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第十四夜★鬼は嘆き、狩人は血を欲す


 …………更新遅れてすいません。いろいろリアルでありまして。やっと書き上げました。


 それにお知らせがあります。

 XXXXさんが、なんと冬空美姫先輩のイラストを描いてくださったので、貼らせいただきました。

 主要登場人物に掲載しています。

 描いていただいたXXXXさん、本当にありがとうございました!




  1


 (リリスさんのバカァァァァァァ!!!)


 僕は全力疾走しながら、心の中で叫ぶ。

 陰口を言うのは趣味ではありませんが、このやり場の無い怒りを抑えることはできなかった。

 だいたい、一緒に入ったと言っても、ほんの数瞬ですし、リリスさんもちゃんと体にバスタオルを巻いていましたから、セ、セーフです。セーフのはずです。

 にしてもリリスさんの爆弾発言後のみんなの反応ときたら……。


 (――殺気!?)


 僕は身の危険を感じて足を止め、大きく後退する。

 その瞬間、僕が足を踏み出していたであろう場所には、50㎝ほどの大きな氷柱(つらら)が何本も刺さっていた。あのままだったら……。


流石(さすが)だな森羅(もりあみ)。今のをかわすとは」

「あの、完全に今のは命取りに来てましたよね」

「私だってこんなことにあまり熱を出したくないが、罰ゲームもあるしちゃんとやらせてもらうぞ」

「あれは緊張感を生み出そうとしたもので、嫌なら却下しても……」

「だから刀雪嶺斬(真剣)で真剣にやらせてもらうぞ。ん? 真剣で真剣……。私としたことが、つまらないことを。忘れてくれ」

「ところで、僕もなんか武器使っていいですか?」

「ああ、今日はいい天気だな」

「会話が微妙に噛み合っていない!」


 それにしても冬空(ふゆぞら)先輩はいったいいつの間に現れたんでしょう。聞きたいのはやまやまですが、目がとても怖すぎて声をかけるのもはばかまれてしまう。

 今の状況を表現するなら、竜に睨まれたとかげでしょうね。もちろんとかげは僕。

 今のところ冬空先輩の存在しか確認できないところをみると、どうやら個人個人で探しに来たみたいですね。ここはそれを逆手に――


「しかし、自分の運を感謝したいくらいだ。


 こうやって、一人でお前を斬れるのだからな」


 取れそうもありませんね。むしろテンション上がってますよ。


「――氷呀(ひょうが)!!!」


 何の予告も無しに、冬空先輩が魔装具を横に振るう。

 それによって生まれたつららが三本。僕を襲う。


「うっ!」


 僕はそれを横に避け、避けきれなかったものを蹴って壊す。

 だが冬空先輩の攻撃はこれだけでは終わらず、僕が避けた瞬間にすごい速さで接近。上から降り下ろす形で僕に斬りかかる。

 なんとか反応できた僕は真剣白刃取りの要領で受けとめる。


「っ…………!」

「ちっ」


 舌打ち!? 今この生徒会長舌打ちしましたよっ。

 ペルソナがあるとはいえ、形状が日本刀の物で斬られたりしたら……。大丈夫ですよね。

 にしてもまずいですねこの状況。

 男女の体力差を差し引いてもこの均衡状態は長く続かないと思う。相手は冬空先輩。体力は充分にあると思う。第一、僕がつらい。

 せめて少しだけでも冬空先輩の注意を引くことができれば――


「あ、冬空理事長」

「どこだ?」


 視線だけチラリと横に向けると、冬空先輩は顔ごと僕の視線を追う。

 おばあちゃん子な冬空先輩なら何かリアクションを取ると思っていましたが、こうもあっさりひっかかるとは。


「隙ありっ」

「なっ……!」


 僕は力が緩んだ瞬間、刀雪嶺斬(とうせつれいざん)を無理やり取り上げる。すぐさま体制を低くして、足を前に出し冬空先輩を転ばせる。


「つぅっ」

「失礼します」


 仰向けになった冬空先輩から離れる。もちろん刀雪嶺斬は預かったまま。

 あー良かった。これで難は逃れらましたね。


「森羅…………。いいだろう。お前がその気なら現代の氷河期の見せてやる。必ずな!」


 ……。

 僕は無言でスピードを上げた。



  2


「あー、疲れた。こんなに全力疾走したのいつ以来でしょうか」


 僕は冬空先輩から逃れた後、公園の中で一際木が生い茂り、自然の目隠しになっている場所に腰を落ち着かせている。 さっきまで持っていた刀雪嶺斬は、今魔結晶(エレメント)の形になっている。本人の意思があれば、離れていても魔装具の発動解除はできると言っていますし。

 さて、これから先はどうしましょう。

 僕としては一ヶ所に留まりたくないですし、少し休憩したらまた移動して


「無駄だよ」


 突然の声にその場を離れようとするも、両手と両足首を細い糸のような物で拘束され身動きが取れなくなってしまった。


「ウフフ、見ぃつけた~♪」


 木の影から現れたのは――(あきら)さんでした。

 さ、最悪だ……!

