「とら」の「まきもの」
丘の上にいる忍者の一人が、
「さて、お次は忍法を使うでござる」
集まっている人たちに言う。
忍法を使うと聞いて、こどもたちは目をきらきらさせた。
せっかく忍者の「おそうじ」を見に来たのだ。忍法を見てみたい。
みんなに注目される中、忍者は扇を取り出した。金色の扇だ。
「忍法『あっちへ移動』!」
そう言って、じめんに黒い玉をなげつける。
すると、大量の煙が周囲に広がった。もくもくもくもくもく。
そして、煙がおさまると・・・。
金色の扇を持った忍者が、消えている!
どこに行ったのか、みんなでさがしていると、
「あっちでござる」
他の忍者が、「おしろ」を指さした。
「屋根の上でござる」
本当だ。金色の扇を持った忍者が、屋根の上に立っている!
実はこれ、本当に移動したわけではなかった。
昨日のうちに、じめんに穴を掘っていたのだ。
消えた忍者は今、そこにかくれている。「おしろ」にいるのは、ちがう忍者だ。
めだつ扇を持つことで、おなじ忍者が移動したように見せている。
「それでは、次の忍法でござる」
おもちゃの「こま」を、たくさん取り出した。
一つ一つの「こま」を回転させて、
「忍法『たーつーまーきー』」
強い風をつくり出して、ゴミを集める忍法だ。
忍法を使ったあとは、かっこいいと思うポーズをする。
忍者の「おそうじ」は、きれいにするだけではダメなのだ。
かっこよく、きれいにする。これが大事。だって、忍者だから。
しかし、ここにゴミは落ちていない。
なのに、なぜ忍法『たーつーまーきー』を使ったのか。
それは、みんなの気をそらすためだ。
このあいだに、じめんの中にかくれていた忍者が、こそこそと外に出る。
でも、こどもの一人に見つかってしまった。金色の扇を、じめんに落としてしまう。
忍者はあわてて、「だまっているでござる」と、身ぶり手ぶりで伝えようとするが、
「あ! 忍者がじめんの中にかくれてた!」
忍者なのに、これはよくない。かっこわるい。




