第十夜★宴は始まる前から慌ただしく
まずはお詫びを。
第九夜の後書きでしたが失敗してしまい、伝助の都合で消しました。誠に申し訳ございません。
今度は失敗しないようにします、はい。
本編は前回引っ張って終わったパーティー偏です。
それでは、どうぞ~。
1
「あの、私も手伝った方が……」
「気にしないでください。準備は僕に任せて、リリスさんはのんびりしていてください」
「……でも」
今は神薙くんが考案したリリスさん歓迎会の準備中。
食材は後から来る神薙くんたちが持ち寄ることになっていますが、米を炊いておいたり家の掃除や飾り付け等やることは少なくない。
リリスさんはそんな僕を見ながら、不満そうだ。あれですかね。制服ではなくメイド服とツインテール状態ですから、給仕とかそういうのをしたいのかもしれませんね。
確かにリリスさんの家事スキルはとても高い。けど、だからと言ってこれから行われるパーティーの主役を働かせるのはいけないと言う考えに至りこうして説得しているのですが、一向に承諾してくれません。
「やっぱり私も何か手伝います。ご主人様だけに仕事をさせるわけにはいきません!」
「そんなにメイドとして今の時間を過ごすのが嫌でしたら、私服に着替えて義妹のリリスさんになればいいじゃないですか?」
本人がどんな基準で、メイドと義妹の区別をつけているかわかりませんが。
「わかりました! じゃあこのメイド服――脱ぎます!」
「ちょっ、ここで脱がないでくださいっ!」
突然、まるでそれが己の持つ使命と言わんばかりに脱衣をするリリスさん。着替えるのはとても賛成ですが、それは自分の部屋でしてくださいっ。
――この時僕は選択を誤ってしまった。
リリスさんの生着替えに対して、目を背けるか自分の部屋へと逃げれば良かった。
けれどリリスさんの突飛な行動にひどく動転してしまい、僕は半脱ぎ状態となったリリスさんに駆け寄って手を取りそれを阻止しようとする。リリスさんの動きを封じることには成功したけど、勢い余ったせいか僕とリリスさんのバランスが崩れてしまい床に倒れてしまった。最悪な形で。
「きゃっ」
「わっ、ととっ」
必死の踏ん張りも効果なく、二人して床に折り重なる。そう、僕はリリスさんを不可抗力とは言え押し倒していた。
え、えーとどうしてこうなってしまったんでしょう。確か、
家の掃除中にリリスさんとプチ口論→僕がメイドから義妹になることを提案→その場で服を脱ぎだすリリスさん→それを止めようとする僕→僕、リリスさんを押し倒す
………………。
おかしい!!! 特に後半が!
何故こんなことに!? なんでいろいろと危険な状況に!?
途中まで服を脱いでいたせいで、ところどころ白い肌があらわになっている義妹、いやメイドを押し倒す僕(主)。
今の様子を描写すれば、これが一番的確なのだろう。
つまりこの状況は――かなりまずい。まず過ぎて客からクレームがきてしまうくらいに。
リリスさんはと言えば、頬を染め息を荒げながら、
「もう、ご主人様ったら。だ・い・た・ん」
「ち、ちちち、違いますっ。こ、これは不慮の事故でして、決してそういうわけでは……」
「そんなことをおっしゃって、私の着替えで興奮したのでしょう? ご主人様って、素直じゃないんだから」
艶っぽい声で囁くと、その豊満すぎるバストを動かして僕の胸板へ擦りつける。背中に走った刺激と強く感じる甘い匂いから反射的に逃げようとするも、いつの間にかリリスさんの足が僕の腰を固定していたためできなかった。
「はぁ、はぁ、ご主人様ぁ~」
その間もリリスさんは自分の胸を絶えまなく動かし、僕の思考を狂わせる。僕の呼吸も次第に荒くなっていき、落ち着いて息を整えることもできなくなってしまう。やがて胸の運動が終わるとリリスさんは目を閉じ、顔を僕に近付ける。
「――ご主人様」
甘くこぼれた言葉、感じる鼓動。まるで体が理性を拒むように制御が効かず、リリスさんの唇が僕に触れ――
リンリンッ
――ようとしたところでドアベルが鳴った。
そのおかげで、僕の意識は正常レベルにまで復活。呼び鈴にリリスさんが気をとられているすきに、急いで離れる。危ない危ない。もしあのままだったら……、やめましょう考えるのは。こうして何事もなく終わったのですから。
ジト目を向けてくるリリスさんを無視し、玄関へと向かう。だって、ね。とてもじゃありませんが、きまずいのはごめんです。
扉を開けると、部活に出ていた六人が集合していました。
「みなさん、ようこそ。どうぞ入ってください」
「うん、ありがとう。ところで悠夜くん、一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「なんでリリスちゃんはメイド服なんて着てるの? しかも服装が変に乱れてるみたいだけど……」
え?
