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アカシック・テイル 第1部.Phantom Veil  作者: 水月
第一章.霊獣事件
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第一節.出遭いの夜

人気の無い廃ビルの屋上。

淡い月光と、遠くの街明かりだけがこの場を照らしていた。

「おい、魔術師。」

「げ、執行官(しっこうかん)さんじゃん。私、またなんかしちゃった?」

魔術師は軽い調子で返す。

だが、その顔に笑みはない。

執行官と呼ばれた青年は、小さく息を吐いた。

「.....自覚があるなら話は早い」

一歩、踏み出す。

「この街の異常についてだ。お前も気付いているな」

「うん、そりゃあね」

魔術師は肩をすくめる。

「まさか、あの公安サマが申請してから一ヶ月で動くとは思わなかったよ。私、嫌われてなくて安心した。」

わずかに間を置いて魔術師は話を続けた。

「――霊獣(れいじゅう)の件でしょ?」

「あぁ、そうだ。」

青年の声は淡々としている。

「ここ半年、発生数が異常に増えている。この街だけ、局所的に。」

「......普通じゃないね、確かに。アレは本来こんな頻繁に湧くものじゃないし。」

一瞬の沈黙を経て青年は口を開ける。

「そこでだ、我々公安は、お前と一時的な協力関係を結びたい。この街はお前の管理下なんだろう?」

魔術師は、わずかに目を細めた。

どうやら、図星だったらしい。

「......よく調べてるじゃん」

小さく息を吐いて、肩の力を抜く。

「いいよ。私も困ってたし」

その時だった。

「センパーイ、早いっすよ〜。ここ、階段キツくって」

軽い足音と共に、もう一人の気配が現れる。

「お前は、体力が無さすぎる。もっと鍛えろ。」

「で、話終わりました?もう、エレベーターくらい付けといてくださいよ......」

少女は不満そうに、青年へ視線を送るが青年は呆れて意に介していない。

「話は終わり? 生憎、私も暇じゃなくてね」

「あぁ、時間を取らせた」

思ってもいない謝罪は、夜風に紛れて消えていった。

「帰るぞ。俺たちもこの一帯を洗う」

「今からっすか〜? 明日で良くないです?」

「駄目だ。動いているうちに潰す」

短く言い切り、少女の手を引き屋上を去る。

「.....じゃあな、魔術師。また連絡する」

「りょーかい。死なないでね、執行官さん」

少し間を置き、誰もいない屋上で魔術師は言う

「今日の夜は、あんまり出歩かない方がいいよ。」

夜風は、僅かに熱を帯びていた。


霞坂市(かすみざかし)

