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第十三夜★選択肢と分岐点の狭間で


 時系列は悠夜くんが入部してから最初の休日です。


 それではどうぞ~




  1


 演劇部としての活動は忙しい中にも新鮮で、篤兎(とくと)さんの言った通りいい意味でも悪い意味でも退屈な時間はありませんでした。

 演劇部の活動は大きく分けて二種類有り、舞台上で演じる役者としての稽古と、小道具や舞台背景等を自分達の手で一から作る大道具となる。

 更に演劇部員を分けるのなら、舞台上で演じる『役者』と舞台には直接的に参加しない『裏方』に分かれるらしい。

 部員数が多いところではきちんと区分するみたいですが、我らが國桜高校の演劇部は総勢五人と少ないため役者と裏方の両方を兼任しなければならないと部長が言っていた。

 驚いたことに、二年生組では白樺(しらかば)先輩が一番の演技力を持っていると聞いた。本人は顔を真っ赤にして否定していたが、きっと謙遜だと思う。

 僕と同じ一年の篤兎さんも中学生の頃は演劇部に所属していたと言っていたし、完全に僕は出遅れている。

 他の部員の足を引っ張りたくありませんし、部活動とはいえ身を引き締めなければ。


「だからって、筋トレしてどうにかなるのか?」

「無駄口を叩かないで、速く折ってください。残り時間僅かですよ」

「げっ」


 週末の休日に僕らは『四季原公園』へ再び集まっていました。前回は全員分の魔装具を用意しただけで終わったので、今回はちゃんとしたことをしようかと集まったのです。

 現在弟子の六人は公園の中にあるテーブルに座らせ、折り鶴を折らせていました。


「あーっ。やっぱ俺には合わねえ、折り紙なんてっ。もー無理。こんなちまちました作業俺には無理!」

「素振りと思えば大丈夫ですよ」

「おお、そうか……………………余計疲れた」


 予想通りに神薙(かんなぎ)くんが早々にダウン。

 他の人も折れてはいるものの、明らかに集中力が乱れていました。それが狙いですけどね。

 魔法は主に使用者のイメージで決まってしまう。そのイメージが崩れてしまわないよう、こうして単純な作業を言って精神力と集中力を養おうとしている。 ちなみに僕は近くで腕立て伏せを、リリスさんが読書(タイトル『冥土への花道』)しています。

 皆さんに言ったのはただの折り鶴ではなく、『全員で二十分以内に千羽鶴を作る』というもの。協同作業なので全員(・・)というのがミソ。誰かが頑張れば、その分速く終わる。女性群や手先の器用な天宮(あまみや)くんが着々と鶴を折っていく中、慣れないためか神薙くんと刈柴(かりしば)くんはスローペース。おかげで二人は可哀想に、睨まれることもしばしば。

 そんなこんなで制限時間ギリギリで千羽鶴は完成。大した運動もしてないのに、みんなとても疲れていました。


「疲れるわっ! 何なんニャ、この地味な耐久レースっ。鶴を折り過ぎて指先がつれーよ。初めてニャ、こんな感覚!」

「カブトムシの方が良かったですか?」

「あんの!? 折れんの!?」

「ちなみに僕、自慢ではありませんが折り方が分かれば、なんだって折れますよ」

「お前スゲーな!」

悠夜(ゆうや)……、魔法の修行ってこんなもんなんスか? 俺の予想ではもっと派手なのか、それとも風の声に耳を傾けるとかそんなのを考えていたんスけど」

「それはレベル1の修行ですね」

「あの折り鶴はレベル1にも満たないんスか!?」


 疲労のせいか何かと文句を言ってくる男子陣と違い、幾分か楽しそうにしていた(あきら)さん達は疲れはあるものの綺麗な色合いの千羽鶴を嬉しそうに見ている。やっぱり女性は折り紙好きなんでしょうか。


「では、この千羽鶴ですが…………、燃やすか切り刻んで紙吹雪にするか、どれがいいですか?」

『酷過ぎる!!!』

「笑えないジョークですよ」

「自分から笑えないジョークって言う人初めて見たッスよ……」


 ブラックユーモアって素敵ですよね。

 まあ、冗談はさておき、そろそろ『魔法』を開始しましょうか。僕は千羽鶴を段ボール箱に入れ、皆さんをテーブルから移動させて以前魔方陣を書いた時と同じ大きく開けた空間へ集める。


「さて、ではそろそろ魔装具の扱いにも慣れていただきましょうか」


 僕がそう言うとさっきまでとはうって変わって、皆一様にテンションを上げる。まあ、ある意味これが目的とも言えますからね。


「そう言えば、リリスさんっていったいどんな魔法を使いになられるんですの?」

(うっ)


