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第一夜★出会いと再会、それは日常の奇跡

 交信すごい遅れました。初心者故に失敗してしました(涙)



 それでは、どうぞ


  1


 僕の朝は早い。

 毎朝の恒例となっている筋トレをし、汗をシャワーで流す。継続は力成り。いい言葉だと思う。

 その後は朝食作り。ご飯にネギと豆腐の味噌汁。それと焼き魚の和食。シンプルだけど、それなりに納得のいくものができた。料理を覚えてもう10年になり、いつの間にか趣味の一つになっていた。師匠に言わせると僕の腕前は


『八星シェフも裸足で逃げ出す腕前』


だそうです。誉めてくれるのは嬉しいですが、八星ってそんなのありましたっけ、師匠?

 食べ終わると食器を洗い片付け、自室へと戻り登校の準備をする。準備と言っても制服に着替えて鞄の中身を確認するだけなので5分くらいで終わってしまった。特にやることもないのでそのまま登校することにした。

 全ての窓の戸締まりを確認し、靴を履き玄関を出る。


「いってきます」


 と言うのをもちろん忘れずに、扉を閉めて鍵をかける。

 まだ早い時間帯らしく、通学路には人影が見当たらない。

 アストラルにやって来て一週間、家の周辺や学校までの道のりは頭の中にインプットされている。おかげで迷うことも、トーストをくわえた女子生徒ともぶつからずに無事学校へとたどり着いた。

『学園都市アストラル』

 最高理事長5人が治める四大学園都市の中の一柱。日本圏内にも関わらず外国からの入学生も多く、学生人口が異様に高い。何よりも驚くのはその校舎の数。高校のものだけでも20校以上あり、小中を合わせると数えきれない。建設途中の校舎もあるというから、つくづくアストラルの規模に驚いてしまう。

 僕が通うのはアストラル第四高等学校國桜(くにざくら)高校。名前の通り桃色の花弁が当たり一面を舞い、校舎やグラウンドを鮮やかに彩っている。

 玄関の前には大きめの掲示板があり、新入生のクラス分けが掲示されていた。僕の名前はD組の欄にあった。ちなみに教室への案内図もあり、1-D組へと移動する。学校へ入るさい、掃除をしていた用務員さんに登校が早過ぎて驚かれてしまった。



  2


 もちろんと言うべきか、D組はおろか他の教室にも他の生徒はいなかった。

 僕の席は一番後ろの一番右側。教室の後ろにあるドアに近い。というか、隣。近いので良しとしましょう。

 しばらく自分の席に座って今日の昼と夜の献立を考えたり、今読んでいる推理小説の真犯人を活字の情報だけで推理していると、黒板側のドアが開き女子生徒が入ってきた。

 女子生徒は僕を発見するなり驚きに顔を染め、こちらまでやって来た。


「あ、あの。一週間前に駅で会いましたよね?」


 そう言われて思い出す。

 一週間前。

 僕がアストラルにやって来た日に駅で落とし物のハンカチを拾った。

 あの時は私服姿だったのでわからなかったが、今目の前にいる女子生徒はあの時のハンカチの持ち主その人だった。


「ああ、あの時の」

「はい、そうです。くどいようですけど本当にありがとうございました。あのハンカチ、入学祝いでもらった物だったから。拾ってくれて本当に良かった」

「そうでしたか。それならば、手助けできて良かったです」

「私は月弦(つきづる)(あきら)。よろしくね。……あの、ところで敬語やめていいかな? なんだか慣れないし。君も使わなくていいからさ」

「お心遣いありがとうございます。でも、この喋り方はこれが素になりますのでどうかご了承ください。僕の名前は森羅(もりあみ)悠夜(ゆうや)と申します。名の意は森羅万象(全て)の(とお)き夜となります」

「へぇー、綺麗な名前だね」

「ありがとうございます。けど、良く僕とわかりましたね。あの時はそれほど会話もしていませんのに」

「いや、だって森羅くんを一度見たら早々忘れることはないと思うよ?」

「と、言いますと?」


 僕ってそんなに目立ちましたっけ?