慌て後ろを振り向く。
僕の後ろでは、玲さんの言う通りの姿でリリスさんが立っていました。
ギャーーーーー!!!
すっかり忘れた。ていうか、何故そのまま。私服に着替えてくださいよ。僕の感性がいろいろ疑われてしまうっ。
(ちょっ、何故あなたはそんな格好で玄関にいるんです!? 誤解を受けますよ!)
(誤解もなにも、ご主人様と私の体が折り重なったのは事実ですし、それに今の私はメ・イ・ド。客人を出迎えるのは当然の理です)
行動をたしなめようとアイコンタクトを送るも、リリスさんはむしろ誉めてと言わんばかりの表情。
……無邪気な分、本当にたちが悪い。
と、そこで、忘れていたわけではありませんが、背後から強烈な邪気を感知。
勇気を振り絞り、まるで壊れたブリキ人形のようにギギギと後ろを向く。
そこにな三人の邪姫が恐ろしい笑みを浮かべて僕を見ていました。
この時、僕は身を持って『死亡フラグ』というものを体感した。痛みと一緒に。
2
「シャーシャー(包丁を研ぐ音)」
「さて森羅。何か言い残すことはあるか?」
「そこはせめて『何か言いたいことはあるか?』にして欲しいんですが……」
現在僕は和室の一つで正座させられている。この部屋には僕と玲さん、冬空先輩にリリスさんしかいない。恋華さんはリリスさんのメイド姿を見た後、『負けられませんわ……!』と言って、家へと帰ってしまった。忘れ物でもしたのでしょうか。男子三人は僕が拘束されるなり、そそくさと避難してしまった。妥当な判断ですけど、やっぱり癪ですね。
「森羅、聞いているのか?」
「すいません、現実逃避をしていました」
「そうかそうか。そんなに刀の錆びになりたいか」
「本当にごめんなさい!」
冬空先輩の刀型魔装具『刀雪嶺斬・零式』はさっきから発動(抜刀)状態。その刃先は僕にまっすぐ向けられている。危険と言えば充分危険ですが、魔装具よりも危険なのはむしろ冬空先輩だ。だって目が笑ってませんし。
「冬空先輩、ちょっと待って」
今にも斬りかかってきそうな迫力を内に宿す冬空先輩に待ったをかけたのは、包丁を研ぎ終えた玲さんだった。
玲さんはすっかり研がれ、もはやなんでも切れそうな包丁を脇に置くと、
「悠夜くんをお仕置きするのは…………私」
制服のポケットからアイスピックを取り出しては、並べ始めました。
わー、すごいです。凶器がどんどん出てきます。ほら、もう二桁更新です。包丁とセットで何に使うんでしょうね。あー、わからないわかりたくない。
「ち、違うの!」
さっきまで部屋の隅でおとなしくなっていたリリスさんは声を上げ、発言をするように高らかと右手を天井へ向ける。
「ご主人様が私に服を脱ぐよう提案して、脱いでいる最中にご主人様が私を押し倒して、いい感じになってお互いの体が火照って今まさに18禁ストーリー開幕!、ってなった時にドアベルが鳴ったのっ。だから、ご主人様と私はまだ何もしてないの!」
顔を真っ赤にしながらも、僕を庇うため口を開くリリスさん。その賢明な態度はひしひしと伝わってくるんですが、リリスさんの行動は空回りと言うより、ボクシング中に相手選手めがけて放たれたパンチが審判や専属トレーナーに当たった、いわゆる『事故』に近い。
だって、ね?
