劇中劇——あるいは、打ち切られた即興劇の再演ー[4]
《即興劇》は——記憶が断片的に戻った後、自ら《終幕庁》への出頭を申し出た。
《幕引きの栞》で認識操作の「自己上書き」が解除されたことで、彼のスキルは大幅に弱体化していた。完全に消えたわけではないが、もはや《一番手》級の脅威ではない。
出頭の際、彼は一つだけ条件を出した。
「《黒幕連》に残っている〝使い捨て〟の子たちの情報を、全て提供する。だから——あの子たちを、助けてやってくれ」
ニーカが、泣いていた。今度は隠さずに。
◇◇◇
市長の公開演説は——最後まで完遂された。
ガブリエル・デルマーレ市長は《黒幕連》との関係を全て告白し、市民の前で罪を認めた。王都から派遣された司法官が市長の身柄を引き取り、裁判にかけられることが決まった。
そして——三日後。
市長は裁判を待つ軟禁先で、手記を残して毒を仰いだ。
手記には「これ以上、私の存在が市民の負担になるべきではない」とだけ書かれていた。
死は市長自身の選択だった。レヴィアンの手は汚れていない。
だが、これは暗殺の成果に含まれるのか——否。
市長は《終幕庁》の標的ではなかった。市長は俺の「作品」の登場人物であって、標的ではない。市長の死は、市長自身の物語の結末だ。
標的である《即興劇》は——出頭し、スキルを大幅に喪失した状態で拘束された。
暗殺による死ではないが、《終幕庁》は「対象の無力化および情報提供による組織壊滅への寄与」として、遂行完了と認定した。
……正直、この結末は「暗殺」と呼べるのか疑問が残る。だが《終幕庁》が認定したなら、俺がとやかく言うことではない。
それに——
手帳に、書いた。
『第四作「劇中劇」。結末:《即興劇》の無力化。手法:《幕引きの栞》による自己認識の復元。標的は死亡せず。これは暗殺としては異例だが——物語としては、正しい結末だった。打ち切られた物語を取り戻す男の話。ジャンル:悲劇であり、同時に——再生の物語。評価:脚本通りには一切いかなかったが……最高傑作かもしれない』
「レヴィアン様」
ニーカだ。いつもの位置。いつもの二歩後ろ。だが——目の光が、少しだけ違う。
「何だ」
「ありがとう、ございます」
「……何がだ」
「あの人の物語を……打ち切りにしなかったこと」
「俺は芸術家だ。物語を途中で打ち切るのは、俺の美学に反する。——それだけだ」
「……はい。それだけ、ですよね」
ニーカが、かすかに——本当にかすかに、微笑んだ。
初めて見た、ニーカの笑顔だった。
……不覚にも、胸がドキドキしてしまった。
い、いや……芸術的な感動だ。大道具係の笑顔は舞台の宝だからな。うん!
◇◇◇
拠点に戻った夜。
《終幕庁》からの評価書。
『レヴィアン・グラース。対象:《即興劇》。遂行完了。対象の無力化と自主出頭を達成。加えて、《黒幕連》内部構成員の情報を大量に入手。組織壊滅に向けた重要な突破口を開く。《一番手》としての活動実績、極めて顕著。——なお、上層部より伝達事項あり。《黒幕連》残存幹部六名(〝悲劇〟〝喜劇〟〝叙事詩〟〝風刺劇〟〝黙劇〟〝終幕劇〟)の排除任務を、レヴィアン・グラースおよびその部隊に一任する』
「……部隊、とはな。《終幕庁》は俺たちを〝部隊〟と呼んでいる」
「劇団ですよね」
リゼットが言った。
「ああ、劇団だ。——六つの演目が残っている。六つの作品を、これから作る」
「お師匠様! 次はどんな作品ですか!」
フィーネが目を輝かせている。
「わたしも、歌います。いつでも」
セレスティーヌが竪琴を抱えて微笑んだ。
「衣装係、準備できてます。——いつでもどうぞ」
リゼットが腕を組んだ。
「レヴィアン様。……いえ、もう何も言いません。どこへでもお供します」
ニーカが頭を下げた。
……いい劇団だ。
俺は手帳の最後のページを開き、書いた。
『《破滅の芸術家》劇団。団員:五名。上演作品:四作。暗殺成功率:100%。脚本通り率:推定15%。即興成功率:100%。次回作の目標:脚本通り率を、せめて30%くらいにしたい。……無理だと思うが』
「さて」
俺はコートを大げさに翻した。
「次の作品に取り掛かるぞ。——まだ、最高傑作は生まれていない」
「「「「はいっ!」」」」
四人の声が揃った。
……いや。今回は——五人だ。
「はい」
こっそりと、俺も声を出していた。
——格好悪い。演出家が、役者と一緒に声を揃えてどうする。
だが、悪くない気分だった。
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