「見た目が奇抜というか。男子で長髪ってだけでも珍しいのに、眼帯とマスクのせいで全然表情わからないもん」

「そんなものですか」


 僕自身、自分の身なりについてあまり考えたことありませんからね。


「うん。正直狙ってるの?、って思っちゃうくらい。そうしてるのって何か意味あるの?」

「ありますよ」


 こうしている意味はもちろんある。この長髪にも、この眼帯にも。


「じゃあねマスクはどうして着けてるの? 花粉症?」


 どうでしたっけ? この数年で着け初めたのは覚えているんですが。記憶力はいい方ですのに。


「じゃあ、外したら? そのままじゃ怪しいもん」

「……わかりました」


 怪しいと言われたことにショックを受けつつ、マスクを外してゴミ箱へと捨てる。

 僕がマスクを外すと、月弦さんはわぁと驚いたように声を上げた。


「……森羅くんって隠れイケメンだったんだ。しかも中性的な女の子顔っ」

「あの、どうかしました?」


 ぶつぶつと呟いているが、何を言っているのか聞こえない。


「え、いや、何でもないよ。でも森羅くんはそのままの方がいいよ。うん、決定っ」

「わかりました」


 評価されているのに、言外で絶対着けるなと言われた気がしました。何でしょうかね、この言い様のない圧力。


「でも良かった。このクラスで最初に知り合えたのが森羅くんで」

「そこまで言って貰えて恐縮です」

「ううん。そんなことないよ。私ね、内気だからさ。誰かに話しかけるのって正直苦手なんだ」

「そうだったんですか」


 意外だった。一週間前に面識があったにすれ、とても明るい感じで会話していた。そんな月弦さんが内気というのは、あまり想像ができなかった。


「うん。だからね、昔からあんまり友達できなくて」


 僕も友達と呼べる間柄の人はあまりいなかった。まあ、大半が僕を避けたのが原因ですが。


「それでね、小学生の頃はイジメられたこともあったんだ」

「そうだったんですか。あの、ところで何でそんな物を手にしてるんですか?」


 おもむろに自分の過去を語りだす月弦さん。

 それはいいとして、いつ間に取り出したのか月弦さんの手には良く研がれた刃物――包丁が握られていた。


「それで耐えきれなくなって、わたしがこんな風に『もうやめてっ』って言ったんだ」


 こんな風とは包丁を持ちながらと言うことですか?


「それでね。イジメはぱったりやんだの。でもね、その後はあまり友達もできなかった。なんか、イジメとは違うけど私避けられてて」


 月弦さんには悪いですが、そうなるのは妥当だと思います。親によってはろくに刃物を触る機会のない当時の小学生にとって、月弦さんは恐怖の象徴だったんですね、きっと。


「卒業するまでには友達はできたんだけど、クラス替えとか中学校に入学する時とかはとても怖かった。特にアストラルは地元とかじゃないし、知り合いなんて全然いないから本当に不安だった」


 僕も不安です。主に今の自分の安全が。


「ねぇ、森羅くん」


 瞳は虚無色。月弦さんは据わった目線と包丁の先を僕にむけ、


「――森羅くんは、私と友達になってくれる?」

「なります。ぜひならせていただきます。例えこの肉体が滅びようとも僕と月弦さんの絆は不滅です」

「本当に? ありがとう! じゃあ、私のことは玲って呼んでね。私も悠夜くんって呼ぶから」

「……了解です」


 僕がなんとも言えない恐怖の中、間髪入れずに答えると雰囲気が一変、僕に満面の笑みを向ける月弦、いや玲さん。

 茶色がかったソバージュヘア、他者に優し気な印象を与える容姿。そんな彼女が微笑めば、大輪の花が咲いたような華やかさがあった。僕の鼓動もドギマギしてしまい、こんな部分が僕にも残っていたのかと不思議に思うほどでした。

 それよりも僕は包丁の方が気になっていました。僕の友達宣言を聞くと同時に包丁はポケットにしまわれた。あの、そんなとこにはいるんですか? というか、常備しているんですか? 等とは聞けない。好奇心が生存本能に負けた瞬間だった。