 手足の動きを封じられ、僕の目の前にいるのは無自覚刃物少女玲さん。

 こんな状況、飢えた獣の檻に、足の骨を折られたうさぎを放り込むようなものですよ。


「まさか私の魔装具の最初の相手(獲物)が悠夜(ゆうや)くんなんて…………運命感じちゃうな」


 赤くなった頬に手を添えて、可愛いらしく恥らう玲さん。思わず魅とれそうになりますが、そんな暇は無い。速く逃げなくては。


「逃げようとしてるの? 駄目だよ~。私の『(げん)』はそう簡単に千切れないよ」


 玲さんの弦――魔装具『鋼銀線蟲(こうぎんせんちゅう)』。玲さんが指に着けている指輪から伸びる無数の鋼糸(ワイヤー)が彼女の武器。

 冬空先輩が扱う刀雪嶺斬のように直接的な戦闘には結びつかないものの、こうやって対象を拘束できたりする、トリッキーなタイプと言える。


「の、望みはなんですか?」


 思わず下手(したて)に出てしまう。

 もし玲さんの目的が、僕が提案した『鬼ごっこ』を終わらせるだけ(・・)なら、縛った後すぐに僕に触れればいいわけですから簡単に終わる。

 玲さんは僕を生け捕り(・・・・)にし、なおかつ何かをしようとしている。あー冷や汗が止まらない。まだ包丁などの刃物の類いは見えないけれど、剣豪の抜刀速度と思ってしまうほどの素早さで抜かれる玲さんは自分の刃物を手にする。油断はできない。

 捕まった時点で、油断も何も無いと思いますけど。


「もぉ、そんなに怯えないでよ。

 怯える悠夜くんがかわいすぎて――壊したくなっちゃうよ」


 これって死亡フラグ!?


「望みだっけ……。うーん、特に無いな」

「そうですか……」

「あ、でもあえて言うなら、


 ――欲しいな」


 何がとはとてもじゃないですが、聞けなかった。


「悠夜くん」


 玲さんはその手にもはやお馴染みとなった包丁を握り、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。玲さんの表情は明るいのに、その瞳はどこか黒い影を秘めていました。

 最近は比較的おとなしいと思っていたのに、出てきましたか。天宮(あまみや)くん曰く、ヤンデレモード。

 って、本当に命が危ない!

 速く逃げなくてはと手足を動かすも、痛みを覚えるほど強く僕の四肢を固定するワイヤーはびくともしませんでした。


「大丈夫、大丈夫。痛くはしないから」

「よく包丁を持ちながら言えますね! よく人を身動きとれないほど縛っておいて言えますね!」

「もー、うるさいなー。せっかくいい気分だったのに……。お仕置きしちゃうぞ☆」

「さっきまで機嫌良かった方なんですか!?」


 毎度のことながら、玲さんはみんなの中で一番わからない。

 そんなこんなで、玲さんは手を伸ばせば触れられるぐらいの距離まで迫ってきた。

 いつでもズブリといけるぐらいの距離まで……。


「悠夜くんが悪いんだよ? 私にこんな想いを植え付けておいて……。もう我慢できないよ」


(刺される!!!)


 そう思った直後、突風が発生し玲さんを襲う。鎌鼬(かまいたち)と表現しても差し支えない風が木々を薙ぎ倒し、僕を拘束するワイヤーを切断する。玲さんは優雅に風をかわすと、鋭い目付きで風が起こった左方を睨む。

 視線の先には悠然と佇む恋華(れんか)さんが、


「あら、お邪魔でしたかしら?」


 涼しい顔で闘気と殺気を撒き散らしながら呟く。

 彼女が持つ鉄扇――扇型魔装具『朴旋華(ほうせんか)』。桜色をした、綺麗な色合いの扇はとても戦闘用の物とは思えないが、扇を振れば魔法を使用できるのはもちろんのこと、折りたためば鈍器に広げれば斬撃にも使えるという万能武器だ。