今のご時世、未遂でも充分犯罪扱いですから。
「へ、へぇー、私たちが来る前にそんな羨ま――いやらしいイベントがあったんだ……。あはは、私とは手を握るイベントすら未だにないのに。嫉妬しちゃうな~。嫉妬しすぎて私、おかしくなりそう」
「森羅、貴様はそこまで死にたいのか……!」
この場合は助太刀と言うより、火に油を注ぐと言った方がいい。
だって、二人の怒気がまるで地獄の業火のように燃え盛っていた。
……あはは、まずいこれは確実に五体満足ではいられない。いや、下手したら五臓六腑の内なにかが欠けてしまうかもしれない。
僕は必死の思いで退路を探していると、本日二度目のドアベルが鳴る。
まるで天国からの福音に聞こえた。
「あ、私が行ってきますね」
けれども福音は冥土の死者によって、地へと堕とされた。
仕事を見つけたからか、とても上機嫌で玄関へ向かうメイド・リリスさん。僕は止めることもできずに、立ち上がりかけた姿勢のまま固まってしまった。
「さて森羅」
「そろそろ逝こうか」
執行人は無情にも獲物(凶器)をそれぞれ握りながら、ジリジリと間合いを積める。畳十畳分のスペースでは逃げ回るわけにもいかず、僕はあっという間に壁へおいやられた。
刃物を持った美少女二人が今まさに斬りかかる瞬間、この部屋唯一の出口である襖が勢い良く開いた。
襖を開けたのは恋華さんだった。その隣にはリリスさんも。いつの間にか戻っていた恋華さんは、國桜高校の制服ではなく鮮やかな赤地に花柄の着物を着ている。長い髪は金色の髪留めで一つにされている。
突然の乱入者に僕だけでなく、玲さんと冬空先輩もぽかんと恋華さんを見る。
そんな僕らを見ながら満足げにフフン♪と笑い、その場で回る。袖や髪がふわっと舞う。
「どうでしょうか、悠夜さん。私の着物、似合います?」
「は、はい。とても綺麗です」
和風な雰囲気を漂わす恋華さんの着物姿。幼いころも、恋華さんの着物姿を見たことがありますが、今の方が格段に似合っていて綺麗で――思わず見惚れてしまいました。
僕の反応見て気を良くしたのか、ニヤリと笑うと隣のリリスさんに視線を移す。
「悠夜さんは私の着物姿にメロメロのようですわね~」
「カチンッ。……そんな色気のない格好より、ご主人様はこういうのの方が興味津々ですよ~」
そう言ってリリスさんは膝下ぐらいまでを隠すロングスカートを両手でつまむと、さりげなくそれでいてこちらへ見せつけるようにパタパタとスカートを動かす。黒い布地がひらひらと舞い、リリスさんの健康的な太ももが見え隠れする。危うく足の根元まで見えそうになった時は、思わず目を背けてしまった。恋華さんはそんな光景をイライラと言った様子で見ながら、
「フフフ、『色』でしか悠夜さんを釣れないあなたはそうするしかありませんわよね? まあ、私はそんなことしなくても悠夜さんの視線を独占できますけど」
「そんなの、派手な色彩に惑わされただけでしょ、この夜光虫。胸が小さいあなたは、カラフルにすることでしか気付いてもらえないでしょうけど」
「だ、誰が小さいですって!? 私は日本人女性の中では大きい方ですわよっ」
「でも、私のと比べたら、ぺったんと思うけどな~☆」
リリスさんは余裕のある笑みを浮かべると大きく伸びを一つ。その際、メイド服から自己主張するものが、揺れて僕の視界に入る。
「ご主人様ったら~。そんなにリリスの胸が気になるんですか? そんな熱い視線を……。もー、ご主人様ったらエッチなんですから~」
「ご、ごめんなさい」
直視していたつもりはありませんが、見てしまったことは事実なのでなんだか申し訳なくなってしまった。そんな僕らを冷ややかな目で見ていた恋華さんは、わざとらしく手をうちわにしてあおぐと
「ふぅ。なんだかここ、暑いですわね」
着物をわずかに崩し、胸元を顕にした。必然的に整った谷間が見えてしまい、自分の顔が沸騰したように熱くなった。