 恋華(れんか)さんの問いかけに、思わず冷や汗を流してしまう。

 科学の力で人工的に生み出されたリリスさんは、その身に魔力を宿していない。魔法が使えない。ある意味で、僕と一緒と言える。


治癒(ヒーリング)だよ♪」


 おかしなことを言い出さないか不安の眼差しをリリスさんに向けていると、僕のそんな杞憂を気にすることなくにこやかに義妹が質問に答える。


「へー、そうなんですの。珍しいですわね」

「うん、そうなの。だからアキラが刃傷沙汰を起こしても、私がなんとかするよ」

「それってどうゆうことかな、リリスちゃん」

「リリスの疑問も解けたことだし、そろそろ始めないか?」


 冬空(ふゆぞら)先輩が待ちきれない様子で僕を促す。折り紙も一番一生懸命でしたしね。


「それではそろそろ始めましょうか。リリスさんは僕の傍で補佐をお願いします。神薙くんから前へどうぞ」

「おうっ」


 勇み足で僕の隣へやって来る神薙くん。その手には綺麗な紅色の魔結晶(エレメント)を握っていました。



  2


 俺こと神薙亮(りょう)は代々鍛治屋の家系で、昔から刀剣や斧、魔法が世界に認知されるようになってからは魔装具も創っていたらしい。実際親父も俺達家族を(つち)一つで養ってきた。幼い頃は何度も鍛治場に出入りしたり、親父が鎚を降り降ろす姿を見学したりした。幼稚園に通っていた時は、やはり憧れを抱いていた。

 野球に出会ったのは小学生入ってからだ。当時二年生だった俺はクラスメイトに誘われ野球部に入部。親父も所詮は小学生の『遊び』と思ったのか、特には反対してこなかった。俺自身級友の顔を立てるために入ったものだ。けれど――


 いつの間にか、気付けば白球を目で追いかけている俺がいた。


 いつの間にか、暇さえあれば素振りをしていた俺がいた。


 いつの間にか、プロの野球選手に憧れている俺がいた。


 親父もそんな俺の心境の変化を感じつつも、対して口には出さなかった。口に出さない分、長男の俺に家督を継いで欲しいという思いはひしひしと伝わってきた。

 中学校に進学してからも、俺は野球を続けた。鍛治師という幼い頃に描いた夢も捨てきれないまま。授業で行われた『将来の夢』という作文は、期限ギリギリまで悩んだあげく内容はとても陳腐なものだ。

 幼馴染である天宮響(ひびき)に誘われたのは進路を考え始めた中二の三学期のことだった。


 一緒に『学園都市アストラル』に行かないか?、と。


 俺も名前は聞いたことのある学園都市。大人が一握りしか居なく、学生で都市が回っていると言っても過言ではない、魔法を学ぶ為の巨大都市。

 魔法を学べるというのも魅力的だし、何よりアストラルに行けば親父と顔を合わせずにすむからだ。

 喧嘩や口論などはないが、俺と親父との間にはなんとも言えない緊張感が生まれる。これは結構きつい。

 響のやつは俺のことを考えて――るとしても、一番は響の妹の(かなで)ちゃんから逃げたいからだろうか。あの頃は頻繁に『かくまってくれ』と言って泊まりに来たし。

 そんな誘いも断る理由もなく、俺は両親に相談、説得させ高校生活をアストラルですごすことにした。


 アストラルですごす三年間で、俺が進む道を見つけられることを祈りながら。


 ★ ★ ★ ★ ★


「来い――紅煉獄(ぐれんごく)


 俺がその名を呼ぶと、手に持っていたエレメントが発光し、粒子状に砕け飛散する。その一瞬後、元粒子のエレメントが再び集まり形を作る

 今エレメントは先程までの球体ではなく、燃えるような紅色をした大きい鎚になっていた。ヘッドと柄の部分を合わせて俺の身長弱ぐらいある鎚は、持ってみてもちっとも重さを感じない。