 目の前でニコニコしている玲さんに気付かれないよう心の中でため息をつく。

 自分はこの学園で非日常から離れたはずだ。なのに、どうしてつい数分前に戦場と間違うほどの緊張感を味わなければいけないのか。


 ヤンデル


 この娘はヤンでいる。どこがと言うより、根本がネジ曲がってる。今はデレッと笑っているが、玲さんからはうすら寒い恐怖を感じる。

 僕の高校生活友達第一号の月弦玲さん。

 彼女がヤンデレという聞き慣れないカテゴリーに属すると知るのはもう少し先の話し。



  3


 しばらく玲さんと話していると、ちらほらと他の生徒も教室へ入ってきた。

 席の近いものと親交をとろうとする者、新しいクラスに緊張を隠せない者、席に座って担任が来るのを静かに待つ者。気付けばいろんな人がクラスに集まっていた。ちなみに僕は一人で机に座り、玲さんは他の女子生徒と楽しそうに話している。包丁を使わずに親交を深められたようで僕はとてもうれしいです。

 時計がその時を刻んでチャイムが鳴る。けれど、先生はやってこない。他の生徒も不思議そうに扉を見ている。

 誰もが不審がる中10分経過。不意に扉が開き初老の男性が入って来た。このクラスの担任でしょうか。


「えー、まずは皆さんに謝らなければならないことがあります」


 クラス中のみんなが遅れたことへの謝罪かと思った。僕も思いました。でも、


「このクラスの担任である瀬野(せの)樹伊(きい)先生ですが、今日は二日酔いの為欠席になります。明日には来られると思いますので、どうかご了承ください」

『………………』


 クラスのみんなが絶句。ぽかんと男性教諭を見る。

 入学式当日にバックれるのも充分いけないのに、来ない理由が二日酔いってどうなんですか、瀬野先生?


「本日は私が臨時担任をさせていただきます。世界史担当の五十嵐(いがらし)百峰(ももたか)です。どうぞよろしくお願いします。では、遅くなりましたが、これから自己紹介に移りましょう。出席番号一番の方から前に出てお願いします」


 なんだかやっと『クラス』って感じになって来ましたね。

 クラスメイトの自己紹介を聞いていると、なかなか個性的な人が多いようだ。ウケを狙う人もいれば、淡々と思いもよらぬ趣味を暴露した人もいた。……なんだかにぎやかになりそうですね。いろんな意味で。

 出席番号40番の人の自己紹介が終わり僕の番になった。どうしましょう。苦手なんですよね、こういうの。趣味や特技と呼べるものは持ち合わせていますが、口に出して言うことでは。おまけにクラスのみんなが『最後なんだから何かおもしろいことを』オーラを惜しげもなく出している。期待しても何も出ませんよ?

 正直に言えば気が進まない、けれどいつまでも待たせるわけにはいかず、重たい腰を上げなるべくゆっくりと自己紹介をする黒板前へ移動する。ちらりと見れば玲さんが『頑張ってね』とばかりにウィンクをされました。応援してくれるのはうれしいですが、プレッシャーはより増しました。

 死刑台の階段をのぼる気持ちで黒板の前へ立ち、回れ右。早々に自己紹介をして席へ戻る算段でしたが、総勢40人の目線が僕に集中。思わず怯んでしまった。


(大丈夫。大丈夫です。ここは学園都市アストラルの中の第四高等学校國桜高校の一年D組の教室。なんの危険もないたかが生徒40人ではないですか。大丈夫。普通にこなせばいけます。ファイトです、悠夜)


 やっぱり緊張していたのでしょう。若干取り乱した僕は自分に喝を入れると、深呼吸を一回。自己紹介を始める。


「皆さん初めてまして。僕の名前は森羅悠夜。森羅万象の上二文字に、悠然の夜で森羅悠夜です。名前の意は森羅万象(全て)の(とお)き夜です。趣味は読書と裁縫。特技は料理に掃除です。若輩者ですがどうかよろしくお願いいたします」