「うん、本当に邪魔だよ。フェーデの時といい、恋華は私の邪魔しかしないんだね」


 僕が冬空先輩とフェーデをした日に、何かあったのだろうか。


「それはすみません。ですけれど悠夜さん、怯えてますわよ?」

「照れてるだけだよ」


(違いますからっ)


 今の状況は恋華さんと玲さんが臨戦体制を取りながら睨み合い、僕はある意味蚊帳の外。手首や足に絡まる綱糸をほどきながら、状況を見守る。

 はっきり言って捕まっていた時よりも強い恐怖を感じる。

 いや、だって、二人とも殺気を隠す気配もないし、敵意のかけらは何故か僕にも向けられているし……


「悠夜さんに用があるのでしたら後にしてくださらない? 私はリリスさんの言葉に嘘偽りがないか確かめなければいけないので」

「駄目だよ。悠夜くんはこれからお仕置き(楽しいこと)するんだから」

「……どうやら譲る気はないようですわね」

「それは恋華だって同じでしょう?」

「確かに」


 あれ、なんだろう。また嫌な予感が……


「退かないと言うのなら――」

「力付くで行きますわよ!」


 ……やっぱりいつもの展開に。

 玲さんは右手に包丁、左手で綱糸を使って応戦。恋華さんも朴旋華で包丁の斬撃を防ぎ、魔法の風を起こして敵を打ち払おうとする。

 激しく繰り広げられる魔法戦。

 僕はまたもや蚊帳の外。お互いに目の前の敵しか眼中になかった。

 これって…………チャンス?

 包丁と暴風が飛び交う中、僕はこっそりとばれないようにその場を去る。


「はあぁぁ!!!」

「まだまだですわ!!!」


 二人の怒号とほとばしる殺気を背に感じながら。

 ……命が助かって本当に良かった。



  3


「見つけたッスよ、悠夜」

「おとなしく堪忍するニャ」


 玲さんと恋華さんを振り切ってから数分。僕はあっけなく二人に見つかってしまった。


神薙(かんなぎ)くんはどうしたんです?」

「あいつはなんでか怒りが倍増してる冬空の姐さんをなだめてるニャ」

「…………」


 なんだか申し訳なくなってきた。てか冬空先輩、姐さんって呼ばれてるんですね。何故か妙にしっくりくる。


「それで、あなた方はどうしたいんです? 見たところただゲーム(鬼ごっこ)を終わらせる気は無いように思えますけど」

「まあ、そうなるニャ」

「悠夜をあの三人に献上しないと、俺らの安全が保証できないんスよ」

「………………」

 どうやら、つくづく巻き込んでしまったようだ。


「だからお前に触ってゲームを終わらせつつ、」

「悠夜を捕獲しなくちゃいけないんスよ――俺らの平和のために」

「僕って魔王かなんかですか?」


 それに近い感じは自分でもしますけど。


「一応言っておきますが、天宮(あまみや)くんの両手は魔装具ですから、例え触れてもノーカンですよ」

「わかってるぜー。それじゃあ、あんまりフェアじゃないし――ニャ!」


 そう言うと同時に天宮くんが突っ込んできた。

 天宮くんが装備している魔装具『照鈴殴(しょうれいおう)』はシンプルな構造故、リーチこそ短いが破壊力が抜群だ。その拳と脚から繰り出される技は、制御装置(ペルソナ)で力が加減されているとはいえ、一発でも攻撃を受けてしまえば危うい。