 紅煉獄、真っ赤な鎚が俺の魔装具。


「なあ、悠夜。俺はやっぱり鎚を握ってる方がお似合いってことか?」


 悠夜の手助けで魔装具を手にした時、俺が最初に感じたのは興奮や喜びではなく戸惑いだった。

 魔法が、俺の奥底が『お前は鎚を握れ』と言っている気がしてならなかった。


「……僕はその魔装具を持つ神薙くんはとても絵になると思いますが、バットを持ち球を投げる神薙くんも輝いて見えますよ」

「悠夜……」

「ですから、せめて魔法を学ぼうとするこの時ぐらいは、家のことなど考えない方がいいですよ」

「! お前、知ってたのか……?」

「鍛治家の『神薙』はそっちの方面では有名ですからね。出会った頃は確証は持てませんでしたが、あなたの魔装具を見てそう思いました」

「…………」

「あと、今の発言」

「ははは、悠夜には構わねーや」

「ありがとうございます。

 では天宮くんも魔装具の発動を」

「ニャー」


 響の気の抜けた返事。

 エレメントを取り出し、俺と同じように集中する。

 俺はそっと魔装具を握る手に力を込める。


 ま、頑張るしかないか。



  3


「はい、では皆さんちゃんと魔装具を発動できましたね」


 お兄ちゃんがアキラ達を見ながら満足げに言う。

 簡単に言えばみんなは武装していた。

 リョウは赤いハンマー、ケイタは両手両足に黄色の手甲と具足。ダイチはスパイクのついた剣。ミキは日本刀で、レンカは綺麗な扇子。アキラだけは武器を持っておらず、両手の人差し指に同じ指輪がはまっていた。

 お兄ちゃんとみんなとで造ったと聞く、魔装具。魔法使いの武器。

 こんな光景を見るとお兄ちゃんが科学者か魔法使いか、本当はどっちなのかわからなくなってくる。お兄ちゃんは自分のことを自称とは言え、科学者と言っていたし。


「ではこれより皆さんには魔装具の扱いに慣れてもらいます」

「具体的には何するの?」


 と、アキラ。


「僕VS皆さんの対戦やっていただきます。魔法を使っても構いません。僕は素手でやります。あ、もちろん制御装置(ペルソナ)は着けたままで」

「む……、森羅、それはさすがに私達をなめていないか?」

「少なくともあなた方を過小評価はしていませんよ」


 お兄ちゃんはあくまでも冷静に返答する。クールなところもかっこいいけどね♪


「簡単に言えば、鬼ごっこです。制限時間は5分とし、僕に触れればよしとします。時間はリリスさんが計ってくださいね」

「うん。わかったよ」

「一つ聞くッスけど、俺らが負けた、悠夜に触れることができなかったったらどうなるんスか?」

「ペナルティとして、千羽鶴をあと二つ折っていただきます」


 みんなのやる気がものスゴく上がったのがわかる。……そんなにしたくないんだ。


「悠夜さん、悠夜さん」

「なんですか?」

「私達が勝った場合、あなたにもリスクをおっていただきますわ」

「僕にどうしろと?」

「もし私達が勝ったら…………、悠夜さんを一日自由にさせてもらいますわ」

「採用っ」

「あの、玲さん、勝手に決めないでください」

「男に二言はないよな、森羅?」

「二言も何も、一言も言っていないのですが……。まあ、いいで――」

「ちょっと待ったあぁぁ!!!」


 お兄ちゃんを守るべく私は声を上げて立ち上がった。まあ、さっきから立ってたけどね。


「お兄ちゃんはリリスのもの! だって、昨日(すぐに追い出されたけど)一緒にお風呂入ったもん!」


 ママは手紙でこう言っていた。一緒に風呂へ入れば、もう夫婦だって。


「………………。そ、それではスタート。僕は少し逃げますので、30秒後にリリスさんの持っている砂時計と『鬼ごっこ』を始めてください。し、失礼しますっ」


 お兄ちゃんは何故か冷や汗を出しながら、ものすごいスピードでその場を走り去る。足早~い。


「「「………………」」」


 そんなお兄ちゃんの華麗な走りに刺激されたのか、アキラとレンカ、ミキの三人はより一層やる気が上がった。怖いくらいに。


「フフフ、鬼ごっこか……。幼い頃、鬼の子と言われた私だが、今日は童心に帰って楽しむとしよう。なあ、刀雪嶺斬(とうせつれいざん)?」

「悠夜くん悠夜くん悠夜くん悠夜くん悠夜くん悠夜くん悠夜くんお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置きお仕置き……死」

「あなた達、わかってますわよねっ! 手を抜いたらただじゃ済ませませんわよ?」

「う、ウッス」

「も、ももも、もちろんだニャ」

「頑張るぜ……。悠夜、すまん」


 そろそろ30秒。

 私はみんなに開始を告げる。


「それじゃあ、みんないっくよー。ヨーイ、ドン!」







 年末は忙しいです。多分これが年内で最後となります。


 魔法の特訓で『鬼ごっこ』は前から考えていましたが、話しが長くなりそうなので次話へ継ぐ形になりました。


 学生であまり時間はあまり取れないかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。

 感想もお待ちしています。


 それでは失礼します。さようなら~




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