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第4話 はじまりの平原

4、5話連投です。

いよいよ復讐への旅が始まります。

グラディウス帝国の城下町を出た俺は、商業都市メルへ向かって街道を歩いていた。

セルシオの話では、この先にディオル平原と呼ばれる魔物の出没地帯がある。

ギルドへ行く前に、この眼の力をある程度把握しておかないと、いざという時に命を落とす。


「どこかに、手頃な相手はいないものか」

呟きながら歩く。

見渡す限り、石畳の街道と草原。

どこを見ても中世ヨーロッパの絵本のような光景だ。


――本当に、異世界なんだな。


そんなことを考えていると、街道脇に停められた馬車が目に入った。

荷台の横で、気楽そうに腰を下ろしている男。

通り過ぎようとした、その瞬間だった。


「おい兄ちゃん。その腰の袋――」

不意に声が飛んできた。

「……?」

振り返る。

男が、俺の腰元をじっと見ていた。

「その巾着。普通の布じゃねぇな」

一瞬、背中に冷たいものが走る。

見抜かれた?

「そんな警戒すんな」

男は肩をすくめて笑った。

「俺はビス。世界を回ってる行商人だ」

「商売柄、魔法道具の匂いにはちょっと敏感でな」


――その瞬間。


ほんの一瞬だけ、視界の端が歪んだ。

まるで、空気に文字が滲んだような感覚。

だが、すぐに消えた。

(今の、何だ?)

気のせいかと思い、深く考えなかった。

この時の俺は、まだ“視る余裕”がなかった。


――アストラルポーチ。


武器屋で手に入れた、あの空間収納の袋。

無意識に手で押さえたのを見て、ビスはニヤリとする。

「やっぱりな」

「それ持ってるってことは、多少荷物増えても問題ないだろ?」

なるほど。

「試しに商品、見ていかないか?」

「旅人向けの実用品、色々揃ってるよ」

少し考える。

今の装備は中途半端。

帝国兵の剣を処分したばかりで、格好も浮いている。

「少しだけだ」

そう答えると、ビスは満足そうに頷いた。

「そう来なくちゃ」

馬車の荷台を開くと、中には服、防具、雑貨、道具が整然と並んでいた。

しばらく見回し、黒を基調とした冒険者用の軽装を選ぶ。

フード付きの外套。

顔は隠れすぎず、だが目元に自然と影が落ちる作り。

動きやすく、目立ちすぎない。

「いい趣味だ」

ビスが軽く笑う。

「その手の顔つきには、派手な鎧よりこっちの方が似合う」

着替えを済ませ、簡易鏡代わりの金属板で姿を確認する。

悪くない。

「それとだ」

ビスは俺の腰のポーチをちらりと見てから続けた。

「その袋があるなら、これも持っとけ」

そう言って差し出されたのは――


折り畳み式の簡易テント。

火打ち石。

水袋。

保存食。

ロープとランタン。


「ディオル平原を越えるなら最低限これだ」

「徒歩旅は“夜”が一番危ない」

的確すぎる。

「本来ならば荷物になるが、兄ちゃんには関係ない」

ビスはアストラルポーチを指で示す。

俺は黙って頷いた。


必要な装備をまとめて購入し、次にビスは地図を1枚取り出す。

「これはサービスだ」

「メルまではこの街道を外れなきゃ安全だが、近道に見える罠ルートがいくつかある」

「助かる」

「いいってことよ」

荷物をアストラルポーチに収納すると、ビスは少し楽しそうに目を細めた。

「やっぱりいい道具だな」

「そういう“当たり”に出会えるから、商人はやめられねぇ」


別れ際、ビスは軽く手を振った。

「またどこかで会うだろ」

「旅人同士ってのは、案外すぐ再会する」


フードを軽く整え、街道へと足を向ける。


――その時になって、ふと思い出す。


あの一瞬の違和感。

あの時、確かに“何か”が見えた。

(あれも、冥奪の眼の作用か)

だが、今は考えるのをやめた。

「まずは、生き残る力だ」

前方に広がる平原を見据え、歩き出す。


商業都市メルへ向かう、最初の本格的な旅が始まった。


ディオル平原。

グラディウス帝国と商業都市メルの国境付近。

なだらかな草原がどこまでも広がり、風に揺れる草の音だけが響いている。

「ここからが本番か」

フードの縁を指で押さえ、視線を巡らせる。

セルシオの話では、この辺りから魔物の出没率が一気に上がるという。

――冥奪の眼の性能を確かめるには、ちょうどいい。


そんなことを考えていると、前方の草むらがざわりと揺れた。

現れたのは、数匹のウサギ型魔物。

赤く濁った眼。

鋭く伸びた牙。

視線を向けた瞬間、眼がわずかに熱を帯びた。

脳裏に浮かぶ文字。


――ファングラビット

ランク:F


それだけだった。

(情報が少なすぎる)

だが、考えている暇はない。

剣を構え、一気に踏み込む。


1匹目を斬る。

2匹目を叩き落とす。

3匹目も逃げる前に仕留めた。


戦闘は、あっけなく終わった。

死骸へ視線を向ける。

「……奪え」

眼に意識を集中させる。


だが――


何も起きない。

熱も、情報の流れ込みもない。

(……?)