「へー、そうなんだ、暑いんだ……。だったらその重たそうで目がチカチカする布切れを、切り刻んであげようか。少しはマシになるかもよ?」
「あなたの方こそ、その無駄に多いいフリフリを全部取り去って、ただのエプロンとワンピースにしてさしあげましょうか?その脂肪の塊も削ぎ落とせば、少しは軽くなると思いますわよ」
――バチバチッ
リリスさんと恋華さんは互いに笑顔を浮かべつつも、視線を交わせる。その視線が光って見えるのは、僕の気のせいですよね。恋華さんの手には鉄扇、リリスさんの手には銀色で大きめの盆が握られていた。……いったいいつの間に取り出しんでしょうね。
今にも一発触発といった雰囲気にどうしたもんかと考えていると
――ガキンッ
すぐそばで金属が擦れるような音が聞こえた。…………絶対に高校生の部屋で聞こえていい音じゃない。
音の発生源に目を向けると玲さんと冬空先輩が、鍔迫り合いをしていた。日本刀と包丁で。というかこの二人、途中から完全に忘れていた。
「どけ。お前が邪魔で森羅が斬れない」
「違う。悠夜くんにおしおき(雄死悪鬼)するのは、私」
どうやらこの二人、どちらが先に僕を加害するかで争っているようです。
冬空先輩は魔装具を持ち鬼のような(それでも綺麗と思えるから不思議だ)笑みを浮かべ、玲さんはどういう原理か両目を単色にし右手に包丁、左手には四本のアイスピックを器用にもっている。両者とも、完全な戦闘体制と言える。
「邪魔をするなら先輩だって容赦はしない……!」
「やれるものならやってみろ!」
二人して一旦離れると、すぐさまお互いの獲物で斬りつけ合う。日本刀と包丁の連撃が互いにぶつかりあって、まるで戦国時代の映像を見ているようだ。
って、何をのんきに観察してるんですか僕は!? このままじゃ、家が半壊してしまうっ。この二人ならやりかねない。
僕は意を決して指摘することにした。
「玲さんも冬空先輩もやめてくださいっ。人の家でなにしてるんです!? 暴れないでください!」
「わかりましたわ。なら、外へ出ます。表で決着つけますわよ」
「望むところだよ」
「いや、あなた達ではありませんからっ。あなた達も争いごとはやめてくださいーっ」
「森羅どけ、危ないぞ」
「ちょっと悠夜くんは下がって。あとでちゃんと料理してあげるから」
「あなた達もです!!!」
その後は、地獄だった。
外へ出て行こうとするリリスさんと恋華さんをなんとか止め、玲さんと冬空先輩の刃物合戦を死ぬ思いで仲裁し、僕の部屋でまったりとしていた男子三人を呼びだしてなんとか誤解をとき、リリスさんがメイド服を着ている理由を趣味と偽って説明しなんとか混乱と言うか混沌とした騒ぎは収まった。
約一時間半かけて。
まだパーティーの料理も作ってないのに……。
3
「さて、いろいろありましたが、いい加減パーティーの準備を始めたいので、皆さんが持ち寄ってくれた食材のお披露目としましょう」
仕切り直しとばかりに、僕は全員を見回す。
リビングとして機能している部屋にみんなを呼んでいる。
僕がアストラルと学生連盟から借りているこの家は二階建てで、見た目は瓦屋根の日本風の造りだ。敷地も四十五坪弱あり寮住まいの生徒が多い中、僕は珍しい部類に入っている。玄関は北を向いていて、西東を半分にして洋室と和室がそれぞれ十部屋ずつある。洋室の中で一番広い部屋にテーブルやソファーを置いてリビングのようにくつろげる空間となっている。
キッチンにも近くここで食材を見て、ちゃちゃっと料理を作ろうと考えていましたが……、みなさんの荷物を見る限り不安要素はまだ消えない。
「うしっ、じゃあ頭は俺が行ってやるぜ」
妙に意気込んで手を上げた神薙くん。
「俺がもってきたのは、これだ!」
・スポーツドリンク×八人分
・飲むゼリー(スポーツドリンク味)×八人分
「あなたはいったい何が食べたいんですか!」
「うぉっ、な、なんだ」
思わず怒鳴ってしまった。でもこれは酷い。パーティーに持ち寄る食材に何故ゼリーとジュースを選ぶのでしょうか。
