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プロローグ★そして時計の針は廻りだす

 初めてまして


 初投稿になります


 この物語に興味を持ってくださって本当にありがとうございます


 文才不足の自分ですが、自他も満足できるよう頑張ります


「はぁ」


 少年の口から、今日何度目かになるのかわからない溜め息がこぼれる。

 全8両からなる汽車の最後尾の車両の、一番後ろの席。対面式で四人まで座れる座席だが、座っているのは少年一人だけだった。強いてあげるなら、この車両には少年しかいなかった。単純にすいているだけなのだが、例え乗車人数が多くても、思わず他の車両に移ってしまいそうな、なんとも近づき難い雰囲気が少年からはにじみ出ていた。

 少年の服装は、上から下まで黒で統一され、他の色がいっさい見られない。加えて、春先にも関わらず見ていて暑苦しいと思えるほど肌を出していない。両手には手袋という徹底ぶりだ。そしてその顔も右目の眼帯と口をすっぽり覆うマスクのせいで表情というものが全くわからない。

 唯一の美点とも言える長く伸びた黒い髪は、女性のそれと思わせるほど美しく艶がある。それ単体ではとても魅力的なのだが、少年が装備するとむしろ不気味さがますのが不思議なくらいだった。


「はぁ」


 少年は左目を僅かに横に向けて、流れる風景を写し出す車窓を見る。

 天気は快晴。柔らかな陽射しが街を照らす光景は絵になっているのだが、そんなものでは少年の憂鬱を晴らせない。むしろ憂鬱を加速させていた。

 しばらく視線を車窓に向けていると野良であろう白い猫が一瞬視界に入り、すぐに風景と一瞬に流れて消えていった。


「……そう言えばあの時も」


 そう言ってまぶたを閉じる。

 脳裏に焼き付いた猫から過去を連想し、自分の中の憂鬱とこの汽車に乗った原因を思い出した。



 ~~過去・記憶~~



 話しは約半月前にさかのぼる。

 少年が暮らしていたのは一つの地方都市。首都圏ほどとはいかなくとも、それなりの発展を遂げていた。

 事の発端はそんな地方都市の住宅街に面した大通り。


『ひったくりだ!』


 声のした方をむけば、目元を隠すように帽子を目深(まぶか)にかぶった男が走っていた。左手には盗品と思われる高そうなハンドバッグ。右手には魔法でも使ったのか火で刃が燃えている大振りのナイフが握られていた。

 休日の昼下がり。場所と時間帯もあってそれなりに人はいたのだが、誰もが刃物への恐怖心から道を避けるばかりで止めようとする者は出て来ない。


(まあ、そうなるでしょうね。ナイフと言っても充分に殺傷能力はあるわけですし、盗人が全くの素人という可能性も捨てきれない。魔法を使うにしても、発動する前にばれてしまい反撃をくらってしまうのがおちですね。こんな白昼堂々と反抗に及ぶのですから無警戒という訳でもないでしょうし。おまけに体術を心得ている人もいなさそうですし、よほどの正義感の持ち主でなければ立ち塞がる人はいないでしょう)


 一通りの評価を終えると少年のすぐそばにもひったくり犯が迫っていた。やはり止めようとする者は出て来なかったようだ。

 少年も他の通行人のように体を端によせ、ひったくり犯に道を開け渡す。

 自分の前を横切る瞬間、足を前に出すのを忘れずに。


「あがっ!」


 全力疾走していたのが(あだ)となったのだろう。少年の足につまずいてひったくり犯は盛大にこけた。

 少年はうつ伏せ状態で地面に倒れている盗人に素早く近づき容赦なく足でその背中を踏みつける。そうするとまるでひっくり返った亀のように身動きが取れなくなり、ナイフを振り回すものの文字通り空回りに終わってしまう。

 ひったくり犯は大声で騒ぎながら首を最大限に稼動させ、少年の方を向くと目を見開き硬直してしまった。

 その視界に写ったのはつまらなそうに自分を見下ろす隻眼の少年と高く上がった片方の足。

 声一つあげる間もなく、上げた足を鉄槌の如く落とされたひったくり犯は完全に気絶してしまった。

 少年が足を引っかけてから一分もしない内に犯人は伸びて動かなくなった。

 しばらく呆然としていた通行人も事件が解決したことを理解すると、歓声を上げ口々に少年を褒め称えた。

 少年はそんな周りの変化を無視して、火の消えたナイフとバックを手に持ち盗品の持ち主を探す。すると、こちらへ駆け寄って来た老婦人の姿が目に入った。どうやら持ち主が自分からやって来たようだ。