「おっと」


 黄色の右拳を紙一重で避けるも、続けざまに強力な回し蹴り。僕は両腕を盾変わりにして防ぐ。蹴りの衝撃で大きく後退する。

 正直腕が痛い。

 ルールに『魔装具で触れてもゲーム終了にはならない』というもの加えておいて本当に良かった。もしこのルールがなかったら、天宮くんを相手にするのは骨が折れる。


「……思ったよりも動けるんですね」

「だてにマンガは読んでないニャ」


 以前に天宮くんが『マンガは教科書。あるいは聖書(バイブル)』と声高々に言っていたのを思いだす。

「俺を忘れてもらっちゃ困るッスよ!」


 刈柴(かりしば)くんは大剣――魔装具『緑創砕剣(りょくそうさいけん)』を地面へと突き立てる。

 そして、てこの原理を利用して地面をすくいあげた。


「――土竜(モグラ)返し!!!」


 瞬間。

 すくいあがった大地が巨大な岩石の塊となり、まるで落石のように僕を襲う。


「えぇっ!!!」


 刈柴くんが得意とするのは地質操作系魔法。

 冬空先輩の『氷呀』と同様、自分の魔力や媒体を利用として魔法を行う。この『土竜返し』の場合は、地面の土を媒体としているのだろう。

 この岩石群を避けるのは決して難しくはない。けど、


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラニャー!」


 重く、そして速い天宮くんの拳。

 僕が岩石を避けた隙を狙い、的確に打ち込んでくる。僕はそれを足やひじでガードするけど、()が悪い消耗戦だ。

 天宮くんは雷電操作系の魔法を利用し、魔力を電気に変えて筋力の性能を底上げしている。アクロバットな動きや、俊敏な足さばきはお手のものでしょう。それにその気になれば、体力強化に使用している電撃も飛び道具として使える。

 それに刈柴くんを叩こうとしても、大剣と素手。勝ち目は低い。いや、例え刈柴くんに勝利してもその隙に天宮くんに捕まる。

 ゲームが『鬼ごっこ』なだけに、このペアは非常に厄介だ。


(正面突破、よりも戦線離脱した方が良さそうですね、これは)


 二人の魔力(エネルギー)切れを狙う手もありますけど、魔力の量がわからない以上博打やギャンブルに等しい。最悪、僕の体力が底を尽きてしまうかもしれない。


(やはりここは多少強引でも逃げきるしか……!)


 僕は二人を正面にしながら、バックステップの容量で距離を開ける。


「させないニャ!」


 天宮くんが素早く反応し、僕を追う。拳をひじで防ぎ、更に後退する。刈芝くんは距離が開き過ぎたため、天宮くんと一緒に僕を追うか魔法を使うか悩んでいた。


(チャンス!)


 僕は天宮くんの蹴りを避けるのではなく、手のひらで受け止める。そのまま間を開けず、魔装具の具足の部分を掴む。


「ニャ!?」

「失礼します!」


 遠心力を利用して、天宮くんを刈柴くんへおもいっきりぶん投げる。


「ニャー! おまっ、悠夜これはキツ――わー、大地(だいち)ーっ、受けとめてー!」

「え、ちょっ、まっ――うげっ」


 人間砲丸となった天宮くんは目的通り、刈柴くんへ命中。刈柴くんも避けたり剣を使うわけにはいかず受けとめたせいで体を強打。身動きが取れなくなった。


「ううぅ、イタタ……」

「悠夜、いくらなんでも痛いッス」

「お前絶対今ので月弦(つきづる)とか姐さんの鬱憤(うっぷん)はらしただろ!」


 ……否定はできない。

 罪悪感がわかないわけではけど、今は逃げることが先決。僕は二人に背を向けて再び走り出そうとした、その時――


「――火炎直球(フレイムストライク)!!!」


 人間大の大きさの炎球がまるで隕石のように、僕に襲いかかる。


「おわっ!」


 ギリギリで避ける。着弾と同時にはじけて消えた炎球の向こうには、神薙くんが槌型魔装具――紅煉獄を手に持っていた。

 はめられた。

 神薙くんとは別行動を取っていると言っておきながら、実は近くに潜んでいたのか!

 状況は更に悪化してしまった。

 二人だけでも辛かったのに神薙くんも加わったとなれば、このままでは本当に捕獲されてしまう。

 どうするか。

 そう思い視線を動かすと、未だに立ち上がっていない天宮くんと刈柴くんが目に入った。ん? 二人は僕を襲撃した神薙くんを見て『何故?』という顔をしている。

 そこでふと考えた。

 本来味方である天宮くんと刈柴くんは神薙くんに対して本当のことを言っていて、彼らにも神薙くんの登場は予想外の出来事だったのだろうか。

 じゃあ、神薙くんはどうしてここにいるのか?


『あいつは何故か怒りが倍増してる冬空の姐さんをなだめてるニャ』


 天宮くんの言い分だと、神薙くんは冬空先輩と一緒にいるはず(・・・・)。

 その神薙くんがここにいると言うことは…………


「ありがとう神薙。おかげで森羅を見つけ出すことができた」


 神薙くんの背後。そこから亡霊のように現れたのは、先ほど会ったばかりの冬空先輩でした。


「あ、姐さんっ。いや俺たち頑張ったニャっ。本当ニャ!」

「そうッスよ。悠夜がなかなか捕まらなくて……、あーでも手なんて抜いて無いッス。俺らはいつでも真剣ッスよ!?」


 魔祓師(エクソシスト)の登場で動揺したのは僕だけでなく、数十秒前まで戦っていた二人もテンパっていた。そう言えば、僕を捕獲するとかなんとか言ってましたもんね。

 二人の取り乱した姿を見て、僕は幾分か落ち着きを取り戻していた。

 冬空先輩は確かに魔法使いとしての実力は申し分ないですけど、果たして杖(魔装具)無しではどこまで行けるか。男子三人は魔装具所持ですが、こうなっては何がなんでも突破を――


