがなかなか美味しい。
「玲さんはこちらに入るんですか?」
先ほどまで熱心に上級生の話し聞いていた玲さんに尋ねる。
「えっ、う、うん。そうしようかなって。初心者歓迎って言ってたし。ここでなら、料理も上達できそうだし」
よっぽどお昼のことが応えていたのでしょうか。恥ずかしそうに、うつむいてしまいました。
「頑張ってくださいね」
「うん。ありがとう。……それでね、上達したらでいいんだ。その時は、私の手料理――食べてくれる?」
身長の関係でしょう。上目遣いの彼女はとても魅力的で
「わかりました。その時を楽しみにしています」
思わず後押ししてしまいました。
「うん。私頑張るから!」
笑顔でガッツポーズをする玲さん。僕はそれとなく調理台に目を向ける。
……やっぱり包丁は使いますよね?
調理場に笑顔で立ち、手には包丁を持つ玲さんを想像して思わず寒気がした。……応援しておいてなんですが、大丈夫ですよね?
料理部を後にしたD組一向は次に吹奏楽部が準備している音楽室に向かう。音楽室は第一と第二があり、吹奏楽部は第一に、軽音部は第二に待機しているらしい。
二つとも漫画でありがちな敵対関係とかはなく、のほほんと構えていた。両者とも素晴らしい演奏とパフォーマンスで、僕らを迎えてくれました。天宮くんは軽音部のメンバーが6人だったことに、何故かショックを受けていましたが。
思わずアンコールしたくなる吹奏楽部と軽音部を後にして畳の敷かれた和室へと移動する。
畳が約30畳分ほどもある広い部屋では、茶道部である和服姿の先輩が出迎えてくれた。そこでは和菓子をご馳走になり、立候補した数人が実際にお茶をたてたりしました。最後に部長さんが、座る時の作法から飲み方まで実に品が有って綺麗な茶道を見せていただきました。
クラスのみんなが正座だったため退出する頃には大勢の足がしびれ、僕を含めた数人しか動けませんでした。恋華さんも大丈夫だったようですが、立ち上がっても廊下に出ようとはせずお茶の道具を魅いっていました。この、反応は……
「茶道部に興味があるんですか?」
「あら、悠夜さん。そうですわね、興味というより懐かしい感じがします」
そう言われて思い出す。良家である恋華さんの実家はとても広く、当然のように和室がある。恋華さんはそこに先生を招き、茶道を教わっていた。小学生の頃の話しですが。
「そう言えば一度、恋華さんの家でお茶を振る舞ってくれたことがありましたね。とても美味しかったです」
「それよりも私はびっくりしましたわ。まさか悠夜さんが作法を存じていたなんて、予想もしていませんでしたから」
「本で読んだことがあるんです」
「どんな本を読んだんです? まあ、昔からあなたは何をやっても万能でしたから。はぁ、あの時美味しいお茶を振る舞ってびっくりさせようと思いましたのに」
「どうか、しました?」
「いえ、別に。でも和服もそう言えば最近着てませんわね。中学では着る機会なんてありませんでしたし」
「そう言えば恋華さんの和服姿、とても似合っていましたよね。今でももちろん似合うと思いますが」
家と招かれお茶をいただいた時、恋華さんは明るい色の和服を着ていた。身長が伸び大人びた今でも、いや今の恋華さんの方が和服がとても似合うと思う。
そんなことを思って口を開くと、恋華さんは頬を真っ赤にしうつむいてしまった。あれ、逆鱗に触れてしまいましたでしょうか? 表情をうかがうように、恋華さんの顔を除きこむと、突然手を取られた。振りほどける程度だが、その力は強かった。
「私、茶道部に入りますわ」
「それは良かったですね」
「それで、もしよろしかったら、悠夜さんも一緒に――」
「はいはい。みんな復活したし、次のところ行きましょ」
いつの間に近くにいた玲さんに背を押された。そう言われて、みんなが廊下に並んでいました。クラス委員長を待っているようなので、駆け足で列の先頭へ向かう。
『……本当に邪魔をいたしますわね、あなたは』
『私だって誘えなかったんだから、あんただけいい目は見させないわよ』
『ウフフ』
『アハハ』
僕の後ろでは玲さんと恋華さんが笑っている気配がした。でも、なんででしょうね。異常な寒気と恐怖を感じるのは。
その後もいろいろな部活を回った。ごく普通に耳にするものや、初めて見たユニークなものも多数存在して驚かされた。
途中、美人の先輩に詰め寄られて玲さんと恋華さんに睨まれたり、時折やけにテンションの上がった天宮くん(漫画研究部という部活の案内だった頃が一番すごかった)を神薙くん達で静めたこと以外は、何事もなく進んでいった。
いよいよ文科系最後の部活案内となり、魔法学実験室へと向かう。
「やあ、ようこそ。私が実験部部長だ。ここでは、魔陣獣や古代の魔法の研究。その成果を定期的に報告しあってもらう。何か質問はあるだろうか?」
「具体的にはどんな魔陣獣を管理してるんッスか?」
刈柴くんが勢い良く手を上げたかと思うと、すらすらとよどみなく質問を口にした。まるで質問タイムを待っていましたと言わんばかりの、手際の良さでした。
「あいつ、魔陣獣マニアなんだってさ」
神薙くんが横で耳打ちしてくれた。なるほど。目がすごいキラキラしてると思ったら、暴走状態の神薙くんと天宮くんと同じ目をしてますね。
……彼もやっぱりまともではありませんでしたね。僕の周りにはどうしていろいろおもしろすぎる人が集まるのでしょうか? もしかしたら、僕が引き寄せているのでしょうか。だったら結構ショックです。
刈柴くんはまだ質問していて、女部長さんも快く答えています。しばらくそんな光景を眺めていると、
「っ!」
目が合ってしまい、部長さんがニヤリと笑う。その瞬間、殺気とは別なトラブルでも起きそうな、言い様のない恐怖と不安が襲ってきた。
……今のは忘れましょう。
「移動しますので、そろそろ退出してください」
クラスメイトを促し、そそくさと魔法学実験室を出る。
その間ずっと、部長さんが僕を見ていた気配がしましたが、気のせいだと信じたい。
僕らD組は一旦靴を履き替えると、運動部が待っているグランドへと足を運ぶ。
「とうとう野球部の時代が来たー!!」
「まずは陸上部からですよ」
次回は部活動紹介の後半と生徒会長との絡みがある話しと考えています。
今回も悠夜くんは七転八倒でしたが、あれが基本だと思ってください。主人公不幸体質はもはや王道ですからね(笑)
それでは、感想やご指摘、キャラへの質問がありましたらどうぞお願いします。感想は特に嬉しいです。
では、次回まで失礼します。さよなうら~