「え、だって俺はいつもこんなのばっか食ってるぞ」
「……スポーツドリンクをがば飲みしたからって、体力が向上するとは限りませんからね」
「うまいじゃん」
「だからと言って、他の人の食卓に普及しようと思わないでください」
なんだか最初からおかしな方向に。忘れていた。メンバーがメンバーだと言うことを。
「亮はしょうがないニャー。ここは、俺が一発かましてやるかニャ」
次は誰かとお互いに探り合う雰囲気の中、天宮くんが立ち上がる。
その手にはスーパーの紙袋が。
「刮目せよ。俺が持って来た食材に!」
・ポテトチップス(コンソメ味)
・ポテトチップス(薄塩味)
・ポテトチップス(バター醤油味)
・ポテト(じゃがいも)×八個
「このいもマニア!」
「うまいニャ」
「まともな食材はじゃがいもだけじゃないですかっ」
「いいだろ。このじゃがいもでポテチを作れば」
「あなたはどんだけ食べたいんですか」
「ちなみに、俺の主食はだいたいこれニャ」
「あなた達はまず食生活を改善してください」
こんな生徒がいては、家庭科の先生も嘆くでしょうね。
「……じゃあ、次、私でいいか?」
「お願いします」
さすがに冬空先輩なら、変な方向に暴走はしないでしょう。
・キャベツ(大)×十玉
「ベジタリアン!?」
大きな段ボールから取り出したのは大量の緑黄色野菜。一回で買う量ではありませんね。
というより、何故キャベツ。
「べ、別にいいだろう。キャベツには普段人が取れないような栄養も豊富だし、豚カツ等の影の主役とも言える。そんな材料を目の前にしてそんな反応とは、森羅お前もまだまだ未熟も――」
「――おっきくなるもんね」
冬空先輩の言葉を遮り、玲さんがぼそりと呟きながらニヤリと笑う。
その瞬間冬空先輩は固まってしまう。
「あー、なるほど」
「なるほどニャー」
「そういうことですわね」
「そういうことッスね」
他もそれぞれに納得した様子。僕とリリスさんだけが頭に疑問符を浮かべました。
「どういうことなんです?」
「ん、悠夜は知らなかったっけ? キャベツを良く食べると胸がお――」
今度は神薙くんの言葉が遮られた。冬空先輩が魔装具を発動し、刀を鞘に入れたままおもいっきり殴りつけたからだ。……日本刀を鈍器変わりに使うなんて。というか、神薙くんは無事なのでしょうか。
「無事だニャ」
そうですか。
神薙くんの殴りつけた体勢のまま肩で息をしていた冬空先輩は、キッと鋭い眼光を僕に向け
「余計な詮索はするな」
「そうさせていただきます」
女子高生の目付きと言うよりは、殺人鬼のそれに近い物を感じ首を縦に振るしかありませんでした。
「じゃあ、次は私かな♪」
不機嫌な冬空先輩とは違い、今にも鼻歌をしそうな玲さんが大きな手提げ袋を出し中身を僕らに見せた。
「じゃじゃ~ん♪」
・包丁(血塗れ)
「「「「「!?!?!?」」」」」
「あ、間違えた」
「アキラはドジッ子だね~」
「そそっかしいやつだな」
玲さんの刃物を恐れていないリリスさんと天然の疑いがある冬空先輩意外の人は、テーブルに置かれた包丁に驚き声も出ませんでした。うん、きっとトマトピューレ的なものを調理して、洗い忘れてしまったんでしょうね。きっと、いや絶対そうです。
「ごめんごめん。本当はこっち」
・下ごしらえ済みと思われる鳥の股肉×三羽分
「料理部の冷蔵庫の中にあったの、部長に頼んでもらってきたんだ。あ、下ごしらえとかは私がやったんだよ? ど、どうかな?」
「やはり調理に使わなければわかりませんが、見たところ充分合格ラインに思えます」
「やったー!」
僕の評価にガッツポーズを作る玲さん。大袈裟かもしれませんが、玲さんの料理の腕は大きく上がったと言えます。
「むー、なかなかの食材を用意しつつ、自分のスキル向上を見せつけるとは……。やりますわね」
そんな玲さんの横では、口に手を添え思案げな表情の恋華さん。その隣にはクーラーボックスが。皆さんの荷物の中で一番大きいです。