 言い終えると同時に腰を折る。耳をすませば自己紹介が終了した者へ平等に送られる拍手が聞こえる。

 僕は頭を上げると足早に席へと戻る。その際『家政夫?』『女の子かと思った』『あいつ本当に同学年か』等聞こえてきた。無難にこなしたつもりですが、反応はイマイチのようですね。はぁ。

 五十嵐先生は僕と入れ替わるように黒板の前へ立つと


「それでは、これから体育館で入学式が行われます。体育館までは私が誘導しますのでついて来てください」


 その言葉でクラスメイト一同は席を立ち、五十嵐先生の後をついて行く。

 体育館には既に上級生がいるらしく、移動は一年だけだったが全部で9クラスもあるためそれなりに混雑した。

 大きな入り口をくぐると吹奏楽部による演奏と紙吹雪が出迎えてくれた。結構凝ってますね。

 先生の指示の元、一年生がクラスごとに並ばされた。ちなみに、一年生が前半分。残りを上級生がややきつそうに座っていた。先輩はいろいろ大変ですね。

 司会進行役の教師が入学式始まりを告げ、校長先生らしき人(おそらくズラ装着)が壇上に立ち挨拶を述べ、学生にとって全くありがたくない話しが15分くらい続いた。眠い。

 校長先生の話しが終わると次は新入生代表が挨拶をした。どうやらこの学校に学年トップの成績で入ったらしい。まあ、定番ですよね。

 同級生の言葉はそれなりに共感するものがあったのか、耳を傾ける人もいたが、あまり熱心に聞いているようには見えない。

 5分弱で新入生代表の挨拶も終了し、次は上級生代表として國桜高校の生徒会長が挨拶することを司会が告げた。

 その瞬間。

 それまであまりやる気のない拍手か司会に促された礼しかしなかった上級生が、まるでここがワールドカップの会場かと錯覚するほどの歓声を上げた。

 唖然とする新入生一同。もちろん僕も先輩の豹変ぶりに目を丸くしていた。一体何が彼らをこれほどまでに変えたのでしょうか?

 原因はすぐにわかった。


「新入生諸君」


 いつの間にか壇上に立っていた生徒会長が静かに告げる。

 鈴を鳴らしたような透き通る声。聞き惚れるのには十分な美声だが、それだけではないだろう。

 艶のあるサラサラな髪はポニーテールに結われ、雪を思わせる白い肌に浮かぶ整った形の鼻梁と柔らかそうな唇。瞳は大きくまつ毛も長い。文句のつけようがない美少女(生徒会長)がそこにいた。


「アストラル及びこの國桜高校への入学おめでとう。我々上級生は心から歓迎しよう」


 あれほどうるさかった上級生が水を打ったように静まりかえっている。生徒会長の言葉を一言一句聞き漏らさないつもりなのだろう。現に新入生のほとんどが熱心に耳をすましていた。


「國桜高校、アストラルに来たからには様々なことが起きるだろう。その中で自分の『青春』をしっかりとつくり、たくさんのことを学んで欲しい。以上で私の話しは終わりだ。では、良い高校生活を」


 そう言って生徒会長が綺麗なお辞儀をすると、再び割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

 新入生もしっかり上級生に交じって拍手を送っている。僕はというと、自分の列へ戻っていく生徒会長をボーっと見ながら、ペチペチとやる気のない拍手をしていた。気合い入れると手のひら痛くなりますからね。

 直視とは言わなくても、生徒会長のことを見ていたせいか綺麗な姿勢であるいていた本人と目が合った。


(?)


 司会が生徒会長がちゃんと戻ったことを確認すると、入学式が終了を告げ一年生から退場となった。

 出口となった扉をくぐる時も吹奏楽部の演奏と紙吹雪で再び彩った。

 教室へ戻る際、他の生徒はまだ興奮が冷めないのか生徒会長の話題で持ちきりだった。

 僕も廊下のすみを歩きながら、生徒会長のことを考えていた。正確に言うなら彼女と視線が交差した時のことを。


 あれってやっぱり僕のこと睨んでましたよね?