 少年は無言でバックを返そうとするが、突然バックが動いたことに驚き手を止めた。バックの中から出現した白い何かが老婦人の元へ飛び付いた。


「……猫?」


 だった。老婦人は白猫を抱き抱えると涙を浮かべながら頬擦りし始めた。猫をひとしきり愛で終わると少年へ声をかけた。


「礼を言うのが遅くなってしまってごめんなさい。ありがとう。本当に助かったわ。こんな老体じゃ満足に追いかけることもできなくて。でも、本当に良かったわ。あなたのような勇敢な人がいてくれて」

「いえ、思いつきで足を引っ掛けたら運良く転んでくれて、それで本に書いてあったことを思い出して実行しただけです」「そうなの。でもチーちゃんを助けてくれたことには変わりないわ。お時間大丈夫かしら?良かったらお礼をさせてくださいな」


 少年は老婦人の好意に甘えることにした。バックを返し、盗人の身柄とナイフは少年の通報でやって来た警官へ引き渡して二人は移動することにした。




 場所は変わって喫茶店。老婦人に連れられて入店し、窓側の席でお互いに向かいあって座っている。ちなみに猫はバックの中で大人しくしている。

 少年はホットコーヒーを、老婦人はミルクティーをそれぞれ注文する。

 定員が注文を読み上げ、オーダーを伝えに行くため席を離れる。それを見るやいなや、老婦人が話しかけてきた。


「あなた歳はいくつ? みたところ、私の孫と変わりないようだけど」

「15です。今年の12月に16になります。お孫さんがいらっしゃるですか?」

「あら。私ぐらいの歳にもなると孫の一人や二人、いつの間にかできているのよ。とても可愛いくて目に入れても痛くないくらいなの。この子も4年前の私の誕生日に孫がプレゼントしてくれたのよ。一人暮らしでも寂しくないように、って」


 そう言ってバックを掲げる。この子とはおそらくあの白猫のことを言っているのだろう。


「動物を飼うのなんて初めてだったから最初のころはお互いびくびくしていたのだけれど、今じゃもう大事な家族だわ。週に一度チーちゃんお気に入りのバックを持って一緒にお散歩するのよ。この子ったら狭いところが大好きで」

「楽しそうですね。僕も知り合いの犬を数日預かったことがあるんですけど、全然なついてくれませんでしたよ。僕って動物にはあまり好かれないようでして」

「あら、そうなの。でも大丈夫よ。世界は広いのだから、あなたになついてくれる動物もいるはずよ。そうね、竜なんてどうかしら?」

「遠慮させて頂きます。じゃれている最中に、鋭い牙で噛みつかれたらひとたまりもありませんよ」

「ふふふ、それもそうね。ところで、その歳だと高校新一年よね。高校はこの近く?」

「……いえ、僕は高校には通いません。一応就職の予定で、今は日雇いのアルバイトに勤しんでいます」


 老婦人の顔が瞬時に驚き一色になる。自分の出した問に予想外の言葉が反ってきたのだろう。


「高校には行きたくないの? それとも何かわけが?」

「…………」


 親身になって尋ねてくる老婦人の顔をしばらく見つめると、ズボンのポケットから一枚の紙を取り出し、老婦人へ渡す。

 老婦人は受け取ると目を通し、先ほどよりも強く驚愕の表情を浮かべた。


「これって本当なの。何かの間違いではなく?」「残念ながらそれが真実です。義務教育は問題無く受けれたのですが、高校まではそういうわけにはいかずに門前払いされたというわけです」


 少年が言い終わると同時に注文された品が運ばれた。

 まだ湯気の昇るコーヒーを何も入れずに口へと運ぶ。少年の表情からして美味しかったのだろう。口元が和らいでいる。一方老婦人はミルクティーを見つめるだけで手に取ろうとはしない。その顔はどこか思案しているように見えた。


「あの、僕のことでしたらどうかお気遣いなく」

「あなた、学校には行きたい?」


 芯のこもった声。強い意思を思わせる瞳。常時浮かべていた笑顔に似ていて、それと異なる凛とした表情を老婦人は浮かべていた。


「……わかりません。でも、入って欲しいと言われる気がします」

「どなたに?」

「父と母です。二人とも他界しています。今は二人の知り合いが保護者になっています」

「……そうだったの。でも、それならなおのこと高校に入学した方がいいと思うの。ご両親のためにも。あなた自身のためにも」

「確かにそうなのかもしれません。でも、現実はそう簡単にいきませんよ。現に僕はどこも断られて」

「それなら大丈夫よ。私のところに来れば心配はないわ」

「私、の?」

「アストラルってご存じかしら」

「それは知ってますよ。魔法学園アストラル。小、中、高からなる大魔戦争終結直後からある由緒正しい学園。数々の名高い魔法使いを輩出し、世界の中で五本指に入ると聞いています。……もしかして、私のということは」

「ふふふ、鋭いのね。ええ、そうよ。私はアストラルの理事長の内の一人なの」

「…………。あなたがそこまで入学を薦めるのは納得がいきました。でもそれってご自身の立場を利用して僕をアストラルに入れようとしていますよね。これって立派な裏口入学じゃないですか?」

「ええ。そうなるわね」


 ………………。

 あっさり認められた。

 そんなのでよろしいんですか。あなたは教育者のはずでは?