「では、次は私がいかせていただきますわ。――私が持って来たのは、これです!」
・伊勢海老
・キャビア
・鮪と思われる綺麗な切身
『………………』
勢いよくオープンしたクーラーボックスの中には、スーパー等ではお目にかかれないような高級食材が。思わぬ伏兵にみんなが絶句。
「先日ちょうど屋敷の使用人から送られてきたのを用意したのですが、これで良かったかしら?」
……そう言えば、恋華さんはどこぞの巨大企業の令嬢でしたね。アストラルでも、普段からこんなものを食べているのでしょうか。
一般人には年に一、二回あるかないかの食材を出したのに、いたって平然としている恋華さんはやはり『お嬢様』なのですね。
まあ、これと言ったハプニング(魔装具による暴力行為は除く)もなく、食材披露もいよいよラスト。僕としては早く作ってしまいたい。
最後はもちろん刈柴くんですが、少し様子がおかしいように思えます。口数が少ないと言うか、妙におとなしい気がします。まるで、自分の気配を消すように。
「最後は刈柴くんですね。では、お願いします」
「え、えと、俺ッスか……? いや、俺のはいいッスよ。お腹も減ったし、早く悠夜の料理が食いたいッス」
「? でも、食材は持って来たんですよね? それなら、刈柴くんのも使用すれば、より良いものになると思いますよ」
「うっ。……一理あるッスけど」
遠慮、よりも何かを隠しいるように思える刈柴くん。僕だけでなく、他の人も訝しげに刈柴くんを見る。そこへ、
「とうっ」
「あああっ。ちょっ、やめっ」
天宮くんが隙をみて、刈柴くんの持つ袋を取り上げ中身を開ける。
・牛挽き肉(300g)
・ニンジン
・じゃがいも
・玉ねぎ
・カレーのルー
・福神漬け
…………。
カレー?
「し、仕方ないッスよ。何にしようかなって悩んでた時に、カレーのいい匂いがどこからともなくしたんスもん」
恥ずかしそうに言う、刈柴くん。
他の人達は、失望とはいかなくとも、がっかりした様子。まあ、皆さんがとても奇抜なのに対し、ラストが至って普通。少しの期待は持ちますよね。
「……さてと、では皆さんの食材を使って料理を作ってきます。それまで時間をつぶしててください」
『はーい』
「スルーって結構痛いスね……」
刈芝くんが何か言ってましたが、気にしない方がいいですね、うん。
僕は自分のエプロンを装着して、キッチンへと向かう。
さあ、腕の見せどころです。
4
『ごちそうさまでした』
みんなで一緒に手を合わせ食事を終わらせる。
途中からリリスさんと玲さんも手伝っていただき(じゃんけんで決めたらしい)、作った料理は。
・鮪と伊勢海老とキャビアを使った高級お寿司
・鳥の甘辛に味付けにして焼いた物+キャベツの千切り(全部は使いきれなかった)
・ポテトチップスを散りばめたグラタン
・カレーコロッケ
・ゼリーとフルーツを砂糖で煮た物
……結構な量になりましたね。
「あー、美味しかったニャー。やっぱ、お前は料理の天才だニャー、悠夜。マジでスゲーよ」
「うん。本当にすごい。……私も、もっと頑張らなくちゃ」
「悠夜さん、私の専属シェフになりません?」
「ご主人様は私のですよ」
「け、喧嘩するなよ。あーでも確かに驚いたな。ゼリーも甘くて旨かったし」
「カレーコロッケも美味しかったッスよ……」
「皆さんありがとうございます」
やっぱり、自分の好きなものを褒めてもらうのは、とてもうれしい。
食材をそれぞれ持ち寄ったと言うのも、大きなアクセントになったのかもしれません。
食後はリリスさんとや玲さん達が質問をお互いにしたり楽しそうに談笑し、僕はそんな光景を見ながら読書をしていました。
時計の針が10時を指した頃、パーティーはお開きになった。
見送るリリスさんも、手を振りながら帰る方達もみんな終始笑顔を浮かべていました。
次回では悠夜くんの過去を少し垣間見ようと思います。
感想お待ちしてます!!!
それでは、ありがとうございました。失礼しま~す