  4


 教室へ戻ると今日はこれで解散ということだった。ちなみに上級生は体育館の後片付け及び午後の授業があるようです。先輩は本当に大変ですね。

 五十嵐先生は明日の連絡事項を言い、プリントを数枚配ると早々に立ち去った。なんだか本当に忙しそうですね。幸うすそうなところとか、親近感がすごく沸いてしまう。

 僕も特にようがないので帰り仕度をしていると不意に声をかけられた。


「――ゆーくん」


 声のした方を向けば、整った容姿に指通りの良さそうな髪をストレートにした女子生徒が立っていた。玲さんを優しげとするなら、こちらはおしとやかで爽やかな感じのする美少女だ。


「あ、あの、私のことを覚えていらっしゃるでしょうか。小学生の頃は二人で良く遊んだ中なのですが……」

「ええ、覚えていますよ。カレンさん」


 僕が昔のあだ名を口にすると女子生徒――霧坏(きりつき)恋華(れんか)さんは表情を喜色満面にした。


「けれど、よく私だとお分かりになりましたね」

「僕からして見ればあなたが僕のことを覚えていた方が驚きです。あなたの小学生時代は平均的記憶力が下の方にありましたからね」

「む、昔のことですわっ。そんな風に過去をほじくり回さないでください」


 しかし、驚きました。まさかこんな形で旧友と再開するとは。昔はあまり大差なかった身長も、今では……かわりませんね。まあ、僕の背丈は一般男子高校生のそれよりも低い方なので、仕方ないと言えばその通りですね。


「あの、これから帰られますか?」

「ええ。特にすることもありませんし」

「なら、ご一緒してもよろしいですか?」

「構いませんよ」


 と、いうわけで一緒に下校することになった。教室へ出るなり、


「これからは恋華とお呼びください。私も名前でお呼びしますわ」

「わかりました、恋華さん。あの、これでいいですか?」

「はい♪」


 こんなやりとりがあり、下の名で呼び会うことになった。その時から恋華さんはとてもニコニコしながら僕の隣を歩いている。……距離が近くないでしょうか。あと半歩ずれればお互いの肩があたるくらい近いので、なんだか落ち着かない。

 玄関口まで来ると、不意に恋華さんの表情が強張った。


「どうかしましたか?」「悠夜さん、私たちどうやらつけられています」

「え、そうなんですか?」


 だとしたら、なんででしょうか。僕は悪目立ちしたり、誰かに目をつけられるようなことはしていないはずですが。


「犯人を撒きますのでどうかついてきてください」

「えっ、あ、はい」


 そう言われて恋華さんに手を握られ誘導される。しばらく校内をぐるぐる歩いた後、資材置き場と思われる部屋に入った。


「あの、追跡犯を撒くのは賛成ですが、何故部屋に? そのまま学校へ出た方が」


 窓の景色を見ながら、問いかける。そんな恋華さんは答えずに扉の鍵をしめる。


「あの、恋華さん。どうして施錠を?」

「駄目ですわ、悠夜さん。そんな無粋なことを言ってしまってわ……」


 恋華さんはそう口にすると妖しく微笑み、こちらに歩いてきた。何故か僕は言いようの無い違和感を感じ、後退するもすぐに背中が壁についてしまう。横に動こうにも恋華さんが僕を挟むように両腕を壁につけた。女の子一人を押しのけるのなんて造作もないのに、なんでかできなかった。恋華さんの瞳の輝きから目をそらせることができなかった。


