俺の暗殺を、ただの人殺しと一緒にするな-[2]
翌朝。修行から戻った団員たちに、事態を伝えた。
「ええっ!? お師匠様が襲われたんですか!?」
フィーネが悲鳴に近い声を上げた。
「大事ない。ニーカが処理した」
「でもでも! お師匠様に何かあったら……!」
「だからこそ、修行が必要だと言っているだろう。照明の腕が上がれば、危険を事前に察知できるようになる」
「……! そうですよね! もっと頑張ります!」
うん。照明と危険察知は関係ないが、フィーネのやる気が上がったのでよしとする。
「《黒幕連》……」
リゼットが腕を組んだ。
「あの仮面舞踏会の時、マルコ・ヴェルーガの裏にいた組織ですね。それが、レヴィアンを狙っている」
「ああ……どうやら俺の【芸術】が、彼らのビジネスを邪魔しているらしい」
「は?」
「……」
一秒間の気まずい沈黙。
「あの……【芸術】って言い方、やめません?」
ちょっと心にグサッときたが、絶対にやめない。これだけは。
「……いえ、もういいです。それで、どうするんですか?」
「どうするも何も、次の作品のテーマが決まっただけだ」
「…………」
リゼットが深い溜息をついた。もう三回目くらいだ、この溜息。
「あの……わたしも聞いていいですか」
セレスティーヌが控えめに手を挙げた。
「何だ?」
「《黒幕連》の幹部が〝演目〟を名乗っているって、本当ですか? 悲劇、喜劇、叙事詩……って」
「ああ、ニーカの情報だ」
「それって……レヴィアン様の作品と同じですよね。第一作が悲劇、第二作が喜劇、第三作が叙事詩——」
…………。
言われてみれば、確かにそうだ。
俺は各作品にジャンルを設定していた。マルコ編は「悲劇」、グランシェール編は「喜劇」、ヴァルトラウト編は「叙事詩」。
そして《黒幕連》の幹部には「悲劇」「喜劇」「叙事詩」を冠した者がいる。
「偶然だろう」
「偶然、でしょうか……?」
「偶然だ。俺が勝手にジャンルを設定しているだけで、《黒幕連》の幹部構成とは関係ない」
「……でも、もしかしたら——《黒幕連》が、あなたの作品を〝意識して〟幹部を配置している可能性は?」
「…………」
それは考えすぎだ。俺は確かにカッコイイけど、いくら何でもそれは……。
たぶん、ない。
……たぶん。
「レヴィアン様」
ニーカが割って入った。
「それについては、わたしも気になっていたことがあります。《黒幕連》の〝演目〟制度は、少なくともわたしが組織にいた頃——五年以上前から存在していました。つまり、レヴィアン様の活動より前です」
「なら、やはり偶然だな」
「はい。ただ——《黒幕連》がレヴィアン様に興味を持った理由の一つは、あなたの作品のジャンル選択が、彼らの〝演目〟と一致していたから、かもしれません」
「……つまり、向こうは俺を〝同類〟と見なしている可能性がある、と?」
「はい」
同類。
暗殺を〝演劇〟と捉える組織。暗殺を〝芸術〟と捉える俺。
……確かに、方向性は似ている。
だが、決定的に違うことがある。
俺は、物語を完成させる。
あいつらは、物語を打ち切る。
「同類じゃない」
「え?」
「俺と《黒幕連》は、同類じゃない。俺は暗殺を芸術として〝完成〟させる。だが《黒幕連》は、暗殺を演劇として〝消費〟しているだけだ。使い捨ての兵器を作り、用済みになったら打ち切る。——それは芸術じゃない。ただの興行だ」
沈黙が流れる中でも、俺は言葉を続ける。
「興行と芸術は違う。金のために物語を消費する連中と、物語を完成させるために命を懸ける俺を一緒にするな。——俺の暗殺を、ただの人殺しと一緒にするな」
言い終えてから、自分が随分と熱くなっていたことに気づいた。
……少し格好つけすぎたか。
だが——
「……お師匠様」
フィーネが、目を潤ませてこちらを見ていた。
「お師匠様、かっこいいです……!」
「レヴィアン様……あなたの信念は、やはり——」
ニーカが何か言いかけたが、感極まったのか口を噤んだ。
「……あなた、たまに本当にいいこと言いますよね。〝たまに〟ですけど」
リゼットが苦笑している。たまにとは何だ、いつもだろう。
「レヴィアン様」
セレスティーヌが竪琴を抱えて言った。
「わたし、今の言葉——歌にしてもいいですか」
「……やめてくれ。恥ずかしいから」
それだけはやめてくれ。本当に、枕に顔を埋めてバタバタすることになるから。




