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第7話 力が軋む音

初任務編です。

山賊討伐のはずでしたが、少しだけ想定外の事態が起きます。

レインと並んで、ギルドハウス《パイオニア》を出た。

石畳を踏む足音が、昼の街の喧騒に溶けていく。

目的地は城門の外。

街道を抜けた先にあるという、山賊の根城だ。

「なぁ、レインは、ここに来てどのくらいなんだ?」


レインは歩きながら、少しだけ間を空けて答えた。

「5年くらいかな」

「各地を転々としながら旅しててさ」

「5年前にここへ流れ着いて以来、ずっとこのギルドに世話になってる」

歩き方は軽いが、言葉の端に妙な重さが混じっている。

「ここはいい場所だよ」

「訳アリの連中も多いから、あまり詮索されない」

「変に干渉されずに、楽に暮らせる」

「そうなのか」

“訳アリ”。

あえて触れない言い方だ。

こいつも、過去に何か抱えているのだろう。


だが――今はそれより、依頼だ。


初めての正式な仕事。

この世界について、まだ知らないことが多すぎる。

「なぁ」

今度は、少し真面目な声で切り出す。

「この世界のことを、教えてくれないか」

「グラディウスとメルくらいしか知らないんだ」

「少なくとも、今いるこの辺りのことは把握しておきたい」

レインは小さく笑った。

「なるほど。新米冒険者って感じだな」

そのまま話を続ける。


「俺たちが今いるのは、ミドガル大陸だ」

「ここメルから西はグラディウス帝国の支配圏」

「北にはノクス連邦。傭兵が集まる地域」

「南東にはハウレイジ王国。獣人国家だ」


歩きながら、淡々と付け足す。


「ミドガルは、多種族が混在している大陸だが……」

「この世界には、魔族やドラゴンが支配する大陸もある」


一瞬、言葉を区切る。


「エルフや精霊の国もな」


――それだけで十分だった。


この世界は、想像していたよりも広く、単純じゃない。

……まだ断片的だが、輪郭は見えてきた。

「どこも一長一短だよ」

「だから小競り合いも多いし、裏で手を引く連中も多い」

簡単な世界じゃないことだけは、はっきりした。

「山賊も、そういう流れで生まれる」

レインは前を見たまま続けた。

「元は傭兵だったり、兵崩れだったり」

「食えなくなった連中が集まって、街道を荒らす」

「今回の連中も、たぶん元冒険者混じりだ」

それを聞いて、自然と剣の柄に手が伸びた。


“戦い方を知っている連中”。

油断すれば、普通に殺される相手だ。


「情報が多くて大変だと思うが、冒険者ならいずれ知っていくことになる」

「今は頭の片隅にでも入れておけば十分だと思うよ」

気遣いなのだろう。

ありがたいが、今はそれどころじゃない。

まずは頭の中を整理する。

そして――目の前の依頼だ。

城門が見えてくる。

高い石壁の影が、ゆっくりと2人を覆った。

「初任務にしちゃ、少しハードかもしれないな」

レインが苦笑する。

「だが――」


ちらりとこちらを見る。

「お前なら、問題ない気もする」

俺は答えず、前を見据えた。

平原の向こうに広がる世界。

そして、これから踏み込む“仕事”の現場。

「実戦で、確かめるだけだ」

自分に言い聞かせるように呟く。


城門を抜けると、風の匂いが変わった。

街の匂いが消え、草と土の匂いに切り替わる。


――ここから先は、安全な場所じゃない。


俺とレインは歩き出した。

初任務の現場へ向かって。

レインによると、街道を外れて北へ進んだ先の山間部に、山賊の根城があるという。

道中には魔物も出るらしい。

警戒すべき状況だ。

だが、不思議と恐怖よりも――胸の奥に小さな高揚感があった。

(これが、冒険者の仕事か)

街道を外れ、北へ進む。

やがて、森に囲まれた細い獣道のような道が現れた。

「……あそこだ」

レインが顎で示す。

「あの先に、山へ続く入口がある」

「魔物も出る。気を抜くなよ」

いよいよだ。

俺は小さく息を吸い、森へ足を踏み入れた。


――次の瞬間。


「……?」

レインの足が止まる。

「……おい、これは……」

俺も気づいた。

森の中に広がる、異様な光景。

魔物の死体が、あちこちに転がっている。

血の匂いはまだ新しい。

だが――生きている魔物の気配はない。

「先客か……?」

「それとも、山賊が狩りを?」

2人の間に、緊張が走る。

「警戒を上げよう」

レインが低く言った。

「分かった」

頷き、歩調を落とす。

森を抜け、山間へ入った、その時だった。


――ヒュン。


足元の地面に、1本の矢が突き刺さる。

反射的に顔を上げる。

岩場の上に、影が立っていた。


長い耳。

褐色の肌。

整った顔立ち。


――ダークエルフ。


「……こんな場所に?」


レインが小さく息を呑む。


「ダークエルフは本来、国の中で暮らす種族だ」

「人間を敵視する傾向も強い」

「こんな人間圏に近い場所にいるのは、かなり珍しい」

そう説明する。

そのダークエルフが、こちらを見下ろして口を開いた。

「ここに何の用だ」

冷えた声。

「こんな場所まで来るとは……冒険者か?」

レインが一歩前へ出る。

「俺たちはギルド所属だ」

「この先に根城を構える山賊を討伐しに来た」

俺は無意識に“視た”。


――セルヴィン・アルディス

種族:ダークエルフ

弓術:B

魔術:B+


(隊長格か)

弓も魔術も、それなりに鍛えられている。

(……試せるかもしれない)