「ふふふ、悠夜さんったら。あの時よりも可愛らしく、かっこよくなられて……。もう溜まりませんわ」


 恋華さんは唇を舌で湿らすと、僕の首筋に口をつけた。


「ひゃあやっ」


 首筋を這う暖かい唇と舌の感触に思わず声を上げてしまう。

 全身に力が入らず、抗うという意識が徐々に薄れて消えてゆく。

 そんな僕の状態を知ってか知らずか、恋華さんの両手が胸と太股を滑らすように撫で上げる。


「ちゃぷ、んん、あむ、あん、ちゅる」

「ら、らめれす。そんな、んっああ」

「クス、そう言ってもかわいい顔してまわよ。じゅる、れろ」

「あひゃうぅっ。れ、恋華ひゃんっ」

「んぅ、あむ、ん、じゅる……なんですか、悠夜さん」

「こ、こここういうのは。だだ、駄目です」


 僕が必死の説得を試みるも、恋華さんはただ妖しく微笑むと耳元ギリギリまで顔を寄せると、


「悠夜さんこそいけませんわ、自分に正直にならなくてわ」

「ひゃうぅぅぅっ」


 今度は耳を噛まれた。電流のような刺激が脊髄を直撃し、脳がぐにゃぐにゃに溶けたような錯覚に陥った。

 そんな僕を見ると恋華さんは悪魔のごとく笑うと、


「では、一緒に気持ち良くなりましょうね」


 ズボンのベルトを外しにかかった。駄目だ、という考えが頭をよぎるがピンク色の霧がそれを邪魔した。

 そして、ベルトが外されそうになった瞬間――大きな破砕音と共に扉が壊れ、玲さんが入ってきた。


「あ、玲さん!?」

「悠夜くん、大丈夫?」

「なんなんですの、あなたは?」


 先ほどの妖艶な表情から一変、突然の乱入者へ不満を隠さずイライラした様子で静かに睨む。


「それはこっちのセリフよっ。こんなところで何をしてるのっ」


 玲さんもそれに怯むことなく包丁を恋華さんに向け言う。あの、刃物を人に向けたら危ないですよ。というか、あの扉って包丁で破壊したんですか?


「えーと」


 僕はというと完全に腰が抜け、床に情けなく座っている。あれ、おかしいですね。お二人の殺気が徐々に増している気が……。

 僕と玲さんと恋華さん。

 なんとも言えない恐怖の三角関係が出来上がってしまった。


「全くストーキングだけでなく、こんなところにまでこられるなんて」

「え。僕たちをつけてたのって玲さんだったんですか?」

「ひ、人聞きの悪いこと言わないでよ。友達が変な人と歩いてたら、誰だって気になるでしょっ」

「そんなこと言って、私と悠夜さんの仲がうらやましいんじゃなくて?」

「う、うるさいわよ。この痴女!」

「なんですって!」


 止める間もなく、口喧嘩にまで発展してしまった。

 仲裁しようとするも、二人の剣幕に押されて口をはさめない。

 一人で帰ろうかなとも思い足を動かすも、その瞬間二人に『どこへ行く』的な目で睨まれてしまい、動けないでいる。

 ああ。女性は怖いって本当だったんですね、父さん。

 終わりの見えない戦いに終止符を打ったのは、意外なものだった。


『ぐぅぅぅ~』


 ……お昼時ですものね。


「私は違いますっ」

「違うからね。全然違うからねっ」


 僕の方を向いて、二人が息を合わせて言う。この場での否定は肯定と一緒ですよ、とはもちろん言えない。変わりに、


「僕もお腹すきましたし。何か食べにいきましょう」


 言うが早いが二人の手を引いて、無惨な扉を踏みつけ学校を後にし、近くのファミレスへと避難する。移動していた間ずっと、二人の顔が赤かったですけど、息でも上がったのでしょうか?

 店内は運良く空いた席が有り、店員さんに四人掛けの席へ案内される。

 着席する際玲さんと恋華さんが軽い小競り合いをおこし、結局僕と向かい合う形で二人が席についた。何を争っていたんでしょうね?