「あの、冬空先輩。その手に何を持ってるんです?」

「私の魔結晶(エレメント)だが」


 それがどうしたと言わんばかりの表情。

 冬空先輩の魔結晶(エレメント)を、冬空先輩自身が持っているのは、何も不自然なところは無い。

 でもその魔結晶(エレメント)は、僕が隙を見て奪ったはずだ。ポケットを確認しても、やっぱり無かった。

 いつ? なんで? どうして?


「ああ、それは私が返したんだよ。落とし物はちゃんと持ち主に返さなくちゃ、ね?」


 後ろを降り向く。

 そこには包丁を持っている玲さんが。


 ………………。


 最悪だっ!

 冬空先輩(バーサーカー状態)だけでも厄介すぎるのに、玲さん(ヤンデレVer)まで……。


「さっき悠夜くんを縛ってる時にね。見つけたんだ。エ・レ・メ・ン・ト♪」


 うん、玲さん? そう言えば玲さんって確か恋華さんと一緒にいたような――


「ここにいますわよ」

「やっぱり!」


 いつの間にか全員集合。

 僕は女子三人に囲まれ、デルタフォーメーションの中心にいた。


「って、俺らまで囲まれてるんですけど!?」

「なんでだニャ、なんでこうなってしまったニャ!」

「あのー、悠夜。いつもどうやって切り抜けるんスか、死亡フラグ。人生で初めてそれに直面してるスけど!」


 デルタフォーメーションに捕らえられたのは、僕だけでなく神薙くんたちも脅威の包囲網に入っていた。


「僕としては好都合ですけどね」

「ちょっ、悠夜の笑顔が黒いんスけどっ! ものすごく嫌な予感がするんスけどっ」

「協力しようぜ悠夜。昨日の敵は今日の友と言う素晴らしい名言があるニャ。だから一緒に生き伸びようぜ!?」

「こうなったら全員道連れです」

「悠夜。嘘だと言ってくれっ。俺ら友達だろ!」


 すがってくる神薙くんたちを無視して、僕はそれぞれ武装した美少女三人を振り切ろうとする。


「逃がさんぞ!」

「お仕置きだよ!」

「お待ちなさい!」


 冬空先輩が日本刀を、玲さんが包丁と綱糸を、恋華さんが鉄扇と疾風魔法を使い僕(達)を攻撃する。


「うわっ!」

「「「ギヤアアァァァ!」」」


 三邪姫の殺意を纏った攻撃は、紙一重でかわすのがせいいっぱい。

 冬空先輩と玲さんの斬撃をかわし、恋華さんの疾風魔法から逃げるため必死に足を動かす。


「ニャーッ。俺って今まで誤解してた。ハーレムって、羨ましいなと思ったけどっ、本当は地獄やったんだニャ。俺はこうしてまた一つ大人になったニャ!」

「口より足を動かせっ、響っ。舌噛むぞ」

「もう嫌ッス~~~!」


 僕の横では三人が悲痛な叫びを上げ、


「逃げれば罪はさらに重くなるぞ!」


「お仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置き悠夜くん絶対お仕置き!」

「私達からは逃げられませんわよ! いい加減捕まりなさい!」


 僕達を追う美しくも鬼のような表情を浮かべる三人。


 追われながらも僕は不思議な高揚感を感じていました。


 僕開催の鬼ごっこはみんなの体力が尽きるまで、続いた。

 あれ? 何か忘れてるような……




 ――一方その頃



「お兄ちゃん……砂時計終わったよ~。リリスは寂しいよ~。これってあれなの、放置プレー? 興奮するけど焦らし過ぎるのは良くないんだよ~。お兄ちゃ~ん。…………グレてやる! もうヤンキーになってお兄ちゃんの好きな湯飲みを壊してやる!……………………お兄ちゃ~ん、嘘だよ~。リリスはいい子だから一緒に遊ぼうよ~。



 ぐすん(><。)。。」




 これで鬼ごっこは終わりです。

 ……修行、こんなのでいいのでしょうか? ああ、アイデアが欲しい。


 次話はしばらく放置してた演劇部の面々もだし予定です。


 それでは失礼します。さようなら~



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