破滅の芸術家(マエストロ・ルイーナ)-[4]
三日後。
《終幕庁》からの評価書が届いた。
『レヴィアン・グラース。対象:マルコ・ヴェルーガ。推奨期限を超過。しかし、標的の排除を完了。手法は間接的かつ高度であり、背後の犯罪組織《黒幕連》の自浄作用を利用した前例のない遂行方法と評価。付随成果として——一、違法魔石採掘場の壊滅。二、孤児二十三名の保護。三、貴族との癒着構造の解明。四、広域犯罪組織《黒幕連》の活動拠点の一つを特定。——等級査定:《二番手》への昇格推薦を進達』
昇格? ふむ。
俺の芸術性が、ようやく組織にも理解され始めたということか。感慨深い。
……しかし「背後の犯罪組織の自浄作用を利用した前例のない遂行方法」というのは、随分と大袈裟な書き方だ。俺はただ、舞台装置を配置しただけなのだが。
それに「《黒幕連》の活動拠点を特定」の部分。あれは俺の《万象観劇》でマルコの裏に視えた「劇中劇の舞台」のことだろう。報告書にそんなことを書いた覚えはないのだが、俺が提出した「舞台設定資料」から分析班が読み取ったのだろうか。
まあいい。芸術作品から何を読み取るかは、鑑賞者の自由だ。
それより、だ。
俺は評価書を脇に置き、壁一面に広げた次の依頼の人物相関図——もとい脚本ノートに目を向けた。
次の作品こそ、完璧な最終幕を書き上げてみせる。
と。
拠点の扉が叩かれた。
開けると、小さな少女が立っていた。赤い髪。そばかす。使い古された服。——見覚えがある。マルコの採掘場から出てきた孤児の一人だ。
「あ、あの! あなたが……わたしたちを助けてくれた人ですか?」
「助けた?」
首を傾げる。記憶を辿る。
「……ああ。【観客席】の移動か。あれは暗殺の演出上必要な措置であって、救助を目的とした行動ではないのだが」
少女はきょとんとした顔になったが、すぐに目を輝かせた。
「やっぱり! すごいです、あなたのおかげでわたしは、いまもここにいて……! だから……わたし……わたし、あなたみたいになりたいんです! どうか、弟子にしてください!」
「はっ? ……弟子?」
「はい! あなたみたいに、強くて、頭が良くて、みんなを救える人に!」
……みんなを、救える?
いったい何の話をしているのだ、この子は。
俺は暗殺の演出家だ。人を救う仕事はしていない。
だが、まあ——
ちらり、と作業場を見渡す。壁一面の脚本ノート。散乱する舞台設計図。隅っこで黙々とナイフの手入れをしているニーカ。
「……照明係が足りなかったところだ」
「しょ、照明係!?」
「ああ、舞台の照明というのは奥が深い。まず基礎から教えてやろう。——名前は?」
「フィーネ! フィーネ・ロットです!」
「フィーネか。まず最初に教えることがある。【暗殺】とは何か、知っているか?」
「え……人を、殺すこと?」
「違う」
俺はフィーネの目を真っ直ぐ見て、言った。
「暗殺とは——命を完成させる、芸術だ」
フィーネは目を丸くした。
隅のニーカが「……また始まった」という顔をした気がしたが、気のせいだろう。
こうして、《破滅の芸術家》の劇団に二人目の団員が加わった。
「やはり……流石です、レヴィアン様。あの時から、全てここまで計算して……」
ニーカがぶつぶつと言っている。
どうやら、俺が何か知らない計算をしていたらしいが、あえて聞こえないふりをした。
その方が、【よく分かっている暗殺者】っぽいから。
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