 メニューを見て全員が食べるものを確認してから店員を呼ぶ。僕は鰈の煮付け定食(ご飯のおかわり自由)で玲さんはハンバーグ、恋華さんは麻婆豆腐をそれぞれ注文。……和・洋・中の三種類をメニューに入れるとは。このファミレス、やりますね。

 料理を待つ間は自然にトークタイムとなった。最初は険悪と思われた女子二人の仲も、話しているうちに打ち解けたのか楽しそうにお喋りしている。ちなみに僕は積極的に話しに加わらず、基本受け身の姿勢を取った。苦手なんです、フリートーク。


「へぇー、じゃあ中学の時からアストラルに住んでるんだ、霧坏さん。食事とかはどうしてたの?」

「私は中学生時代の時も寮で生活していましたから、基本食堂ですましてました。でも、月に二、三回は友達と一緒に調理場を借りて料理に挑戦したこともありましたわ。食堂でも結局お金を払うわけですから、料理の腕を磨いても損はありませんでしたわ」

「そうなんだ。悠夜くんはどう。料理が趣味だっていうし」

「僕も基本は自炊にしようと思っています。アストラルに来る前からそうでしたから」

「うーん、やっぱり私も料理覚えようかな。コンビニとか寮の食堂ばっかりだとお金すぐなくなりそうだし」

「まあ、本は初心者向けのがありますからそれをオススメします。あ、どうやら料理が来たようですわ」


 蓮歌さんの言った通り、店員さんが巧みな技で三人分の料理を運んで、テーブルへ並べてくれた。

 鰈の煮付けを口に運んで咀嚼。うん。この味は充分、合格ラインですね。しっかりと煮汁が身にまで染みて、ふんわりとした歯ごたえが心地いい。他の料理も当たりのようで、二人とも美味しそうに食べている。


「悠夜さん、悠夜さん」

「はい?」

「あーん☆」


 恋華さんに呼ばれたかと思うと、麻婆豆腐がのせられたれんげが目の前にあった。食べさせくれるのでしょうか? なら、素直にいただきましょう。美味しそうですし。


「いただきます。パクッ」


 あ、やっぱり美味しいですね。とろみ加減もちょうど良く、辛さ上手い具合に効いている。


「おいしかったですか?」

「はい」

「ふふふ、良かった☆」


 なぜかご満悦の恋華さん。その横では、


「っ。(ザクッ)悠夜くん、あーん」

「い、いただきます」


 今度は玲さんが食べさせてくれた。けれど、ナイフに刺さったものをもらった為正直怖かった。あと、玲さんの目も。


「美味しい?」

「はい」

「良かった♪」


 嘘です、すいません。怖くて味がわかりませんでした。

 僕もお返しをしようとするも、鰈の煮付けはとっくに胃袋の中でした。よっぽど食べたかったらしく、二人は酷く落胆していた。

 食べ終わると、ファミレスの迷惑になるので長居はせず、その場で別れることになった。


「それでは、悠夜さん。失礼します」

「悠夜くん、また明日ね」

「さようなら。帰路お気をつけて」


 こうしてやっと、僕は家へと足を運んだ。あ、スーパーによらなくては。



  5


「……疲れましたね」


 時間は23時44分。もうすぐ、4月8日火曜日が終わろうとしている。

 掃除から洗濯まですべての家事を終わらせ、自室に戻り布団を敷き消灯して横になっている。

 天井見ながら考えるのは今日あったこと。本当にいろんなことがあった。


 玲さんと知り合い、生徒会長に睨まれ、恋華さんと再会。その後、玲さんと恋華さんと三人で食事――


「誰かと一緒に食事をしたのって久しぶりですね」


 馴れない日常は心身ともに疲れた。

 でも、それ以上に


 楽しかった


 心が弾んだ


 笑える気がした


 自分自身、まだ僕の中にそんな人間らしさが強く残っているのに深く驚いた。でも、悪い気はもちろんしない。


「……明日も何かおこるのでしょうかね」


 変化を喜んでいるのか、それとも疎んでいるのか。

 どちらかはまだわからない。

 でも、それが必ず訪れるのなら受けてたつしかないのでしょうね。


 ――『日常』はどこまで楽しませてくれるか。まあ、期待しましょう。


 目を閉じて闇へと意識を沈める。

 眠りへと墜ちるのに時間はいらなかった。

 長めかもしれませんが、基本これくらいのペースで進めたいと思います



 あと、これからは主要人物が出る度にキャラプロフィールを書きたいと思います。



 感想、ご意見、その他もろもろありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

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