この街は大きな坂を境にし、二つに分かれている。

坂の上―西区。

住宅街や学校、小さな商店街が並ぶ市民の静かな生活圏。

坂の下―東区。

海に面し、駅や大型商業施設、歓楽街などが集中し人々の生活の基盤が形成される、霞坂市の中心。

人の流れも、空気もまるで別の街のように分断されている。

だが、そのどちらにもソレは例外なく現れる。


夜の十時。住宅街を一人で歩く。

「部活、遅くなっちゃったな......」

その日は1月の終わり。しかし夜であるにも関わらず、やけに空気が生ぬるく、気持ち悪かった。

静かな路地を歩き、いつもの路地を曲がった先

「......は」

ソレは、探し続けた獲物をようやく見つけたかのように俺を視た。

直感で理解する、逃げろと。

だが、無理だった。

一瞬の内に叩き込まれた殺意と捕食者の目が俺の身体を縛り上げる。

四足歩行、ライオンの様な形を成しているナニカ。

その体は、ひび割れており内側からは淡く光が漏れている。

―――あ、無理だ。死ぬ。

逃げる隙も無く、獣は猛スピードで距離を縮め念願の獲物に牙を立てる。

それよりも速く、一筋の光が獣の体を貫いた。

「っと、ギリギリセーフ。大丈夫?怪我は無いかな?」

月明かりの下、女がそこに立っていた。


俺はその日、魔術師と出会った。


「君、立てる?」

女は、何事もなかったかのように手を差し出した。

「あ、ありがとうございます......」

その手を借りて、なんとか立ち上がる。

助けられた――それくらいは理解できる。

だが、さっきの光景が脳裏に焼き付いて離れない。

喉が張り付いたようで、うまく言葉が出なかった。

「......あの、さっきのって、何なんですか」

「それを聞いたら――君、もう元の生活には戻れないかもよ」

女は、少しだけ首を傾げた。

「それでも、聞く?」

女は首を傾け、俺に薄く笑みを向ける。

「......さっきの、あのままだったら――多分俺、死んでましたよね」

「うん。間違いなく」

一拍、間が空く。

「だったら、知らないままの方が.....怖いです」

女は、ほんの少しだけ目を細めた。

「そっか.....」

その表情が、わずかに柔らぐ。

「それなら――教えてあげる」

全部は無理だけどね、と一言添えて女は話し始めた。

女は、軽く指を立てた。

「半年前くらいから、さっき君を襲ったみたいな獣―いわゆる霊獣(れいじゅう)って呼ばれてるやつが、この街にやたら出るようになってる」

「本来なら、月に一回出れば多い方なんだけどさ」

「ここ最近は――ほぼ毎日」

一瞬、言葉を区切る。

「それを片付けてるのが、私」

「でさ、一番の問題は――ここからなんだけど」

女は、じっとこちらを見つめ俺は思わず、息を呑む

その瞳から、目が離せなかった。

「普通の人にはね、あれ――見えないんだよ」

「.....え」

「見えるのは、魔力を持ってる人間だけ」

一拍置いて、

「で、君は見えてた」

女は、少しだけ楽しそうに笑う。

「つまり――そういうこと」

「でも、これ以上は詳しく説明できないな」

女は小さく肩をすくめる。

「もし、覚悟があるなら――1週間後ぐらいにここに来て」

そう言って、見慣れない住所が書かれた紙を差し出した。

「……」

一瞬、迷う。

それでも、俺はその紙を受け取った。

「……わかりました」

「それじゃあ、また今度会おうか。少年」

女は背を向けながら、軽く手を振る。

「いい返事、期待してるよ。」


いつもの道を辿り、家族の居ない家にたどり着いた。

時計の針は、零時を刺している。

シャワーを浴び、布団に着き目を閉じる。

けれど、(まぶた)の上に浮かぶのはあの獣の姿と女の瞳だった。


次の日も、その次の日も、いつも通り学校に行き、いつも通り授業を受けて、いつも通り部活をして家に帰る。

変わらない日常。

その中に生まれた変化。

夜道や物陰、暗い場所まで。何もいない場所のはずなのに何かを探してしまう。

――いるわけがないだろう。

そう思いながらも視線をそらすことは出来なかった。まるで、知ってしまった事への罰のように。

彼女は今も戦っているのだろうか、あの獣と。

俺の覚悟......考えても答えは出ない。

ただ一つ、確かなことがあるとすれば、

知らなければよかったとは、思えなかったこと。


気付けば、一週間が経っていた。

俺は、彼女が指定した住所へ赴いた。

そこは、西区の一番端。

聞いた事のない廃ビルだった。

壁はひび割れ、窓ガラスは所々砕けている。

不気味な雰囲気を醸し出す廃ビルは、明らかにまともな場所ではなかった。

それでも、俺はドアを開け、足を踏み入れた。

「来たんだ、ちゃんと。」

「わっ」

背後から声が聞こえ思わず身を反らす。

「驚きすぎ、そんな警戒しなくても取って食ったりなんかしないよ」

彼女はクスリと笑う。

「でも、正直来るとは思ってなかったよ。」

少し間を空け、彼女は話を続ける。

「それで、覚悟は決まった?」

思わず視線を逸らしてしまう。

「覚悟とか、そういうのはよく分かりません。でも、俺はあの時知ってしまった以上、もう見て見ぬフリはできません。」

顔を上げ、彼女の目を見る。

「あれを見て、今まで通りに過ごすなんてできない。俺も、この件に関わらせてください!!」

一瞬の沈黙が流れ、彼女は口を開けた。

「合格。君、もう一般人には戻れないからね。」

「構いません。」

寂れたビルに決意が刻まれる。

「君、名前は」

「俺の名前は、東雲 楓(しののめ かえで)です。」

僅かに笑みを浮かべ、彼女は告げる。

「いい名前だ、私は御門 玲奈(みかど れいな)。君が関わることになる魔術師だ。」

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