そう思った瞬間。

セルヴィンは口元を歪めた。

「なるほどな」

「だが、ここにいる人間どもは――俺たちの“仲間”だ」

「邪魔をするなら、死んでもらう」

合図のように、背後から4体のダークエルフが現れる。

「来るぞ」

レインが弓を構えた。

「準備はいいか、ヨウ?」

俺もすでに剣を抜いていた。

「……ああ」

「弓を使うのか?」

ふと疑問が浮かぶ。

訓練場では剣だったはずだ。

「任せろ。こっちの方が本職だ」

次の瞬間。

レインが弓を引く。

魔力が凝縮され、光の矢が形成される。

放たれた矢は――一体のダークエルフの額を正確に射抜いた。


即死。


考える暇はない。

俺は地面を蹴った。


残り4体。

一体が弓を構える前に、懐へ滑り込む。

横薙ぎ。

首が宙を舞った。


残り3体。

「……やるじゃん」

レインが短く笑う。

セルヴィンが叫ぶ。

「油断するな!」

「こいつら、手練れだ!」

同時に、二体が魔法陣を展開する。


――火炎(フレイム)

――疾風(ブラスト)


刃の如く鋭い炎と風の魔法が放たれる。


――視界が熱を帯びた。


火炎(フレイム) コピー>

疾風(ブラスト) コピー>


眼が熱を帯びる。


だが――


身体が、反射的に情報を刻み込んだだけだった。

魔力を練る余裕はない。

「チッ――!」

咄嗟に地面を蹴り、横へ転がる。

炎の刃が頬をかすめ、風刃が背後の岩を削り取った。

息を整える暇すらなかった。

次の瞬間。


暴風砕破(ストーム)

セルヴィンの声と同時に、空気が震えた。

無数の風の刃が竜巻となり、正面から叩きつけられる。

回避が間に合わない。


身体に直撃。

「――っ!」

衝撃と、遅れてくる激痛。

皮膚を裂くように、鋭い風が全身を切り刻む。

膝が落ちた。

(これが……実戦魔法……)

視界が揺れ、体中から血がにじみ出る。

そのときだった。

回復(ヒール)!」

その時背後から、レインの声。

温かい光が身体を包み、裂傷と痛みが急速に消えていく。

同時に、眼が再び熱を帯びた。


暴風砕破(ストーム) コピー>

回復(ヒール) コピー>


(……やはり)

“視る”ことで、奪っている。

完全に理解はしていない。

だが、確実に力は積み上がっている。

顔を上げる。

「ちっ……」

セルヴィンが舌打ちする。

「回復役が厄介だ!」

「先にあいつを潰せ!」

2体がレインへ向かう。

(まずい――)

だが次の瞬間。

2本の矢が同時に放たれ、2体の喉を貫いた。

即座の連射。

(……速い)

レインは、間違いなく上位の実力者だ。

俺はセルヴィンだけを見据えた。

地面を蹴る。

一気に距離を詰める。

セルヴィンの反応が一瞬遅れた。

剣を突き出す。

胸元――心臓へ。

「ぐ……っ……」

膝から崩れ落ちる。

「……強すぎる……」

「俺たちの……計画が……」

そこまで言って、セルヴィンは動かなくなった。

戦闘は、終わった。

「よくやった!」

「新米冒険者で、あの動きは大したもんだ!」

レインの声が耳に届く。

だが、返事をしようとした瞬間――


突然、眼の奥に走る異変。

ビリッ、と。

雷が走ったような感覚が、頭の芯を貫いた。

「……っ!」

反射的に片膝をつき、目を押さえる。

痛みではない。

だが、今まで一度も味わったことのない、異質な刺激だった。

「おい、どうした!?」

レインが駆け寄ってくる。

「くっ……」

喉から、抑えきれない声が漏れる。

「大丈夫なのか!?」

心配と警戒が混じった声。

だが――


数秒もしないうちに、その感覚は嘘のように引いていった。

代わりに、視界の奥で何かが“組み替わる”感覚。

ばらばらだった情報が、ひとつずつ噛み合い、整理されていく。

淡い文字が、視界の端に浮かび上がった。


―――――冥奪の眼 情報更新―――――

【陽】

種族:人間

称号:冥奪の眼保持者

加護:憎悪の神エルロキス

眼のレベル:Ⅱ


剣術:A

魔術:B


魔法

 (ファイア)  火炎(フレイム)

 疾風(ブラスト) 暴風砕破(ストーム)

 回復(ヒール)


技能

 毒操作(ポイゾナー)

――――――――――――――――――


(これは…!)

(……眼のレベル、Ⅱ)

無意識に、息を飲んだ。

これが――


今の俺の“現在地”。

まだ全てを理解したわけじゃない。

だが、少なくともはっきりした。

この眼は、ただの能力じゃない。

戦いの中で、俺自身と一緒に“成長している”。

「……すまん。大丈夫だ」

そう言って、ゆっくりと立ち上がる。

分からないことは山ほどある。

だが――確実に前へ進んでいる。

今は、それで十分だ。

レインは、無言で俺の顔を見つめていた。

「顔色が悪いぞ」

「本当に平気だ」

短くそう答え、剣を握り直した。

「先に進もう」

「山賊の根城は、まだ先だろ」

一瞬だけ、レインは迷うような表情を見せたが――


「……分かった」

納得してないって表情ではあるが、それ以上は何も言わず、前を向いた。

2人は、再び歩き出した。


まだ正体の分からない“変化”を、身体の奥に抱えたまま。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

冥奪の眼について話が進みました。

次回はいよいよ山賊の根城へ。

討伐編はもう少し続きます。

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