「大丈夫よ。他の理事長も頭の堅い人なんていないわ。むしろ、私みたい毎日遊んでいるばかりのひとだっているんだから。それに君の境遇を話せば絶対に賛成してくれるわ」

「そ、そうですか」


 あくまで毅然と言い張る老婦人に対し、少年は目線を下げ毒気を抜かれたようにため息をついた。


「それにね、私はこう考えているの」


 老婦人の言葉に目線を戻し、その両目をまっすぐ見つめる。


「学校というものは学ばせる所ではなく、学びたい人を向かい入れる所だと思うの。どんな事情や境遇があっても、その意思を曲げさせることをしてはいけない。若者(あなた達)の未来を手助けすることが大人(私達)の仕事ですもの」


 少年はその言葉を聞くと左目を大きく見開いた。

 そして、考え事をしているのか、黙りこむ。老婦人はそんな少年を急かすことなく、優雅な動作でミルクティーを口に運ぶ。

 しばらくして少年もまだ湯気の立つコーヒーカップを手にすると一気に飲み干す。口と喉を充分に潤してから、嘆願する。


「僕をアストラルに入れてください」



 ~~過去・記憶 終了~~



「……寝てしまいました」


 いつの間に眠っていたのだろうと不思議に思いながら、あくびをひとつ。

 するとどこからか社内アナウンスが流れ、もうすぐこの汽車の最終目的地――学園都市アストラルに到着することを告げた。


(もう、後戻りできませんね)


 汽車に乗り込んだ当初は数回窓から飛び降りようと思ったが、結局思い付きだけで終わり今に至る。


(嫌ではない、ですけどね)


 老婦人の想いを拒絶したいわけじゃない。


 半場諦めていた高校生活を手放したいわけじゃない。


 それでも少年は考えてしまう。

 やはり自分にはこんな陽のあたる日常はふさわしくないと思うのが一番だった。

 あの日を境に影の中で生きる非日常に身を投げた存在が、再び戻ってきてもいいのだろうか。

『仲間』にこんなことを聞いたらどんな言葉を返されるだろうか。


(とりあえず殴られそうですね)


 少年の思考がぐるぐると迷宮のようにさ迷っていると、車輪とレールが擦れる音が響き汽車はゆっくりと停止した。 外の景色を見れば、空は茜色に染まりもうすぐ黄昏時を迎えようとしていた。


「……降りますか。これも運命。慣れてしまえばいつも通りにいきますよ」


 そう言って少年はポケットから親指よりも小さなサイコロを取り出す。

 サイコロと言っても形状は正六面体ではなく、数字が一から七まで有りとても馴染みのない外観をしていた。目の部分は白、他は黒く塗り潰されていて、なんとも少年に似合った小物だった。

 少年はしばらくサイコロを手の中で転がしていたが、おもむろにしまい下車した。


 人は少ないようだがやはり乗客は他にもいたようで、ちらほらと下車しては改札口へと吸い寄せられるように歩いて行く。

 少年も向かおうと足を動そうとし、風に乗ってヒラヒラと目の前を浮遊する物体に気がついた。

 物体はハンカチだった。やがて地面に落ちたそれを拾うと、声をかけられた。どうやら落とし主らしい。


「す、すいません。それ、私のなんですっ」


 女の子がこちらへかけてきた。おそらく少年と同じくらいの年頃だろう。

 少年はハンカチを綺麗に四折りにしてから手渡した。


「どうぞ」

「あ、あの、どうも。し、失礼します」


 女の子は少年からハンカチを受け取るなり足早と立ち去ってしまった。


「……僕も行きますか」


 脱兎の如く立ち去る人影を呆然と見送りながら、少年も足を進める。

 けれど、突如として少年を頭痛が襲いその場にうずくまってしまった。


『ねぇ、ゆう。この世界は好き? 生きてて楽しい?』


「うるさいですよ」


 少年は乱暴に吐き捨てると立ち上がり改札口を抜け、在学中に借りている我が家へと地図を頼りに足を運ぶ。

 駅の出口では様々な国の言葉でアーチ状の看板にこんなことが書いてあった。


『ようこそアストラルへ 輝かしい青春と魔法が君を待っている!』

 お付き合いありがとうございます


 本当はもっとコンパクトにする予定でしたが……


 次話からは少年(イコール悠夜くん)の周りを賑やかにしつつ、基本的に登場人物の視点から書かせていただきます


 感想等がありましたらどうぞよろしくお願いいたします

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