もう一度、視線を合わせる。

それでも、反応はなかった。

「何だ?」

能力の条件なのか。

タイミングなのか。

それとも、使い方が間違っているのか。

理由は分からない。

ただ一つ言えるのは――

“思った通りには発動しない”。

その事実だけだった。


小さく舌打ちし、剣を収める。

「試行錯誤が必要そうだな」

そう呟き、さらに奥へと歩き出す。


草原の先。

木々が密集した小さな森へ足を踏み入れる。

空気が変わる。

湿った土の匂い。

獣の臭気。

次の瞬間だった。

左右の茂みから、黒い影が飛び出す。

血走った眼。

赤黒い毛並み。

牙を剥き、低く唸り声を上げる。

速い。

想像以上だ。

最初の数匹は、奇襲気味に仕留めた。

だが――

次々と現れる。

5匹、6匹。

いつの間にか、半円状に囲まれていた。

背後から跳びかかられ、間一髪で回避。

「くそ!」

“視る”。

だが、眼は沈黙したままだ。


――ブラッドウルフ

ランク:D


それ以上、何も表示されない。

コピーも発動しない。

完全に数で押され始める。

このまま戦えば、削り殺される。

舌打ちし、後退しながら森を抜けて走った。

追撃は、森の境界で止んだ。

「……危なかった」

荒く息を吐き、膝に手をつく。

だが、安堵は長く続かなかった。

前方の岩陰。

低く、擦れるような音。

シュル……シュル……

「まさか」

姿を現したのは、巨大な蛇。

人の胴ほどの太さ。

黄金色の鱗。

キングコブラ。

眼が、はっきりと熱を持った。

今までとは明らかに違う反応。


――キングコブラ

ランク:B+


「来たな」

次の瞬間。

口が大きく開き、紫色の霧が吐き出された。

「――毒霧!?」

吸い込んだ瞬間、肺が焼ける。

喉が締め付けられ、視界が歪む。

「くそ……!」

足に力が入らない。

膝が折れそうになる。

意識が沈みかけた、その瞬間――

眼が、灼けるように熱を持った。

視界が一瞬、白く弾ける。


――奪う。

毒操作(ポイゾナー) コピー>


次の瞬間。

胸の奥に、熱が走った。

苦しさが、急速に引いていく。

喉の灼ける感覚が消え、呼吸が戻る。

「……効いて、ない?」

身体が、毒を“拒絶している”。

理解ではない。

ただ、そう感じた。

剣を握り直す。

もう、あの霧は脅威じゃない。

踏み込み、牙をかわし、首元へ刃を走らせる。

巨体が大きく痙攣し、そのまま地面へ崩れ落ちた。

「勝った……」

膝をつき、荒く息を吐く。


空を見ると、すでに夕焼けに染まり始めていた。

「今日は、ここまでだな」

ビスから買った簡易テントを取り出し、草原に設営する。

火を起こし、保存食を口に運ぶ。


焚き火の前で、剣を膝に置いたまま目を閉じる。

今日の戦闘を、頭の中でなぞる。


ファングラビット。

あの時は、何も起きなかった。

眼は反応したが、奪えるものはなかった。

次に遭遇した、ブラッドウルフ。

速く、強かった。

だが――それでも、何も“入ってこなかった”。

なのに、城門前。

カーンと刃を交えた瞬間。


剣の軌道。

踏み込み。

体重移動。


考える前に、身体が真似ていた。

オリバーの魔法も同じだ。


詠唱。

魔力の放出。

手の動き。


見た直後に、同じ炎が俺の手から生まれた。

……偶然じゃない。

共通点はひとつ。

「“技として完成された動き”や“明確な発動行為”を、目で捉えた時だけ、反応している」

モンスター相手では、ただ殴り合うだけじゃ駄目だった。

だが、人間は違う。

剣術には型があり、

魔法には手順がある。

それを“見る”ことで、眼が奪っている。

完全に理解しているわけじゃない。

だが――


少なくとも。

冥奪の眼は、

何となく強い相手>ではなく、

<完成された“技”や“能力”を持つ存在>に、強く反応する。

そんな気がした。


焚き火が、ぱちりと音を立てる。

拳を握り締める。

「使いこなすしかないな」

「使いこなせれば、強力な武器になる」

焚き火に土をかけ、横になった。

目を閉じると、すぐに意識が沈んでいった。



――――――――――――――――――――――――――

【陽】

種族:人間

称号:冥奪の眼保持者

加護:憎悪の神エルロキス

眼のレベル:Ⅰ


剣術:B


魔法

 (ファイア)


技能

 毒操作(ポイゾナー)


ここまで読んでいただきありがとうございます。

初のモンスター戦でした。

次回もよろしくお願いします。


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